アウトロー勇者アリスです!   作:くもたろー@溶脳炉

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後編

 翌日。

 

「…………。」

「…………。」

「そろーり、そろーり……。」

 

 シャーレは再び気まずい沈黙に包まれていた。どうすんだこれと言いたくなる雰囲気の中、仕事を進める。

 

「うへぇ~先生、おじさんちょっとどうすればいいかわからないんだけど……。ツッコんだほうがいいのかなぁ~?」

「ごめんホシノ、それは私も聞きたい。」

 

 そう、この重い空気の原因。それは。

 大量の髪の尾を引いた二足歩行の段ボールだった。

 

「コソコソ……コソコソ……。こちらコードネームAL-1S、定位置につきました。次の指示をお願いします!」

 

 もちろん中身はスニーキング気分のアリスである。一切スニークする気ないだろ、と言いたくなるのだが、本人としては段ボールからでない限りスニークしているつもりなのだろう。普通に聞こえる声量でしゃべっているけど。あまりに存在感の強すぎる髪の毛が目を引くけど!

 

「これ本当にツッコまなくていいの~?」

「私にだって……わからないことくらい、ある……!」

 

 ……どうしよう、一応声かけておいた方がいいだろうか。というかめっちゃツッコミたいんだが。

 

「あのー、アリス?何を……」

「今のアリスは潜伏中なので先生は気づけません!現在認識不可能状態です!あと、今はアリスじゃなくてコードネームAL-1Sです!」

「うん、そうだね……。」

「先生がツッコミを諦めちゃった……。」

 

 うん、もう何も言うまい。先生としてはあきらめちゃいけないんだろうけれども、私にはどうすればいいのかわからないんだ……。

 今朝やけに上機嫌で現れたアルからは、おおよその計画を聞いていたが、やはり張り込みをする予定らしい。ほかに、ダミーとなるものをいくつか意図的に紛失してみて行方を追うことも検討しているようだが、こちらは張り込みで進展が見られなかった場合に行うつもりとのことだ。

 おそらくは、昨日に行われた作戦会議でカヨコあたりがアリスにスニーキングゲームのようなものだという説明をしたのだろう。その結果がこれである。笑ってはいけないシャーレ24時でもやってるのか?

 ちなみにここからは見えないがハルカとムツキも現在シャーレオフィスにて張り込み中である。朝から張り切って「準備」していたのでいい結果がでることを祈っておこう。まぁ、二人のこれまでの行動を見るに「準備」という言葉に若干、いや非常に不安を覚えないわけでもないが……。

 そうこうしていると、だんだんと飽きてきたのか、髪の妖怪もとい段ボール勇者がそわそわとうろつくようになってきた。自我を持ってこちら常にゲームをやっているか仲間と一緒にいるアリスだし、何もしないというのは割と新鮮な体験なのかもしれない。しかし、あまりに無為な退屈というのは毒だろう。視界の端を面白段ボールが横切っていくのは色々な面で集中力が削がれるため、この仕事がひと段落したら休憩にしてお菓子でも出してあげよう。

 

そう思っていたのだが。

 

「ダメです!退屈すぎます!こうなったら、あれを使うしかありません!」

 

 アリスが段ボールをガバっと脱ぎ捨ててそのようなことを叫びだした。しかし、それが見えたのはほんの一瞬。段ボールに隠れる前提だったのか、いつもより薄着で、人間ではないのに健康的で赤みのさした肌がいつもより多めに見えたからか、ホシノに首を高速回転させられてしまったらしい。首のあたりから鈍いやな音が聞こえた気がするが気のせいだろう、うん。気のせいであってくれ。

 

「いやー眼福だねぇ、若い子の薄着って言うのは。」

「その眼福を拝みたい気持ちと拝んではいけないという先生としての矜持とで戦う間すら与えず首を捻ってきた人が言う言葉がそれですかホシノさん……?」

「だいじょーぶだいじょーぶ、おじさんがかわりに堪能しておくからさ~。後遺症も残らないように捻ったからちょーっと痛いだけだよ。」

「だんだんと熱を帯びてきてる感じがあってとても大丈夫には思えないんだけど!」

「それだけ騒げるんだから大丈夫だって、おじさんを信用してよ。」

 

 私が見えない一方でアリスの薄着姿を堪能しているらしいホシノ。体勢的には当たってもいいはずのものが当たってないのは……いや、これ以上はやめておこう。この場にはアリスもいるし、まだ死にたくない。

 そんな死線一歩手前で賢明な判断をした私に見えないところでアリスが高く掲げていたもの、それは。

 

「究極のユニット召喚アイテムです!アリスはこの、(禁則事項)の領収書を生贄に、ユウカを特殊召喚します!魔王ユウカ、サモン!」

「よりによってなんてものを発掘していたんだアリスぅ!?」

「……うへー、先生さすがにそれはおじさんも擁護できないかなー。というか普通に引くんだけど……。」

「もうやめてっ、私のライフはゼロよ!」

 

 よりによってあの口にできないマスコット長兼、口にしたくないマスコット長兼、駆逐したいマスコット長兼、朽ち果てろマスコット長が出てくるゲームの領収書とは……。このままでは続編を買うどころかマダハメイトのまましばらく過ごさなくてはいけなくなる、それだけは避けなければ……!

 だが、力でも数でも負けている現状で私の抵抗が意味を成すはずもなく、しばらくしてユウカが鬼の形相で駆けつけてくるのを止める手段はなかった。

 

~少女説教中~

 

 結局、ユウカによるお叱りが終わったのは、昼近くになってからだった。買ってしまったものは仕方ない、ということでブツは没収を免れたが、やはり続編を買うのは難しくなってしまった。

 なんやかんやでユウカをなだめつつ、昼食のタイミングということでお昼代を犠牲に一度お説教タイムを抜け出すことができた。とはいえ、ユウカにだけというのも不公平なので、便利屋とアリスとホシノも一緒だ。できることなら柴崎ラーメンに食べに行きたいところではあるのだが、シャーレからアビドスの柴崎ラーメンに行こうとするとかなり時間がかかるため、シャーレ近くのレストランでランチということになった。

 にぎやかなランチはつつがなく終わり、幸運にもというべきか、ヴェリタスとエンジニア部が合同で面倒ごとを起こしたということでユウカはミレニアムへと帰っていった。

 

「……さて、それでは会議を始めます。」

 

 シャーレオフィスに戻り、ジョジョ立ちでそう告げる私。目の前には、便利屋とアリスが並んでいる。

 

「被告、天童アリス。一歩前へ。」

「先生、アリスは……!」

「一歩、前へ。」

 

 何か言おうとするアリスを遮り、厳粛に告げる。アリスは観念したのか、俯いて前に出る。

 

「さて、それでは聞こうか。……なんで私の領収書勝手に回収して持ってるの!?」

「これはアリスがアイテム捜索でGETしたアイテムです!つまりはアリスのものです!」

「その理屈はおかしい!」

「ですが、先生は光の剣を持ち上げられませんでした!勇者になるためのレベルが不足しています!なので、これは返しません!」

「いつぞやのシャーレに野生のアリスが現れたときのことを言ってる!?あの時の話ってずっと有効だったの!?」

「勇者へのジョブチェンジイベントが終わってないのでダメです!」

「そういう問題かなぁ!?」

 

 アリスと二人、ぎゃいぎゃいと騒ぎあう。前々から思ってはいたが、やはりどこかでアリスの倫理観をしっかり矯正する必要があるかもしれない。

 そんな風に騒いでいる私たちに、おずおずとアルが口をはさんだ。

 

「えーっと、その……先生?アリスちゃんが出した領収書なのだけれど……確か、今回の依頼で可能であれば回収するように言われていたものの一つよね?」

「そう、そこだよ!アリス、知ってて隠してたでしょ!」

「えっ、これが今回の納品アイテムのひとつだったんですか!?」

「「「「気づいてなかったの!?」」」」

 

 まさか気づいていないとは思わなんだ。おかしいな、アリスにもリストは見せたはずなんだけどな……。

 

「アリスちゃん、私ちゃんと説明したわよね!?ムツキ達も聞いてたわよね!?」

「くふ、今回はアルちゃんちゃーんと説明してたよ。それにしても、こうなるとは思ってなかったなぁ。あー面白い!」

「そ、それに領収書を取られるのが問題なら、出入り禁止にして警備を厳しくするのは……あぁいえ、私なんかが意見を言ってしまってすみません!も、もちろん私も出入り禁止にしてもらって構いませんので……!」

「えーとね、ハルカ。意見を言ってくれるのはうれしいし今後もどんどん言ってほしいんだけど、シャーレはやっぱり生徒のみんなのための組織だから。ほかの生徒に重大な不利益が出るならともかく、この程度のことで立ち入り禁止とか、そういう措置は取りたくないんだ。何かあった時に、いつでも来れるようにしたいというか……。もちろん、ハルカもいつでも来ていいからね。」

「そうだよハルカ。社長も、いつも意見はどんどん言うように、って言ってるでしょ?ここには、ハルカを責めるような人はいないから安心して大丈夫。」

 

 面白がるムツキは置いておいて、ハルカは暴走しがちな分意見を言っておいてもらった方がリスクコントロールにもつながるし、あまりマイナスに考えないでほしいのだが。しかし、アルは社長として、というよりは部下を引っ張っていく人間として非常に高い素質を持っているのはやはり間違いないようだ。とはいえ、トップに立つ人間に求められる素質というのはまた少し違うものになってくるのは彼女にとって残念な事実だろう。

 

「まぁ、それはともかくとして……やっぱり、アリスちゃんにはもう一回しっかり説明しなおしたほうがいいみたいね。ほかにも今回の依頼のモノを持っている可能性もあるし……。先生、悪いのだけれど今日のところはいったんここまでにして、明日以降にしっかり備える形にしてもいいかしら?」

「もちろん、私は依頼こそしたけど、その方法は任せてるからね。ほかの生徒たちに被害を出さなければやり方は全部任せるよ。」

「えぇ、任せてちょうだい!今日はこんなことになっちゃったけど、依頼は完ぺきにこなすんだから!」

 

 張り切って胸を張るアル。だが、彼女には申し訳ないが、張り切るアルを見て、私はまた波乱が起きることを半ば確信したのだった。

 

 

 

 そんなことがあった初日、その夜。シャーレ居住区では、照明が煌々と灯っていた。

 

「それでは、ス○ブラ大会を始めましょう!」

 

 コントローラを掲げ、高々と宣言するアリス。モニターにはすでに某ゲームのキャラクター選択画面が表示されており、幾度となく聞いたBGMが部屋に流れている。

 すでに日は沈み切っており、もう寝る人がいてもおかしくない時間帯である。私がいつも寝る時間にはさすがに早いものの、学生には就寝を促したくなる。もちろん、過去の自分含め学生がそんなものに従うわけもなく、ガンガン夜更かしをするのだが……。そんな時間なので、アリス含め便利屋のみんなはすでにいつでも寝られる状態になっている。

 要するに何が言いたいのかというと、だ。

 突然、半ば無理やりアリスに連れてこられたこの部屋は、風呂上がりの生徒たちのいいにおいと火照った肌と普段着と比べて薄い寝巻とにあふれており非常に理性が試される場となっていることだ。うれしいけどうれしくない。

 居心地が悪いのは私だけではないようで、ムツキ以外の以外の便利屋のみんなも気まずい雰囲気を醸し出している。ハルカに至っては「死にたい」と無限に呟き続けている。いや怖いよ。一方でムツキとアリスは楽しそうだ。まあ君たちはこういうイベントは全力で楽しむタイプだもんね……。

 そんな空気を感じるわけもなく、アリスは4つのコントローラーの接続をしつつ、生き生きとルールを説明し始める。もちろん相談もしていなければ同意も得ていない唐突なルールだ。……アリスって独裁者の素質あるよね、独裁でパーフェクトなパックを付けたら似合いそう。

 

「ルールは簡単です!アイテム切り札全部ありのバトルロワイヤルです!負けた人は、勝った人の言うことをなんでも一つ聞くことになります!」

「あっれれぇ、『なんでも』なんて言っちゃっていいのかな~。」

「そうよアリスちゃん、ここには先生もいるのよ!?」

「というか参加拒否権はないのかな……。なさそうだね。」

「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……」

 

 アリスの独断にまみれたルールに声を上げる便利屋たち。私も声を上げてもよかったのだが、この状態のアリスに何を言っても意味がないということは残念ながら身に染みているので何も言わなかった。教育者としてあきらめてはいけないのかもしれないけれども、もはやアリスに私が調教されているような感じあるからね仕方ないね。

 だが今回は、珍しく抗議の声がアリスに届いたようで、アリスが譲歩の姿勢を見せた。

 

「うーん、確かに、今回は事前のルール説明が足りなかったかもしれないですね。…………、!そうです!なら、今回はチーム戦にしましょう!」

「チーム戦?」

 

 本人としては譲歩したつもりなのだろうが、その実ほとんど変わっていない提案に、便利屋の総意を代弁しておうむ返しに尋ねる。当のアリスは、いかにも名案だといわんばかりに目を輝かせて続ける。

 

「はい!チーム戦です!そして先生はアリスのチームです!」

「おおぅ、なんも欲しかった情報が得られないうえに独裁が横行していらっしゃる」

「そうですねぇ、残り一人のアリスのパーティーメンバーは……。」

「あれ、もしかして私、ついに発言まで無視されるレベルにまで舐められた?」

 

 くっ、この生意気なめちゃくちゃかわいいガキめ……!

 そんな私のぼやきも意に留めず、便利屋の面々に視線を走らせるアリス。便利屋には緊張が走る―――わけもなく、各々自由に反応していた。アルは状況が呑み込めずぽかんとしているし、ハルカはあたふたと落ち着かない様子だし、カヨコはあきらめて受け入れようとしているようだ。そしてムツキは。

 

「くっふふ~。それならぁ、私が先生のチームに入っちゃおっかなぁ~。ねぇ先生、かわい~いムツキちゃんをちゃーんと守ってね?」

「決めました!残り一人のパーティーメンバーはハルカです!」

「「「「……え?」」」」

 

 私が法律です!状態のアリスにいたずらっぽい挙動をキャンセルされていた。ムツキみたいなタイプはこういうのに弱いのかもしれない。冷静に考えてみればムツキはこれまでも想定外の状況に陥ると一瞬フリーズすることが度々あったし、存外主導権を握れないと弱いのかもしれない。

 指名されたハルカはもう可哀そうなぐらいうろたえていた。

 

「え?……え!?わ、私ですか!?なんで、あ、いえ、私なんかが意見するわけではなく……!で、でもアル様と戦うってことですよね……!?む、無理です!アル様と戦うなんて……!」

「お、おおおお、落ち着くのよハルカ!これはあくまでゲームなんだし、気にすることはないわ!それに、どんな依頼にも全力で取り組むのが便利屋86よ、全力でかかってきなさい!」

「そーそー。それにどうせアルちゃんこういうの下手だから勝負にならないと思うよ~?ま、私が通さないけどね!」

「……仕方ない。こっちが勝ったら今度高級ディナーでもおごってもらおうかな。覚悟してね、先生。」

「負けてもアリスとハルカはノーリスクなのか……。」

 

 まあこれも大人が引き受けるべきリスクだろう。生徒同士であまり変なことを要求されても困るし。……普段から便利屋に寄せられている依頼やゲヘナの日常風景は今は考えないことにする。

 そうして、各々がキャラを選択し、ステージランダムで熱い戦いの火ぶたが切って落とされた。

約2時間後。

 

「うおおお間に合えええええ!」

「させないわ、切り札ボールは私のモノよおおお!」

「二人まとめてドーン!アッハハ、じゃあね~」

「「ぎゃああああああああ」」

「なんで社長巻き込んでるの、爆弾ヘイは味方にもあたるんだから……っと!」

「隙アリです!ついでに切り札ボールももらっておきます!」

「くっ、ならこれは……!」

 

 めちゃくちゃ白熱した試合を繰り広げる6人がそこにはいた。

 この面子の中ではやはりアリスが一強なのだが、以外にもカヨコがそれに追随する腕前をもっており、アリスの無双を許していない。また、ムツキも操作や駆け引きは非常にうまいのだが、彼女の気質からか、アイテムの乱用や利敵行為になりかねない行動が多く、結果的にこっちのチームとバランスの取れた戦果となっている。アルは私と実力がほぼ拮抗しており、なんというか、あまりうまくない。そのため、私とアルが戯れているのを横目に周囲でドンパチが繰り広げられている感じだ。なお、ハルカは腕前はあまり高くないものの、見たこともないような復帰テクを駆使して異様な生存力を見せている。あまりに復帰周りの動きが予測不可能なため、両チームともに彼女の動きに翻弄されることが散見されていた。

 そして今。

 

「あっ、切り札ボールが逃げてしまいます!あと一発なのに……。」

「状況を打開するにはほしいけど、まあアリスちゃんに取られなかっただけ良しとした方がいいかな。」

 

 ムツキのはなった爆弾ヘイで吹っ飛びリスポーン中の私とアルを横目に、切り札ボールをめぐって激しい牽制合戦が行われていた。試合も後半であり、全員のダメージ蓄積量もかなり多い。この状態でリスクを取ってボールを取ったとしても、使う間もなく直後にやられてしまう可能性も高いためか、お互い動きが消極的だった。

 今回のボールは見送るしかないか、そんな雰囲気が流れ始めたとき、ピキィンと一段と派手な音が鳴る。切り札ボールを破壊して切り札の使用権を得たときの音だ。一体だれが、と思うと同時に、このタイミングで取れるようなプレイヤーなど一人しかいないということもまたわかってしまう。先ほどカヨコに大きく吹っ飛ばされ、通常であれば復帰は絶望的なはずの状況からの復帰を果たしつつあるハルカだ。

 

「……えっ、わ、私、いつの間にこんなことを……!?ど、どうすれば!?」

「そのキャラの切り札は撃ち得なので撃っちゃいましょう!」

「は、はい!とりあえず撃ちます!」

 

 混乱しつつも、素早く出されたアリスのアドバイスに従ってステージ中央目掛け、空中で切り札をぶっ放すハルカ。その攻撃は、空中に生成されて間もないアイテムを内包した箱に当たり、破壊された箱から大量の爆弾系アイテムが飛び出す。当然、場所はステージ中央である。結果として。

 

「「……え?」」

 

 私とアルのリスポーン直後の小競り合いの場に大量の爆弾系アイテムが降り注ぐ結果となり。私とアルの最後の残機は10秒とかからず画面外に消えることになるのだった。

 

「な、なんですってーー!?そんなのあり!?聞いてないわよリスキルなんて!」

「いやーきれいにやられたなぁ……。」

「あああああごめんなさいごめんなさいアル様、先生!……あれ、でも今回アル様は相手チームなので……それでも先生も巻き込んでますもんね、死にます……できるだけ敵を撃ってから死にます!」

「一応確認するけどゲーム内の話だよね?」

 

 一足先に戦闘不能になった私とアルは残りのメンバーの奮闘を見守りつつ、戦況に湧くガヤとして盛り上がる。やがて、アリスが反撃をもらいつつもムツキを撃墜し、カヨコと熱戦の末、相打ちとなった。GAME SETの文字が画面に表示されたタイミングで画面にキャラは存在していなかったが、画面外で延々と復帰を試みていたハルカが唯一の生存者となったため、こちらのチームの勝利だ。

 

「ってもうこんな時間!?みんな早く寝るよ!はい、ゲームもおしまい!電源切るよはい寝た寝た!」

「えーっ、アリス、まだまだ物足りません!」

「アリスは平気なのかもしれないけどみんなはアンドロイドじゃない生徒だから寝なくちゃダメなの!というかアリスも寝ないとパフォーマンス落ちるの知ってるんだからね、ちゃんと寝なさい!」

「うーん、仕方ありません。こういう時の先生は、予算の話をするときのユウカと同じくらい融通が利かないのであきらめるしかなさそうです……。」

 

 うっかり私まで熱中していたせいで、すでに夜は更けており、もし一般住宅であれば近隣住民から苦情を言われてもおかしくない状況になっていた。シャーレ居住区に私たち以外に人がいないのが救いか。

 とりあえず、一緒に交じって楽しんでしまったものの、大人としてこれ以上の夜更かしは認められない。ゲーム会を終了させるべく、主にアリスを説得すると、彼女はこれまでの試合結果を確認し、高らかに手を挙げて宣言した。

 

「テレレレッテレー!今回の勝負はアリスたちの勝利です!MVPはハルカです!」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「えっ……へぁっ!?」

 

 しまった、少しふざけたらハルカがショートしてしまった。どうしよう……、ひとまず軽く抱き寄せて頭でも撫でて再起動を促してみよう。

 

「あっ……………(プシュ~)」

「あ~先生がハルカを気絶させちゃった。本当に女たらしなんだからぁ~。」

「うらやましいですが……これはMVPの特権というやつですね。次は負けません!」

「えぇ……。」

 

 再起動するどころかシャットダウンしちゃたよ……。まあ、これから寝るところだったしちょうどいいと思うことにしよう。

 ハルカをベッドに運び、布団をかけてあげてほかの面々にも寝るよう促し、彼女たちの部屋を出る。アリスが添い寝イベントが云々と言ってきたが、なんとなくそんなことをしたらハルカ以外が全員徹夜する羽目になりそうな気がしたのと先生と生徒がそういうのはよくないだろうということで辞退した。……そのうち個別で発生するなら添い寝イベントもいいなと思ってしまったのは内緒だ。

 私も寝ることにして、寝室に向かう。途中でユウカからまたコユキがミレニアムを抜け出してため近く面倒ごとが起こるかもしれないというモモトークが来ていたが、それに関しては明日の私に頑張ってもらおう。

 

 

 

 先生が就寝の準備を整えて、消灯を宣言したのちのアリスたちにあてがわれた部屋。すでにほかのみんなは寝息を立てています。しかし、アリスはうまく寝付けません。

 今日は、いつもとは違った冒険になりました。

このドキドキして眠れない感じは、新しいゲームをプレイしているときに似ています。素晴らしいゲームに出会って、その魅力に引き込まれて、寝食を忘れて没頭している、あの感覚に。

 今日は、新しい仲間との冒険になりました。

 新しいパーティーメンバーを編成したときは、心が躍るものです。このキャラクターはどうやって使うのが一番強いのか、どうやったら活きるのか、どうしたらシナジーが発揮されるのか、試行錯誤するものです。

 今日のことを思い返して、明日からのことを考えると、やはりアリスは眠れません。ゲーム開発部では徹夜も夜更かしもいつものことで、みんなやっていることですが、便利屋では違うようです。みなさん、すぐに寝てしまいました。あたりは真っ暗ですが、アリスにはみなさんの寝顔がくっきりと見えます。これも、アリスが勇者だからでしょうか。……いいえ、おそらくは「魔王」のアリスの力なのでしょう。

 暗闇の中一人で考え事をしていたからでしょうか。考え事をしていたら少し憂鬱な気分になっていると、視界がわずかに明るくなりました。

 

「……ハルカ、起きたのですか?」

 

 光の正体は、ハルカのヘイローでした。先生になでなでされてキャパオーバーで気絶していたらしいハルカですが、そのまま朝まで寝ることにはならなかったようです。

 

「あ、はい、起きました……。あっ、ごめんなさい、起こしてしまいましたか!?」

「いえ、アリスは眠れなかったところなので大丈夫です。ハルカ、少しお話しませんか?」

「私と……ですか?あ、いえ、決して否定しているわけではなく……!」

「はい、ハルカとです。一度ゆっくりとお話してみたかったんです。」

 

 そう、アリスはハルカとお話してみたかったのです。もちろん、ハルカに限らずいろんな人とお話しするのは楽しいです。会話イベントが作りこまれているゲームは良ゲーだとモモイも言っていましたし、アリス自身もそう思います。それに、アリスは一度、話し合うことの重要さをゲーム部のみんなや先生に教えてもらいましたから。

 しかし、困りました。お話してみたいのは本心ですが、何を話していいかわかりません。これは好感度上げが足りないから会話フラグが立たないのでしょうか……。

 

「え、えっと、なにを……話せばいいんでしょうか。な、なんでも答えますので。」

「ハルカ、アリスは何を聞きたいんでしょうか。」

「えっ……?あ、いえ、そうですよね!部下の考えていることくらい理解しろと、そういうことですよね!すみません、察しが悪くて、頭が回らなくて、ごめんなさい……。」

「え?」

「え?」

 

ハルカが勘違いしてしまいました。うーん、どうしたらいいんでしょうか。きっと先生なら、こういう時どうすればいいのかもよくわかっているのでしょう。

あれ?なぜアリスは先生のことを考えているのでしょうか?

 

「そうです!ハルカハルカ、罰ゲームはどうしましょうか!」

「罰ゲームですか!?私またなにか……あ、いえ、大丈夫ですなんでもやります!何でも言ってください!」

「えっ?」

「えっ?」

「…………」

「…………」

 

 さっきからハルカと会話がうまくいきません。アリスのレベルが低いからでしょうか……。

 

「あの、もしかして私……またとんでもない勘違いを!?」

「えっと……ハルカのおかげで勝てたさっきのゲームの罰ゲームです。」

「お役に立てなかったから罰ゲームですか!?そうですよね!?な、なにをすれば……何をお支払いすれば……!?」

「?えっと、ハルカのおかげで勝てたので、ハルカに罰ゲームの内容を決めてもらおうと思います。」

「へ?わ、私のおかげ……ですか?い、いえ、そんな、私は何もしてませんし……ア、アリス……さん、のおかげです。」

「そうでしょうか……でも、全ゲーム通して残機が一番多かったのはハルカですよ?MVPはハルカに違いありません!」

「そ、そんな……もったいないです、私なんかに!」

「それでも、勝てたのはハルカがいたからです!」

 

 気づけばアリスもムキになってハルカと水掛け論をしていました。最後に立っていた人が勝ちというのは誇張でも何でもなく、バトロワの常です。

 その後も同じような問答を数回繰り返した結果、先に折れたのはハルカでした。アリスの勝利です!

 ハルカは落ち着かない様子ですが、嫌がっているわけではなさそうに見えます。

 

「え、えっと……どうして私なんかに、そんな……?」

「どうして……えーっと、うーん、なぜでしょう?」

 

 アリスは間違ったことを言ったとは思いません。おかしなことをしたとは思いません。ですが、なぜ、と言われると、言葉に詰まってしまいました。

 アリスには、まだまだわからないことばかりのようです。

 なぜ、どうして、と考えていくうちに、気が付けばアリスは再び先生のことを考えていました。アリスは脳内の先生に問いかけてみます。

 

(先生、先生。アリスはどうしてハルカにあんなにムキになってしまったのでしょう?ハルカのおかげだと言いたかったのでしょう?ハルカが認めてくれないのが嫌だったのでしょう。)

(そうだね、少し難しく考えているかもね。アリスは、私やゲーム部のみんなが同じようなことを言っていたらどう思う?)

(それは……それも、嫌です。)

(うんうん、そうだよね。ねぇアリス、ゲーム部のみんなのことはどう思ってる?)

(最高の仲間です!アリスは、モモイとミドリとユズが大好きです!)

(ところで、ユズってたまに今のハルカみたいなことを言い出す時あるよね。まあここまでじゃあないけど。)

(そ、そうでしょうか……。うーん、思い返してみると確かにその通りかもしれません。)

(じゃあ、もう答えはわかったんじゃないかな。)

 

 まだ混乱するアリスを置いて、イメージの中の先生はすぅーと消えて行ってしまいました。うぅ、困ります。アリスはまだ答えを見つけられていません……。ここは、一度会話をさかのぼってみることにします。情報の確認は推理ゲームの基本です。

 先生やモモイ、ミドリ、ユズをどう思っているか……ユズが時々似たことを言っている……?あ、もしかして。

 

「あ、あの、アリス……さん、大丈夫ですか?ずっと黙っちゃってますけど……も、もしかして何か気に障ることを言ってしまって私とはもう会話したくないと!?そ、そうですよね!大丈夫ですもう黙ってますので……」

「わかりました!アリスは、ハルカが好きだからです!」

「うぇ!?す、好きって……私がですか!?」

「はい!」

「え、えっとそれはどういう……えぇ!?」

 

 あれ、おかしいです。ちゃんと答えたのに、またハルカの表情がすごいことになっています。また何か間違えてしまったのでしょうか

 そうしてハルカと話していると、もう一つ暗闇に光源が浮かび上がりました。ピンク色のヘイロー、社長を起こしてしまったようです。少し騒ぎすぎたでしょうか。しかし、その明かりは明滅しており、完全に起きたわけではなさそうです。

 

「むにゃ……あなたたち、もう少し静かにしなさい……。何時だと思ってるの……よ……。……すぅ」

「ア、アアアル様!?起こしてしまいましたか!?すみません、ごめんなさい!」

「ハルカ、ハルカ。社長はまた寝たみたいですよ。アリスたちもそろそろ寝るとしましょう。明日の冒険も楽しめるように!」

 

 自分から話しかけたことを思い出したのは、そう言って目を閉じた後でした。ちょっとした罪悪感を抱きつつも、明日を楽しみに眠りにつこうとしていると、背後で身じろぎする気配がありました。

 

「あ、あの……アリス、さん」

「はい、なんでしょう。」

「その、えっと……ありがとう、ござい、ます。」

「……はい!」

 

 果たしてアリスが聞いたハルカの声は夢か現実か、どちらだったのでしょうか。そんなことを考える前に、アリスは心地よい眠りについていました。

 

 

 

「ハルカ、こちらはOKです!」

「は、はい、わかりました!そしたらこれをお願いします。」

「ラジャーです!」

 

 翌日、シャーレでは昨日とは比べ物にならないほど連携の取れたアリスとハルカが見られた。あの後なにかあったんだろうか。狙い通りではあるから嬉しいのだけれど、自分のあずかり知らぬところで事が運んでしまったのは少し寂しい気もする。

 

「そういえば、アルとカヨコはどうしてるの?」

「あー、アルちゃんはお寝坊さん。あれでも普段は規則正しい生活してるから、昨日の夜更かしが響いちゃったみたいだね~。で、カヨコは重役出勤の社長のお供って感じ?」

「なるほど、それは悪いことしちゃったかな。」

「へーきへーき、たまにはアルちゃんも楽しまないと♪。」

 

 近くにいたムツキに姿の見えない二人のことを訪ねてみると、彼女は普段の軽薄な態度とは少し違った、だがどこか嬉しそうな雰囲気で答えてくれた。なお、ハルカとアリスの変化については知らないらしく、悔しがっていた。うーむ、いったい何が……。

 今日は比較的仕事量が少ないため、周囲を見回す余裕がある。だからだろうか。ふとかがんだ時に、足元に見慣れない球体があるのに気づいたのは。

 

「なんだこれ……?」

 

 それは薄い桃色でビー玉より一回り大きいほどの球体だった。緩やかに波打った線が赤道とでもいうべき部分を一周しており、その上にはまるで目のような二つの点がある。便利屋の道具だろうか。

 

「ねえムツキ、なんかこんなものを見つけたんだけどもしかして便利屋で用意したもの?元の場所に戻したほうがいいかな?」

「ん~どれどれ?……なぁにこれ、私知らないよ?ねえハルカちゃん、これ何か知ってる?」

 

 眉をハの字に曲げてあざとく首を傾げたムツキは、少し離れたところでアリスと何やら作業をしているハルカに声をかけた。声をかけられたハルカとアリスがとててっと駆け寄ってくる。

 

「いえ、私も知りません……。多分うちのモノじゃないと思います」

「あれ?アリス、どこかで似たようなものを見た気が……。」

「似たようなもの?」

 

 二人に見せた結果、有用な答えが返ってきたのは意外なことにアリスの方だった。しかし、具体的にどこで見たかを思い出せないようで、うーんうーんと悩んでいる。

 

「わからないけどぉ、もしかしたら急にドカーン!ってしちゃうかもだし、知らないものなら安全な場所に置いておいたらどうかな。あ、それとも私がもらっておこうか?次の仕事で使えるかもしれないし♪」

「他の生徒のものかもしれないからあげることはできないかな……。でも、ひとまずどこか安全な場所に移しておいた方がいいかもしれないね。」

 

 そこまで言ったところで、球体の曲線の上についていた目のような点が赤く光った。……え?

 

『失礼な。爆発などしませんよ。シャーレ、引いては先生を傷つけるなんてもっての他でしょう?』

「「キィェェエエエエシャベッタアアァァアアア!?」」

 

 一瞬爆発するのかと身構えた直後、球体が話し始めたためあまりにびっくりして奇声を上げてしまった。ちなみにハルカも一緒に奇声を上げていた。ところでハルカさん、びっくりしたついでにショットガンで私ごとぶっ飛ばそうとするのはやめてくださいな。ムツキが咄嗟に銃のセーフティかけてくれなかったら危なかった。

 

「あっ、そうです、思い出しました!その声は慈愛の怪盗さんですね!この球もあの館で見たものにどこか似ています!」

「じ、慈愛の怪盗ってあの、七囚人のですか……!?もしかして先生を襲うために……?……許せない。」

「落ち着いて落ち着いて。危害を加えるわけでないってさっき言ってたし、あの子はそんなことする子じゃないよ。」

「はい、アリスたちのことも助けてくれました!」

 

 驚き故先に奇声が出てしまったが、落ち着いて聞いてみれば球からする声は紛れもなくアキラのものであった。言われてみれば、この球体も例の館で見たアキラの道具の数々に似た意匠を感じるというべきか、具体的にどことは言えないもののなんとなく同じ雰囲気を感じる

 

『ふふ、そういうことです。ところで、そちらのわんぱくなお嬢さんは今日はメイドではなく悪の組織の一員……といったところでしょうか。』

「はい!今日のアリスは、便利屋68の社員です!ダークヒーロー勇者です!」

「あははっ、いいねいいね!うちら便利屋にも勇者様が入社したってコトで!」

「ア、 アル様も勇者みたいにかっこいいですよ」

『悪の組織も非常に活気があって結構。……ところで先生、ダークヒーロー勇者は少しその、頭痛が痛いみたいな感じになっていると思うのですが言及しなくてよろしいので……?』

「まあうん、多分だけどアリスにとって勇者って言うのはすごくいろんな意味を持ってるからひとえにそうとも言い切れないんだよね……。」

『そういうことならばよいのですが……。』

 

 ほとんど顔を見て会話した時間はないのに、球の向こうでアキラが困惑している顔が見えた気がした。

 

「そ・れ・で~。慈愛の怪盗さんがシャーレにこーんなものこっそりと置いてどうするつもりだったの~?」

『私に答える義理はありませんよ、お嬢さん。』

「じゃあこれ壊しちゃってもいいよね~?せっかくだし、ドーンと行こうか!」

『えぇ、構いませんよ。ですがその分のお代はお嬢さん方の方からいただくことになるでしょうね。』

「な、仲良くしてくれるとうれしいな……?」

 

 アキラとの会話を重ねるにつれムツキの笑顔がだんだん怖いものになってきて気が気じゃない。アキラも前回会った時よりも意地が悪いように感じるし、どうしてこんなにギスギスしているのだろうか。あと、これはアキラとコンタクトが取れる現状唯一の手段なのでできれば壊さないでほしい。

 そんな世界平和の難しさを悟るような私の気苦労が届いたのか、ムツキとアキラが少し態度を軟化させた。

 

『まあいいでしょう、別に知られて困るものでもありませんから。えぇ、シャーレで先生の私物の盗難が相次いでいるとのうわさを小耳に挟みましたので、一体どこの輩がそんな愚かな真似をしたのか調べてやろうと思いましてね。その価値もわからぬ者の手に価値の高いものが渡るなど、芸術品でなくても腹が立ちませんか?』

「くふふ、確かにその通りだね~。でも今回はウチがその依頼を受けてるから怪盗さんの出番はないよ。それとも、何か情報でもくれるのかな?」

『…………そうですね、それでは一つ。近頃になって発生したこれらの被害、逆にこれまで発生してこなかったことには理由があるとは思いませんか?』

「出ました!アキラの暗号です!」

 

 あえて難解に伝えてくるアキラの手口は私はもう慣れているのだが、ムツキにはその慣れがないからか、彼女の額に青筋が浮かんでくるのが幻視できた。一方で、アリスはなぜか嬉しそうにしている。お決まりの展開に喜んでいるような感じだろうか。あるいは新しいクイズだと思っているのかもしれない。

 

「うわーん、そういえばアリスは謎解きがあまり得意ではありませんでした!ユズのヘルプが欲しいです!」

「わ、私にも何が何だか……アル様に聞いた方がいいでしょうか……。」

「アルよりもカヨコのほうがこういうのは得意そうな気がするけどなぁ。」

 

 4人で私の掌の上の球体を囲んで頭をひねっていると、突如どこからか爆発音がした。しかも結構近い。

 

「何事!?!?」

「お、ついに釣れたみたいじゃん?」

「ふふ、ふふふ……全部、先生の物を盗むなんてことをする人は全部消えてしまえば……。」

 

 咄嗟に伏せて様子をうかがう私とは裏腹に3人は平然としている。どころか、不敵な笑みを浮かべているような。

 そんな一方で、爆音は二度、三度と続く。キヴォトスに来てから数えきれないほど経験した、それでもやはり慣れない独特の振動が伝わってくる。やがて爆発はこちらに近づいてくる。

 そしてついに、硝煙の中から人影が浮かび上がる。だが、すでにアリスが光の剣:スーパーノヴァを構えていつでも発射できる状態になっている。果たして、煙の中から飛び出した人影は。

 

「い、今です!アリスさん!」

「はい!光よ―――!」

「ちょ、そっちは居住区が――――」

「うわあああああああああ今度は何ですかあああああああ!!!」

 

 哀れ、シャーレの壁ごとレールガンに吹き飛ばされることになったのだった。

 

 

 

 少し時はさかのぼる。

 

「あぁもう、なんで起こしてくれなかったのよカヨコ!?」

「社長、それもう5回は答えたでしょ……。起こしたけど起きなかったんだよ。」

「そうはいったって、先生にだらしのない女、ひいては便利屋が頼りない企業に思われちゃうじゃない!?」

 

 盛大に寝坊したアルが、身支度を終えカヨコとシャーレオフィスに向かっていた。

 

「それにしてもなんかやけに静かね。今日はシャーレの当番の生徒はいないのかしら。」

「今日はレッドウィンターの生徒の予定だったらしいけど、来てないってことはまた何かあったんじゃないかな。クーデターとか。」

「クーデターってそんな、なんかあったですませていいものではないでしょう!?」

 

 自分たちの会話と足音以外何も音のしない静かな、そしてなぜか無駄に長い廊下を歩いていく二人。

 

「ということは、シャーレの中には私たち以外誰もいないのかしら。普段とはえらい違いね。」

「まあそうだろうね。レッドウィンターの戦力は軒並みクーデターの鎮圧に回してるだろうし。」

「まっ。そんなの関係ないけどね!」

「寝坊した割には上機嫌だね社長。」

「うっ、それを言わないでちょうだい!……ふふ、誰もいないなら調査もはかどるというもの!調査が終わればみんなでおいしいものも食べに行けるし、アリスちゃんもハルカも頑張ってたわ。私も頑張って寝坊した分を取り返さなくちゃ!」

 

 そんなとりとめない会話をしながら歩を進めていると、爆音が聞こえてくる。そして、二つの人影が目に飛び込んできた。

 

「コユキ、見つけ……って、便利屋68!?どうしてシャーレにあなたたちがいるのよ!?」

「そういえばユウカちゃんには先生が便利屋の皆さんに依頼しているというお話を伝え忘れてましたね。……てへ。」

「てへ、じゃないわよノア!?」

 

 カヨコにとっては少し前の一連の大事変で共同戦線を張ったセミナーの二人だった。誰かを探しているようだ。

 

「セミナーの二人ですか。お久しぶりです。」

「セミナーってことはミレニアムのトップじゃない!ふふ、初めまして、私は便利屋68の社長、陸八魔アルよ。便利屋の名の通り、どんな依頼でも受けるわ!何かあれば、ぜひ相談してちょうだい!」

 

 アルがその場で外行きの顔を作り上げ、売り込みのために一歩前に出る。

 そして。

 アルは、光に呑まれた。

 

「……何してんの、社長。」

「くっ……。」

 

 壁を突き破ってきた光の剣:スーパーノヴァが、ちょうど一歩前に出ていたアルを直撃したのだ。その余波でアルのワインレッド・アドマイヤ―は遠くに吹き飛ばされてしまう。

 煙が晴れてくると、アルと同様にアリスの砲撃に呑まれた本来の標的が近くに吹き飛ばされてきたのが見えるようになる。アルは、これまでの計画から、その相手こそが今回の事件の黒幕だと判断した。だが、生憎と彼女の銃は遠くに吹き飛ばされてしまっている。偶然とはいえ光の剣;スーパーノヴァの一撃に巻き込まれたダメージは大きく、すぐに取って撃つということはできそうにない。

 その時、アルの目に、カヨコの愛銃であるデモンズロアが映った。カヨコは巻き込まれなかったようだが、立っていたのはすぐ近く。その余波で銃だけが飛ばされていたようだ。

 アルはがむしゃらにデモンズロアをつかみ取り、立ち上がり逃げようとする相手に向け引き金を引く。

 

「あああぁぁああああ!」

 

 プス、プス、プスとサイレンサーを付けた銃特有の銃声が響き、そのうちの一発が当たったのか、相手は倒れた。たかが拳銃の一発とはいえ、相手はアリスの一撃が直撃している。蓄積していたダメージは相当なものだっただろう。

 

「ふ、何よ、結構当たるじゃないの……。」

「その、社長……大丈夫?」

「なんて声、出してるのよ、カヨコ……。」

「どちらかというと呆れてるんだけど……。」

 

 拳銃を構えた腕をゆっくりとさげ、無理やり不敵な顔を作るアル。そのまま、ゆっくりと立ち上がった。

 

「私は便利屋68の社長、陸八魔アルよ……これくらいどうってことはないわ……。それに、トドメは私の仕事よ。」

「いや、知ってるけど……。」

「いいから早く犯人の確保よ。先生が待ってるんだから。それに、私は倒れないわ。あなたたちが倒れない限り、私はその先にいる。だから、あなたたちも―――」

 

 2,3歩進んだアルだったが、そこで言葉とは裏腹にばたりと倒れてしまう。しかし、その腕は仕事をまっとうすべく、犯人のほうへと伸ばされていた。

 

「倒れるんじゃ、ないわy―――」

「犯人、確保です!あれ、ユウカにノア先輩、こんにちは!」

 

 気絶する前の最後のセリフは、ぶち破った壁を走ってきたアリスに遮られた。あとからは、ムツキ、ハルカ、先生も続く。そして、アリスと便利屋、そしてセミナーによって、気を失ったコユキは確保されたのだった。

 

 

 

「ということで、コユキがセミナーの債権を勝手に発行した分を埋め合わせしようと、先生のちょっとした私物を盗って売りさばいていたみたいです。しかも結構な額になったとかなんとか……。」

 

 あれから数日後。シャーレの応急処置とコユキの取り調べが一通り終わって、ユウカからことの顛末の説明を受けていた。本来は依頼を受けた便利屋が説明するべきなのかもしれないが、コユキの犯行だったこともあってセミナーのほうが適しているだろうとユウカが自ら名乗り出たのだ。

 

「まだいくつか売れてなかったものがあったものの、それらの在り処を聞いて捜索してみたところ何もなくってですね。代わりに変わったカードがありました。噂に聞く慈愛の怪盗が使っていたカードに似ていますが……、まったくな舐められたものです。そんなちょっとしたものを慈愛の怪盗がわざわざ盗みに来ることはないでしょうに。」

「ま、まぁまぁ。ほら、コユキにはもう嘘つく理由もないだろうし、慈愛の怪盗ではなくても誰かに盗られた可能性はあるんじゃないかな……。」

「まあそうですね。それを探そうとしてもかなり骨が折れそうですし、先生にとっても重要なものではないということですからミレニアムから補填させていただく形にしようと思います。」

 

 そこで彼女は一息ついて、視線を移動させる。その先には。

 

「ところで、これどうするんですか……?」

「どうしようかね……。」

 

ベニヤ板でふさぐという応急処置は施したものの、すっかり様変わりを果たしてしまったシャーレの壁があった。

 

「修理費自体は経費ということでリンちゃんとアオイ……連邦生徒会のほうに申請はしたから怒られはするだろうけど何とかなるんじゃないかな……。」

「アリスちゃんの暴走といえば暴走なのでこちらから出せればいいんですけど、知っての通りセミナーも余裕があるわけではありませんし、その分ゲーム部の予算を削るのも他のメンバーに悪いですし……。来季の予算と引き換えにエンジニア部にお願いしてみることならできるかもしれません。」

「いや、いいよ、さすがに悪いし。」

 

 ふたりしてため息をつく。

 

「そういえば先生、今度アリスちゃんが見つかった遺跡を調査することになったんですよ。」

「大丈夫なの?この前の大事変もあったし、場所も場所だし……。」

「ミレニアムは学生が多いので、その辺は大丈夫です。一応トキも加わったC&Cが警護についてくれることになってますし。それに、私たちはミレニアムですから……興味を持った生徒たちからの不満もありましたし、勝手に調査に行かれるよりは安全かと。」

「なるほどね。C&Cがついてくれるなら安心かな。」

「もし興味があれば、同行しますか?」

「しばらくは忙しそうだからねぇ……。調査の結果が出たら聞きに行くかも。」

 

 山積みになっている仕事を思い出してしまい、再びため息をつく。……どこかに仕事手伝ってくれて疲れたときに甘えさせてくれて可愛くて器量のいい癒しの塊みたいな彼女いないかなぁ……いなよなぁ……いても私には目もくれないよなぁ……。

そこで、風通りの良くなったシャーレに新たな来客があった。

 

「先生先生、ちょっとお時間いただきます!お昼ご飯を食べに行きましょう!」

「ちょっとアリスちゃん、そんな慌てなくても先生は逃げないわよ!?」

 

 アリスと便利屋の面々だった。

 

「あらアリスちゃん、アルバイトは終わったの?」

「ユウカもいたんですね!今回のアルバイトは終わりました、アリスはまた普通の勇者に戻ります!ですが、経験値は消えません。またいつでも戻った時に、レベルが上がった状態で再開することができます!」

「そう、よかったわね。」

「そうだ、ユウカも一緒にお昼を食べに行きましょう!今回はアリスを含めた便利屋がご馳走します!」

「へぇ、じゃあお言葉に甘えようかしら。ね、先生も行きましょう?」

「そうだね、せっかくだからごちそうになるとしようかな。」

 

 せっかく愛しの生徒が頑張ってご馳走してくれるというのだ。嫌なことは忘れて、楽しんだほうがお互い良いだろう。

 そして、6人でちょっと豪勢なランチを楽しんだのだった。ちなみに、ちゃんとこっそりお代分はアルのサイフに差し込んでおいた。




ブルアカ処女作読んでいただいてありがとうございました!
便利屋のみんなは本当に楽しそうでいいですよね。なお再現できるとは言っていない。くもたろーとしての処女作はウマ娘のアグネスタキオンSSなので、ブルアカ過去作の爆撃が終わったらウマ娘の方も上げようかなと思っています。とりあえず、明日は試しに書いた曇らせ(?)短編を上げる予定です。この作者は基本曇らせは好まないので本当に試しに書いただけですが、読んでどう感じたか素直な感想もらえたら嬉しいです。
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