蒼薔薇のベルセルク   作:クロウト

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episode10【 君の涙が尽きるまで、闘い続ける。】

 

 

___ その姿を見た時、言葉が出なかった。噂には聞いていた。

漆黒の鎧を纏い 、身の丈を超えるほどの巨大な鉄の塊を持つ者が新たなアダマンタイト級の冒険者になった、と。だがその話を聞いただけでは、昔__、私を遺して逝った筈のあの人と少し似ているような。そんな感じがした。だが、違うと思っていた。私は確かに、あの人が死ぬのを見た。大量の悪魔が跋扈するあの時、ゾンビと化した筈の私を最後まで守り続けた。あの戦士は 、悪魔にその命が取られるのを。その肉眼で見た筈だ。筈 ... なのに _____。

 

 

『 ... 仮面舞踏会って訳じゃ無さそうだな 、それで?俺の敵はどっちなんだ?』

 

気が遠くなってしまうような大きな背中、風に靡く黒いマント。まるで夜と同調したかのような漆黒の鎧。そして数多の怪物をも一瞬で屠ってしまいそうな鉄の塊 、余りにも 。余りにも、似過ぎていた。その男の背中を見るたびに昔の記憶が掘り起こされて行く、まるで久しぶりに知人と会った様に。まるで自分を護るように構えられたその鉄の塊は、初めて見たような感覚がしない。

 

( モラグ_____ ? )

 

その一瞬だけ、無くなっていた筈の心臓が妙に熱くなって行くのを感じた。まるでその時だけ、幼子のような可憐な少女に戻ったかのように。

その微かに燻り続けていた温もりは、徐々にその火種が激しく音を立てながら、大きくなっていくのを感じた。だが、それがあの人本人だと言う事は思わなかった。双子、若しくは二重の影(ドッペルゲンガー)の類なのかもしれない、と。私の中で彼が彼だと認める事を心の何処かで否定していたのかもしれない_____。

《 百匹斬り 》のモラ・バル 、彼が人間に扮した人外なのか。それとも、本当にただ似ているだけの人物なのか。それを確かめる術は私には無かった。

 

 

 

_______________________

 

 

地面に突き刺さった鉄塊を引き抜き、尾をもつ仮面の男と向き合う。自身が放った剣の投擲による土煙が晴れ、月光の光が差し込める。月の眼窩に身を置いたその男からは、蒼い道化の仮面の奥から漏れ出るような純然たる悪意と殺意が込められておりながらも、その態度は毅然としており。まるでモラグと仮面の少女を見下しているような冷ややかな視線が突き刺さる。その悪意と殺意の坩堝の象徴を前に。モラグは臆する事無く、薄ら笑いを浮かばせながら、その男と向き合っていた。

 

「 __ っ !! 、《百匹斬り》のモラ・バル っ !!! 。私は蒼の薔薇のイビルアイ! 同じアダマンタイト級冒険者として要請する!協力してくれ_____ 。 」

 

モラグと仮面の男が向き合う中、モラグの背後に居た仮面の少女_____ 、イビルアイが弾けたように彼に話しかけてくる。その声色は焦燥と驚きが混じっているのだろうか。その声は、何処か震えているようであり、不安の感情が見え隠れしていたその言葉は言いかけたように、途端に途絶えてしまう。咄嗟に出てしまった言葉を律するようにか、はたまたモラグの実力を知らずに軽率な頼みをしてしまった自分を悔いるようにか。イビルアイのその真意は誰にも知る由は無いが、モラグはその言葉に応えるかのように。鉄塊を両手に握りしめ、仮面の男の前に一歩踏み出しながら一言だけ、彼女に向けて言葉を放つ。

 

 

「 _____ 任せろ。 」

 

 

二の言すらも言わせぬような言葉、その言葉には確かにそれ相応の重みが有り。下手な長い前口上よりも遥かに信頼出来るモノが有る、そう判断したイビルアイは強張った肩の力を抜き、ホッ。と安堵の一息を一つ放つ。

 

 

「 ... これは、これは。よくぞ、いらっしゃいました。

 まずは 御名前を伺っても宜しいでしょうか? 」

 

 

尾を持つ仮面の男は、モラグに向かって一瞥する。そして偽物の敬意を示すように。その手を胸に当てて、何処かの執事のように。丁寧に礼儀を振る舞う。普通の人間ならば、それはそれで好印象は持てたろうが。尾を持っているような、人のガワをした悪魔のような化け物が人間の真似事をしている、と思うと無性に不快感が沸き立ってくる。

 

「 御名前ェだと━━━━━━━?、化物相手に名乗る、名前なんざねェと思うんだがな。先ずはそっちから名乗るのが、礼儀なんじゃねぇのか? 」

 

鉄塊に込める力が強くなる、仮面の男の丁寧な声色には明らかに人間のソレとは違うような重圧感が込められており。その声は、まるで鼓膜を劈くような不快な音のようにモラグの耳に入り込む。

 

 

「 これはこれは、私とした事が... 失礼しました。

 ...私の名前は"ヤルダバオト"と申します。是非、お見知り置きを 」

 

 

仮面の男___ 、ヤルダバオトは薄ら笑いを浮かべるモラグに対して、一礼する。その悪魔がする礼儀作法は人間するソレよりも遥かに洗練されたモノであり。一国の女王がその作法を見れば、関心を惹かれる程だろう。だが、モラグの目の前に映るソレに関心も無く、幾ら礼儀や作法が完璧で成っていても。純然たる殺意を放たれながらだと感受性も麻痺してしまう所だ。

 

「 ...ヤルダバオト? 、変な名前だな 。それとも化け物っつうーのは、こうもちんちくりんな名前しか居ないものなのか? ... まぁ、何方でも

良いけどよ 。」

 

軽蔑、ヤルダバオトが偽の敬意を示しているように。モラグは剥き出しの侮蔑の念を送る。そして、モラグは一頻り侮蔑をその悪魔に向けて放った後、モラグも自身の名をヤルダバオトに告げる。

 

「 ... それで、オレも名乗るんだっけか? あー、一応。《百匹斬り》のモラ・バル って名前でやらせて貰ってっけどな 。てめェ相手だったら、偽名(コレ)も使わなくて良さそうだな 」

 

 

モラ・バル、と言う名前は元々、即興で付けたものだ。其処に愛着も無い。ただただ、このリ・エスティーゼ王国という国家に生きていく事なのならば、死んだ英雄の名よりかはマシだろうと思って付けた偽名にすぎない。ヤルダバオト、とか言う悪魔ならばこの名を知っているのかもしれないが、悪魔如きに真名を看破された所で何の支障も無いだろう。

だからこそ 。観客が二人しかいないこのステージで、威風堂々と名を叫ぶ。日本の武将の様では有るが、この肉体が。影として死んだ英雄の肉体が現世に生きる事を指し示すのには、これが一番手っ取り早いだろう。

 

「 オレの名前は【モラグ・バル】 、かの十三英雄と共に魔神を討ち倒した英雄、とでも言えば良いのか? まぁ、こっちも宜しく頼むぜ 。これから、殺し合う者同士なんだからよ━━━━━━━ 」

 

ヤルダバオトの冷血な視線が、尚もモラグの身体を突き刺す。先程のモラグの侮蔑の意を込めた罵倒にすら。感情の揺らぎは感じられず、まるで其処に立つ事だけしか許されない人形のように。ただモラグの名乗りを黙って聞いているだけだった。

 

「 ふむ、成程 .... 。それでは、此方にいらっしゃった理由をお聞きしても宜しいでしょうか? 」

 

淡白、冷血。その悪魔は自身の背中でその腕を組みながら。静かに相手の動向を探るようにして言葉を紡ぐ。悪魔の仮面からはその表情を読み取る事が出来ず、ただただ赤く不気味な道化の笑みの奥から響く声に対して答える事しか出来なかった。

 

「 ... そんなに、深い意味が合った訳じゃねェよ。ただ、其方の嬢ちゃんが大変そうだったから助太刀に来た。そんだけだよ 、.... んで?今度は、アンタの目的を聞かせてもらっても? 」

 

道化の問いに答え、此方もヤルダバオトの目的を探ろうと自分の目的を話した後に質問を返す。別に、そんなに崇高な目的があった訳じゃない。悪魔が可憐な少女を殺そうとしてた場面に遭遇して正義の心が燻られた訳じゃない。"助けるべきだったから助けた" 。そんな、正義の心では無く、本能のままに動いた結果生まれた副産物だ。影の英雄が今此処に立っているのなら、きっとこうしただろうか。

 

 

「 ... ご生憎様 、これから死んで頂く人間に教える義理は無いと思うのですが ... 。まあ 冥土の土産、程度に留めておくと 私達を召喚し、使役するアイテムの回収。と言えば良いですかね? 」

 

 

ヤルダバオトはいつでも此方を殺せるぞ、と言わんばかりにモラグを死んでもらう人間として呼称し、先程の猛々しい自己紹介がまるで無意味と嘲笑うように、冷徹な態度からは清々しい程の悪意がその言葉には込められていた。

 

「 ... つまり、互いに敵同士って訳だな 。そのアイテムが何なのかもオレも分かんねェーし 、此処で命乞いしたら許してもらえるって言うのは━━━━━━━? 」

 

モラグはその言葉とは裏腹に、その顔には確実に目の前の悪魔を完膚なきまでに叩きのめす、と言う意志が込められており。ヤルダバオトのその純然な殺意に怯まずに 引き抜いた鉄塊を肩に乗せながら笑っていた。

 

「 いえ、無理ですね。貴方のご明察通り、私たちは敵同士なので。互いに戦うしか道は無いですね。 」

 

 

モラグはそうだろうな、と言わんばかりに肩に乗せていた鉄塊を地に下ろし、両手で握りしめてその刃先をヤルダバオトに向ける。モラグはヤルダバオト、と言う化け物の実力を知らない。だが少なくとも、これまでモラグがアダマンタイト級になる迄に闘って来たどんな化け物よりも遥かに強い事は確かだ。冷や汗一つすら許さぬような、その悪魔のオーラにモラグは少しの武者震いと共に 、覚悟を決め ....... 。

 

「 そうか、ならオレはお前を人に害する化け物だと判断して殺させてもらうが。何も問題は無いな? 」

 

「 ... それは困りますので、少々抵抗させて貰うとしましょう。その得物は 、私の仲間にあげると喜びそうですからね 」

 

 

ヤルダバオトの悪魔の諸相が煌めく。その手からは鋭利な断爪が伸ばされており、両手に伸ばされたその刃は迷いなくモラグの鉄塊にへと差し向けられる。互いに一触即発の空気 、今にも闘いが始まりそうな予感がし。肌にはその冷たすぎる殺意と悪意に鳥肌が立ちそうな程。ヤルダバオト、という悪魔はどの怪物よりも一線を画す存在だった。

 

 

「 はっ、オレも化け物に自分の武器をそう易々と渡すわけには行かねェからな 。抵抗させて貰うぜッ_____ !!!!! 」

 

 

直後、一触即発の空気を打ち破るべくモラグが仕掛ける。夜に漂う風を斬るように。漆黒の鎧からは出ない程の速度を出しながらヤルダバオトの元へ迫る。その手に握りしめるは灰色に光る鉄の塊。ヤルダバオトもその手に構えた断爪を構え

 

「 愚かな抵抗ほど、虚しいものは有りませんが。まぁ、先程焼いてしまった方々よりかは楽しめそうです。 」

 

ヤルダバオトはそう言いながら、その鉄の塊が迫り来るのと同時に合わせるようにして駆け出していく。その手に構えるは、悉くを斬り裂いてしまうような爪であり。鋭利に光るソレは、鉄の塊すらも斬らんとするように構えられる。そしてモラグは互いの距離が自身の間合いに届いた、と認識した矢先。その鋼鉄をヤルダバオトに向けてぶち込もうとする━━━━━━━。

 

 

「 少しはっ、鉄の味も楽しんだらどうだァアアっ !!!!! 」

 

大上段の斬撃、ヤルダバオトの脳天を狙ったシンプルな斬撃。正確無比に放たれた初撃は悪魔の出方を見る、と言う意味合いも合ったのだろう。だがその力は 、比類なき程の悍まさを感じるような圧倒的な膂力を備え持っていた。

 

ガキィンッ !!!!

 

ヤルダバオトの両爪とモラグの鉄塊が衝突する。迫り来る大上段の斬撃に、ヤルダバオトは両手で受け止めるが 遠心力も累乗されたその鉄塊の強烈な一撃に、悪魔が立っているその足場に大きな罅が入る。

 

「 ... ほう、これは中々ですね 」

 

悪魔の兇爪と英雄の鉄塊の間で火花が飛び散る。大地はひび割れる。

僅かだが、モラグの鉄塊の一撃の膂力が悪魔の兇爪を押しており。そのまま押し切ろうとモラグはさらに力を込める。

 

「 生憎、悪魔サンからのお褒めの言葉は頂きたくねェんでな。このまま死んでくれねェかな━━━━━━━ !!!!! 。 」

 

ガチガチガチ!!!

 

互いの刃がぶつかり合う。チェンソーのように両社の刃は震え合い、猛火を生むような火花を生み出すような凄まじい鍔迫り合いだが、その状況を打ち破るべく、悪魔もそれを押し返すべく、その華奢な身体からは想像が出来ぬような凄まじい力でモラグの大剣の一撃に掛ける力を増幅させ。

 

ガキィンッ!!!

 

その時、何かが破裂したかのように、モラグの鉄塊が弾かれる。弾いた相手はヤルダバオト、その鉄塊の一撃を弾かれたモラグは体勢を僅かながらに崩していき。

 

「 しまっ_____ .... 。 」

 

モラグは悪魔の返しの一撃に備え、此処から攻めるのは無理だと判断したのか。即座に鉄塊を自分の目の前に持っていき楯代わりのように構え、重心を後ろにへと移し。完全なる防御の体勢を取る。

 

「 《 悪魔の諸相 : 豪魔の巨腕 》____ 。 」

 

 

刹那、悪魔の鋭利な断爪を持った右腕が変化する。手の爪が極限にまで伸びたような金属の爪から一変。その右腕は赤紫色の肥大化させた筋肉を露出させ、悍ましい見た目をしたような腕が現れ その悪魔の左腕とは二倍、三倍の大きさだろう。

 

( 来るッ__ !!!! )

 

モラグはその肥大化した筋肉の一撃を堪えるように、踏ん張るようにしてその場に立ち尽くす。鉄塊が楯代わりとはなってくれているが、見るからに喰らったら最後、骨の髄まで砕いてしまいそうなあの巨腕を前に

耐え切れるのだろうか、とモラグは此処に来てから初めての冷や汗を掻こうとした矢先。悪魔の巨腕が動き出す。

 

「 では 、死んでください。 」

 

 

ゴァ"ア"ア"ア"ア"!!!!!!

 

迫り来るは悪魔の巨腕から放たれるシンプルなストレート、だがそのストレートパンチは圧倒的な質量と悪魔の力によって強化された肉体によって、人間が放つ事が出来るパンチとは一回りも二回りも強化されており、その身で受けようものなら確実に身体の骨が粉々に粉砕されるのは明らかだろう。だが、モラグはそのストレートの威力を少しでも減らそうと、そのストレートが放たれる前にヤルダバオトの元へと一歩踏み出しながら、攻撃が迫り来るのを待ち━━━━━━━

 

 

ゴ"ォ"オ"オ"ン"ッ"ッ" !!!!

 

「 ぐゥっ_____ !!!!! 」

 

ヤルダバオトの強烈な一撃がモラグの鉄塊にぶつけられる。その恐ろしいほどに強大な威力にぶっ飛ばされはしなかったものの。重心を置いている後ろ脚が有る場所は先程のヤルダバオトと同じ様に地面に巨大なヒビが入り込む。

 

 

「 ━━━━ ぉぉぉおおおおおおお !!!!!!!! 」

 

 

モラグはその一撃を受け止めながら、ヤルダバオトがしたように。自分も、その豪魔の巨腕を弾き返そうと持ち前の胆力と根性で鉄塊を前へと押し出す。そして、その力はヤルダバオトにへと伝わったのか。ヤルダバオトの豪魔の巨腕にもその膂力が波動のように響き渡る。

 

 

「 _____ .... 素晴らしい。 」

 

 

ヤルダバオトは豪魔の巨腕を受け止め、あまつさえそれを押し返さんとしているモラグを見れば。その口からは思わず賞賛の声を漏らしてしまうが、その言葉とは裏腹に以前として、その巨腕の一撃を離す事は無かったが 、モラグはその膂力を更にもう一段階へとギアをあげていく。

 

 

「 あァアアアア!!!!!!!!!!! 」

 

モラグの雄叫びと共に、そのモラグの足は一歩。前にへと踏み出し、

ヤルダバオトはそれに合わせるように一歩、後ろへと引かざるを得なくなり。その瞬間、ヤルダバオトがその腕に込める力が弱まって行き....。

 

ダ"ァ"ン"ッ"!!!!

 

刹那、モラグの鉄塊の膂力がヤルダバオトの豪魔の巨腕を弾き飛ばし。

ヤルダバオトは後隙を狩られない様に弾かれたと認識したと同時に後ろへと大きくバックステップし距離を取り、ヤルダバオトの腕は肥大化した筋肉のような腕から再び鋭利な断爪が生えた腕へと戻す。

 

「 私の一撃を防ぎ切るとは...お見事です 、どうやら私の中での貴方の評価を改めないといけないようですね 。 」

 

「 ━━━━ へッ、其方さんのバカみてェな腕に比べちゃあ 、どうにも褒められた気分がしねェな...元より褒める気なんざねぇんだろうけど 」

 

モラグは再び、鉄塊を構え直し。その刃先をヤルダバオトにへと向ける。そして、その顔に再び薄ら笑いを浮かべながら まだまだ余裕だ、と言わんばかりに語りかける。

 

「 ... いえ、悪魔と言えども。強い者とこうして刃を交わす、と言うのは中々に楽しいものですよ、ですが 此方もそろそろあなた方を仕留めないと計画に支障が出るので ...... 。では、行きますよ━━━━━ ? 」

 

ヤルダバオトがそう語った瞬間 、その悪魔の背中には悍ましい見た目をした漆黒の翼が背中に生える。翼とは言ってもソレには鳥の羽のようなモノは一切無く、その翼は全て強固な鱗で覆われており。それが悪魔の元から持つ冒涜的な見た目をしたモノだと分かる。そしてその翼を用いて、ヤルダバオトは空へと飛び上がり、モラグとイビルアイを見下ろすように此方を見つめれば、悪魔の一撃が再び炸裂する。

 

「 《悪魔の諸相 : 触腕の翼 》_____。 」

 

モラグがヤルダバオトが空へと飛び上がった、と認識したと同時に。

ヤルダバオトの翼が触手のように蠢いた、と思ったら。その背中に生えた黒い翼が意志を持ったかのように翼の形が鋭い槍のように変形し、此方にへと放たれる。放たれた先には 、勿論。モラグも捉えられていたが 。その触手が狙い定めた対象はモラグだけでは無く .... 。

 

「 ___ こいつッ !!!! 」

 

(あいつ(イビルアイ)も巻き込む気か .... !!!! )

 

 

そう、触手が放たれた先にはモラグだけでは無く、その背後に控えていたイビルアイもまた触手の餌食になろうとしており。恐らく、巨大な触手の数による物量による範囲攻撃でモラグ諸共、始末してしまうという企みなのだろう。

 

「 .... あなたはお強い、本当はこう言う手段は取りたくなかったのですが .... 。 」

 

「 ━━━━━ 巫山戯ろ、てめェ わざとぶっ放して来たろコレ。 」

 

モラグは憎まれ口を叩きながら、迫り来る触腕の翼をどう防ごうかと考える。ヤルダバオトの表情は、仮面の奥に隠れて見えないが。少なくとも悪魔が人間の事を心配する筈も無いだろう。きっと、その残念がる表情とは裏腹に無表情を貫いているか、または冷徹な眼をしているかの二択だろう。モラグは焦りを現した表情で、迫る触手を防ぐべく。イビルアイの前に立ながら、その鉄塊を構え迎撃の体勢へと構え___。

 

 

「ちっ .... 気持ち悪ぃ触手如きでオレを殺せるなんて思うんじゃねェぞ、ヤルダバオト !!!! 」

 

 

モラグは触腕が自分の間合いへと入り込んだ、と認識したと同時に。下段に構えていた鉄塊を、突き上げるように中段、上段へと勢いをつけながら鉄塊を振り上げ_____。

 

ザザンッッッ !!!

 

二閃、モラグの斬撃が自身とイビルアイに迫りこようとしていた触腕を斬り落とし。またその振り上げた体勢から瞬時に再び俊敏な動きで今度は上段の構えから下段にへと振り下ろし、残りの生え残っていた部分の触腕が丸々斬り落とされ。その触腕がイビルアイの身体を貫く事は無く、虚しく地へと堕ちていった。

 

「 .... 怪我がねェんだったら、それで良い。 」

 

無傷で守り切れた彼女に対して、モラグは安堵から来る労いの言葉とも取れるような言葉を掛ける。そしてイビルアイは呆気に取られたようにその場に立ち尽くしていて。

 

 

「 __ .... あ、あぁ 。ありがとう ...な。 」

 

 

イビルアイは絞り出すように必死に言葉を紡ぐが、その声は何処かしどろもどろのような感じがしており。それがモラグにとって懐疑的な印象を与える事も無ければ、彼女が仮面越しで顔が熱くなるのも。彼女の心臓がトクン、と高鳴るような音がしたのもまたモラグに届く事は無かった。

 

そして、モラグとヤルダバオトの死闘は続いていき、夜は更けて行くばかりだった。━━━━━━━

 

 

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