空女の恋は三角はんぺん   作:よしだひろ

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 美玲達はみんなで焼肉に行く事になった。そのお店で更に何処かへ出かけようと言う話に。


その三

 悠人は次の講義が始まるので早めに教室に入っていた。見ると隆がいたので隣に座った。

「よ! 悠人。今日も元気そうだな」

「なあ隆。お前はサークルとかに入ってないから先輩付き合いとかないよな」

「まあな。でもバイト先とかにも先輩はいるぜ」

「うん。実は空研に三年のヨーコ先輩っているんだよ。その先輩がやたらと絡んで来るんだ」

「ほーほー。モテモテな事で」

 隆は悠人を茶化したが悠人は構わず話を続けた。

「たった二年しか違わないのに、大学生ってのはそんな積極的に変わるもんかね?」

「バーカ。それは歳の差の問題じゃなくて個人の性格の問題だろ。そんなに積極的なら付き合っちゃえよ。あ、お前には松岡がいたか」

「何でそうなるんだよ」

「先輩を選ぶか同級生を選ぶか、悩ましい問題だなぁ。ああ羨ましい」

 悠人はヨーコが積極的に接してくるので戸惑っていた。戸惑うと言うのは裏を返せばヨーコの事が好きなのではない。もっと言えば美玲の事が好きなのだが、悠人自身それに気付かずにいた。

「なあ、今度焼肉でも行かないか?」

「お、良いねぇ」

「松岡とそのヨーコ先輩も誘えよ」

「え? 何でそうなる」

「サシで焼肉行っても盛り上がらんだろ? 女っ気があった方がいい」

 隆はヨーコ先輩と美玲の前で悠人がタジタジになるのが楽しみだっただけだ。

「いいか、二人とも誘えよ。これは命令だ」

 その日の講義が終わって美玲は空研の部室にやってきた。それを見つけてヨーコが美玲を手招きした。

「ヨーコ先輩お疲れ様です」

「ねえ、miiちゃん。唐突なんだけど今度焼肉でも行かない?」

「ホント唐突ですね。でも良いかも」

「そうよね。じゃあ翼君も誘って行きましょう!」

「え? 翼君も?」

「うん。彼、私が色々話しかけたり誘ったりしてもなーんか塩対応なのよね。でもmiiちゃんがいる時は柔らかいのよ。だから、三人で行きましょう」

「は、はぁ……」

 美玲は嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちだった。

「ほら、何してるの?」

「え?」

「そうと決まったら翼君にすぐ連絡!」

「は、はい」

 美玲はスマホを取り出して悠人に個別メッセージを送った。すぐに既読になったのだが、返事は来なかった。

 何か嫌な思いをさせてしまったのかと美玲は不安になった。

 程なくして悠人が空研の部室に現れた。美玲は何か気まずかった。そんな気持ちお構いなくヨーコが悠人を呼んだ。

「翼君、翼君。miiちゃんからのメッセージ読んだ?」

「その事なんですけど」

 悠人が申し訳なさそうに切り出すので、二人はてっきり断られるのかと思った。しかし悠人は隆の事を切り出した。

「メッセージもらう前に同級生の隆と焼肉行く約束しちゃったんですよ。で、良かったらなんですが、四人で焼肉行きませんか?」

「ちょっと予定と違うけど、まいっか」

「どこの焼肉屋に行きますか?」

「稲毛のモーモー横丁ってとこなら知ってますよ」

 と言う事でみんなは焼肉に行く事になった。

     *

 焼肉当日。美玲は西千葉駅のホームで待っていた。電車がホームに滑り込んできて止まる。すると車内から顔だけ出して隆が呼んだ。

「松岡! 早く早く」

 美玲は慌てて電車に乗った。中には悠人も一緒だった。

「ヨーコ先輩、改札に着いたって」

 電車は走り出しすぐに隣の稲毛駅に着いた。改札へ向かうとヨーコの方が先に気付いて手を振った。

「ヨーコ先輩お疲れ様です」

「土曜の夕方でも人多いのね」

 稲毛駅は買い物客が多くいた。また飲み屋街もあってお酒を飲みに来る人も多いようだった。

「モーモー横丁はどこにあるんだ?」

「海側の、すぐそこです」

 悠人は前に立って歩き出した。稲毛駅の海側はロータリーになっていてバス停がいくつも建っていた。そこから脇道に入る道があった。悠人はそこを入った。

「ここです。ここの二階です」

脇道に入るとすぐ目の前にビルがあり、そこの二階が焼肉屋だった。悠人は慣れたように階段を昇っていき店に入った。

 元気のいい声で店員が挨拶してくる。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「四人なんですが入れますか?」

 ざっと店内を見渡すとまだ時間が早いのかお客はいなかった。店員はみんなを窓際の個室に案内した。

 席に着くと隆が言った。

「ヨーコ先輩。改めまして中野隆です。悠人がいつもお世話になってます」

「よろしくね。所で何から食べる?」

 パラパラとメニューをめくる。お酒のページに来た時ヨーコが言った。

「あ、私飲むけどいい?」

「どうぞ。僕ら未成年なので飲めませんけど大丈夫ですよ」

 店員を呼んでオーダーを済ませると、取り敢えず無言になった。隆が我慢しきれずに言った。

「ヨーコ先輩。悠人の奴はサークルではちゃんとやってますか?」

「翼君は飛行機関連の知識も豊富だし顔もイケメンだし問題なしよ」

「僕もイケメンでしょ?」

「早くお肉来ないかなぁ」

 先に来たのはアルコールとその他の飲み物だった。

「とにかく乾杯しましょ」

 みんなはグラスを合わせて乾杯した。雑談を続けてると肉が運ばれてきて、みんなは飛びついた。

 最初のうちはほぼ無言で肉を頬張っていた。お腹が落ち着いてくるとみんなのんびりペースに落として食べ始める。

 意外と隆のノリがヨーコに受け入れられて会話は弾んでいった。

「ねーねー、翼君。今度どっかに遊びに行かない?」

 明らかに悠人個人に向けてヨーコは誘った。しかしそれに気付かずに隆が乗ってきた。

「良いですね。どっかドライブしましょう」

 ヨーコは一瞬隆を睨みそうになったが、ドライブと聞いて目が輝いた。

「良い事言うわね。ドライブしましょう」

「でも誰か車持ってるんですか?」

 隆が手を挙げた。

「俺、免許なら持ってます」

 するとヨーコも言った。

「免許なら私も持ってるわよ」

 悠人と美玲は免許を持っていない。一瞬沈黙が包む。肉の脂が滴り落ちて網の上がぼうっと炎に包まれる。

 ヨーコは特にリアクションもなくトングで氷を掴むとその火の中に氷を置いて火を消した。

「ならさ、レンタカーで行こうぜ。料金も割り勘で計算しやすいだろ?」

「そうね。レンタカーが良いわね。問題はどこへ行くかね」

「チバニアンはどうですか?」

「却下」

 チバニアンとは地質時代区分の一つで、千葉県市原市でその地層を見る事が出来る。地質学的には貴重なもののようなのだが素人には単なる地層にしか見えず、観光としての力は弱い。

 悠人は美玲に聞いてみた。

「miiは行きたい所ないのか?」

「私はみんなと一緒なら楽しいけど、一度豊の丘海水浴場に行ってみたいな」

「海水浴場? 泳ぐにはちょっと早いぜ」

「違うのよ……」

 美玲は豊の丘海水浴場の事を説明した。豊の丘海水浴場は南房総市にある浜辺で、砂浜も比較的綺麗な海水浴場だ。なにより、浜辺から沖に向かって伸びる白い桟橋が綺麗な所だ。木で出来たその桟橋には等間隔で街灯が建てられていてノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

「水の色も青くて綺麗なんだけど、そこに突き出た桟橋がやっぱり素敵なのよ」

「いいねぇ。そこ行ってみよう」

「翼君はどこか行きたい所ないの?」

 悠人はスマホを取り出して検索し始めた。それを見てヨーコもスマホで検索し始めた。

「千葉県最南端にある野島崎灯台はどうですか? 何か面白いベンチもありますよ」

 悠人はそう言ってスマホの画面をみんなに見せた。そこには高い岩の上に置いてある白いベンチが写っていた。

「何これオシャレ」

「何で岩の上なんだ?」

「空が晴れてるから青い空に白いベンチが映えますね」

 悠人は詳しい場所を調べてみた。千葉県の最南端だけあって、高速道路などは繋がっていなかった。

「結構遠いなあ。地図アプリで見たら千葉から一時間半くらいだ」

「一時間半ならそんなに問題はないんじゃないのか? トイレ休憩とか挟んでもそんなに時間はかからないよ」

 悠人は車を運転しないのでその感覚がよく分からなかった。車好きの人にとっては一時間半くらいは苦にならないのだろう。

「行ってみて疲れるようなら中止すれば良いんじゃない?」

 スマホを検索しながらヨーコが言った。

「それもそうですね。じゃあその灯台にも行ってみよう」

 ヨーコは何かを発見して言った。

「ねえ。木更津に有名な歩道橋があるらしいわよ。日本一の高さなんだって」

「へえ。日本一高い歩道橋かぁ。気になるなぁ」

「でしょ? 中島橋って呼ばれてるんだって。中島公園ってとこがあって、その公園港に隣接してるみたいなんだけど、公園の向こうに中島って言う小さな島があるみたい。公園とその島を繋ぐ橋みたいだよ」

「そこも行きましょう」

 隆はすぐさまドライブのルートを考えた。

「じゃあ、当日は最初に最南端の灯台へ行こう。その後昼ごはんを食べつつ海沿いを北上。松岡が言った海水浴場へ行き更に北上。最後に木更津の日本一の橋だ。それでいいか?」

「まあ良いんじゃない?」

「僕は車の事はよく分からないから任せるよ」

「私も右に同じ」

「じゃあそれで決まりだな」

「楽しみねー」

 ヨーコはご機嫌になって残っている肉を焼き始めた。実は中島橋には一つの都市伝説がある。その橋を男の人が女の人をおんぶして一回も下さずに渡り切るとその二人は結ばれると言うものだ。

 ヨーコは当日絶対悠人におんぶしてもらうつもりでいた。

     *

 美玲は茨城空港以来姿を見せない正樹のことが気になっていた。あの時の言葉で正樹を怒らせてしまったのだろうか。

 本来なら正樹が姿を見せない方が良いのだが、美玲はどこか引っかかるものがあった。

 美玲は悠人にそれとなく確認してみようと、個別メッセージを送ってみた。

"前に記憶がなくなる事があるって言ってたけど今でもあるの?"

 すぐに返事は来なかった。美玲は課題を進めながら返事を待った。

"ああ、あのことか。今でもあるんだ。大抵は家の中で起きるんだけど時々外にいる時にも起こるよ。どうして?"

"ううん。何でもないの。大学に入って環境変わったから治ってたら良いなって思っただけ。ドライブ楽しみだね"

"そっか。ありがとうな。ドライブ楽しみだな"

 どうやら正樹は今でも現れているようだ。しかし美玲の前には現れない。これはどう言うことなのだろう。

 美玲は考えがまとまらなかった。気晴らしにカマヨに連絡してみた。

"この前話してたカラオケに行く件、行ってきたよ。でもその後何でか分からないけど会ってないの。怒らせちゃったのかも"

 カマヨからはすぐに返事が来た。

"もう、連絡来ないから心配してたのよ。私の方が怒ってるわよ。ゲイを怒らせると怖いわよ"

"ごめん、ごめん"

"で何? いきなり怒らせちゃったわけ?"

"その人凄く押しが強くてなんだか戸惑っちゃって"

 カマヨからの返事が一旦途切れた。カマヨはこの時間ゲイバーで働いてるからお客さんでも入ってきたのだろうと美玲は思った。

 数時間後、美玲が寝ようと思いベッドに入った時、カマヨからの返信が来た。

"ごめんねー。お客さんが来ちゃって。で、どうするの? その押しが強い人とは付き合わないつもり?"

"付き合わないよー。初めからそのつもりだもん"

"何でよー。付き合っちゃえばいいのに"

"その人とはあれ以来会ってないし他の友達と遊びに行く約束とかしてるし"

"mii。二股は良くないぞ"

 何で二股になるんだろうと美玲は思った。

"二股じゃないでしょ! 私誰とも付き合ってないよ"

"ねえ、mii。あなた本当は誰が好きなの?"

 美玲はそれを読んで鼓動が高鳴った。一瞬悠人の顔が浮かんだ。しかし美玲はそれを受け入れてはいなかった。

"好きな人なんていないよー"

"mii。自分の気持ちは自分でしっかり把握してないとダメだぞ。じゃないと幸せ掴めないぞ"

 自分の気持ち。美玲はカマヨに言われて納得した。しかし今は素直にはなれなかった。

"ありがとう、カマヨ。今夜は寝るね。お休みー"

 カマヨはスタンプを送信してきた。バナナマンのキャラがコントをやっているスタンプのようだ。『お会計して下さい』と書かれていた。

     *

ドライブに行く日の前日。美玲は学内で悠人を見つけて駆け寄った。

「翼君おはよー」

「おう、miiか。おはよう」

「ねえ、ちょっと相談したい事があるんだけど」

 美玲は正樹のことを話してみるつもりだった。但しあくまでも自分の友達として。絶対に悠人の別人格だとバレないように。

 正樹は悠人が覚醒している時でも悠人の目を通してこの世界を感じていると言っていた。だから悠人に話せば正樹にも伝わると考えたのだった。

「実は正樹君って言う友達がいるんだけど、彼の事どうやら怒らせてしまったようなのよ」

 美玲は正樹とはNicoFace上の友達だと説明を付け加えた。嘘はついてないよねと納得させた。

「何で怒らせたんだよ」

「それがよく分からなくて困ってるの。ちゃんと謝りたいんだけど」

 悠人は少し考え込んだ。腕組みをして頭を捻った。

「一度ちゃんと謝る以外方法はないな。誠意が大事だよ。気持ちをちゃんと伝えた方が良い」

「私も伝えたいのはやまやまなんだけどね……」

 悠人はその言葉に若干の違和感を覚えた。

「あ、そろそろ講義が始まっちゃう。翼君ありがとね」

 美玲は軽く手を振って立ち去った。悠人は腕時計を見て自分も講義が始まると慌てて駆け出した。

     *

 ドライブ当日。隆はレンタカーを借りて集合場所の大学正門前につけた。みんな既に揃っていた。

「ヨーコ先輩、運転手の補助で助手席に座って下さいよ」

「え? 私は翼君の隣が良かったんだけど……まあ仕方ないか」

 基本的に隆が運転して後半をヨーコが運転する手はずになった。穴川インターまでは比較的スムーズに行けた。そこから高速に乗り野島崎の灯台を目指した。

 途中何度かサービスエリアなどに止まり休憩をして、だいたい二時間くらいで野島崎に着いた。

 空は快晴で青空だ。白い灯台が綺麗に見えた。

「でもイメージしてたのより小さい感じだなぁ」

「ヨーコ先輩。あっちに飛び魚のモニュメントがありますよ」

 飛び魚のモニュメントの方へ向かって道が続いていた。

「そっちが遊歩道のようね」

 みんなは遊歩道に沿って歩いて行った。遊歩道は海沿いを歩いてゆく。灯台は少し高い土地になっている。

「この辺は磯なのね。岩がゴツゴツしてるわ」

 少し風が強いのか、波が岩に当たって砕けている。遊歩道は海辺を灯台を迂回するように伸びていた。

 五分ほど歩いた所に一際大きな岩が横たわっていた。その岩の上に白いベンチが置いてあった。

「アレじゃないか?」

「ホントだ。何か不思議な光景」

 その岩の高さは二メートル以上ありそうだ。

「あのベンチに座るにはここを登らないとな」

 すると美玲は登れそうな所を見つけて一歩一歩慎重に踏み出しながら登って行った。

「おいおい、大丈夫か?」

「うん、意外と難しくないよ」

 みんなは美玲が通った後に続いて岩を登って行った。岩の上はちょうど四人が立つと一杯になるくらいの広さだった。

 風が強く吹き抜けていく。眼下に見える波打ち際では岩に波が砕けていた。

「何でこんな所にベンチが置いてあるんですかね?」

「二人がけだし恋人専用って事だろ?」

 するとヨーコがササっとベンチに座った。そして空いている所を手で叩いて言った。

「ほら、翼君も座って」

 隆は冗談まじりに言った。

「何で俺じゃないんですか?」

「いいからいいから」

 悠人は言われるままにヨーコの隣に座った。美玲は気持ちがモヤっとした。

「こうしてると恋人みたいよねー。ねえ隆君。写真撮ってよ」

「証拠写真撮っちゃっていいんですかぁ?」

 隆はヨーコからスマホを受け取るとカメラを二人に向けた。ヨーコは徐ろに悠人の肩に自分の頭をもたれかけた。

「ちょ、ちょっと先輩」

「いいからいいから」

「よし、撮るぞー」

 隆は連写して写真を撮った。

「何で連写なんだよ」

 美玲は何故かいてもたってもいられなくなって、自分のスマホを取り出した。

「先輩! 誰もいないベンチの写真撮りたいのでちょっと一旦退いてもらえますか!」

「え、いいけど」

 ヨーコと悠人はベンチから立ち上がった。美玲は写真をさまざまな角度から撮った。

「ほら、そこどいて翼君!」

「な、なんだよ。無理矢理だなぁ」

 一通りべンチを楽しむと隆が言った。

「駐車場の周りに食べ物屋、てか食堂があっただろ? 何か食べていくか?」

     *

 豊の丘海水浴場は中々見つからなかった。道の横には海水浴場を指し示す看板がいくつか出ているのだが、何故か豊の丘海水浴場の看板は見つからない。

「この辺だよなぁ」

 ゆっくりと車を走らせる。助手席に座っているヨーコが看板を見つけた。

「これね。この小道を入るみたいよ」

 その道はとても狭く対向車が来たらすれ違えない道だった。

「ここでいいんですかね? 何か不安しかないんですが」

 隆はゆっくりと車を走らせた。するとすぐに海辺に出た。道は開けて小さな広場に繋がっていた。その広場に車が一台停まっている。

 美玲は浜辺から海に伸びる桟橋を見つけて、ここが自分の来たかった豊の丘海水浴場だと確信した。

「ここに間違い無いみたい」

「車が駐車してるって事はこの広場は駐車場かな?」

 隆は駐車してあった車の隣に車を停止させた。車を降りるとみんなは白い砂浜に出てみた。

「綺麗な砂浜ねー」

「海も青くて綺麗ですよ」

 そして何より海に突き出している桟橋のインパクトが大きかった。桟橋の床はウッドデッキになっていて風化しているが白で統一されている。その桟橋の左側には等間隔で街灯が建っている。裸電球に古びたホーロー製の傘がノスタルジックだ。

 美玲は写真を何枚も撮った。青い空、三角波が立つ海に白い砂浜。そこから伸びる白い桟橋が不思議な空間を作り出していた。

「ここいい所だな」

「素敵ね。気に入っちゃった」

 離れたところから写真を撮っている美玲に近付いて悠人は美玲に話しかけた。

「mii。こんな素敵な場所よく知ってたな」

「ファッション雑誌に載ってた広告の背景だったのよ。場所が書かれてなかったからネットで調べたらここだったの」

「なるほどね」

 遠くから隆が呼んだ。

「桟橋を渡ってみるぞー!」

「おお! 今行くー」

 隆とヨーコは桟橋を渡って行った。少し遅れて美玲と悠人も渡って行った。

 ウッドデッキは作られた時は白いペンキで塗られていたのだろう事は分かった。海水や潮風に晒されてペンキが剥がれたり木が崩れてたりしていた。

 等間隔で街灯が建てられているのだが、昼間なので当然点いてはいない。

「その雑誌の広告は夕暮れ時だったから、この街灯が点いてたんだよ」

「ほおー。幻想的だろうな」

「うん。不思議な写真だったよ」

 桟橋の先端に立ったヨーコは先端から海を覗いていた。

「海の水の色が更に青くなってるよー」

 確かに浜辺付近の色よりも濃い青色をしていた。桟橋の先端から見る浜辺も素敵な雰囲気だった。

「mii、実際にここへ来て良かったか?」

「うん!」

「そっか。じゃあまた来ような」

 美玲は耳を疑った。それはどう言う意味なのか。美玲は悠人の方を見た。しかしその会話が聞こえていたのか聞こえていなかったのか、絶妙なタイミングでヨーコが言った。

「ねえ、集合写真撮りましょう」

     *

 隆は赤い歩道橋を見上げて驚いていた。

「ほえー。これが日本一かあ」

 中島公園の駐車場の隣に中島橋がどでかく存在感を出して建っていた。橋は赤い色だった。

「歩道橋って聞いてたから階段で昇るのかと思ってたけど……」

 歩道橋の高さが余りにも高いせいなのだろう、歩道橋の端はスロープが何回か折り返している作りになっている。

 みんなはゾロゾロと歩き出した。そこでヨーコが言った。

「この歩道橋。おんぶして渡った二人は結ばれるんだって」

「ここをおんぶして渡るのは辛そうですね」

「ねえ翼君。おんぶして!」

 悠人は露骨に驚いてみせて言った。

「えー。正直に言って良いですか?」

「ダメ! もうその時点で答えになってるから」

「お二人の漫才も段々板に付いてきましたね」

「漫才じゃ無い!」

 再びみんなはゾロゾロ橋に向かって歩き始めた。美玲は豊の丘海水浴場で言われたことをずっと考えていた。

 スロープは最初は急な感じはしなかった。しかし見た目以上に勾配がきついようだ。昇るにつれ段々息が上がっていく。

 最後の折り返しを折り返すと、橋の頂上が見えた。しかし折り返しの地点から橋の頂上に向けて更に勾配が続いていた。堪らず隆が言った。

「えー! まだ昇るの!?」

「おんぶしてなんて渡れなかったですよ」

「はぁはぁ、ホントね。おんぶしてもらってたら楽出来たのに」

 ヨーコは息を切らしてその場にしゃがみ込んだ。隆も足を放り投げて座ってしまった。その横を小声でブツブツ言いながら美玲が歩いて行った。

「松岡。まだ歩けるのか?」

 しかしそれが聞こえていないかのように美玲はその言葉をスルーして坂を昇って行った。

「おいおい。団体行動を乱すやつだなぁ」

 隆はスルーされた事は気にも止めず、息を整えていた。悠人は美玲の動きが変だなと思い後を追うことにした。

「悠人。お前も乱す側か?」

「疲れてるんだろ? 無理せずに先に車に戻っててくれ!」

「そうさせてもらうわー」

 美玲は疲れを全然見せずに、既に橋の頂上付近まで行っていた。悠人は小走りで美玲に追いついた。

「ちょっとそこ行くお姉ちゃん。集団行動乱してますよ」

 悠人は美玲の肩を叩いた。美玲はハッとして振り返った。

「え? あ、翼君」

「なんだなんだ? 無意識に歩いてたのか?」

「あれ? 先輩と隆君は?」

「疲れてリタイヤだよ」

 二人は惰性で反対側まで来ていた。

「先に車に戻ってると思うけど、ここまで来たら橋を渡り切ってみるか」

「う、うん」

 二人は特に会話もなく反対側のスロープを降りて行った。何回か折り返すと中島に着いた。

「反対側も広場になってるね」

「誰も人はいないけどな」

 それを聞いて美玲は悠人と二人きりの状態に顔が赤くなった。悠人と並んで立っていたが、美玲は半歩悠人から離れた。

 それに気付いた悠人は半歩美玲に近付いた。美玲は負けじと半歩離れる。

 近付く悠人、離れる美玲。それを何回か繰り返した時悠人が焦れて言った。

「何で離れるんだよ」

「何でもいいでしょ」

 そう言うと美玲は走って悠人から離れた。悠人は追いかける。

「体力使うと帰りが辛いぞ」

「え?」

 美玲は一瞬振り向いた。しかしその時足元の小石に気付かず踏んでしまい、バランスを崩して倒れてしまった。

 慌てて悠人が駆け寄ってきた。

「危ないやつだなぁ、ほら」

 悠人が手を差し出した。

「かたじけない」

 美玲はそれに掴まって立ち上がったのだが、足首に激痛が走った。思わずよろけて悠人に抱きついてしまった。

「痛っ!」

「おい、大丈夫か? どこか痛めたのか?」

「足首を捻っちゃったみたい。イタタ」

 悠人は美玲に背中を向けてしゃがみ込んだ。

「ほれ、仕方ない。おぶってやるから乗れ」

「え?」

 美玲は躊躇った。

「その足じゃあの歩道橋を昇るのは無理だ」

「で、でも」

「いいから乗れって。恥ずかしがる歳じゃあるまいし」

 恥ずかしがる年頃真っ只中だと思った。しかし美玲は確かにこの足じゃ歩けないと納得した。

 美玲は体重を気にして少し不安だったが悠人は軽々と立ち上がった。

 橋の頂上まで特に何も会話もせずに昇ってきたが、頂上まで来て悠人は流石に息を切らしていた。

「重い……」

「ごめん」

「冗談だよ。笑えばいいんだよ」

 美玲は少し気が軽くなった。そこからは下りだ。悠人は息を切らしながら坂を降りて行った。

 最後の折り返しを回ってあと少しで地上に戻る時、再び悠人が口を開いた。

「Bカップだな」

 美玲は胸の事を言われたんだとすぐに気付いた。それまで悠人の肩から前に回していた手を胸に持って行った。

「図星か?」

「図星じゃないよ!」

 美玲は悠人の後頭部をポカポカ叩いた。

「あ、よせ。コラ!」

 歩道橋は駐車場に隣接しているので、車の外で待機していた隆が悠人と美玲を見て飛んでやってきた。

「もう降りるー! 降ろせー」

「おいおい、お前ら何やってんだよ」

「痛、痛。髪を引っ張るな!」

 悠人はそれでも美玲を下ろさずに車に向かって歩いて行った。歩きながら髪の毛を引っ張られながら隆に事情を説明した。

「それは仕方ないのかもしれないが、こんな所ヨーコ先輩に見つかったら大変だよ」

「?」

「丁度今トイレに行ってるから、今のうちに松岡を車に乗せよう」

 二人は美玲を支えて車の後席に乗せた。美玲は小声で言った。

「ありがとう……」

 悠人は美玲の横に座った。隆はヨーコがまだトイレから戻らないのを確認すると助手席に座った。

「まったくー。ヒヤヒヤさせるなよ」

 BカップじゃないのにBカップと言われて美玲はプンプンしていた。

 程なくしてヨーコが戻った。ここからはヨーコが運転するようだ。事情を説明するとヨーコは美玲の足を気遣ってくれた。

     *

 美玲はどうにも気持ちが治らなかった。胸の事を言われたぐらいで子供っぽいとも思った。自分の不注意で怪我して運んでもらって。その上小さな事で怒って。

 しかし恋人いない歴イコール年齢の美玲に取って、悠人が背中で美玲の胸の感触を味わっていたのがどうにも収められない感情になっていた。

 そんな時悠人が徐ろにスマホを取り出し何か操作を始めた。と、美玲のスマホが鳴った。NicoFaceの個別メッセージの着信音だ。

 美玲はスマホの画面を見た。するとそれは悠人からだった。

 何で隣にいるのに直接はなさないのよとイラッとしたが、黙ってメッセージを開いた。

"美玲久しぶり。悠人と喧嘩か?"

 美玲は驚いた。それは正樹からのメッセージだったのだ。悠人の顔を見ると満面の笑みで美玲に微笑んでいた。

"ご安心を。ちょっと気まずいだけよ"

"分かってないなぁ。悠人の奴は不安で一杯なんだよ。だからその隙を突いて俺が出て来れた。悠人の不安を取り除いてやってくれ。じゃあな"

 美玲は正樹の顔を見た。正樹は片手を頬の横に持ってきて、指を瞬いて見せた。するとそのまま眠ってしまった。

 一方的に会話を切られて美玲はオロオロした。しかも直ぐに悠人は目を覚ました。美玲は小さな声で言った。

「捻挫少し良くなったよ。ありがとうね」

「ん、ああ。良かったな」

 悠人の表情が柔らかくなった。




 暫く姿を見せていなかった正樹が突然現れて混乱する美玲。しかしこの時交わされたメッセージが思わぬ方向に向かってゆく。
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