現代と過去を行き来して交互に書いてます。さあー私の頭もこんがらがってきました。
「うーん……これは予想外だ」
俺は思わず、呆然とその場に立ち尽くした。
目の前には、靄に包まれた小さめの泉。
そして見渡す限り、見慣れた住宅街のアスファルトはどこにもなく、木々や草、ただ広がる野原しかなかった。
「まさか……俺が先に飛ばされるとは……」
昨日の晩、『ヤキニクロード』の異常事態が発生しなかったことに安心したのも束の間。俺は夢を見た。
着物に身を包んだ美しい女性が、泉の畔で一人、寂しげに黄昏れている夢だった。
あの顔、あの雰囲気。あの人は確実に『春日廉』だろう。
すなわち、それは『アッパレ戦国大合戦』のシナリオが動き出したことを意味していた。
映画の流れとしては、春日廉――廉姫は、この泉に時折お忍びで訪れており、そこである願い事をしていた。
『幼馴染であり家臣の又兵衛が、戦で死なないように……』と。
その願い事が、この映画のすべての発端となっている。
この泉には、時空を超えた不思議な力が備わっている。俺の考察が正しければ、井尻又兵衛由俊という武将は、おそらく『今現在進行形』で行われている戦で『死ぬ運命』にあったはずなのだ。
だが、廉姫が「又兵衛が死なないように」と戦のたびに欠かさず強く願ったことにより、泉はその願いに応えた。
又兵衛を死の運命から救える人間を、未来の時代から『補完』したのだ。それが、奇跡の力なのか、ただの神の気まぐれなのか、実際のところはわからない。
だが、そのピックアップされた『救世主』こそが、野原しんのすけなのだ。
朝、野原一家全員で同じ夢を見る。これが、過去の世界へ呼ばれる合図だ。
そしてその日の昼下がり、しんのすけはこの泉の畔に飛ばされることになるのだが……。
「……なんで俺が先に来てしまったんだ?」
朝、夢を見た俺は、アッパレ戦国大合戦が始まると気づき、ひとまず庭を視察しに行ったんだ。
その日の昼にシロが土を掘り返すはずの、あの庭を。
その掘った穴の底から見つかる小箱がトリガーとなって、しんのすけは天正二年の春日部へ飛ばされる。
「まさか、もう掘ってたりしないよな……」
と確認も兼ねて外に出た俺は、犬小屋で丸くなっているシロとクロを見つけた。二匹はまだスヤスヤと寝ているようだったが、俺はクロの方を軽く揺すって起こした。
「なぁギンギン、お前って昨日、変な夢見たか?」
「ん〜……なんだよ、こんな朝早くに……。夢? 何も見てないけど?」
黒犬の姿のギンギンは、目をしばしばさせながら不機嫌そうに答えた。めちゃくちゃ眠そうだ。
「見てない……か。じゃあ、俺が今立ってるこの地面のあたりから、何か不思議な力を感じたりするか?」
「ちから〜? さぁねぇ、眠くて全然わからないや」
適当に答えるギンギン。ふぁーあ、と大きな欠伸までしている。完全に寝る体勢だ。あ、寝た。
まあ、ギンギンは春日部の世界の住人でもないし、映画のシナリオにも関わりがないからな。夢を見ていないとしても、特に不自然はない。ってことは、マタも見ていないだろう。
「じゃあ、あとは一応朝ごはんの時に、みんなに夢を見たかどうか聞いて確かめるとするか……」
俺はそう独り言を呟いて、家へ戻ろうとくるりと踵を返した。
その、振り向いた瞬間だった。
本当に一瞬、なんの合図もなく、音もない、ただ瞬きをしただけ。気づいた時には……
俺を取り囲んでいた野原家の庭は消え失せ、あたり一面がこの見知らぬ緑色に変わっていたのだ。
静まり返った泉の前で、俺は一人、なぜ自分が一番最初にこの時代へ呼ばれたのかを考えていた。
順番からいえば、廉姫の願いがしんのすけを呼び、そのしんのすけが文箱を埋めたことで野原一家が呼ばれる、という流れだったはずだ。野原一家の到着も廉姫が呼んだという見方はできるが、しんのすけが過去から手紙を送った瞬間に現代から彼らが消えたことを思えば、おそらく「家族に会いたい」というしんのすけ自身の強い願いがトリガーになったのだろう。
では、俺は?
なんのために、俺が一番最初に呼ばれたのか。しんのすけが文箱で俺の分まで呼んでくれたというならまだしも、俺は一番乗りだ。俺の存在をこの時代に呼んだ人間がいるとでもいうのか?
それとも、この泉が、廉姫の願いを叶えるためのイレギュラーな『手駒』として、俺をも補完したのだろうか。
考えても、澄んだ水面はただ静かに昼の空を映すだけで、答えは出ない。
見上げる空には、太陽が南中を過ぎたあたりに位置しており、強い光が泉の水面をキラキラと輝かせていた。
立ち止まっていても仕方がないので、俺はひとまず移動を開始することにした。
のだが――どっちだ?
又兵衛たちがいる春日領の方向が、まるでわからない。原作の映画で、しんのすけが泉からどっちへ向かって歩き出したかなんて、そんな細かい方角まで意識して見ていなかった。
「うーん……」
まあ、ひとまずは泉の『手前側』だろうか。5歳のしんのすけが、わざわざ泉をぐるっと迂回して奥の深い森へと進むような面倒な真似はしないだろうと踏んで、俺は泉を背にし、ぐるりと振り返って歩き出した。
名も知らぬ草を掻き分ける自分の足音だけが、やけに大きく響く。
(……だが、よりによって『戦国大合戦』なのか……)
歩を進めるごとに、胃の奥が鉛のように重く沈んでいく。
この映画は、数あるクレヨンしんちゃんの劇場版の中で唯一、『死』という概念が明確に、そして残酷に描かれている作品だ。
戦の道中でも、名もなき多くの人たちが血を流して死んでいく。そして
――物語の最後にも。
それが、今の俺をこれほどまでに気落ちさせている最大の原因だった。
あまりにもこの世界は気まぐれで、残酷で、そして儚い。
今まで俺は、原作の物語を壊さないように、決められた結末が変わらないようにと必死に立ち回ってきた。だが、この物語の結末にあるのは、手放しのハッピーエンドではない。誰かの尊い犠牲の上に成り立つ、涙の結末だ。
ふと、目の前をヒラヒラと一匹の蝶が横切った。
その薄く脆い羽ばたきが、まるで命の儚さそのものに見えて、俺は息を呑む。
覚悟は、まだ決まらない。
歴史を変えるということは、俺のちっぽけな羽ばたき一つで、予測もつかない運命の狂いを生むかもしれないということだ。
『井尻又兵衛由俊』
青空を貫くように真っ直ぐで、不器用なほど誠実なあの武士の未来を変える覚悟が――俺には、無い――
歴史を歪める覚悟も、原作通りの結末を見届ける覚悟も、今の俺には到底持てそうになかった。どうすればいいのか、正解なんてどこにもない。
心は全然、前を向いていないのに。
それでも俺は、泥のように重たい足を引きずるようにして、戦火の待つ時代へと足を前に進めた。
◇
ひどく眠いながらもギンギンは、かけるの言葉に耳を傾けていた。そのため、完全に寝ようとしていた意識を一旦引き留めて、ポツリと口を開いた。
「あー……でも、なんか君の中を覗いた時に感じたような、ナニカ別の力をかすかに感じるかも……って、あれ? いない?」
話しながら徐々に閉じていた目を開け、その微かに感じる力について説明しようとしたギンギンだったが、目の前にはもう誰の姿もなかった。
「なんだ、もう家の中に戻ったのか。ふぁーあ……じゃあ、もう一眠りしよーっと」
かけるは自室へ戻ったのだと思い込んだギンギンは、再び深い犬の眠りへと落ちていった。
そして数時間後。またしても、ギンギンは眠りを妨げられることになる。
「ねぇギンギン、かける知らない?」
犬小屋で寝ているクロの体を、バサバサと激しく揺さぶるマタ。「ねぇってば」と急かすような声色には、明らかな焦りが滲んでいた。かけるの安否を確認して安心したいのが感じ取れる。
ふと横を見ると、シロが縁側の近くの地面を前足で少し擦るように、カリカリと引っ掻いていた。
「んん〜……かける〜? 家の中にいないの?」
「いないんだ。どこ探しても……」
「なんか朝早くに『夢がどうとか』『力がどうとか』言ってたけどね。僕、ね〜むくてさ。気づいたら目の前から居なかったから、もう家に戻ったんだと思ってたけど」
とギンギンが告げる。
その言葉に、マタの肩がピクリと跳ねた。
「……夢」
マタはその単語に強く反応した。
(やっぱり、かけるも同じ夢を見たんだ……)
この家にいる全員が、同じ夢を見ている。その奇妙すぎる偶然に、マタの胸の奥で、ざわざわと嫌な胸騒ぎが広がっていく。
「ねぇ、ギンギンは夢、見た?」
「かけるも同じこと聞いてきたけど、見てないよ」
ギンギンは見ていない。つまり、ギンギンを除く『全員』が見ているのだ。
「でー?、その夢ってどんな夢なの?」
欠伸を噛み殺しながらギンギンが聞こうとしたが。
「あっ……行っちゃった」
マタはもうギンギンの言葉を聞いていなかった。「かける、どこにいるんだい……」とブツブツ呟きながら、庭の出口へと足早に去っていく。
「ま、いっか。どうせかけるのやつ、また変な『物語』を警戒して一人でなんかしてるんだろう」
ギンギンは軽く考え、去っていくマタの背中をぼんやりと見つめるだけで、それ以上深くは追求しなかった。
この時。
もしもギンギンが、かけるに『念話』を飛ばしていれば。
あるいは、繋がりから、かけるの生存確認を試みていれば。
未来は、少しはマシなものになっていたのかもしれない。
伝説の盾でさえ全容を掴めない、その『ナニカ』。
しかし、その『ナニカ』についての明確な理解は無くとも、ギンギンだけがこの世界における『かけるの存在の本質』を見抜いている。それなのに、彼は再び目を閉じてしまった。
庭の片隅で、シロが地面を掘り進める。
ザクッ、ザクッと土を掻き出す音が、静かな昼下がりの庭に響く。
ここほれワンワン、大判小判がザックザク。
――これから掘り起こされる現実は、そんな楽観的な昔話では済まない。
◇
幼稚園バスが野原家の前に止まる。
「だかだかだかだかだか……ん〜、あーみぃごう!」
フラメンコのようにステップを踏みながら、ノリノリでバスから降りてくるしんのすけ。
しかし、そんな陽気な5歳児を待っていたのは、みさえの呆れ果てたような叱り声だった。
「んも〜! 何考えてんのよ、あんたは!」
庭先から聞こえるかーちゃんの声に、しんのすけはひょいと顔を出し、のんきに足を運ぶ。
「ちょっと目を離したスキに、まったく!」
みさえは腕を組み、シロと、そしてクロの姿のギンギンをキツく叱りつけていた。
「クロも、なんでこんなになるまで止めないのよ!」
「すいません……昼寝が気持ちよくて……」
クロは「面目ない」とでも言うように耳を垂らし、しょんぼりと謝っている。
「油断もスキもあったもんじゃないわ」
怒りが収まらない様子のみさえの前には――。
「でっかい穴! ほっほほ〜い!」
しんのすけの身長ほどの深さまでポッカリと空いた、巨大な穴があった。
しんのすけは大喜びで穴に入り込み、トランポリンのようにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「入っちゃダメ! シロとクロが庭をこんなにしちゃって、これから埋めなきゃなんないんだから!」
「え? 僕も?」とクロがとばっちりを受けているが、仕方ない。こんなに隣で盛大に掘られておきながら気付かないわけがない。完全に放置していたのだろう。
「ほ〜、そりゃ大変ですなぁ」
どこか他人事のように頷くしんのすけに対し、みさえは容赦なく言い放った。
「つーことであんた、シロの飼い主なんだから、責任とってこの穴を元に戻しなさいよ」
「……はぁ??」
幼稚園から帰ってきたばかりの園児に突きつけられる、到底許されない理不尽。
「やれ、命令」
「じゃ、そゆことで」
と、みさえは二本指を立てて「バーイ」と去っていく。
「あーあー……」
しんのすけはジト目をシロとクロに向けた。
「ごめんよしんちゃん。一応止めたんだけど、止まってくれなくて……」
クロの弁明を聞く限り、どうやらシロは何かに取り憑かれたように土を掘り続けていたらしい。
しんのすけは「やれやれ」と大人びたため息を吐きながら、穴を埋めようとスコップを手にした。
すると、シロが器用に二本足で立ち上がり、前足でしんのすけを必死に止めようとする。
「なにしてんの?」
そんな妨害はお構いなしに、スコップで土を掬うしんのすけ。
しかし、シロが器用に体をクルッと回転させ、しんのすけの持ち上げた土は背後の全く関係ない地面へと落とされてしまう。
「おっと、あんたねー」
しんのすけは不満げな表情を浮かべる。
「怒られるのはオラなんだから……!」
もう一度土を掬って穴に向けようとするが、またしてもシロにクルッとされる。
「いっ、だ〜っ!」
今度はクルッとされたのち、遠くまでツツツーッと押し出される始末。
「だーもー! わかったよ! やめればいいんでしょ! やめれば!」
しんのすけはスコップを放り投げ、ワーワーと喚く。
「フンフ、フンフ、フフーン♪」と鼻歌を歌いながら背中を向けて去ろうとする……と見せかけて。
「と、油断させて!」
猛ダッシュで穴の方に駆けるしんのすけ。しかし、シロがそれを見越したようにしんのすけの顔面に見事なダイブを決める。
「ひぃんっ!」
しんのすけは仰向けに見事にすってんころりんと倒れ込んだ。
「もー、シロ、いつもとキャラが違うゾ。一体何がしたいの〜?」
しんのすけがシロと目線を合わせて聞く。
「何か伝えたいことがあるのかな?」
とクロが隣で首を傾げる。
その時、しんのすけの脳裏に、昔ばなしのワンフレーズがよぎる。
『村の畑でポチが鳴く。正直じーさん掘ったれば……』
脳内のビジョンが、眩い金ピカに侵食されていく。
「大判小判が、ざ〜くざ〜く、ざっくざく!」
しんのすけの目に小判マークが浮かぶ。
「ぽっぽー!」
機関車のようにエンジンがかかったしんのすけは、埋めるはずの穴をスコップで猛烈な勢いでさらに掘り進め始めた。
「あーあー、こりゃだめだ」とクロが呆れるのも聞かず。
「おらおらおらおらおらおらっ!」
一人と一匹が、一心不乱に掘る、掘る、掘る。
「おぉ!」
やがて土の中から出てきたのは、古風で黒を基調とした、長細い箱だった。
パカリと開けると、中からは『2枚』の紙が出てきた。
「もしかしたら、お宝のありかの地図かも〜」
期待に胸を膨らませ、1通目の紙を開くしんのすけ。
「うへっ、汚い字〜」
しんのすけは、そこに書かれた文字をたどたどしく読み上げる。
『とーちゃん、かーちゃん、オラ、てんしょうにねんにいる。おひめさまは、ちょーびじんだゾ。かすがのおしろはとおいから、おくるまできたほうがいいゾ。はやくきてね、じゃ、そーゆことで』
その文の横には、見慣れた豚の絵……ぶりぶりざえもんが描かれている。
「なんでぶりぶりざえもん?」
しんのすけは首をひねる。
「……と言うことは、この手紙はオラが書いた……うまい字だ……」
さっきの「汚い字」という評価は、書いたのが自分だとわかった瞬間に華麗に訂正されたらしい。
「いや、そーじゃなくって! オラ、こんな穴に手紙埋めた覚えないゾ!」
事態の異常さに気づいたしんのすけは、手紙を持ったまま庭先の芝生をゴロゴロと転げ回って悶え喚く。
「お姫様はチョー美人て何!?」
ゴロゴロ、ピタッ。
「ん? チョー美人……?」
その言葉に、しんのすけの脳内に、朝全員で見たあの『夢の綺麗なおねいさん』の姿がフラッシュバックする。
「チョーッ!!」
しんのすけは猛烈に叫び上がり、目を輝かせた。
「わかったゾ、チョー美人って、夢のあの人なんだ〜……オラ……もっかい会いたい……」
いつの間にか再び穴の中に入っていたしんのすけは、夢のおねいさんの顔を思い浮かべ、うっとりと目を閉じた。
――その瞬間。
一部始終を見ていたギンギンの視界から、しんのすけの姿がフッと、音もなく『消滅』した。
「……え?」
つい素っ頓狂な声が漏れる。瞬きを何度しても、穴の中は空っぽだ。
「しんちゃん……? 消えた……?」
ここでようやく、ギンギンは事の重大さに気づく。ただの日常の延長だと思っていたが、次元そのものが歪むほどの事態が起きている。
(まあ、かけるが知ってるでしょ!)
そう思い直し、いなくなったかけるの居場所を確かめるついでに、彼の意識へと『念話』を繋げようとする。
……が。
繋がらない。
弾かれるのとも違う。まるで、この世界に存在しないかのように、力が完全に虚空を彷徨うだけだ。
「もしかして……まずい……?」
冷や汗をかき、ギンギンは慌ててマタを探す。
「マタちゃんなら、かけるくんを探しに行くって出掛けたわよ?」
食器を片付けながら、みさえが呑気に答える。
(みさえさんに知らせるのは後でいいか……!)
そう判断したギンギンは、クロの姿のまま、マタを探して表へと猛スピードで駆け出した。
「あ、穴は〜? 埋まったの〜?」
走り去るクロの背中に大声で呼びかけるみさえだが、クロは振り返りもせず消えてしまった。
「まったく」
みさえは呆れながら、穴の確認をしに庭先へと向かう。
しかし、そこには申し訳なさそうに座るシロしかおらず、しんのすけの姿はない。
「あの子、穴埋めるの嫌がって逃げたわね……!」
みさえはそう勘違いし、怒りの炎を燃やす展開が待っている。
彼女はまだ気づかない。いや、時期に気づくことになるだろう。
一人、また一人と、この世界から『16歳の少年』が、そして『5歳の幼稚園児』が、完全に消え去ってしまったことに。
西日に照らされた庭先には、しんのすけが投げ飛ばした文箱の近くに、もう一通の紙が落ちていた。
しんのすけの殴り書きとは違う、落ち着いた、それでいてどこか切迫感のある文字。
『しんのすけと一緒に、天正二年にいます。
大体はしんのすけの手紙の通りです。
ただ一つ、お願いがあります。』
そこで、一度言葉が切れていた。
一体、何が必要なのか。
現代の道具か。それとも、助けを呼ぶ言葉か。
空白のあとに記されていたのは、たった一言。
けれどそれは、この先に待ち受ける過酷な運命に対して、かけるが見出した、唯一の希望だった。
『――ギンギンを、連れてきてください。』
かけるが指名した、その「名」。
それが戦国時代において何を意味するのか。なぜ彼がそこまでしてギンギンの力を必要としたのか。
風が吹き抜け、主を失った無人の穴を土埃が舞い抜けていく。
夕陽が不気味なほど真っ赤に、春日部の街を飲み込もうとしていた。
16歳と5歳が、歴史の闇へと消え
時代を超えて。
16歳と5歳の運命が、今、交差する。
ああ、ギンギンを求める手紙をマタが読んで、ボクじゃないんだ…と曇る表情が目に浮かぶー。
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