蒼薔薇のベルセルク   作:クロウト

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episode 5【獣鬼】

 

 

シィイィイ......

 

ある深い森の中、リ•エスティーゼ王国付近に位置するこの森は比較的冒険者たちの街道警備や定期巡回などの見回りにより魔物の頭数は徐々に減って来たと言えるだろう。しかし、幾ら冒険者達がその剣を振るおうとも、魔物の存在が完全に根絶されると言う訳では無く。ある日、何の脈絡もなく、新種の魔物が現れる事だって現れるかもしれない。そうそんな状況にモラグは現在進行形で巻き込まれていた。

 

「 __ 汚ねぇ鼻っ面してやがるぜ。 」

 

モラグは目の前に居る、異形に罵倒の言葉を浴びせる。

その体躯は死の剣士よりかは二回り背丈が小さくなり、モラグの腰より少し上ぐらいの小柄な体躯であり全身がけむくじゃらであり茶色の獣毛が地面にパラパラと落ちている。赤く血走ったような目はモラグをただ一心に見つめており、巨大な鼻が突き出たような顔付きには本能的な不快感を与えるには充分な見た目だった。

 

ギギギ ....

 

その小柄な獣のような魔物は片手には粗雑な木の柄が備わり、鉄の刃が露出している小さな薪斬り用の斧を握りしめており、よく見て見れば全身の毛むくじゃらの獣毛の下には小柄ながらも筋骨隆々の筋肉が備わっており、マトモに喰らえばダメージは手痛いものだろう。

 

 

「 __ ... 最近は変なのに絡まれっぱなしだな。 」

 

モラグはそう言いながら背中から鉄塊を取り出す。鉄塊の刃は森から差し込む陽光が金属光を反射し、その姿を顕にしている。魔物は、その得物を見て。その余りの重圧感に気取られたのか、少し後退りするが。それを逃さんと、モラグは一歩。前にへと踏み出す。

 

 

ギャギャギャギャッッ!!!!!!

 

 

後退りしたかと思った魔物は、モラグが一歩踏み出すとソレを待ってました、と言わんばかりに獣の瞬発力で斧を素早く構え、モラグに向けて駆け出して行く。

 

( ___ ... 何だ?)

 

モラグはその行動に懐疑的な印象を持つものの、魔物は刻一刻と此方に

迫っている為に、その行動の真意を探る余裕は無く。魔物は十分にモラグとの距離を詰めた、と確信したのか。片手に控えていた斧を両手で握りしめモラグに飛び掛かる。

 

ギャギャァッ!!!!

 

魔物の剣筋は単純明快。飛びかかりからの大上段からの振り下ろしを刃が欠けた斧でモラグに向けて斬撃を放つ。その剣筋には良く言えば迷いが無く。悪く言えば簡単に読まれてしまうような斧の一撃であり、モラグはその単純な攻撃を見逃すはずが無く___ 。

 

バ"ゴ"ォ"ォ"ン" !!!!!

 

一閃___ 。モラグの鉄塊の横薙ぎの一撃が繰り出される。

刃が欠けていた部分に鉄塊は正確に狙いを定め、鉄塊の一撃によって

壊れかけであった斧は瓦解。そして、魔物の身体がその鉄塊の一撃を許容しきれなかったのか、その身体は斧と共に真っ二つに上半身と下半身を両断され、吹っ飛ばされたかのように。魔物であった肉塊は地面に勢い良く落下し、そのまま生き絶えた。

 

「 ___ シッ !!!! 」

 

短く息を吐く。陽光の中の草原に近い森だと言うのに何故か、自分の口からは白く霧のような吐息が吐き出される。そして、それを不思議がる

ような仕草を見せること無く。モラグは魔物が絶命したのを目視で見れば、そのまま鉄塊を背中に仕舞おうとする。が_____

 

ジロリ

 

視線 、モラグの背中に凍てつくような殺意がこもった視線が身体を貫く。それも一体、二体という小規模でも無い。十体やはたまた百体かも

しれないような大規模な視線の数々がモラグの身体を貫いた。

 

( 何だ_____ 。)

 

 

モラグはその視線がする方向にへと身体の向きをグルリと180度回転させ、その凍てつく視線の正体を確かめようと。滅多にない森の暗がりにへと目を向ける。

 

するとどうだろう、その暗がりの中には先程モラグが斬り伏せた魔物と

似たような奴等が群れを成して此方を血走ったような眼で見ているでは無いか。頭数は目視だけでも百体は居るであろう大規模なその魔物の軍団の様子にモラグは戦慄を覚える。___

 

「 そう言う事か .... 」

 

嵌められた。先程の魔物は、コイツらの巣にへと誘い込む為の生き餌だった。そして、モラグはその魔物の巣にへとまんまと足を踏みこんでしまい、結果的にあの魔物の命を張ったトラップは成功したと言えるだろう。

 

ぎゃぎゃぎゃぎゃぁああああああ!!!!!!

 

 

魔物たちは一斉に発狂に近いような咆哮を放つ。各地に巻き起こる高音の咆哮は、劈くような音が鋭くモラグの鼓膜に剣のように刺そうと迫って来る。

 

「 喧しっ ... 」

 

モラグは余りの五月蠅さに鉄塊を握っていない方の腕で片耳を覆う。そしてその咆哮群が放たれた後魔物らの襲撃が開始される。

 

ギャアァアアアン !!!!!!

 

甲高い叫び声を放ちながら、モラグの元へと迫って来たのは10体の魔物達であり、先程の魔物が持っていたような刃が朽ちた斧と乱暴に削られたであろう白樺の木で作られた棍棒のような物を抱えている魔物らが

殆どであり、中には素手で相手の脳髄を啜ってやろうと言う者らも居るが、その魔物は殆ど野蛮な剣術や策しか持っておらず、モラグの元へと

迫った魔物は3体が前衛としてモラグの前に立ち塞がり、それを囲もうと残りの7体がモラグの周りを取り囲むように包囲網を作る。

 

だが、そこからは実に単純明快であり。先に前衛でモラグの正面に立っていた3体の魔物が 一斉に飛びかかり、側面からの攻撃は無いと見た。

このまま質量の差で嬲り殺す気なのだろう。確かに100体一気に襲われればモラグであっても相当キツいものだ。しかし、この集団はどうやら

他の魔物達とは多少、思考が回るらしく。100体を一気に出すのでは無く、10体ほどのグループを小出しにしスタミナを削り切った所でモラグを仕留める気なのだろう。だが、モラグにとっては其方の方が戦闘としてはやりやすく。あの魔物の軍団は気付かぬようだが、モラグにしてみれば"利敵行為"も良い所なのだ。

 

シィイイイッッ!!!!

 

モラグは息を吐きながら、鉄塊を構え直す。居合のようにも見える構えのソレは鉄塊の刀身を隠し、魔物どもの飛び交りのタイミングに合わせて切り伏せる方法で有り。現に魔物どもはモラグの予想通りに単純明快な飛びかかりからの大上段や横腹目掛けた中段の斬撃しか放って来ず、それを待ってました、と言わんばかりにモラグの鉄塊は魔の坩堝の中で激音を轟かせた_____。

 

バ"ゴ"ォ"ォ"ン" !!!!!

 

先程の攻撃と同じ、モラグの横薙ぎの一閃が炸裂する。そしてそれは魔物たちの得物を振り下ろす速度よりも圧倒的に早く。その魔物たちの胴体は武器が崩壊するのと同時に粗い切断面を遺しながら真っ二つになり

魔物たちの宣戦布告かのように肉音を響かせながら肉塊が舞った。

 

「 __ さて、おっぱじめるか 」

 

魔物の返り血がモラグの顔面に飛び散る。焼けた肌に舞う鮮血をモラグは良しとしないが。悪くもしないかのように顔に飛び散る血を拭き取ろうとせず、その鉄塊を魔物の軍団に向ける。_____

 

「 腹減ってんだろ?来いよ 、お前らのうち半分は今すぐ挽肉(エサ)だ。 」

 

 

次の瞬間 、その魔の坩堝の中から激音が再び鳴り響いたのは言うまでも無かった。____

 

 

 

___________________________________

 

Side Out

 

 

 

冒険者とは未知を探求する者、とイメージする人が多いかもしれない。

確かに未発見の洞窟や難度がとてつもなく高い、まだ誰も攻略した事が無いような秘境を探索する事は無くは無い。だが、それが出来るのは

リ•エスティーゼ王国から正式に認められたアダマンタイト級の冒険者らのみであり、(カッパー)(アイアン)などのまだ駆け出しの冒険者らには夢のまた夢の話であり、冒険者がやる仕事と言えば周辺の魔物の掃討や巡回程度の任務しか回って来ず、野心を持って冒険者の世界に参入した者らにとっては正直、"暇"以外の何者でも無い。

 

「 ... はぁ 。またこの森の調査かよ 」

 

(カッパー)の冒険者は度々 、このリ•エスティーゼ王国周辺に有る

森林地帯の調査の依頼が回ることがある。調査、と言えば聞こえは良いかもしれないが。この森林地帯は近くに大規模な王国が有ることと度々、冒険者らが近くの街道警備の任務にへと赴いている事から森林地帯に危険な魔物が出没した報告はほぼ皆無に等しく、ほぼお散歩をさせられているようなものである。

 

「 ったく、こんな森の中を散歩させる冒険者さんの気持ちにもなってみろよ___ 。 」

 

 

(カッパー)の冒険者がそうやって、いつもの様にと言った感じで

悪態を吐こうとすると 、(カッパー)の冒険者は言いかけた所で

何やら妙な"異変"に気付いた様で。

 

「 な、なんだこの匂い ... 鉄? 」

 

冒険者の鼻腔を擽る鉄の匂い、それに困惑を示しつつも冒険者は腰からロングソードを引き抜き 、周囲を警戒しながら進んで行く。

 

「 ... なんだ、此処にまだ未発見の魔物の巣があったのか?そうなると、上に報告しなきゃならないな。俺一人でどうにかなる案件でもねぇし .... 。 」

 

冒険者の頭の中に浮かぶ、魔物の巣の存在の可能性。この森林は、滅多なことが無ければ危険などとは皆無に等しいような地帯だったのに。

こんなにアンデットが好き好んで現れそうな濃厚な鉄の匂いを放つような場所は今まで発見されなかった筈だ。未発見の魔物の巣を破壊し、安全を確保し。昇進のチャンスを得るという野望も有るが。それよりも理性が働いたのか。冒険者は冷静に先を焦らずにいつでも魔物に対応できるように 、一定のテンポを刻みながら慎重に歩いて行く。

 

「 うっ ... 、なんだこりゃ ... 鉄と言うか、この匂いは、まさか ...

 血か___ ? 」

 

その鉄の匂いの正体が、まさか血の匂いなのでは無いかと冒険者は戦慄する。万が一、人間が此処に引き摺り下ろされていると言う事があったら此処ら一帯は危険地帯になるだろう。此処まで血の匂いがするような魔物の巣を冒険者は見た事が無い故に、そこら一帯の魔物の巣にしては可笑しさが勝ってしまうようなその異常さに勘づいてあり、冒険者の本能が警鐘を鳴らし続ける。

 

「 ___ ... 此処はやべぇな。 」

 

【逃げろ】【逃げろ】と警鐘を鳴らし続ける彼の本能。これ以上はヤバい、と言う明確な線引きが無く。自分はとっくに死地に入り込んでしまった、と錯覚するほどの濃い血の匂いが冒険者の鼻腔を擽る。

そして、冒険者が先に進もうとすると___。

 

ゴロリ

 

何かが転がる音、しかしその音は石ころや枝などと言った微細なものでは無く。何かボール大のようなものが転がるようなそんな鈍い音であり

冒険者の身体は大きく跳ね上がる

 

「 いっ .... !? 、何だ ...、こんな所にボール...なのか? 」

 

冒険者はその鈍い音を耳に入れた後、その音の正体を確かめるべく。

音が鳴った方向へと振り向こうとする。その音が鳴る方向は冒険者からして丁度、真後ろであり。唾を飲み、意を決して振り向くと。

 

「 ひっ ... ひぃいいいいっっ !!!!! 」

 

【見たことの無い怪物の半分に切断された頭】が転がっていた。その怪物の血走ったような眼窩は最早、視る力すら無くなり。虚構とも言えると視線が冒険者の身体を貫く。

 

「 な、なんだよ此奴!!!! 早くっ...逃げっ___。 」

 

 

怯えたような声を上げ、その正体不明の怪物の死骸を見れば。直ぐに冒険者は逃げ出そうとする。その濃醇した血の匂いに冒険者の理性は崩壊し、感情だけが剥き出しになる。人間の醜さが血の匂いで浮き彫りになった瞬間だが ... 。

 

『はぁっ .... はああぁっっ__ .... !!! 』

 

冒険者が逃げ出そうたした瞬間、彼の耳に届く誰かの息遣いの声。

その声は早く、鼓動のリズムよりも早いのでは無いか。と推測する事も

難儀なモノでは無いだろう。

 

「 __ 誰か 、其処に居るのか .... ? 」

 

冒険者はその微かな息遣いが聞こえる方向にへと身体を向ける。その方向は自身が逃げようとしていた方向とはほぼ真逆の位置であり、息遣いをしている何者かを助けるのならば 、この濃醇な血の匂いがする空間をまた歩かなければいけない。それは、本来自分が望んでいた事態とは違かったのだが .... 。

 

「 .... ま、まぁ。もう死んでるしな、もう全てが終わった瞬間かもしれねぇ 。 」

 

冒険者は己の命と魔の中心に居る何者かの命を天秤にかける。掛けた結果、自身が此処で逃げてしまったら。助けられる命すらも取りこぼしてしまうかもしれない。と言う、冒険者にしては些か綺麗過ぎる感性が、己の命よりも何者かの命の重さに加算され。冒険者は先に進むことを決めた。

 

( .... 何だ、この死体の数は。)

 

冒険者が歩みを進めた瞬間、取り巻く血の匂いが足に絡みついたように重く。その歩みを遅くさせる。そして、その鈍くなった足で前に進むと

冒険者の視界には、先程自分が見た怪物と同じような奴らの死体がそこら中に無造作に転がっていた。ある者は、木に叩きつけられて死亡し。

ある者は大上段からの振り下ろしによる斬撃で真っ二つに切り分けられ、その身から血を放って死んで行った奴と。冒険者が視るだけでも、その死因は多岐に渡るモノであり。何よりもその死体の数は奥に進めど進めど無くなる気配がせず、冒険者が目視しただけでの頭数はざっと、

100体程になるだろうか。

 

 

「 __ ... 異常だ。 」

 

 

冒険者の口から、感嘆と恐怖が混じった言葉が零れ落ちる。

その景色はまるで屍山血河、死屍累々であり。この世の恐怖や血をそこに掻き集めたかのような本能的な気持ち悪さが冒険者の脳を溷濁させ、

同時に鼻腔を擽る血の匂いが冒険者の不快感に拍車を掛ける。

 

( ... 早いところ、見つけて退散しねぇとな。頭が可笑しくなりそうだ。)

 

冒険者として生きて来た人生は浅い。アダマンタイト冒険者だったら

こんな状況でも素早く、冷静に対応出来るだろう。対して自分は冒険者としての経験もまだ浅いほどの半人前。現に直ぐに逃げたら良い状況の中、自分の中のくだらない正義感が感情として理性の隙間から抜け出し

こうして歩みを進めている。その時点で自分も、この狂気に呑まれているのだろう。と感じている。

 

そして、歩き始めて数分が経った頃で有ろうか。あの獣鬼の怪物の死骸が無造作に転がっている数が増え始めた頃、濃醇した血の匂いの濃さが一段と強くなっていた頃、冒険者はその眼に映る景色に畏怖を覚える_____。

 

「 .... は? 」

 

積み上げられたるは獣鬼の死体の山、その数は50を超えており道中で

転がっていた獣鬼の怪物の死体の頭数と合わせると、この血の匂いがする一帯で見られた死体の数は150や、下手したら200すらあるかもしれない。言葉が出なかった。これ以上の驚きを現すなら、何の比喩を使えば良いのだろうか。少なくとも、文豪では無い冒険者にとってその死屍累々の景色を言葉の文に置き換えるのは無理な話だった。

 

 

「 ... おいおい、誰が一体こんな_____。 」

 

 

そう言いけた途端、冒険者の眼が見開かれる。死体の山の頂上、最上に位置するその場所にて。冒険者の視界には人が移り込む。

 

自身の身の丈と同じくらいの鉄の塊とも呼べるような特大剣を怪物に

突き刺しながらその柄をガッシリと掴み、その口から荒い吐息を吐き続ける一人の男。頭以外の全身に漆黒の鎧を纏い、血の匂いに反応するかのように。男の漆黒のマントは風に靡いている。男の顔は返り血と自身の傷の血でごっちゃになっており、男の黒髪の中にも薄い鮮血が刻まれており、冒険者はこの男こそがあの怪物らを皆殺しにした張本人だと確信した。___

 

「 おいっ!!、アンタ大丈夫か_ 」

 

そう言いながら、怪物の死体の山を掻き分け今にも倒れそうなほどの傷を負っている男の元へと駆け寄ろうとする冒険者。だが、冒険者が反応するよりも早く 、男の身体が"揺れる" 。

 

フラッ_____ 。

 

男は冒険者が駆け寄るよりも早く獣鬼の死体の山の最上からその身体を落下させ、男の意識はそこで絶えてしまったのだった ..... 。

 

 

 





難産気味だゾ....。
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