蒼薔薇のベルセルク   作:クロウト

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episode 4 【これからの話】

 

「 さぁ。___ これを飲めば、きっと良くなると思います .... 。 」

 

そう言いながら、ンフィーレアが取り出したのは紫色の濁ったような色をした液体が中に入っている小瓶であり、その小瓶には幾つかの小さな金細工が施されているが、モラグはその液体を見るのも、飲むのも初めてなのでその得体の知れないような明らかに人が飲むようなものでは無い液体では無いので、些か嫌悪感を示す。

 

「 ... あー、本当に此奴を飲みゃ良いのか? 」

 

モラグは小瓶を受け取り、その瓶の蓋を開けてみる。キュポン、と蓋が弾けるような音と共にその液体から発せられる匂いが鼻腔を刺激する。

植物特有の匂いだろうか、様々な植物をすり潰したかのような独特な匂いがモラグの鼻腔に鋭く入り込み、嫌な匂いでは無いが。同時に好ましく嗅ぐような匂いでは無いだろう。

 

「 はいっ !! 、これは"ゴウン様"に貰った溶液と薬草を混合させてて...,効き目はバッチリだと思います! 」

 

ンフィーレアの口から開かれる言葉の数々、それらはただの薬師の独り言でしか無いと思っていたが、その独り言のような語りの中に入り込んで来る、"ゴウン様"の言葉。様付けされている辺り、人では有りそうだが。そんな話はゴブリンからは聞かされてはいなかった。

 

「 ... ゴウン様 ? 」

 

ゴウン様、と言う言葉に何となく気になったモラグはンフィーレアの発したその言葉を反芻して聞き返す。実際、この村の長なのならばいずれ会いに行かなければならないので人物像を知っておくだけでもかなり違ってくるだろう。

 

「 ええ ...、ゴウン様はこのカルネ村を救ってくれた恩人です。僕はまだ、直接会った事は無いけど 幼馴染のエンリが確か、一度会っている筈です! 」

 

ンフィーレアからの簡単な説明を聞き、モラグは成程 、と首を縦に頷き理解を示す。きっと、このカルネ村は過去に襲撃を受けており。そしてその襲撃の際に、ゴウン様とやらが村の危機を退けた...そんな所だろうか。まぁ、どちらにせよ村を救うほどの技量の持ち主なのだ。早々、

争いはしないことだろう、と念頭に置いておく。

 

「 ... 正直、色的にはキツいが。...村の救世主サマとやらがくれたモンで出来上がってるんだよな。... よし 、 」

 

モラグは、意を決して紫色の液体が入ったポーションに口を付け。そしてそのままクイッと瓶を傾け、中にある紫色の液体を喉に流し込む。

一瞬だけ、植物の濃縮汁のような苦さが口の中を支配したがそれを感じたのは、実に刹那的と表現しても良いほどに一瞬であり。元の世界で言う所の、ドクダミ茶のような苦さの中に旨味が有ると言った感覚に襲われ、最初の一口を終えれば慣れた手付きで飲み干していく。

 

 

「 ___ ぷはっ 。さて、効果はどうなる事やら ... 。 」

 

 

モラグはそれを飲み干した後、身体に刻まれたフランベルジェによる傷の様子を見てみる。直ぐに効果が現れるわけでは無いから、当分は此処で世話になるのか。とモラグが思いかけた時、モラグの身体にポーションの効果が現れる_____。

 

ズズズ ...

 

一瞬だけ、自分が緑色の光に包まれたかと思いきや。自分の胸を見てみると、貫通された決して小さくは無い剣による傷がどんどんと筋肉と筋肉を接合するように絡み合っていき修復されていく。

肉と肉が絡み合い、そして筋肉組織が形成される。その上に覆い被さるように、肌色の皮膚。その間は、僅か30秒にも満たないような時間で有りながら。モラグの傷は完璧に修復されてしまった。

 

「 .... マジで? 」

 

さすがのモラグも、この状況には余りの驚きに顎が外れるほどの勢いであり。この液体が入っているだけの小瓶が現代医療だと、どう見繕っても治すのに1年、下手したらそれ以上かかってしまうような剣による貫通されてしまった傷がその刹那の内に直ってしまうのだから。

 

( こんなの、現代医療の敗北じゃねぇか 。... )

 

モラグが思い浮かべる現代医療の数々、レントゲンに注射器。カプセル薬etc...どれも生きているうちの一回は必ずお世話になっただろう品物であり、それらの性能や技術が決して悪いと言うわけでは無いが。薬要らずのこのポーションを見ると、少しだけ現代医療の敗北と言う事で顔を顰めてしまうところだった。

 

「 ... どうやら、治ったみたいですね!ちょっと大きめの傷ではあったのですが 、ポーションで治って良かったです ... ! 」

 

「 ... 正直、驚いたぜ 。こんな液体一つで治っちまうなんてな。 」

 

 

驚いた、なんてものじゃない。不思議、と言う表現も些か違うような

そんな感覚に包まれている。貫通された傷も後遺症が無く、まるでフランベルジェで貫かれる前の健康な筋肉を維持出来てるかのように鎧越しに動く肉の繊維は快調だ。こんなちっぽけな液体一つで身体を治せるのは、聞いた事も見た事も無い。此処が異世界であると言う事も起因しているのだろうが、それでもあの墳墓で見た死の騎士よりもビックリした点が多かった。ンフィーレアは、さもその光景が見慣れているかのように穏やかな笑みを浮かべているが。此方としては、受肉一日目で不可解な現象が起こり過ぎて脳がパンクしそうだ。

 

 

「 __ ... 所で、モラグさんは何処からやって来たんですか? 」

 

モラグの傷が癒えて、ひと段落着いた頃。ンフィーレアがそう言いながら話を展開してきた。何処からやって来た、と聞かれ。バカ正直に答えるのなら、"死んだ"若しくは"別の世界から来た"と言うべきだろう。だが、この世界でも元の世界でも全て正直に言えば良いと言うものでも無く、別の世界からの魂が英雄の肉体に受肉して復活しました、なんて事を言っても、恐らく...と言うか絶対にンフィーレアには通じないだろう。だからこそ、モラグは自身の言葉に嘘を混ぜる必要が有り、また土壇場でのアドリブが要求される。

 

( ... そもそも英雄の肉体に受肉した、なんて言葉も眉唾みたいなものだからな 。)

 

自身の背中に背負っている、鉄塊。それは当然、元の自分では扱えない事はとうにわかりきっている。だが、それが使えるからと言ってこの肉体が英雄で有る、とはとても言い切れないだろう。だがまぁ、英雄では無い方が復活した時の偽のバックボーンを作りやすくなるので其方の方が当たりかもしれないが、今の所。英雄の肉体を貰っていると言う確率も五分五分だ。だからこそ、今自身の肉体や核心に迫る話は御法度だと

深く考えずとも理解出来た。ではどうするべきか、此処は一つ。今一度、この英雄(仮)の存在を丸ごと消し去ってしまおう。モラグはそう考えついたのだった。_____

 

「 俺か? ....... 、悪ぃが 、俺も自分が何処から来たのかが思い出せなくてな。自分の名前と得物の扱い方だけしか覚えてるもんがねぇんだ。」

 

 

これだ。下手に英雄の素性を明かすより、自身を記憶喪失の放浪人だと

ンフィーレアに伝わればそれで良い。一応、モラグ•バルと言う人間が

どんな功績を残して来たのかはこの肉体の記憶の中に入っているかもしれない。だが、目に見えて覚えていそうなのは彼の遺した功績の名だけ

その功績を取得し、勝ち取るためにやった事、成した事への旅路の記録は皆無に等しい。____ なので、英雄のバックボーンを作るよりかは、此方としてただの戦士である新たな"モラグ•バル"としての旅の記録を作り上げる方が遥かに効率的で有った。

 

「 ... 成程、ではモラグさんはその失った記憶を取り戻す為に旅をしている 、とかそんな所ですかね?憶測でしか無いんですけど ... 」

 

「 ... まぁ、そんなとこだな。 」

 

 

自身の記憶を取り戻す為に旅をする放浪者___。これだけ偽の素性を相手に伝わったのならば、英雄としての立ち回りも全く新たなものにしなければならない、という長期的なデメリットに目を瞑れば。下手に英雄の偽物扱いされて牢屋にぶちこめられずに済む。と言ったメリットも付いてくる為、取り敢えずケースバイケースの要領で良しとした。

 

「 ... そうでしたか、すみません ... 何か聞いちゃいけない事を聞いたみたいで 。 」

 

「 __ いや、良いんだ。もし、記憶が見つからなかった時はこうやって新しい記憶も作らないといけないからな。損は無いさ。 」

 

そう言いながら、モラグは軽く笑って見せる。そう、モラグの肉体に刻まれた記憶は残っているが。この肉体に受肉した己の魂に刻まれた記憶は皆無と言って良いほどに存在しない。その記憶が何かの弾みで蘇るのなら、自分が何者かを知るためにこの見知らぬ世界を旅すると言うのも

やぶさかでは無いだろう。そう言う意味でも、モラグは自身の旅をする理由に満足していたのだ。

 

「 えっと ... 、怪我が治ったら この村を出るんですよね? 」

  

ンフィーレアが再度、話を切り出してくる。怪我の件はもう大丈夫なので、自分としてもこのまま旅立ってもあまり支障は無いだろう。何処を旅するのかは全く考えていないが、アテの無い放浪の旅と言うのも悪くは無いだろう。

 

「 ... そうだな、此処に居候する訳にもいかねぇ。今すぐにでも旅立たないとな。 」

 

モラグは苦笑を浮かべながらそう話す。実際、モラグにとってはこの

安全域でもあるカルネ村に暫く滞在していた方が良いだろう。だが、せっかく戦士として生まれて来たのだからこのまま冒険者紛いの事をして

未知を探求してみたい、と言う子供のような小さな欲望がモラグの血を

駆り立たせる要因だった。

 

「 そうですか、....__ 」

 

ンフィーレアが重苦しい空気と共にその言葉を放ち、同時に誰も喋らないような静寂の空間がンフィーレアとモラグの二人を包み込む。だがその静寂は刹那に終わり、ンフィーレアがすぐさま何かを思いついたかのように、モラグに次のような提案をする。___

 

「 ... モラグさん 、記憶を取り戻す旅をするのなら此処は一つ、"冒険者"になってみてはどうでしょうか ! .... 」

 

「 ___ 冒険者? 」

 

 

ンフィーレアのその言葉に、モラグは首を傾げる。と同時にこの世界には、"冒険者"と言う存在が居るのだと、その感情は高揚に包まれる。

未知の探究 、それはモラグが生前に成し遂げられなかった一種の夢や

ロマンのようなものであり。未発見のダンジョンを攻略したり、墓を暴き、その中に眠る冒涜的な真実を知ったり。空想上、ゲーム上でしか成し得なかった事がリアルでも出来るのは、見かけから見ればとても魅力的な提案だろう。

 

「 はいっ、冒険者というのは簡単に言えば"対モンスターの傭兵"と呼ばれるのが多いです。大抵の冒険者だと街道警備や輸送車の護衛などが主な仕事となるんですが....稀に未知の遺跡や秘境の探索を行うのもあるそうです。相当な実力じゃ無いと、そう言った依頼を受けるのは無理と聞いていますが ... モラグさんのその剣なら恐らく、そういった未知の世界を探求できる時も直ぐだと思います! 」

 

 

「 ... そんで、その遺跡や秘境が俺の記憶を取り戻す為のきっかけになるかもしれない ... って事か。 」

 

 

素晴らしい 、モラグの頭の中に過ぎる賞賛の文字。冒険者、と言うのは未知の探求心に心を支配されし者らだ。初めは下積みからどんどん

経験を積み重ねていき、最終的には恐るべき神々の真実に触れるまでの英傑に進化すると考えると非常に胸が躍る。

 

「 ... 分かった、俺の記憶が取り戻せるなら その冒険者とやらに請け負ってみるか。 」

 

モラグは内心に未知の冒険に胸を躍らせながら、ンフィーレアのその提案を受け、同時に彼からの冒険者のなり方を教えてもらった。

先ず冒険者となるには此処から最短だと3、4日程かかる距離を得た所に位置する、"リ・エスティーゼ王国"にへと赴き、そこにある冒険者組合と言う所で冒険者の登録をして、初めて駆け出しの冒険者となれるらしい。また、冒険者にはそれぞれ階級が存在し。その階級は(カッパー)からアダマンタイトまであるそうで、駆け出しの冒険者は皆、

(カッパー)から始まるらしい。

 

 

「 ___ ... 成程な、取り敢えず。そのリ・エスティーゼ王国に赴けばそれで良いんだな? 」

 

「 はい ... 、ただ冒険者登録をするに当たって、登録料が取られるみたいでして 、今のモラグさんなら各地の魔物を狩って、その魔物の討伐の報奨金で路銀を稼ぎつつって言う感じで大丈夫かと思います! 」

 

 

路銀 、そう言えば考えていなかった事だ。と今更思い返したような顔を浮かべる。転生してからまだ日が浅いのもあるべきだろうが、闘いだけでは生き残れないのがなんとも生々しい部分だな。とモラグは内心思った。同時に、自分が戦った相手は未だあの死の騎士ぐらいしか居ないのだが、それ以上の相手が居るとなるとやはり一人では手厳しい所も有るな、と戦慄紛いのことを思ってみる。だが、死の騎士を超える魔物には会ったこともないし、そもそも出会った魔物だってまだまだ少ない。

ゴブリン以外にも魔物の種類は多くいる筈なので、色んな奴に喧嘩を売って、首とって売り捌くのが一番だな。と思ってみたりしたのだった。____

 

 

( __ ... 冒険者、か。)

 

 

冒険者、その言葉をモラグは意味すら無いように反芻してみる。

この肉体に刻みれたモラグの記憶は冒険者などそんな泥臭いもので有る筈がなく、かといって英雄とも呼べるような評価を彼自身が得られなかった記憶がふんだんに詰められており、十三英雄の中に入ることすら叶わず。ただ、影の英雄として誰にも知られずに死ぬ事になった彼には冒険者と言う言葉すらも不慣れなのだろう。

 

「 そうか、ならそうしてみるよ 。__ 色々と世話になったな、ンフィーレア 。また寄れる時には寄ってみるよ。 」

 

そう言いながらモラグは、鉄塊を背中に背負い、家の扉に手をかける。

ンフィーレアは立ち去るモラグを止める事はせずにただ屈託のない笑顔で片手を軽く振り、見送ってくれてるがモラグはその彼の姿を見る事は無かった。____

 

「 じゃあな。__  」

 

モラグ•バル、影の英雄がこの現世に何を遺してたのかは知らない。それはこの名無しの魂が知るべきでは無い冒涜的な真実だからだ。でも、この身に刻まれている記憶は確かに影の英雄の記憶であり、断片的なソレだがソレを知っているのは自分しか居なかった。

 

だからこそ、モラグは自身の肉体に未練を残さずに逝った英雄の一人である、"モラグ•バル"に別れを告げる。

そして、モラグは[これからの話]をただ独り言を呟くようにまた放浪の旅にへと旅立っていったのだった。

 

 

 

 





孤高の冒険者って良いよね....。
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