ギガントバジリスク討伐の件から少しだけ時間が経った。討伐した褒章としてミスリルからオリハルコンになり、これで少しはマシな任務が受けられるか。と気持ちは少年心のように高揚しているのが自分でも良く分かる。アダマンタイト級から一個下の階級に当たるものの、普通の冒険者がこの階級まで辿り着ける者は少ないようで、此処に来るまでは幾つもの死線を超えなければ辿り着けない領域らしい。それ故に、一部の地域からオリハルコン冒険者が英雄扱いされると言うのも少なくは無いらしいのだが、モラグ自身はそう言った経験をした事が無い為。かつてこの肉体が影の英雄、として崇められていた時代が少し羨ましくもあった___ 。
「 ... 影の英雄サマ 、ねェ 。 」
モラグはリ•エスティーゼ王国を適当に散策しながら自身の肉体の事について考えていた。影の英雄として崇められたモラグ•バル、と言う人物。この肉体に刻まれていた記憶からこの肉体が如何にして死んだか、死ぬまでにどんな経緯を辿って来たのかは分かるのだが、記憶を辿るだけでは妙にスッキリしないので 、モラグは影の英雄について描かれた
自叙伝や叙事詩などを探していたが ....... 。
「 あくまで坊さんらに崇められてんのは、十三英雄"だけ"らしいな...
それ意外は一切合切、記載無し。ってな 」
一般的に、リ•エスティーゼ王国で流通している十三英雄の本には彼らが魔神を共に討ち取った時の功績が長ったらしく書かれているだけの退屈な本であり、その本の中にはモラグ•バルの記載は無く。退屈な本に加えて、自分の名前すらも載っていないその本に少し苛立ちを覚えたのを今でも覚えている。
( ... まっ、気色わりーお祈りをされねェのは得だがな )
モラグは聖職者や神官と言う存在が妙に気に食わなかった。それは神を純粋に信仰するような純真無垢な聖職者よりも。神を信仰するその裏で金と名誉の貪欲蠢く渦に全身を浸り切っている聖職者の方がモラグが見て来た神官や聖職者では後者の方が多かったからだ。
実際、この国でも貴族での勢力争いや汚職なども起こらない事は無く。肥沃な資源はいつしか犯罪組織を育てるための温床となっている事から
内部での腐敗が進んでいるこの王国で、純真無垢な聖職者を見つけてこいと言われる方が難しいかもしれない。モラグはそう言う金にしか目がいかない耄碌した聖職者の媚び諂うような祈祷が大嫌いであった。それ故に、自分が影の英雄として物語にも叙事詩にも載らない存在として葬られた唯一の利点だと考える事も屡々である。
「 ... ちっ 、やっぱ国がどうとかあーだとか考えるモンじゃねぇな。
頭が痛くなる .... 。 」
モラグは基本、政に興味が無い。それこそ中世の政治なんて皇帝が全て支配して圧力を掛けながら法案を無理やり通す。そんな抑圧的な独裁政治が全てだと思っていたぐらいだ。貴族との勢力争いなどモラグにとっては小蝿と小蝿が目の前の甘い蜜を吸うために互いに互いの身体を傷つけ合ってるようなものとしか思っておらず、この国がどうなろうともモラグの知る由では無かったのだ_____。
「 ... オレも、少しは
ただでさえ、頭痛が酷くなるってんのによ ... 。 」
政治としての見聞より、今日貰える金の量がよっぽど役に立つ。怪物の似顔絵の方がよっぽど役に立つ。貴族の長たらしい話よりも鉄塊と泥の臭いに包まれる方が良く似合っている。モラグは政治としての見聞を深めるぐらいなら、モンスターを殺しまくった方が暇潰しとしては最高だと言うスタンスの持ち主だった。そして、そうこうして考えている内に
モラグは随分と歩き回っていたのか、モラグの視界に映るリ•エスティーぜ王国は、王都の大通りのような活気さが無くなっており。代わりに暗く、青カビの臭いが充満している。犯罪者の溜まり場のような場所に辿り着いてしまい 荘厳な見た目をしていた王城はいつの間にか民家の群れに隠れてしまい 、その溜まり場には酒やギャンブル、娼館などといった裏社会のお手本のような景色が広がっており。これがリ•エスティーゼ王国の裏の顔なんだ、と直感的に理解出来るような犯罪のテンプレートがそこに集まったかのような場所だった。
「 ... マズったな。 」
モラグは舌打ちを一つ打ちながら、自分が来た道を戻ろうと踵を返す。
リ•エスティーゼ王国の冒険者組合と近くの宿屋を拠点に活動している為。その辺りの周辺地理なら迷うことは無いのだが、こうも裏社会の温床のような入り組んだ場所に入ってしまうと脱出するのが難しくなるのが定石であり、現にモラグは思案に耽ながらあるいていた為、自分が来た道を辿ろうとするが その道を覚えていない為、完全に立ち往生の状態で有る。
( 誰かに聞くつってもなぁ___ .... 。)
此処にいる者は皆、社会の道から外れてしまった外道ばかりであり。いきなりやって来たオリハルコン級の冒険者を歓迎する筈が無く。そこにいる者は皆、鋭く睨みつけるような視線をモラグに向けている。歓迎ムードとやらでは無さそうだが 、脅して一発殴ればなんとか場所を聞き出せるか、と思った矢先の事だった。
ザッザッザッ_ ...
微小な足音と共にモラグの周りを取り囲む何者かが現れる。数は目視で8人程度。モラグの目の前に4人の荒くれ者の男たちが立ちはだかり、前方と後方で挟撃するような形で後ろには同じような男らが立ち塞がる。その者達は皆、茶色のフード付きの外套を身に纏っており、口にも同じ色をした布を被せているので彼らの顔は瞳以外は見えず、その手にはミスリル鉱石をふんだんに使ったような短剣や直剣が握られており、燦々と金属光を照らすその武具にちょっと眩しかった。しかし、後方に立つ一人の男はその暗殺者のような風貌をした彼らとは逸脱したような格好をしており、赤と紫の派手な紋章が描かれたローブを身に纏いながら、その身に魔力らしき力を滾らせているのが良く分かる。
「 ... 何だ、歓迎パーティって奴か? 」
モラグは背負っていた鉄塊に手を掛け、臨戦状態にへと移行する。
漆黒の鎧に付けられた黒いマントの下から現れるその鈍く光る鉄の塊の圧迫感に暗殺者達はズリ、と足を擦らせるような音を立てながら背後にへと下がる。しかし 、彼等を統率するかのように魔術師の一人が彼等に向けて静かに声を出す。
「 やれ 、 」
魔術師が出した二文字の言葉が響く。そしてその声を聞いた暗殺者達は
一度引いていた足をまた元に戻し、またそこから更にモラグの元に迫ろうと足を一歩、前に踏み出す。一触即発の状態に張り詰めたような静寂が貼り付けられる。まるで破裂前の風船のような空気 ... それを打ち破るのは_____。
ダダダッッッ__ !!!
暗殺者達の無音の足音がモラグに迫り来る、殺し合いの狼煙は暗殺者達の水晶色に燦々と光るミスリル色の武具によって放たれた。
四方八方から一斉に暗殺者らが迫る、前方には3人。後方には追撃用の暗殺者が一人。後方も同じような構成で迫って来ており、彼等に指示を出したあの魔術師はその戦況をただ黙って見ているだけでありモラグに
とっては気色悪い印象を持つような相手だった。
「 へっ、丁度良いぜ。てめェらの内の誰かを斬れば帰り道なんて直ぐ分かるだろうよォっ___ !!! 」
その瞬間 、モラグの背中に隠されていた鉄塊が姿を露わにする。
路地裏で太陽が遮られているが、その鈍く重い光はミスリルの武器よりもよっぽど威圧感が解き放たれおり。余りにも大雑把すぎたその特大剣は、彼等のミスリルで作られた金属剣などとは圧倒的にその硬度が違った_____。
バ"ゴ"ォ"ォ"オ"オ"ン" !!!!
一閃 、モラグの回転斬りが響く。重い鉄の音と肉が断裂し破裂する音が響き渡る。周りにいた6人の暗殺者の身体は斬り分けられる。ギガントバジリスクの青白い血とは対照的な、赤く鮮やかな血が辺りに舞い踊る。地面に打ち付けられる生々しい肉塊が落ちる。思えば初めて、モラグはこの世界で人を殺めた。怪物の鮮血のような冷たい血液では無く、正真正銘 。人間の艶やかな生暖かい血が顔にビチャリ、と水音を立てながら降り掛かる。その漆黒の籠手に微かな赤が彩られる。
「 __ ... 成程な 。 」
人間を殺める直後、モラグから飛び出た言葉はたった三文字だった。
その言葉は冷徹、残酷。それ以外に余計な感情が込められていない。
まるでその精神から人間性を根こそぎ取ったような異形のナニカのような正体不明の悍ましさを孕んでおり、肉塊と鮮血を見た残り二人の暗殺者はその顔に焦燥と恐怖を滾らせる。そしてその戦況を間近で見ていた
魔術師の眉が微かに動く__。
『 ほう 、あの包囲を一振りで斬り伏せるか。』
そして魔術師は、今まで黙を貫いていた硬い口をようやく開く。それは
モラグの先程の声色と同じく途轍もない悪意を持ったような。人を殺す事に何も躊躇が無いような、純粋無垢な"殺意"だった_____。
「 ... 安全なトコから、ふんぞり返ってるジジイに偉そうにンな事言われたくねェよ 。 」
モラグの怒気を孕む声が魔術師に向かって響き渡る。魔術師はモラグの姿に、先程の暗殺者のように怖気付くのでは無く。尚、魔術師はその傲岸不遜な態度を崩さずに話を続ける。
『 くく 、... 俺をその辺に転がっている肉塊共と一緒にしているのか?
だとしたら 、貴様は直ぐに死ぬだろう。彼我の実力差すらも知らずに、な。』
魔術師は傲岸不遜に笑う、その姿が勝ちを確信した愚か者のように映り
余程、自分のその実力に自信が有るのだろう。暗殺者のように鉄の塊を見ても臆せずに居たのはそう言う事なのかもしれない。暗殺者は額に焦燥の汗を垂らせながら、此方の動向を窺うかのようにミスリルの剣を構えていたが、死ぬ事を恐れているのが見え見えだ。
「__ ... そうだな 、じゃあ さっさと終わらせて、てめェの首持ち帰ってさっさとアダマンタイトに昇級でもするか 。 」
モラグはその魔術師に向かって鉄塊を差し向ける。魔術師は自身に人を豆腐のように容易く切り裂いてしまう武器が有る、と言うのにその威張り散らかした顔を崩さずに此方をジロリと見つめている。それが本当にモラグよりも魔術師が強いのか、それかあの傲岸不遜の笑みはただの張りぼてか 、何方が鉄塊の
『 来い !!! 愚かな冒険者よっ !!! 貴様のその蛮勇を俺の魔法で消し飛ばしてやる___ !!! 』
そう魔術師が叫んだその刹那、モラグと魔術師の間に青色に煌めく魔法陣が展開される。そしてその魔法陣は短い時間の中でその大きさを増幅させて行き 、魔術師の真髄が解き放たれる。
『 《
魔法陣の煌めきが更に光り輝く。そしてその瞬間、死体となり肉塊となった暗殺者達と、恐怖で怯えていた暗殺者がその魔法陣の中に吸い込まれる。肉塊となった暗殺者らは最早、言葉すら喋らず人の形をした肉塊がグチャリグチャリ、と混じり合い。挽肉を作るように捏ねられて行く。
『 あっ ... ぁあああ !!!! ぎゃぁああああ_____!!!!! 』
怯えで動くことすらままならなかった暗殺者二名は絶叫を撒き散らしながら、その魔法陣へと吸い込まれていった。彼らは魔法陣へと吸い込まれた後、彼らの骨が、血が、肉が、全てあの肉塊に取り込まれていき。
形容し難い肉音を響かせながら、彼らの肉体は"一つ"になったと言えるだろう。そしてその一つになった肉は、軈て黒い渦となり、渦から黒くドロドロとした液体のようなものに早変わりし、この世に産まれ落ちる。そして、その生き物とすら取れない黒いナニカは徐々に一つになった肉塊を器にし、その形を形成していき_____。
ズズズ ....
その黒い塊は軈て人の形を成した。それは笑っているような仮面で顔を覆っており、トレンチコートを着ている。指は途中から非常に大型で鋭利なメスへ変わっている。背は非常に高く、それでいて筋肉質では無いと言う事から細身の高身長といった印象だろう。皮は人間だが、その中身にはドス黒い憎悪が煮えたぎっており、モラグも先程まで相手をしていたあの暗殺者達とは違う、と考えなくても分かる程だった。
『
魔術師は嗤う。自身の前に現れた圧倒的な味方のアンデッドに敵う筈が無いと。己が勝ちを確信したようなそんな汚い嗤いが、リ・エスティーゼ王国の裏路地にて響き渡る。最早、モラグを助けようと思う者は来ず
モラグはただ息を吐きながら、鉄の塊を構えていた。
「 それが、アンタの切り札か??そんな、死に損ないを出すのが魔法なんだとしたら、マジックショーに向いてるぜおっさん 」
『 ... 小童がァっ !!! 、今すぐその減らず口を叩き直してくれるわァっ!!!! やれぇいっ !!
魔術師がそう叫ぶと、その命令を待っていたかのように
霧すらも切り裂き消してしまいそうな鋭く輝きを増している兇爪をモラグに向け 、一直線に走り出していく。
( アイツは取り逃したら、面倒臭さそうだな .... 。この一瞬で決めれれば良いんだが ... )
モラグと
ガキィンッ !!!
「 そんなに、オレの首掻っ切りてェんなら 。もっと丁寧に暗殺しとけよ 、死に体がァっ_____ !!!!!!! 」
モラグのその叫びに
ザンッ
瞬間 、
その腕からは大量の鮮血が溢れ出し、笑いに満ちたその仮面に自身の血が浴びせられ。難度90を超えると言っていた
『 ... 馬鹿な 。』
魔術師は震えた、慄いた。自身が召喚したのは第六位階魔法、英雄の領域でしか扱えない圧倒的な魔法。かのバハルス帝国の化け物魔術師に匹敵するとも言われたその死者召喚により出されたのは 、単独でも圧倒的な膂力を持つ
「 ... これで終わりか? 」
街に吊られる悪意のような夾竹桃の様に、その
「 じゃあな、おっさん。次はもっと、良いマジックショーに出ろよ 」
『_____ あ。 』
振り下ろされる鉄の塊、それは余りにも魔術師が防ぐには遅すぎた。
死の3秒前 、魔術師は
その鮮血が、骨が、仮面が、刃が、途端に美しく見えてしまった_____。そして、夾竹桃に英雄の手によって血は掛けられたのだった。
次回から原作突入