蒼薔薇のベルセルク   作:クロウト

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episode6【冒険者たる者】

 

 

気が付くと、そこは民家の中だった。否、正確に言い表すのなら宿屋の中と表した方が良いのだろう。モラグが目を覚ました時には自分の身体は鎧を脱がされたまま、ベッドに寝かされており。部屋には自身が使っていた鉄塊と漆黒の鎧が置かれており、今の自分はサイズがピッタリの白いシャツと麻で編まれたズボンを着ていた。

 

( __ ... 鎧がねェと落ち着かねぇぜ 。)

 

モラグは鎧の硬さに今まで頼って居たのか、鎧よりも遥かに防御力が劣る布製の服を着ている今だと、幾ら安全な部屋の中とは言えども落ち着かなくなっていた。墳墓の中で目覚める時も、その身に鎧と剣を纏っていた為。それが起因して居る、と言うのも有るかもしれないが。

 

「 ... 此処は ? 」

 

モラグは改めて、今自分が居るこの場所について疑問を抱く。気絶して居たのは確かだが、何処で気絶していたかが全く覚えていない。モラグは必死に己の記憶の糸を辿り、何があったのかを鮮明に思い出そうとする。そして、モラグが記憶を辿った先にはあの獣鬼の形相した怪物らの姿が映し出され___ 。

 

「 ___ ... そうだ、俺はっ 。 」

 

モラグは自身が、あの獣鬼の巣に単身で飛び込んでしまい。そして己の身体と意識を犠牲にし、その全てを屠ったことを思い出す。一方的な虐殺では無いにしろ、モラグ自身。あの怪物をどれだけ屠殺していたかなど消え失せていく自身の血により、意識が朦朧としていた為か全く記憶から飛び抜けていた。どうやら、事故に巻き込まれた人間がその直近の記憶を失ってしまうことがある。と言う現代の医療の論理は本当らしい。

 

「 ... ンなもん、オレの身体で証明されたくねーっつうの。 」

 

モラグはため息と共に放ったその苦言を呈し、ベッドに寝転んでいた。

ギシ、と少し木が軋む音はするものの。温もりがたんと込まれたような毛布とシーツは、現代のベットよりも中々心地よいモノがあり。少なくとも、地面に寝っ転がって寝るよりかは遥かにマシであった。

 

 

「 にしても、一体誰がオレをここ迄 ...? 」

 

 

上質なベットで休ませてくれ、尚且つ自分のサイズに丁度合うような服を着させてくれたのはありがたい。だが、あの怪物の巣で自分が鎧を着込んだまま倒れていたとするのならば、あの鎧も大剣もかなりの重量があった筈だ。自分は問題無く扱えている辺り、重量などは気にしてはいないが。それが、自分以外の戦士や一般人だったら話は別だ。あの鉄塊を持ち上げるには、少なくとも大人一人で長く運ぶのは無理だろう。

では一体誰が、とモラグが思案に耽ろうとすると___。

 

コンコン __ 。

 

『 失礼、怪我の具合を見に来た。入らせて貰うぞ 』

 

扉を叩く音と共に、扉の奥から響く声。その声は低く男らしさがあるような声で誠実で生真面目な戦士のような第一印象が見受けられる。本来ならば此方が扉を開けるべきで有ろうが、身体に巻かれた包帯の奥に生々しく刻まれた無数の打撲や斬撃の傷により身体が思ったように動かず、常に鈍い痛みが降り掛かる為。下手に動くことは出来ずにせめて首の方向だけは扉の方向へと傾けて来客を待つ。そしてその扉は古めかしい材木が放つような独特な音と共に。__

 

「 ... どうやら、意識は回復したようだな。 」

 

現れたのは"屈強"、と言う言葉が似合うような男だった。健康的に焼けた褐色の肌に鍛え上げられた筋骨隆々の肉体を包むかのように鋼鉄の鎧が付けられており背中には両手剣が握られていた。まるで、戦士の理想像をそのまま描いたような風貌の男は此方の顔色を見た後、安心したような笑みを浮かべながら上記を述べる。

 

「 怪我の具合はどうだ? 、発見された時はかなり酷い状態だったらしいが 。 」

 

「 __ ... 別に、問題ねェよ。強いて言えば偶に身体が動けなくなるのは癪だがな。 」

 

男の問いに、モラグは返答を返す。そこまで怪物との闘いで重傷を負っていたのかとモラグは訝しむ。確かに百を超えるような怪物らと単騎で

斬りかかったのは無謀とも言えるかもしれない。だが、モラグが相手取ったあの怪物らは少なくとも個々が強い、と言う訳では無く。集団で襲い掛かればその強さを発揮するといった類であった為。広範囲の殲滅を得意とするモラグの鉄塊とは相性が悪く、モラグ自身としてはただのスタミナ切れで意識を無くしたかと考えていたが、先程自身の身に降りかかった鈍い痛みがそうでは無い、と己の考えを否定していたのだった。

 

「 そうか ... っとすまない申し遅れたな 、俺は此処。リ•エスティーゼ王国の王国戦士長のガゼフ•ストロノーフだ。冒険者からお前への通報が入ってな。今はこうして救出し終わった所だ。 」

 

その男___ 、ガゼフは自身の名を名乗りながら自分の身にあったことを説明してくれた。どうやら、自分が怪物の死体の山で横たわっている所を冒険者の一人が発見してくれたらしく。いち早く、王国にへと通報が入った為。ガゼフ率いる衛兵隊が救助してくれたらしい。そこ迄に大事になっているとは自身も思わなく。逆にそのままそこらへんの山辺かどっかに放り込まれるものだと考えていたので正直、モラグは内心で驚いていたのかもしれない。

 

「 そうかよ 、んで、なんで王国戦士長サマとやらがこんな怪我人一人の部屋に来てんだ?事情聴取でもすンのか? 」

 

モラグは素朴な疑問をガゼフに投げかけた。ガゼフと言う男が本当に、

王国戦士長と言う高位の人間ならばこんな所に居る時間など無い筈だ。

戦士長 、と言うぐらいなのだから。それなりにガゼフの上司に当たる王様からは信頼を寄せられているのだろう。そうであるならば、怪我人の看護などをする時間など多忙ゆえに無い筈だ。

 

「 王からの命令でな 、"百匹斬り"の無名の戦士に今回の事案に対する褒賞を届けに来たんだ。 」

 

「 ...___ 成程ね。 」

 

 

ガゼフの話によると、自分が斬り伏せたあの怪物共は本来、あの近郊の森には出没しない怪物らしく。そもそもこの地では全くと言って良いほど目撃例が極端に少ない怪物であった為。王国と、冒険者を斡旋する組織である冒険者組合はこの事態を重く受け止めているらしく。本格的な被害が出る前に怪物の巣を潰してくれた戦士__、ことモラグには恩賞が与えられる、と言う話だ。尚、今回起きた事態に関しての話は既に多くの街でも話題になっており。自分が昏倒していた迄の間、知らず知らずのうちに自分に"百匹斬り"とか言う異名がつけられていたらしい。

 

 

「 __ そして、これが今回。王がお前に向けた報酬の金だ。

 金貨10枚と銀貨20枚が入っている。受け取ってくれ 」

 

そう言われ、ガゼフの懐から出されたのは小さい革袋であり、小さな麻で編まれた紐でしっかりと仕舞われており、自身の目の前にその革袋がジャラリ、と言う音が響きながら置かれる。生憎、この世界の通貨がどんな物なのかはよく分からなかったが金貨と言う言葉は悪く無い響きな為、甘んじて受け取っておくことにした。

 

「 それと、リ•エスティーゼ王国の冒険者組合がお前を探してたぞ 。

 なんでも 、百匹斬りの戦士を是非冒険者にスカウトしたいだとさ

 気が向いたら行ってみると良い 。 」

 

成程、冒険者にはこうしてスカウトされる事も有るのか。とモラグは

内心 、面倒臭い登録手段を取らなくて済みそうなことに嬉々とする。

元々冒険者になる気はあったので願ったり叶ったりだ。

 

「 嗚呼...そうだな、こうもベッドに寝っ転がってちゃ身体が鈍る。後で

行ってみるぜ。 ありがとうな 、ガゼフ•ストロノーフ様 。 」

 

モラグは適当な謝意を立ち上がろうとしたガゼフに向けて言い放つ。

態々、フルネームと様付けまでしたのでそこまで悪い印象は持たれないだろう。とモラグは思っていたのと同時に皮肉とも捉われるのでは無いのか、と言う少しの不安も頭の隅に置いていたがそれはどうやら杞憂らしく___。

 

「 ガゼフ 、で良い。俺は堅苦しい呼び方には慣れていなくてな。

 敬称で呼ばれると 妙にむず痒くなるからな 。 」

 

ガゼフは立ち上がり、それだけを言い残しながらまた扉の奥にへと立ち去っていった。モラグはその佇まいを見れば、ガゼフと言う男がいかに強く、誠実な男で有るかを指し示し。背中に差してある剣で脳天をかち割られれば溜まったものじゃないだろう。

 

「 ... 行ってみるか 、冒険者組合 とやらに 」

 

モラグはベットに転がっていた身体を起こす。身体に刻まれた傷が未だにジクジク、と音を立てての鈍痛が体内に響くが 、その身体からは血が漏れ出てはおらず包帯の上からは少しの血が滲んでいる程度で済んでいるのは有り難いだろう。モラグは鎧にへと手を伸ばし、そして頭を除いた上半身と下半身に分けられた漆黒の鎧を着ていく。ズシリ、と言った鎧の程良い重量感がモラグの身体にのし掛かり、背中には鉄塊を差し込む。漆黒の戦士の再誕である___。

 

「 やっぱり、オレにはこっちの方が合ってる。 」

 

漆黒の鎧に付いたマントは外から漏れ出た微風により微かに靡き、金属鎧が地面の古い材木が軋む。包帯越しに伝わる鎧の冷ややかな感触は青天の霹靂と成った、雲一つ無い熱い太陽が差し込む中では丁度良い体温調節を請け負ってくれる。そして、モラグはその宿屋から足を踏み出し

リ•エスティーゼ王国の最初の一歩を踏み出したのだった___。

 

_______________________

 

リ•エスティーゼ王国 、アゼルリシア山脈の西に広がる封建国家で有り

現王ランポッサ3世が統治する国で有る。封建社会によって形成されるこの国は、言うなれば腐敗した貴族社会が横行しており貴族らの権力争いも常に絶えず、犯罪組織が裏社会を牛耳るなど。まるでドラマのような綺麗に汚いような都市であり、矛盾に聞こえるかもしれないが。実際にモラグが今立っているこの都市の高級住宅街付近での街並みは広く、

そして清潔な空間が広がっている事が分かる。だが、路地裏や人気の少ない所で至る所で薬物の取引や喧嘩などの裏社会のお手本の様なものが繰り広げられている為か、綺麗で汚い。と言う矛盾の言葉が一番良く似合っているかもしれない__。

 

「 ... クスリに、暴行。酒に賭博 ... ったく、無法都市かよ此処 」

 

モラグは高級住宅街を抜け、リ•エスティーゼ王国の冒険者組合にへと

向かっていた。冒険者組合が高級住宅街を抜けた先に有る為か。その道のりにて、モラグは多くの犯罪が行われる瞬間を目の当たりにしていた。決して、気持ちの良いようなモノでも無い。普通ならその犯罪が行われる場面に直面した時には吐き気や不快感を催すだろう、だがモラグはその犯罪現場を見ても。特にそう言った感情は湧いて来ず、ただ無感情のまま、"そう言う事が行われている"と感じながら素通りしていた。怪物との闘いの連続で、精神が異形寄りに傾いているのだろうか。

だとしたらそれこそモラグにとっては"不快極まりない事"で有る。

 

「 __ ... 此処が、冒険者組合か 。 」

 

モラグは暫く歩き回っていると、普通の住宅とは違う。一風変わったような建物を発見する。扉は良く、ウエスタン映画などで使われるようなスイングドアが置かれており、上に掲げられている緑色の大きな看板には異世界の文字で、『 冒険者組合 』 と書かれている事が分かる。転生した時に、異世界の文字が理解出来る特典が生きたのは大きいだろう。

 

「 文字が読めるのは助かったな 、能無しって思われちゃ 即舐められる。 」

 

そしてモラグはそのスイングドアを開き、中にへと入って行った。

モラグの冒険者組合としてのイメージは、荒くれ者が勢揃いするような酒場のような場所だと思っていたが。リ•エスティーゼ王国の冒険者組合の中は、酒場と言うよりかは受付所といった感じが近く。依頼が張り出されたボードに冒険者達が集まり、各々が受けれる依頼を受けようと活気に満ちている。これはこれで良い、とモラグは考えていた。

 

「 ... スカウト 、ってなりゃ 。多少はランクアップされんのかね 」

 

モラグはそう呟きながら、受付のカウンターにへと向かう。その途中で

モラグの鉄塊と、漆黒の鎧を見たのか。他の冒険者たちがモラグに悟られぬようにひっそりと耳打ちしながらモラグについて噂話をしていた。

 

『 ... おい、聞いたか?あれがこの前の"百匹斬り"の剣士 、だとよ』

 

『 てっきり、噂程度にしか聞いちゃいなかったが。あの剣と鎧だったら、さぞかしお強い冒険者なんだろうな。階級にしてみりゃ、ミスリルぐらいか?』

 

『___ ... 嫌、アイツまだ冒険者にすらなっていないらしいぞ 』

 

 

『 ....... マジ? 』

 

 

百匹斬りの件はモラグが思っていたよりも早く話が出回っており、昏倒していた時間が幾らかは分からないが。流石に出回るのが早すぎはしないだろうか、と微かに聞こえる噂話を耳にしたモラグはそう言いながら

カウンターの前に、足を踏み出した。

 

「 __ ... ようこそ、冒険者組合へ 。今日はどのようなご用件でしょうか。」

 

カウンター越しに居る、受付嬢は一呼吸置いてからビジネススマイルを浮かばせながらモラグに話しかける。その声はどこか凄まじいモノを見た直後のような、微かに震えたような声をしており。恐らく、モラグの剣と鎧を見て。強大な戦士で有ると認識したのだろうか。何方にせよ、その真意はモラグの知るところでは無い。

 

「 ... 冒険者組合からスカウトが来ている、って聞いたんでな。冒険者になれるんじゃねぇーかって思って来た見たんだが 、此処であってるか? 」

 

「 ... すると、貴方は"百匹斬り"の戦士様ですね?組合長からお話は伺っております。冒険者になりたい、との事なので スカウトを承諾すると言った認識で宜しいでしょうか? 」

 

 

モラグは、嗚呼。と頷くと。その受付嬢は畏まりました。と軽くモラグに向かって一瞥のお辞儀をし、そしてそのままカウンターの裏にへと足を運んでいく。そして待つ事、10分弱で有ろうか 。受付嬢が水晶色の鉱石を加工した様な金属のプレートが置かれた盆を持って来て、それをモラグにへと差し出して .... 。

 

「 お待たせしました 、今回のスカウトに当たりまして 、難度70を超える、怪物の完全殲滅での実力を加味して 、貴方はミスリル級からの

スタートとなります。これから依頼をこなして行けば、オリハルコンからアダマンタイト級への昇格も可能となりますので 、ご健闘をお祈りします___。 」

 

ミスリル級冒険者 、聞けばかなりの腕すぐりの冒険者らしく。都市によれば、冒険者の最上位の位はミスリル級だったらしい。それをスカウトで勝ち取れる、のはかなりの異例らしく。今回のような異常事態を単独でクリアした、と言う事が無ければ、そもそもあり得ない事らしい。

話だけ聞けば、まるでチート転生者のど鉄板の展開だが。この身体がそもそも英雄として世を生きた者の身体である為。結構、この評価は妥当っちゃ妥当だったりするのかもしれない。

 

「 ___ ミスリル冒険者 、百匹斬りのモラグ・バル 。か 」

 

なかなか良い名前では無いか、とモラグは内心で嬉々としながらその

ミスリルのプレートを首に掛けていく。ネックレスの様に首にぶら下がったソレはモラグの漆黒の鎧に新たな色を見出しており、モラグは意気揚々としながら冒険者組合を出た__。 此処から、本格的に新たな人生が始まるのだと思うと高揚は止まらなかったのだった____。

 

 





スカウト制とかあったらおもろそうっすよね(小並感)
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