映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ『   』   作:カシ

18 / 23

そうだった…2人のラブコメを書くために始めたんだった。やっとメインでこの2人を書ける…


第8話 『   』

 

 

「こんな話はどうでもいいのよぉ! そんなことよりも、あなたの色恋話を聞かせなさいよッ!」

「あらイイわね、私、詳しい話を聞きたいわっ!」

 

 ローズさんたちオカマ四人が目を輝かせ、ワチャワチャとマタの腕を引いて、屋上の隅へと連れ去って行ってしまった。

 俺がポツンと残されたその時、左腕を包み込んでいたギンギンの光がスッと収まった。

 

「はい、一丁上がり! 骨も綺麗に繋がってるはずだよ」

 

 プカプカと浮かび上がるギンギン。俺は恐る恐る左手を動かしてみた。

 

「おぉ……すげぇ」

 

 先ほどまでの、目の前が真っ白になるような激痛が嘘のように消え去り、指先までしっかりと力が入るようになっていた。完璧な治癒だ。

 

「本当に治ってる。……で?」

 

 俺は完治したばかりの左手で、そのまま空中のギンギンの縁をガシッと掴み、顔をヌッと近づけた。

「さっきの『正妻』ってのはどういうことだ。説明しろって言ったよな?」

 周囲のオカマたちの喧騒に紛れるよう、小声でドスを効かせて凄む。

 ギンギンは「ひえっ」と情けない声を上げつつも、泳ぐ視線で喋り出した。

 

「そ、それがねー。実は、えーとーっ……」

「ハッキリ言え!」

 

 

 

「二人があまりにも見るに耐えないぐらい関係が進むのが遅かったので! 僕が伝言を伝える時に、『結婚しようって言ってたよ』って伝えました!!!」

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 

 

 

 

 ……はあああああああああ!?

 

 

 

 

 

 

「おまっ、え、おまっ、はっ?」

 

 あまりの衝撃に、俺は言葉が出てこず、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせた。

 

「だって、君たちどう考えても好き同士のくせに! かける!君は告白もしないし! 無難な『ちゃんと待ってる』なんて言葉しか伝言として寄越さないし! そんなんじゃ、いつまで経ってもくっつかないじゃないか!!」

 

(本当はいちいち伝言を届けるのがめんどくさかった)

 

 という本音は完全に伏せ、あくまで『二人のことを思ってやってあげたんだ』ということを過剰に強調しながら捲し立てるギンギン。

 

「だからって、お前っ……まじで? まじでそう伝えたの……?」

 

 インパクトがデカすぎて、まだ脳の処理が追いつかない。

 

「まじだよ! まじ! でも、あのまま伝えてなかったら、もしかしたら他のやつに取られてたかもしれないよ!? マタに見合い話はいっぱい来てるって説明したよね!?」

 

※嘘である。マタがかける以外の誰かとくっつくわけがないのは、マタを日頃から見ている周りの人間達が一番よくわかっている。ただの勢いと責任逃れである。

 

 

「いや、え、うーん、うーーん……一応、お前の言い分はわかったけど、どうすんだよ……!」

 

 俺は頭を抱えた。

 

「今さら『実はギンギンが勝手に言った嘘で……』なんて、言えるわけないだろ……!」

 

 マタにそんなことを言ったら、どれだけ傷つけるかわからない。

 

「いや、結婚すればいいじゃん」

 

 至極当然のように、真顔で言い放つギンギン。

 

「何か問題ある? 結婚、したくないの……? どーせ結婚するでしょ君たち。遅いか早いかの違いだよ」

 

 完全に開き直った態度で言われ、俺は顔を真っ赤にして反論した。

 

「いや、でも早すぎるだろッ! それに……そういうプロポーズとかは、ちゃんと俺の口からッ!」

 

「どうしたんだい?」

 

 背後から、不意に声がした。

 オカマたちの質問攻めから解放されたのか、マタが不思議そうな顔をしてこちらに歩いてくるところだった。

 ビクッと、俺と盾の肩が激しく跳ねる。

 

(どうするんだい! いいんだよ別に、結婚はしないって本当のことを言っても!)

 

 ギンギンが慌てたような念話を飛ばしてくる。

 本当のことを言う?

 

『あれは盾の嘘で、俺はプロポーズなんてしてない』と

 

……言えるわけがなかった。

 それに、言いたくなかった。

 俺は、目の前に立つマタを見た。

 朝日に照らされた、土埃で少し汚れた頬。俺の危機を知るや否や、次元の扉なんて関係無しに、ただ一直線に駆けつけてくれた、大好きな人。

 こんなの、迷う理由なんてどこにもない。

 

「いや、マタ……その……」

 

 俺はギンギンから手を離し、マタの正面に向き直った。

 朝の冷たい風が、二人の間をスッと吹き抜ける。周囲で笑い合う野原一家やオカマたちの喧騒が、この瞬間だけ、遠くの波音のように静かに引いていく気がした。

 心臓が、先ほどの落下中よりも遥かに激しく、早鐘のように打ち鳴っている。

 マタが、俺のただならぬ真剣な空気を察して少しだけ姿勢を正し、その大きな瞳で真っ直ぐに俺を見つめ返した。

 

「……いきなりすぎて、あれだったと思うから。まずは。……まずは、その……」

 

 深く、息を吸い込む。

 もう誤魔化さない。自分の本当の気持ちは、自分の言葉で伝えるんだ。

 俺は覚悟を決め、彼女から逃げずに目を合わせ、腹の底から思いの丈を叫んだ。

 

「――結婚を前提に、俺と付き合ってくださいッ!!」

 

 あまりにもでかい声で叫んでしまったせいで、屋上にいた全員の動きがピタリと止まり、一斉にこちらを振り向いた。

 

「今のって…」

「告白?」

「プロポーズ?」

「今言ったわよね」

「ここで?」

「若いわねぇ」

「「お熱いですなぁ~」」

「たぁやぁ……」

 

 まずい! つい勢い余って大きい声で叫びすぎた……!

 全員からのニヤニヤとした生温かい視線が、一斉に突き刺さって死ぬほど恥ずい。今すぐアリのように小さくなって消えてしまいたい気分だ。

 

「あ、ちがっ!」

 

 照れ隠しと極度の焦りから、俺は思わず手をバタバタと振って言葉を濁してしまった。

 

「……ちがうの?」

 

 その瞬間、マタの期待に輝いていた瞳がすっと伏せられた。今にも泣き出しそうな、切なくて不安げな声。

 

(馬鹿野郎! こんな顔させるな俺!)

 

 自分が情けなくて、思い切り内心で自分をぶん殴る。周りの目なんて、もうどうでもいい。一番大事な女の子を不安にさせてどうするんだ。

 

「ごめん!違くない! 本当に好きなんだ!」

 

 俺は一歩踏み出し、今度は誰の目も気にせず、はっきりと真っ直ぐに想いを言葉に乗せた。

 マタは弾かれたように顔を上げた。その頬が、昇り始めた朝日の光よりもさらに赤く染まっていく。

 

「嬉しいっ……ボクも、好きだ!」

 

 感極まったような、少し震える声が響いた。

 ふわりと、屋上を爽やかな朝の風が吹き抜けた。

 周囲のガヤガヤとしたノイズが遠のき、世界に俺と彼女の二人だけしかいないような、一瞬の心地よい静寂が訪れる。

 マタは少しだけはにかむように俯いた後、ゆっくりと顔を上げた。

 清々しい朝の光を反射してキラキラと輝く大きな瞳が、俺の目を真っ直ぐに射抜く。それは、勝気な戦士の顔でもなく、お転婆な王女の顔でもなく――ただ一人の恋する女の子としての、息を呑むほど綺麗で、最高に眩しい笑顔だった。

 

「――よろしくお願いします」

 

その凛とした透き通るような響きが、俺の胸の奥深くに、これ以上ないほどの温かさと幸せな重みを持って刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 その後のことは、正直なところもうよく覚えていない。

「よろしくお願いします」という彼女の返事を聞いた瞬間、告白をOKされた嬉しさと、これまでの極限状態の反動、そしてとてつもない興奮がないまぜになって、俺の脳みそは完全にキャパオーバーを起こし、真っ白にショートしてしまったのだ。俺の脳みそはここ最近ショートしまくりだ。

 周りの大人たちがものすごい勢いで茶化してきた気もするし、手を叩いてお祝いしてくれた気もする。マタが顔を真っ赤にして何かを言い訳していたような気もするし、しんのすけにズボンを下ろされそうになった気もする。でも、どれも霞がかったように曖昧だ。

 ただ一つだけ鮮明に覚えているのは、ギンギンがプカプカと浮かびながら

 

(ね? 僕のおかげでしょ?)

 

 とでも言いたげなドヤ顔をしてきて無性にウザかったので、完治したばかりの左手で裏側を思い切りグリグリと抉るように削ってやったことくらいだ。

 

 東の空が白み始め、肌寒い朝の空気が屋上を包み込む頃。

ビルの遥か下の方で、赤色灯をチカチカと光らせた警察車両が次々と到着するのが見えた。

 

「遅いぞー警視庁!!」

 

 屋上の端から身を乗り出し、よねさんが下を見下ろしながら声を張り上げる。

 パトカーのサイレンが鳴り響く中、サタケさんが覚悟を決めたように大きく息を吐き、静かに言った。

 

「ふぅ、無事終わったな。……俺らは捕まるだろうが、お前ら、ありがとな」

 

 全員がサタケさんを見つめる。

 

(そうか……サタケさんは珠由良ブラザーズと一緒に、このまま事情聴取されて……)

 

 俺が少し寂しい気持ちになっていると。

 

「なんで捕まるんだ?」

 

 よねさんが、わざとらしく小首を傾げて聞き返した。

 

「なんでって……! 俺は民間人を襲って、誘拐の手助けを……」

「誘拐された赤ん坊を身を挺して守り、お世話をしていた……だろ?」

 

 サタケさんの言葉を遮り、よねさんが淡々と告げる。

 

「民間人でありながら、警察官の私に助力し、凶悪犯の逮捕に貢献。普通に考えれば表彰ものだな? 新聞にデカデカと載るレベルだ」

 

「……! 嘘の証言をするってのか!?」

 

 サタケさんが目を見開く。

 

「嘘じゃないだろ。全部事実だ。それに……」

 

 よねさんがわざとらしくニヤッと笑いながら、周囲の面々にぐるりと視線を向けた。

 

「お前に襲われたと証言する民間人は、一体どこにいるんだ……?」

 

 その言葉に、大人たちが一斉に同調する。

 

「あんたのおかげで、ひまわりが怖い思いをせずに済んだんだ。……ありがとう」

 

ひろしさんが、サタケさんの目を真っ直ぐに見て感謝を伝える。

 

「ひまわりがこんなに懐いてるなんて、すごいわよっ? うちのひまわりは男を見る目があるから、あなたはほんとに良い人なのねっ」

 

 みさえさんが、ひまわりを抱きながらうふふっと笑う。

 

「誰もあんたのこと、悪く言ったりしないわよ。みんな、あんたの人の良さに気づいてるもの」

 

 ローズさんが優しく微笑み、ラベンダーさんもレモンさんも、そして俺もしっかりと頷いた。

 

「お、お前ら……!」

 

巨漢のサタケさんの目が、みるみるうちに潤んでいく。

 

「あー! もしかして泣いてるゾー!!」

 

しんのすけが指をさしてからかうと、サタケさんは太い腕で乱暴に目元を拭った。

 

「な、泣いてねぇ!!」

 

そんな微笑ましいやり取りを眺めた後、よねさんが表情を引き締めて言った。

 

「ひとまず、事情聴取では余計なことは喋らなくて良い。先に私が色々と調書に報告するから、それに基づいた質問にだけ答えれば良い。野原さん達は被害者の位置付けになるから色々聞かれるだろうが、疲れもあるし、ここまでの大事だと野原さん達の細かい証言が無くても犯人の逮捕は確実だ。一通り聞いたら、すぐ返してもらえると思う」

 

 淡々と、的確な指示を出すその姿は、急に『本物の警察官』っぽかった。

 

(いつも銃を振り回して全弾外すようなイカれたお姉さんだと思ってたけど、意外とちゃんと警察官なんだ……)

 

 俺が内心で感心していると。

 

「おいなんだお前ら! 全員、『銃を振り回すイカれたお姉さんだと思ってたけど意外とちゃんと警察官なんだ…』って顔しやがって!! 警察手帳見せただろうが!!!」

 

 よねさんが顔を真っ赤にしてキレた。

 どうやら、全員が全く同じことを考えて、同じ顔をしていたらしい。

 

 そして場面は切り替わり、朝日が完全に昇りきったビルの下。

 赤色灯を回す大量のパトカーと救急車がひしめき合い、現場は物々しい空気に包まれていた。ヘクソンはすでに救急隊員と複数の警察官に囲まれてストレッチャーで運ばれていき、俺たちもそれぞれ現場の警察官から簡単な事情聴取を受けていた。

 

「えーと、君。名前と年齢は?」

 

バインダーを持った若い警察官が、事務的な口調で俺に尋ねてくる。

 

「あ、えっと。かけるです。16歳です」

 

「かける君ね。苗字は? あと、住所と……身分証とか、学生証って今持ってるかな?」

 

ピタッ、と俺の背筋に冷たい汗が流れた。

 

(や、やばい……っ!)

 

すっかり忘れていた。異世界テンプレにおける最大の問題点。

俺は『こちらの世界』の住人ではない。当然、戸籍も住民票もなければ、この世界の高校に通っているわけでもない。身分を証明できるものなんて、ポケットの中のホコリくらいしか持ち合わせていなかった。

 

「あー……その、苗字は……身分証は、落としちゃったというか……」

 

俺がしどろもどろになっていると、警察官の目がスッと怪しむように細められた。

 

「……君、本当に高校生? もしかして家出中とかじゃないよね? ご両親の連絡先は……」

 

(終わった。これ絶対補導されるか、身元不明でややこしいことになるやつだ……!)

 

「あー、ちょっと待った。その子は私の親戚です」

 

 横からスッと、救急隊の手当てを終えたよねさんが割って入ってきた。

 

「え? 千葉県警の東松山さん……ですよね? 親戚って……」

「ええ。今回の極秘の潜入捜査のために、少し手伝わせたんですよ。彼、身軽だし機転が利くので」

 

 よねさんは、さも当然といった顔で堂々と大嘘をつき放った。

 

「は!? 親戚の高校生に極秘捜査を手伝わせた!? いやいや、いくらなんでも規定違反というか、無茶苦茶じゃ……」

 

 若い警察官が慌てて反論しようとするが、よねさんは警察手帳をビシッと突き出し、凄みのある低い声で言葉を遮った。

 

「彼のおかげで、被害者を無傷で救出し、あの凶悪犯ヘクソンを無事確保できたんです。……何か問題でも?」

「い、いえ……」

 

 その有無を言わさぬ謎の迫力と『結果が全て』という圧力の前に、若い警察官は完全に気圧され、タジタジと引き下がっていった。

 

「ふぅ。身分証もない怪しい子どもが現場にいたら、面倒なことになるからな。私の親戚ってことにして、調書は適当に捏造……ゴホン、上手く処理しておく」

 

 よねさんは俺に向かってウインクをして見せた。

 

「……ありがとうございます。でも、本当に警察官だったんですね……」

 

 俺が呆れたように呟くと、よねさんは「当たり前だろ!」と軽く俺の頭を小突いた。

 さっき屋上でサタケさんたちを庇った時もそうだが、この人はこういう「いざという時の融通や機転」が異常に利く。良くも悪くも、型破りな刑事なのだ。

 俺は少しだけ彼女を見直し、素直に頭を下げた。

 

 俺たちの簡単な事情聴取が終わり、パトカーの前から離れようとした時だった。

 

「よし、じゃあ次はアタシたちの番ね」

 

 入れ替わりで警察車両の方へと向かおうとしていた珠由良ブラザーズの3人とサタケさん、そしてジャークが、俺たちの前に立ち止まった。これから彼らは、詳しい事情を話すために警察署へと同行するのだ。

 サタケさんがドスドスと歩み寄り、しんのすけとみさえさんに抱かれたひまわりの前で、大きな体を折りたたむようにしてしゃがみ込んだ。

 

「ひまわり。……元気でな。あと、あんまり父ちゃんと母ちゃんを困らせるんじゃねえぞ」

 

 サタケさんが優しく太い指で、ひまわりの小さな頭を撫でる。

 

「たぁやぁ〜」

 

 ひまわりはキャッキャと笑い、サタケさんの指を両手でギュッと握り返した。その無邪気な反応に、サタケさんの厳つい顔がまたしても盛大に歪み、目から滝のような涙が溢れ出す。

 

「うおおおんっ! ひまわりぃぃぃっ! 大きくなれよぉぉぉっ!!」

「あーっ、サタケさんまた泣いてるゾ! 刑務所に行っても、おつとめ頑張るんだゾ! オラ、たまには面会に行ってあげるから!」

「だから刑務所には入んねぇって言ってんだろ!!」

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらツッコミを入れるサタケさんに、俺たちも思わず吹き出してしまった。

 続いて、ローズさんたち三人が野原一家の前に進み出る。

 

「ひろしさん、みさえさん。それにしんのすけくんに、ひまわりちゃん。……あなた達家族と出会えて、本当に良かったわ」

 

 ローズさんが、いつものオネエ言葉ながらも、どこか真摯な響きを含んだ声で言った。

 

「ええ。本当に強くて、素敵な家族ね」

「世界を救うのは、超能力でも魔法でもなく、家族の愛なのよねぇ」

 

とラベンダーさんとレモンさんもしみじみと頷く。

 

「ローズさんたちも、お元気で。色々ありましたけど、楽しかったわ」

 

 みさえさんが笑顔で応えると、ローズさんは「ウフフッ」と艶然と笑い、胸元からピンク色のカードを取り出した。

 

「これ、アタシたちが新宿でやってるクラブの名刺よん。落ち着いたら、いつでも遊びにいらっしゃいな! 『ひろし』には、特別サービス・し・て・あ・げ・る・わ・よ・んっ♡」

 

 ローズさんがバチンッと強烈なウインクを飛ばす。

 

「ひぃっ……!」

 

 オカマであるローズさんからの熱烈なアピールに、ひろしさんは顔を真っ青にしてブルブルと背筋を凍らせた。

 その後ろから、みさえさんがひょいっと笑顔で名刺を受け取る。

 

「えぇ、お客として行ったら楽しそうね! また会いましょう!」

 

 乗り気なみさえさんの言葉に、オカマ三人は

 

「あらあらうふふ、待ってるわよん!」

 

と嬉しそうに笑い声を上げた。

 

「あら、じゃあアタシもここでご挨拶ね」

 

 最後に進み出てきたのは、元・魔人ジャークだった。ジャークは俺と、俺の隣に立つマタの顔をジロジロと見比べると、ニヤァと意味深な笑みを浮かべた。

 

「あの、な、なんでしょうか……?」

 

 マタが少し警戒しながら身を引く。

 

「あんた達、とってもいい運命の糸で結ばれてるわよ」

「えっ」

 

 ジャークの言葉に、マタの顔がポッと赤くなる。

 

「魔力はすっからかんになっちゃったけど、元魔人のアタシにはわかるのよぉん。あんたの胸にあるその『太陽』のネックレス……あっちの彼が持っている『月』と、とっても強くて温かい縁を繋いでるわ。大切になさいな」

「あ……は、はいっ!」

 

 マタは自分の胸元の『太陽』を両手でギュッと握りしめ、弾かれたように元気よく頷いた。

 その隣で、俺も服の下にある『月』の存在を確かに感じてなんだか照れくさくなってしまい、そっぽを向いて誤魔化す。

 

「じゃあね、あんた達! 気をつけて帰るのよー!」

「バイバーイ! また会いましょうねぇ!」

 

 朝日に照らされる中、オカマたちとサタケさんは大きく手を振りながら、警察車両の方へと歩いていった。

 

「またねー!」

「元気でねー!」

 

 俺たちも、彼らの背中が見えなくなるまで、大きく手を振り返した。

怒涛の数日間を共に駆け抜けた、濃すぎる仲間たちとの別れ。

 一抹の寂しさはあるものの、不思議と晴れやかな気持ちで、俺たちは帰路となる新幹線の駅へと向かって歩き出した。

 

(さっきの俺、みんなの前でとんでもない大声で『結婚を前提に』なんて叫んでたよな……)

 

 その事実が今さらになってリアルな実感として脳内を猛烈な勢いでループし始め、今の俺には周囲の景色を冷静に観察する余裕なんて微塵もなかった。

 

 俺とマタの間に流れる空気が、致死量の甘さと、むず痒くなるような絶妙な気まずさで満ちていたからだ。

 歩幅を合わせて隣を歩くマタは、さっきから不自然なほど無言で、チラチラとこちらへ視線を泳がせている。俺も俺で、どこを見て歩けばいいのかわからず、無駄に空の雲行きなどを観察してしまっていた。

 

 駅に着くと、朝の通勤ラッシュと重なり、構内はかなりの人で溢れかえっていた。

 行き交うサラリーマンや学生たちの波に、マタが少しだけ肩をすくめる。

 

「す、すごい人の数だね……マッピルーマのお祭りでも、こんなに人は密集しないよ」

 

 チャンス、と言うのも変だが、俺はここぞとばかりに男を見せることにした。

 

「はぐれないように。……ほら」

 

 俺は少しぶっきらぼうに言いながら、彼女に向かって右手を差し出した。

 マタは目を丸くして、俺の手と顔を交互に見比べた後、ボフッと音がしそうなほど顔を赤くした。

 

「だ、大丈夫だよ! ボクはこれでも飛行機にヘンジしてマッハで空を飛んだこともあるんだ、このくらいの人混みのナビゲーションなんて、どうってこと……!」

 

 強がって早口でまくしたてていたマタだったが、俺がそのまま無言で手を差し出し続けていると、次第に声が小さくなっていった。

 

「……でも、その。……迷子になったら、困るしね」

 

 マタは照れ隠しのように顔を背けながら、そっと俺の右手に、自分の小さな手を重ねてきた。

 指と指が絡まり、ぎゅっと握り合う。少し汗ばんだ手のひらから、彼女の温かい体温と、それに負けないくらい激しい心臓の鼓動が伝わってくるようだった。

 

(やばい、柔らかい。そして死ぬほど恥ずかしい)

 

 俺も顔から火が出そうになりながら、平静を装って前を向いた。

 

「あらあら、手ぇ繋いじゃってるゾ」

「ヒューヒュー! 」

 

 背後から、しんのすけとひろしさんのニヤニヤとした声が聞こえる。

 さらに、マタの背中に引っ付いているギンギンが、これ見よがしにため息をついた。

 

「やれやれ、これだから新婚さんは困るねぇ。人混みを理由に堂々とイチャイチャし始めちゃってさ」

「う、うるさいっ! これは護衛陣形だ! 変なこと言うとまた床に叩きつけるよ!」

 

 マタが真っ赤な顔で振り返り、空いている方の手でギンギンを小突く。

 

「い、痛い! 護衛陣形ならなんでそんなに顔が赤いんだい姫様!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ盾と、必死にごまかすマタ。

 俺はそのドタバタ劇を横目で見ながら、繋いだ右手だけは絶対に離さないようにして、改札へと向かった。

 なんだかんだ文句を言いながらも、俺の手を握り返すマタの力が少し強くなったのが、無性に嬉しかった。

 

 新幹線が到着し、ガタン、ゴトンと規則正しい車内の揺れの中。

 

「かける、腕はもう大丈夫かい?」

 

 隣の席に座るマタが、俺の治ったばかりの左手を気遣いながら、そっと手を握ってきた。

 

(……マタ、やけに距離が近い気がする)

 

 さっきは、マタも照れていたはずだが、今はどこか態度に『余裕』を感じるのだ。ドン・クラーイの時のように強がっているわけではなく、もっとこう……包容力というか。

 

「う、うん大丈夫だ。まだ少し痛みはするけど、骨は元に戻ったと思う」

 

 マタのあまりの自然な密着具合に、俺の方が照れてしまってしどろもどろになる始末だ。俺、ダサいかもしれない……

 

「無理しないでおくれよ? ……これ、飲み物。持てるかい? ほら」

 

 マタはそう言うと、自分が持っていたペットボトルのキャップを開け、ごく自然な動作で飲み口を俺の口元へと近づけてきた。

 

「だ、大丈夫! 持てるから! 右手は空いてるし!!」

 

 あーんをされる寸前で、俺は顔を真っ赤にしながら右手でペットボトルをぶん取り、勢いよくお茶を流し込んだ。

 

「お熱いですなぁ~」

「ほんとねぇ~」

「若いなぁ~」

 

 前の席の椅子の隙間から、野原一家がニヤニヤとした顔を覗き込ませてコメントしてきた。

 

「ンンッ!!」

 

 俺はわざとらしく、ひどく大きめな咳払いをする。

すると、空気を読んだのかあるいはからかっているのか、一家はサッと前を向き直った。

 

「おっと、今週の株価の動きをチェックしねえとーっと……」

「マダム達とのお茶会のセッティングを考えなきゃーっと……」

「ななこお姉さんとの結婚式場を決めなきゃーっと……」

 

 手元の空気を弄りながら、有りもしない意味のわからない予定をブツブツと呟く野原一家。この人たちはほんとに……。

 俺はため息をつきつつ、横でクスクスと笑うマタにつられて、思わず笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、新幹線と電車を乗り継ぎ、ついに春日部へと到着した。

 疲れすぎて全員の意識が朦朧とする中、昼の春日部の道を重い足取りで歩き、やっとの思いで野原家の門の前に辿り着いた。

 

「やっと……」

「やっと……」

「我が家に帰って来れたな……」

「来れましたね……」

 

 全員が『家に帰れた』と言う事実を深く噛み締めながら、しみじみと声に出す。

すると、道路の向こうから、こちらへとトボトボ歩いてくる見慣れた白い影が……。

 

「あ、ごめんシロ。忘れてたゾ」

「……シロ……お前も大変だったな……」

 

 毛玉だらけでげっそりと疲れ果てたシロが、俺たちの足元にすり寄ってきた。

 

「くぅぅん……」

 

 という、なんとも言えない哀愁漂う鳴き声が、春日部の住宅街に響く。

 超常の力やヤバすぎる悪党たちと渡り合った長すぎる数日間。

 こうして、ひとまず俺たちの『暗黒タマタマ大追跡』は幕を閉じたのだ。

 

「ただいまー!」

 

 

 

―― 暗黒タマタマ大追跡『サイカイ』編・完 ―ー

 

 

 





無事終えれましたね。第二章。ありがとうございました。
マタとかけるの日常を挟みつつ第三章がスタートです。目指せ全映画!

次に読んでみたい映画

  • アクション仮面VSハイグレ魔王
  • ブリブリ王国の秘宝
  • 雲黒斎の野望
  • ブタのヒヅメ
  • 温泉わくわく
  • ジャングル
  • オトナ帝国
  • ヤキニクロード
  • カスカベボーイズ
  • 3分ポッキリ
  • 踊れアミーゴ
  • ケツだけ爆弾
  • 野生王国
  • オラの花嫁
  • 黄金のスパイ
  • 宇宙のプリンセス
  • B級グルメ
  • ロボとーちゃん
  • 引っ越しサボテン
  • ユメミーワールド
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。