映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ『   』   作:カシ

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第2話 ブラザーズ

 

 その日の深夜。野原家の静寂は、一階から響いたひろしさんとみさえさんの短い悲鳴によって切り裂かれた。

 

(……来たか)

 

 二階の書斎で横になっていた俺は、起き上がると一階へ下りた。寝室の明かりが点いており、そこにはパジャマ姿で腰を抜かしているひろしさんとみさえさん、そして――暗闇の中に立つ、あまりにも個性的すぎる三人の人影があった。

 

「あらぁ、お騒がせしちゃってごめんなさいねぇ。でも、用件はいたってシンプルなの。昼間、河川敷で拾った『玉』……それを返してくれれば、アタシたちもすぐ帰るわよ?」

 

 中央に立つ、派手なボディコンに身を包んだ大柄なオカマ――ローズが、優雅に翻しながら告げる。

 

「玉なら……あったけど、ない」

 

 しんのすけが眠たそうに目をこすりながら答える。その暢気な態度に、ローズの額にピキリと青筋が浮かんだ。

 

「とぼけんじゃねぇぞガキィャ!」

 

 一瞬にして、艶やかなオカマ口調からドスの効いた野太い男の声へと豹変した。

 

「舌引っこ抜くぞ」

「ちんちんちょんぎったろか?」

 

ローズに続き、弟2人も続けて捲し立てる。

 

あまりの迫力に、しんのすけの肩がビクッと跳ねる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

しんのすけを守るように、俺が前に出る。

 

「……玉なら、もう手元にはないんです。ひまわりが、飲み込んじゃったんですよ」

 

 俺の言葉に、ローズ、ラベンダー、レモンの三人が一斉に視線をこちらへ向けた。

 

「……あら? なあに、この爽やかボーイ」

「ちょっと、ローズお兄たま…!」

「アンタ、名前は? 彼女はいるのぉ?」

 

 さっきまでの殺伐とした空気はどこへやら。ローズがクネクネと体をくねらせながら、獲物を見つけた猛獣のような目で俺に詰め寄ってくる。

 

(……うわ、迫力すげぇ。画面越しに見てた時より圧が強すぎる……)

 

「いや……あの、玉はいいのか…玉は……」

 

 呆れながらも一歩引く俺に、末っ子のレモンが「ちょっといいかしら」と一歩前へ出た。彼女は赤ん坊のひまわりに近づくと、そっとそのお腹に手をかざす。

 

「昼間、病院でレントゲンを撮ったんです。先生は、ひとまず大丈夫だろうって。サイズ的にも、数日中にはうんちと一緒に出るはずだって……」

 

 みさえさんが不安そうに補足し、ひろしさんも「そうなんだ、異常はないって言われたんだよな」と強く頷く。

 

 レモンは目を閉じ、何かを感じ取るように集中していたが、やがて困ったように眉を下げて顔を上げた。

 

「そうね……確かに。この子のお腹の奥に見えるわ。本当に飲み込んじゃってる」

 

 

 

 

 

 

 それから数十分後。

 俺たちは、レモンが運転するワゴン車の中にいた。夜の春日部を走り抜け、車は国道へと入っていく。

 

「……どこに向かってるんだ?」「行き先くらい教えてよっ」

 と、警戒の色をあらわにしながら、ひろしさんとみさえさんが尋ねる。

 

 俺は原作の味方側だと知っているが、深夜に突然現れたオカマ三人に拉致同然で車に乗せられれば、普通の人間なら不安でたまらなくなる状況だ。

 

「そんなに怖がらないで。行き先は『珠由良族 東京支部』よ」

 

 ローズが淡々と答える。

 

「タマタマがゆらゆらなんて、楽しそ〜」

 

 しんのすけが窓の外を眺めながら能天気に笑い、ひろしさんとみさえさんは揃って「はぁ……」と深い溜息を漏らした。

 

「そりゃあ楽しいところよ。夜の東京は、いつだって煌びやかなんだから」

 

 ローズの言葉は明るかったが、俺の胸の内は、それとは正反対に冷え切っていた。

 

(『珠由良族 東京支部』……つまり…)

 

 新宿にある彼らの拠点。原作では、あそこでホステス軍団の急襲を受けるはずだ。

 ――絶対にエンカウントしてはいけない男、ヘクソンはまだ来ない。珠黄泉族の頭領ナカムレはヘクソンのことを利用しようとしているだけで仲間だとは思っていない。結局この2人は終盤まで共戦することはなかったはずだ。それは俺にとっても都合が良い。

 

(……思考を読まれた瞬間、全てが狂う。どうにかして、あいつとだけは距離を置かなきゃいけないんだ……)

 

 ワゴン車の揺れに身を任せながら、俺は冷や汗が止まらない。

 隣で「お兄さん、そんなに肩肘張らないでよぉ」とすり寄ってくるラベンダーの香水の匂いすら、死刑執行へのカウントダウンの香りのように感じられていた。

 

 珠由良族の歴史。珠黄泉族との長きにわたる対立。そして、世界を支配する力を持つという魔人ジャークの封印――。

 新宿にある彼らの店『スイングボール』の煌びやかなステージで、三人のオカマたちによるやたらと完成度の高いミュージカル調の解説が、ようやく終わりを告げた。

 

「おぉ〜! おもしろかったゾ〜!」

 

 パチパチパチパチッ!

 ボックス席に座るしんのすけだけが、一人無邪気に目を輝かせて拍手喝采を送っている。

 

「で、その話と俺たちになんの関係があるんだ?」

 

 すっかり冷めきった表情のひろしさんが、呆れたようにツッコミを入れた。すると、しんのすけがポンッと手を叩いて立ち上がる。

 

「オラ、わかった! そのハニワってのが昨日ニュースでやってたやつで、玉はひまわりが飲み込んじゃったやつだな!」

「「「その通り!」」」

 

 ステージ上の三人が、ビシッと息の合ったポーズでしんのすけを指差した。

 

(ほんと、都合が良すぎるほどに察しがいいなこの五歳児は……)

 

 あまりの理解力の高さに、俺は内心でそっと舌を巻いた。

 

「ね、ねぇ。この子が玉を出したら絶対持ってくるから……もう、帰ってもいいでしょ?」

 

 みさえさんが、ひまわりを抱きしめながら不安そうに尋ねる。しかし、三人はステージから降りてくると、真剣な顔で首を横に振った。

 

「だめよ。珠黄泉族もその玉を狙ってるの。アタシたちと一緒に居なさい」

「あいつらは血も涙もない女たちなんだから」

「殺されるかもよ、オバさん」

 

(まぁ、狙われている以上、この人たちと一緒に居た方が圧倒的に安全なのは事実なんだよな……)

 

 俺が冷静に状況を分析している隣で。

「オ、オバ……ッ!」

 みさえさんのこめかみに、ピキキッと危険な青筋が浮かび上がった。

 妻の怒りの気配を察知したのか、あるいは父親としての威厳を見せるためか。ひろしさんがガタッと音を立てて立ち上がり、三人のオカマたちを鋭く睨みつけた。

 

「おい、お前ら。勝手にこんなとこまで連れてきて、今度は返さないだと? 冗談じゃないぜ! 俺たちは今すぐ帰る!」

 

 ビシッと決まった怒りの宣言。

 

(……本当に声かっこいいな、この人は。まぁ、声だけじゃないけど)

 

 普段はうだつの上がらないサラリーマンだが、いざという時のこの男らしさ。俺が密かに感心していると、家族たちもパッと顔を輝かせた。

 

「よっ、とーちゃんカッコいいゾ!」

「あなた……!」

「たぁーっ」

 

 家族の熱い声援を受け、ひろしさんの背中がさらに大きく、頼もしく見える。

 ……だが。

 

(俺は知っている。この展開は……)

 

 俺がそっと視線を逸らした、次の瞬間。

 

「私たち、とっても強いのよ〜ん」

「へっ……ぐわぁぁっ!?」

 

 ドタバタバタッ!! という激しい物音。

 一瞬の出来事だった。屈強な体格を持つオカマ三人が流れるような連携でひろしさんに襲い掛かり、あっという間に床へと組み伏せてしまったのだ。

 

「あ〜ん、ステキなおヒゲ〜。スリスリスリ……」

「や、やめろぉ! 」

 

 関節を極められたまま、身動きの取れないひろしさんの頬に、ローズの濃い化粧と青髭の混じった頬が情け容赦なく擦り付けられる。

 

 数分後。

 完全に心が折れたひろしさんは、ボックス席の椅子の上でちょこんと正座をし、ソッポを向いたまま真っ白に燃え尽きていた。先ほどの頼もしさは微塵も残っていない。

 

「とーちゃん、かっこわるい……」

 

 しんのすけの情け容赦ない辛辣なコメントが、静かな店内にポツンと響く。

(……やめてやれしんのすけ。その言葉は、今のひろしさんには辛すぎる……)

 意気消沈して小さくなった大黒柱の背中を見つめながら、俺は心の中でそっと同情の涙を流した。

 

 ひろしさんの哀愁漂う背中を見つめていた、その時だった。

 ピクリ、と。ローズの纏う空気が、オカマのそれから真面目な気配へと一瞬にして鋭く変わった。

 

「……来るわよ」

 

 短い一言と共に、店内に一瞬の静寂が落ちる。

 

「入り口固めて! 早く!」

「わかってるわよ!」

「急いで急いで!」

 

 ローズの鋭い指示に、ラベンダーとレモンが凄まじいスピードで動き出した。重厚な木製の扉の前に、店内の重いソファやテーブル、さらには巨大なツボの置物などを次々と積み上げ、巨大なバリケードを築き上げる。そして、二人でその山を必死に押さえつけた。

 

 再び訪れる、張り詰めた静寂。

 ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた、次の瞬間――。

 

 ドゴォォォォォォンッ!!!

 

 凄まじい轟音と共に、扉……ではなく、その『横の壁』が、粉塵を撒き散らしながら内側へと吹き飛んだ。

 瓦礫の煙の中から姿を現したのは、まるで重機のように分厚い体を持つ大男――珠黄泉族の用心棒、サタケだ。

 

「ちょっと、どっから入ってきてんのよ!」

「折角バリケード作ったのに、無駄になっちゃったじゃない!」

 

 横の壁に大穴が開いているにも関わらず、扉のバリケードを押さえつけながらツッコミを入れるラベンダーとレモン。

 そんな二人のコントのような抗議に、サタケはニヤリと口角を上げると、わざわざ開けた壁の穴から一度外へと戻っていった。

 

「「……えっ?」」

 

 二人から血の気が引く。その無言の行動が意味するものを察知し、二人の表情がこれ以上ないほどに強張った。

 

「「ウソでしょぉぉっ!?」」

 

 悲鳴を上げながら、二人がバリケードから左右にダイブして離れた、まさにその直後。

 

 ドゴォォォォォォンッ!!!

 

 今度は正面の扉ごと、先ほど二人が必死に築き上げた強固なバリケードが、紙屑のように木っ端微塵に粉砕された。

 宙を舞うソファと木片の中を悠然と歩み出てきたサタケは、両肩に積もった埃をパンパンと払い落とし、全くの無傷で、余裕の笑みを浮かべて見下ろしてくる。

 

(……でかすぎる。流石にでかすぎだろ……!)

 

 安全なボックス席からその光景を目の当たりにした俺は、思わず息を呑み、絶句していた。

 映画の画面越しでもその規格外のサイズ感は目立っていたが、三次元のリアルで直面するサタケの巨体は、もはや『人間』という枠を逸脱している。

 

 身長は2メートルを優に超え、肩幅は扉の枠ギリギリ。服の上からでもわかる丸太のような腕と、鋼鉄のように分厚い胸板。圧倒的な質量と筋肉の鎧だ。

 

(ハリウッドのザ・ロックか? いや、実物はそれ以上にでかく見える。プロレスラーやボディビルダーなんて目じゃない。日本人に、こんな規格外のバケモノみたいな逸材がいていいのか……!?)

 

 恐怖よりも先に、純粋な感嘆が込み上げてくる。

 こいつは敵の用心棒でありながら、実は子供好きで真っ直ぐな心根を持つ、映画ファンからもめちゃくちゃ人気の高い男だ。あの巨体から繰り出される人情味あふれるキャラクター性こそがサタケの魅力なのだが――。

 

(実際に目の前に立たれると、良い奴だとかそんなこと考える余裕なんて吹き飛ぶな。純粋に『絶対に素手で勝てない生物』としての凄みがエグすぎる……)

 

 圧倒的な暴力の権化の登場。

 

「バケモンよあいつっ」

 

 サタケのあまりの規格外ぶりに、レモンとラベンダーが悲鳴を上げながら俺たちのいるボックス席の方へと逃げてくる。

 完全に破壊された扉の向こう、粉塵が舞う入り口から、サタケの巨体を掻き分けるようにして二つの人影が歩み出てきた。

 ボディコンに身を包んだチーママと、和服を着た小柄な初老の女――珠黄泉族の頭領、ナカムレだ。

 

「グフフフフ……」

 

 静まり返った店内に、ナカムレの気味の悪い笑い声が響く。

 そのただならぬ気配に対応するように、珠由良族の長男であるローズが一歩前に出た。

 

「こんばんは。珠黄泉族頭領。玉王ナカムレでございます」

 

 ナカムレは、これ見よがしに恭しく一礼した。

 

「銀座でクラブを経営させてもろてますねん。どうぞ、よろしゅう」

「どうも」

 

 警戒心を露わにしたまま、ローズが短く一言だけ返す。

 

「オラ、野原しんのすけ五歳。しゅみは……」

「いいからっ!」

 

 この空気を全く読んでいないしんのすけが自己紹介を始めようとしたのを、ひろしさんが慌てて首根っこを掴んで引き寄せた。

 

「いや〜、新宿ゆうとこはなんや、ゴチャゴチャと落ち着かん街どすな〜」

 

 ナカムレは周囲の荒れ果てた店内を眺めながら、まるで近所に回覧板を回しに来たかのような暢気な口調で世間話を始める。

 

(壁や扉をあんな派手に蹴破らせといて、何気なく普通に世間話をしてくるとか……)

 俺は一歩引いた位置から、この小柄なババア……もとい、頭領を観察していた。

 

(あえて強者の余裕を出すためにサイコパスっぽく演じてるのか? いや、それともただ芯からズレてるだけか? この後、あんなに緊迫した空気の中で急にトイレ行ったりするしな……)

 

 俺の記憶にある『暗黒タマタマ大追跡』の展開が、この後のコントのような展開を正確に予測しているが故の考察。

 

「世間話しに来たわけじゃないでしょ」

 

 ローズが構え、鋭く切り込んだ。

 

「へえ、玉をいただきに参りました」

「玉なんてないわよ。ないものは渡せない」

 

 ローズが早口でピシャリと返す。

 

「グフフフフフフ……」

 

 再び、ナカムレの異様な笑い声が響く。

 腹の底を這い回るようなその声に、ひろしさんやみさえさんだけでなく、俺たち全員の顔が引き攣った。

 

(……いや、怖いなこの人。得体の知れなさが倍増してる)

 

「ウソはあきまへんなぁ。さっ、どこにあるんどすか?」

 

 ナカムレの細い目が、ギラリと獲物を探すように細められた。

 その時。

 

「ふぇっ……あぁぁぁ〜ん!」

 

 張り詰めた空気に当てられたのか、みさえさんの腕の中でひまわりが突然泣き出してしまった。

 

「ああっ、よちよち、いい子ねぇ……!」

 

 みさえさんが必死にあやすが、あまりにも嫌すぎるタイミングでの泣き声に、俺たちは全員、逆に不自然なほど平静を装ってしまった。それがかえって怪しさを醸し出している。

 

「おぉ、こんなとこに赤ちゃんがおるゆうのも、妙ですなぁ」

 

 ナカムレの視線が、正確にひまわりを捉えた。

 

「まさか、その赤ちゃんが玉を飲み込んでしもた、とか?」

 

 全員の肩がビクッと跳ねる。

 

「えぇー、なんでみんなわかっちゃうのぉ。オラなんか……」

「馬鹿っ!」

 

 ひろしさんが慌ててしんのすけの口を塞いだが、時すでに遅し。

 ブラザーズの三人が、さっとしんのすけとひまわりを守るように身構えた。

 

「グフフフフ。子供は正直どすなぁ。さて、玉のありかもわかったことでおますし……」

 

 両サイドに控えていたサタケとチーママが、臨戦態勢に入ってやる気満々の笑みを浮かべる。

 

「いやーっ!」

 

 みさえさんが、悲鳴を上げながらひまわりを強く抱きしめた。

 戦力が違いすぎる。どう考えてもここで終わる――という絶望的な空気が流れた、まさにその瞬間。

 

「ちょっとおトイレ」

 

 ナカムレが、クルッと背を向けて言い放った。

 サタケとチーママが、見事なまでにガクリと床に崩れ落ちる。

 

「ママ! これからって時に!」

 

 ズッコケたチーママが、涙目で苦言を呈した。

 

「しょうがないやろ、自然現象ですがな」

 

 ナカムレは悪びれもせずこちらに向き直ると、尋ねてきた。

 

「トイレはどちらですか?」

「奥行って右よ」

 

 ローズが、これまた律儀に指差して教える。

 

「ほな、ちょっと」

 

 ナカムレは小走りでトイレへと向かっていった。残されたサタケたちと俺たちの間に、何とも言えない間の抜けた、しかし一触即発の緊張の空気が流れる。

 

 ――数秒後。

 

「ぎいやぁぁあああああああああっ!」

 

 店の奥、トイレの方角から、ナカムレの鼓膜を破らんばかりの悲鳴が轟いた。

 

「ママっ!?」

 

 サタケとチーママが顔色を変え、慌ててトイレの方へと駆け出していく。

 

 それを利用し、ローズが目配せをする。

 ブラザーズが即座に動き出した。

 

「おい、そこ!」

 

 入り口付近に残っていた珠黄泉族の取り巻きたちが、逃げようとしたレモンとラベンダーに気づき、行く手を阻もうとする。

 しかし、レモンとラベンダーはおもむろにタバコを取り出すと、スッと口に咥えた。

 

「あっ、おつけしますぅ」

 

 カチッ。

 ホステスの一人が、体に染み付いた『サガ』で、無意識にライターを取り出して火を差し出してしまった。

 

 タバコに火をつけた直後、レモンとラベンダーは火を差し出したホステスたちに、強烈な頭突きをお見舞いする。

 

「今よ!」

 

 ローズが叫び、目の前に立ち塞がった残りのホステス二人を、その豊かな体格を活かして力任せに弾き飛ばす。

 

「こっちよ!」

 

 ローズが叫び、俺たちは瓦礫と化した入り口を抜け、夜の新宿の街へと転がり出た。

 店の裏手に停めてあったワゴン車に全員でなだれ込み、レモンがアクセルを乱暴に踏み込む。急発進した車は、追っ手を振り切るようにネオン街を猛スピードで走り去っていった。

 

(……よし。大丈夫だ)

 

 揺れる車内で荒い息を吐きながら、俺は胸を撫で下ろした。

 ここまでは完全に映画の脚本通り。ナカムレのトイレの悲鳴も、ホステスの習性を利用した脱出劇も、全て記憶と一致している。

 

(映画通りに話は進んでいる。順調だ……!)

 

 俺が余計な手出しをしなければ、このまま大きなズレもなく物語は進むはずだ。

 暗闇を走る車の中で、俺は俺としての役目を全うすべく、静かに、しかし力強く意気込んでいた。

 

 

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