映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ『   』   作:カシ

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第5話 太陽と月

 

推しからの突然のハグ。

 完全に思考がショートし、石像のように硬直してしまった俺をよそに、マタはパッと体を離すと、不思議そうに周囲を見回した。

 

「あれ……? なんだかすごく明るいね。今は日中なのかい?」

「あ、ああ。朝の八時過ぎだ。でも、プリリンの力で春日部全体がもう『夜』って扱いになってるから、マタも普通に外に出られるんだよ」

 

 再起動した頭でどうにか状況を説明する。

 しんのすけ達野原一家が、この世界の決定的な異変に気づき、プリリンと戦うのは今日の夕方だ。そこが反撃の狼煙になる。

 

「夕方か……わかった。それまでボクも気を引き締めて――」

「いや、それまでめちゃくちゃ暇だから。気楽に時間潰そうぜ」

「えっ?」

 

 気張るマタの肩の力を抜くように、俺はわざと軽く笑ってみせた。

 

「せっかく太陽の下を歩けるんだ。昼間の春日部を案内してやるよ」

 

 かくして、俺たちは日中の春日部を歩き始めた。

 マタにとっては、明るい太陽の下で街を歩くこと自体が新鮮で仕方ないらしい。きょろきょろと周囲を見渡すその横顔は、使命を背負った戦士というより、年相応の好奇心旺盛な少女そのものだった。

 世界はドン・クラーイの危機に陥っているというのに、マタの心は驚くほど穏やかだった。隣を歩くかけると一緒にいると、不思議と『彼がいれば絶対に大丈夫だろう』と思えてしまうのだ。

(これって、まるでデートみたいだな……いやいや、俺みたいな得体の知れない奴がそんなこと考えるなんてキモいか)

(なんだか、デートみたいだね……って、ボクは何を考えてるんだ。いくらなんでも浮かれすぎだ)

 

 口にこそ出さないものの、二人して全く同じことを考えて、勝手に少しだけ顔を赤くしていた。

 活気あふれる商店街を抜け、俺たちはサトーココノカドーへとやってきた。

 すれ違う人々は、ターバンに民族衣装のようなマタの服装を見ても、一切気にする素振りを見せない。これも、世界がヘンジられている異変の影響なのだろう。ある意味好都合だ。

 

「わぁ……綺麗だな、かわいい……」

 

 アクセサリー売り場の前で、マタの足がピタリと止まった。

 ショーケースの中に並ぶ、キラキラと光を反射するネックレスの数々。ドン・クラーイの暗闇しか知らない彼女にとって、それは宝石箱のように眩しく見えたのだろう。ガラス越しに食い入るように見つめるマタの目は、完全に乙女のそれだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

俺たちはサトーココノカドーの最上階にあるファミレスで昼飯にすることにした。

 

「んんっ……! おいしいっ!!」

 

 運ばれてきたオムライスを一口食べた瞬間、マタの顔がパァッと花開いた。卵のフワフワ感とケチャップの甘みに、本気で感動しているらしい。

 あっという間に自分の分を平らげた彼女の視線が、今度は俺の食べているカツカレーへと釘付けになった。

 じーっ。

 スプーンを咥えたまま、よだれが垂れそうな勢いで俺の手元を見つめている。

 

「……食べてみるか?」

「えっ! い、いや、そんなつもりじゃ……!」

「見過ぎだっつの。いいよ、ほら」

 

 俺が小皿にカレーを取り分けてやると、マタは恐縮しながらも目を輝かせてそれを口に運んだ。

 

「意外と食いしん坊なんだな」

 俺が思わず微笑みながらからかうと、マタは「そ、そんなことないさ!」と慌てて口元を拭った。だが、その時の余裕のあるかけるの笑顔が妙に大人びて見えて、マタは内心ドクンと胸を高鳴らせていた。

 食後の冷たい水を飲みながら、俺はふと、先ほど下の階を歩いていた時のことを思い出した。

 

「そういや……さっきのネックレス、綺麗だったな」

「え?」

 

 アクセサリー売り場のショーケースを、ガラスに張り付くような勢いで見つめていたマタの姿。俺が話題に出すと、マタは少し恥ずかしそうにはにかんだ後、自嘲気味に乾いた笑みをこぼした。

 

「そうだね。……でも、ボクには似合わなそうだけど」

 

 男勝りな格好をして戦っている自分には、あんな繊細で女の子らしいものは似合わない。そんな諦めが混じった声だった。

 

「は? そんなことないだろ」

 

 俺は即座に否定した。

 

「似合うに決まってる」

 

 言い終わるや否や、俺は残りのカレーを水で流し込むように掻き込み、伝票をひったくって立ち上がった。

 

「え、ちょっとかける……!?」

「行くぞ。会計済ませたら、さっきの売り場に戻る」

 

 戸惑うマタの手を引き、俺は足早にファミレスを後にした。

 

「ほら、これ」

 

 アクセサリー売り場に戻った俺は、先ほどマタが見つめていた、太陽を模したネックレスを購入し、彼女に差し出した。

 

「えっ……本当に、いいの?」

「いいんだよ。ほら、付けてくれ」

 

 マタが恐る恐るネックレスを首にかける。色白の肌に、ゴールドの太陽の飾りがよく映えていた。

 

「うん、やっぱり似合ってる」

 

 俺が素直な感想と共に笑いかけると、マタはパッと顔を赤らめた。またその、かっこいい笑顔。マタは嬉しさと照れくささで、胸元で光る太陽をギュッと握りしめた。

 ふと、マタの視線がショーケースの中に落ちる。

 そこには、今彼女が身につけている太陽のネックレスの隣に、対になるようなデザインの『月』のネックレスが並んで飾られていた。

 マタはしばらくその月を見つめていたが、やがて意を決したように、俺の服の袖をちょんちょんと引っ張った。

 

「あのさ……かける」

「ん?」

「こっちの、月のネックレス……。その、太陽とセットみたいだね」

 

 マタは上目遣いで、少し頬を染めながら言葉を紡いだ。

 

「もしよかったら……かけるはこっちを、どうかなって。……その、揃えたい、なんて言ったら、おかしいかな……?」

 彼女が見せた、あまりにもいじらしい乙女な提案。

 太陽のように無邪気で照れくさそうなその笑顔に当てられ、俺の理性は一瞬で消し飛んだ。推しとお揃いのネックレス? そんなの、買い一択に決まっている。恥ずかしさよりも、感動と限界突破したオタクの衝動が完全に勝っていた。

 

「……すみません、こっちの月のもください! 今すぐ!」

 

 俺が光の速さで月のネックレスを買い足すと、マタは心の底から嬉しそうにはにかんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 店を出て、再び春日部の街を歩き始める。

 自分の胸元で揺れる月と、マタの胸元で揺れる太陽。最高だ。俺は一人で噛み締めていたが、隣を歩くマタがふと心配そうな顔でこちらを見上げた。

 

「ごめんね、無理言って。……お金は大丈夫なのかい?」

「ああ、お金なら大丈夫だ。親がえげつない金額残してくれてるから、使わないと勿体ないんだよ」

 

 軽い気持ちで口にした言葉だった。

 

「残してくれたって……キミのご両親は……?」

「あ、いや。今どうしてるかは全然知らないんだ。ずっと孤児院で育ってきてるから、親の顔も名前も知らない。あるのは俺名義の口座だけ」

 

 俺が淡々と事実を告げると、マタの歩みがピタリと止まり、その表情がスッと暗く曇った。

 

「そう、なんだ……」

「あー……悪い。別にしんみりさせたいわけじゃないんだ。気にしないでくれ」

 

 言ってから、俺は激しく後悔した。

 マタは、最愛の父親をダークに殺されているのだ。彼女の境遇を知っていながら、不用意に親の話題を出してしまった。自分の気遣いのなさに、ひたすら腹が立つ。何やってんだ俺は。

 気まずい沈黙が落ちた後。

 マタは、胸元の太陽のネックレスを再びギュッと握り締めた。

 

「……父さんの仇、絶対取らないと」

 

 その瞳には、先ほどまでの乙女の儚さではなく、暗黒世界を救う戦士としての強い覚悟が宿っていた。

 

「ああ……そうだな」

 

 胸元の月に触れながら、俺は力強く頷いた。

 このかけがえのない笑顔を、絶対に守り抜く。改めてそう心に誓いながら、俺たちは決戦の地となる野原家へと向かって歩き出した。

 

 道中、俺たちの間には少しだけ重い沈黙が落ちていた。

 自分の不用意な発言のせいだ。どうやってこのしんみりした空気を変えればいいのかと、俺が内心で焦りながら歩幅を合わせていると、不意に隣を歩くマタが顔を覗き込んできた。

 

「ねえ、かける。少し気になってたんだけど」

「ん? なんだ?」

「あの……『推し』って、なんだい?」

 

 突拍子もない質問に、俺は思わず立ち止まった。

 

「昨日、ボクのこと『推し』だって言ってたよね? それって、どういう意味なんだろうってずっと思っててさ」

 

 首をこてんと傾げ、純粋な好奇心の宿った瞳でこちらを見つめてくる。おそらく彼女なりに、さっきの暗い空気を切り替えようとして話題を振ってくれたのだろう。

 だが、その気遣いに感謝する余裕は今の俺にはなかった。

 

「お、推し!?」

 

 声が裏返った。現代日本のオタク用語を、暗黒世界ドン・クラーイから来た純真な少女にどう説明すればいいのか。

 

「いや、確かに俺の推しなんだけど……なんだろうな。その、とにかく特別で、推してるってことなんだけど……あーくそ、いい表現が見つからねえ……!」

「ふふっ、そんなに難しい言葉なのかい?」

 

 頭を抱える俺を見て、マタがくすくすと笑う。俺は必死に脳内辞書をめくり、一番マイルドで、かつ彼女の負担にならない言葉を探り当てた。

 

「……強いて言うなら、『応援してる』って感じかな」

「応援?」

 

 マタが目を丸くする。

 

「応援……かけるが、ボクを応援してくれてるのかい?」

 

 少しだけ照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑うマタ。その笑顔を見て、俺の中でストンと何かが腑に落ちた。

 そうだ。オタクの語彙力では『推し』としか表現できなかったけれど、俺の根底にあるのは、ただひたすらに彼女の幸せと勝利を願う気持ちなのだ。

 

「あー、そうだ! 俺はマタを応援してるんだ!」

「ははっ、そっか! それはすごく嬉しいね」

 

 マタの笑顔が、胸元の太陽のネックレスと同じくらい明るく輝く。

 その笑顔を守るために、俺は少しだけ真面目なトーンに落として、彼女の目を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「だから……俺はいつでも、どこでも、マタのことを応援してる。これから先、どんなにキツい戦いになっても、絶対に諦めないでほしい」

「かける……」

「もし、どうしても辛くなって心が折れそうになったら、俺が応援してるってことを思い出してくれ。ただの高校生の応援なんて、アテになるかわからないけどさ」

 

 気恥ずかしくて、最後は少しだけ自嘲気味に笑ってしまった。

 だが、マタは真剣な顔で首を横に振った。そして、首から下げたばかりの太陽のネックレスを両手でそっと包み込む。

 

「ううん。すっごく、力になるよ」

 

 マタは、ネックレスを握りしめたまま、俺の胸元の『月』を見つめて微笑んだ。

 

「これからは、不安になったらこの太陽を見るよ。そうしたら、月みたいに静かに見守ってくれてるかけるが、ボクを応援してくれてるって思い出せるから」

「ありがとう、かける。ボク、絶対に諦めない。かけるの応援に応えられるように……必ず、ドン・クラーイを救ってみせるよ」

 

 その言葉には、もう微塵も迷いがなかった。

 頼りない足取りだった少女は、俺の不器用なエールを受け取り、再び誇り高い勇者の導き手としての顔を取り戻していた。

 

「……ああ。俺も、全力でサポートするからな」

 

 夕暮れが近づく春日部の空の下、俺たちの足取りは、先ほどまでの重さが嘘のように軽やかだった。

 

「そういえば、さっき……『こうこうせい』って言ってたよね」

「ん? ああ、俺がただの高校生だって言ったやつか」

「うん。こっちの世界の『こうこうせい』っていうのは、何歳なのかな?」

 

 不思議そうに小首を傾げるマタに、俺は頷きながら答えた。

 

「俺は今、16歳だ。……マタは?」

 

 自然と問い返してから、俺は内心で少し驚いていた。

(そういえば、マタの正確な年齢なんて気にしたことなかったな……)

 原作の映画は穴が開くほど見たし、彼女の性格や背負っているものは熟知している。だが、俺にとってマタは唯一無二の『推し』であり、推しに年齢など関係ない。彼女が何歳であろうと尊いことに変わりはなかったからだ。

 俺の脳内で繰り広げられている思考など知る由もなく、マタはパッと表情を明るくした。

 

「ボクは15歳だよ! そっか、かけるとボク、たった一つしか違わないんだね」

 

 弾むような声。彼女の瞳が、嬉しそうに細められる。

 

「……なんだか、すごく嬉しいな」

「嬉しい? 歳が近いのがか?」

「うん。かけるはすごく頼りになるし、なんでも知ってるから……もっとずっと年上の、大人みたいな人だと思ってたんだ」

 

 マタは胸元の太陽のネックレスにそっと触れながら、少し照れくさそうにはにかんだ。

 

「でも、歳が近いってわかったら……なんだか急に、友達みたいに近く感じられてさ」

 

 友達。

 その真っ直ぐで無邪気な言葉に、俺の心臓がまたしてもドキンと大きな音を立てた。

 いや、待て。落ち着け俺。

 15歳と16歳。たった一つ違い。

 その事実をはっきりと自覚した途端、昼間に二人で街を歩き、ファミレスでご飯を食べ、照れながらお揃いのネックレスを買ったという一連の出来事が、強烈な『同年代の男女のデート』としてのリアルさを伴って脳内を駆け巡り始めた。

(やばい……年齢差の概念がリアルになった瞬間、急に顔が熱くなってきた……!)

 ただの『画面の向こうの推し』ではなく、今、俺の隣を歩いているのは、自分と一つしか歳が変わらない、とてつもなく魅力的な一人の女の子なのだ。

 

「かける? どうしたんだい、顔が赤いけど……夕日を浴びすぎたのかな?」

 

 急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、マタがひょいっと顔を覗き込んでくる。同い年くらいの、めちゃくちゃ可愛い女の子の顔が至近距離にある。無理だ。直視できない。

 

「な、なんでもない! ちょっと暑いだけだ!」

 

 俺は慌てて視線を逸らし、照れ隠しのために不自然なほど大股で歩き始めた。

 

「あ、待っておくれよ、かける!」

 後ろから小走りで追いかけてくるマタの足音すら、今の俺には愛おしく、そして激しく心臓に悪い。

 夕暮れの春日部。

 世界の命運を懸けた決戦を前にして、俺のメンタルは完全に別の意味で限界を迎えようとしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

その頃の野原家。

 

「ただいま〜……」

 どっと疲れた顔で玄関の扉を開けたひろしを、みさえが不思議そうに出迎えた。

 

「あら、今日は随分と早かったわね」

「うーん……なんか、会社も街の奴らも、みんな変なんだよなぁ……」

 

 首を傾げながらネクタイを緩めるひろし。彼が感じた違和感は、野原家のリビングに足を踏み入れた瞬間に確信へと変わった。

 

『さあ、次は微分と積分について教えよう! わーっはっはっは!』

 

 テレビの中で、あの正義のヒーロー・アクション仮面が、ホワイトボードを背に小難しい数式を熱弁していたのだ。

 怪人を倒すわけでもなく、ただひたすらに数学の授業を続ける異常な光景。

 ひろし、みさえ、しんのすけ、そしてひまわり。

 四人の脳裏に、全く同じ感情がよぎった。

 

「「「「やっぱり変だ(たたたいやたい)」」」」

 

 大人も五歳児も赤ん坊も、息ぴったりに声を重ねる。

 その時、しんのすけがふと窓際に歩み寄った。外はオレンジ色に染まる夕暮れの景色だが、窓ガラスの端っこに、なぜかジグソーパズルのような不自然な切れ込みがあることに気がついたのだ。

 

「んん?」

 

 しんのすけがそのピースの端を小さな指でつまみ、ペリッと剥がす。

 瞬間――パラパラパラパラ! と音を立てて、夕暮れの景色が巨大なパズルのように崩れ落ちた。

 偽りの空が剥がれ落ちたその向こう側に広がっていたのは、星一つない、どんよりとした不気味な『夜』の空だった。

 

「おぉ!」

 

 しんのすけが目を丸くする。

 

「「「えぇ〜〜っ!?」」」

 

 ひろしとみさえが悲鳴を上げ、ひまわりが目を白黒させる。

 

「夜のままなんだ。ホントじゃなかったんだゾ……」

 

 手の中のパズルピースを見つめながら、しんのすけがポツリと呟いた。昼間だと思っていた時間は、何者かによってヘンジられた偽物の景色だったのだ。

 

「おい! いったいどうなってるんだ!?」

 

 窓の外の異様な光景に、ひろしがパニックを起こして声を荒げる。

 

「これって……しんのすけが言ってたことが本当だったってわけ!?」

 

 みさえも青ざめた顔で口元を押さえた。ここ数日、しんのすけがずっと「ドン・クラーイが」「扉が開いた」と訴えていたのを、子供の作り話だと頭ごなしに否定していたのだ。

 

「たやい、やややいや!」

 

 ひまわりが、しんのすけを庇うように両手をバタバタと振る。

 

「そうだってひまわりが言ってる!」

 

 しんのすけはパッと顔を輝かせ、ひまわりを抱きしめた。

 

「おぉー、ひま〜! おにいちゃんを信じてくれていたのか〜」

 

 すりすりと兄妹で頬を寄せ合う。だが、両親への恨み節はしっかり溜まっていたらしい。

 

「オラ……オラ、ずっとホントのことしか言ってなかったのにぃ……」

 

 ひろしとみさえの胸に強烈な罪悪感が突き刺さる。大人としての面目丸潰れである。二人はたまらず、しんのすけの前に正座して頭を下げた。

 

「すまん、息子よ……!」

「ごめんね、しんのすけ……!」

 

 平謝りする両親。

 すると、しんのすけは、大人のようなジト目を二人へ向け

 

「お、…………許す」

 

 驚くほど上から目線の、間をたっぷり持たせた絶妙な許し。

 とはいえ、しんのすけの言葉が事実だと証明された今、頼みの綱はこの五歳児しかいない。

 ひろし、みさえ、ひまわりの三人は、すがるような目をして一斉にしんのすけに詰め寄った。

 

「「「で、どうすればいいんだ!?

          いいわけ!?

          たややい!?」」」

 

 世界の危機を前にした、家族からの切実な問いかけ。

 その重圧に対し、しんのすけはきょとんとした顔で、ケロッと言い放った。

 

「オラ、わかんない。まだ幼稚園で習ってないも〜ん」

 

 ――ズコーッ!!

 一拍置いて、ひろしとみさえ、そしてひまわりの三人は、見事なまでに畳の上へと崩れ落ちるのだった。

 

 


 

 

 

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 野 原 家 | 家 族 会 議

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春日部 時間 : 常 時 夜

【 野 原 家 緊 急 家 族 会 議 】

─ リビング─

 リビングの照明が、四人の顔を劇画調に照らし出していた。

 腕を組み、眉間に深いシワを寄せた野原みさえと、同じく腕を組んで凄みを利かせた赤ん坊・ひまわり。

 

「……これまでの状況を整理すると。その『プリリン』って女が、一番怪しいわね」

「たややっ!」

 

 女同士の鋭い直感。

 だが、その対面に座る男二人は、劇画調のシリアスな空気から渋い顔で言い放つ。

 

「でもスタイル抜群で……」

「優しいんだゾ…」

 

 ひろしとしんのすけの脳裏には、プリリンの豊満な胸元と妖艶な笑顔が浮かんでいるらしい。世界の危機だというのに、野原家の男たちの本能は通常運転だった。

 その瞬間。

 みさえとひまわりの目が、スッと冷たい光を放った。

 

「「……ふんっ」」

 母と娘の、完璧にハモった冷酷な鼻で笑う音。

 直後、みさえの拳がひろしとしんのすけのこめかみを同時に捉えた。

 

「オラオラオラオラオラオラッ!!」

「たやたやたやたやっ!!」

「「くあぁっ……!! ギブギブギブッ!!」」

 

 野原家名物、恐怖のぐりぐり攻撃。ひまわりも母親の真似をして、しんのすけの足にぽかぽかと小さな拳を振り下ろしている。

 ひとしきり男たちを制裁し、手をパンパンと払ったみさえは、頭から煙を上げる二人を見下ろして冷たく言い放った。

 

「絶対に、プリリンが怪しいわ」

「「うん」」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ひとまずの意見の統一を見たところで、みさえは小さく息を吐いた。

 

「それで? しんのすけが封印したっていう、その『マタちゃん』はどこに行ったの?」

「したじきになって、どっか行っちゃった……」

「したじき? あの変な柄のカラフルなやつ? そういえば、今日の朝はリビングで見かけたわね……掃除の時に、どこにやったかしら……」

 

 みさえが顎に手を当てて記憶を辿ろうとした、その時だった。

 

『――ピンポーン』

 

 静まり返った夜の野原家に、不意にインターホンの音が鳴り響いた。

 こんな時間帯に、誰だろうか。ひろしがいぶかしげに立ち上がり、玄関のモニターを確認する。

 

「ん? 子供が二人……? ターバンの子と、高校生くらいの……」

「おおっ!」

 

 ひろしの言葉に、しんのすけが弾かれたように立ち上がり、タタタッと玄関へ向かって走り出した。みさえとひろしも慌ててその後を追う。

 ガチャリ、と玄関の扉が開く。

 

「やあ、しんちゃん。迎えに来たよ」

「よぉ。家族会議はまとまったか?」

 

 そこに立っていたのは、太陽と月のネックレスをそれぞれ胸元で光らせた、マタとかけるだった。

 

 

 





友達…ねぇ…

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