シン・紺碧の艦隊 -ハーバーランド核要塞2020-   作:レイテンシー

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本作は、艦隊シリーズ、要塞シリーズのキャラ、設定と共に激動の2020年代を振り返る勘違い仮想戦記です。




第1話 転生、零和元年、ヴァルター機関

 

昭和18年4月18日、ブーゲンビル島上空で戦死した連合艦隊司令長官、山本五十六は旧姓、高野五十六として転生した。

 

時に西暦1989年、平盛元年1月8日のことである。どのような運命を持ってしてか、転生前、青年であった高野もまた海軍軍人を目指さんとしていた。

 

そして、後世日本に山本五十六という男は存在していなかった。しかし、その存在を無くしても前世とほぼ同じ歴史をたどり、その後も過去の行いを忘れたかのように繁栄していた後世日本に高野は失望した。

 

そんな高野は、ある男と出会い、未知なる未来へと歩み始める。

 

こうして海上自衛官、高野五十六は誕生した。

 

そして時は流れ、2019年、零和元年。日本が改元を果たしたこの年、世界は大きく動き始める。

 

 

シン・紺碧の艦隊

-ハーバーランド核要塞2020-

 

 

2019年5月1日

瀬戸内海

海上自衛隊 秘匿潜水艦「モビーディック」

前原3佐

 

「新機関は全くもって快調でありますな」

 

潜水艦乗りの鏡のような男から話しかけられる。

 

「あぁ、と言っても液体酸素より遥かに危険なのが過酸化水素だ。慎重になってなりすぎることはない」

 

わかっておりますよ、と豪快に笑いながら男は答える。

 

海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦は液体酸素を搭載していた。これは艦内への酸素供給や、水中における非大気依存機関としてディーゼル燃料の燃焼のために用いられている。主な用途は酸化剤としてであった。

 

話に挙がった過酸化水素は液体酸素よりも酸化剤として遥かに強力であるものの、取り扱いが非常に難しいため、通常、潜水艦で使用されることはない。

 

しかし、海上自衛隊の秘匿潜水艦「モビーディック」は、液体酸素の代わりに過酸化水素を搭載していた。

 

これはモビーディックを運用する兵にすら知らされていないが、高野が率いる団体がもたらした秘匿技術により、非常に安定した過酸化水素の運用に成功したためである。

 

ただし、その詳細は機密にも機密であるため、ここで記すことはできない。

 

酸化剤としての過酸化水素は液体酸素より遥かに強力であるため、それによってもたらされる大量の酸素を直接、機関に吹き付けることによって推進にも利用できる。つまりヴァルター機関である。

 

モビーディックは存在そのものが秘匿されているが、その存在を知るものの中でも表向きの理由は、新機関のテストとされていた。

 

この潜水艦は、そうりゅう型の次級となるたいげい型として建造される予定であった1隻を、3年前倒しで建造した潜水艦である。大まかな流れとしては、新機関をテストして良好であれば後期型として採用、悪ければ機関を撤去して従来通り竣工という手筈であった。

 

このテスト期間を主に高野を代表とすると一派が取り仕切っている。つまり高野が自由に使える手駒である。

 

「しかし、高野海将補も随分と豪勢な事をしますな。如何に世界のどこにもない技術を用いた機関とはいえ、1隻まるごと秘密裏に建造するとは」

 

事情通の最先任が話を続ける。潜水艦の良いところはどれだけ秘密の会話をしても、外部から聞かれることがないことだ。

 

潜水艦乗りとしては機密に類する会議などは潜水艦の中でやれば絶対に漏れる心配がないのに、と思う。なぜなら、この世には潜水艦以上に外に漏れる音を気にかけている環境が存在しないからだ。

 

ただ何気ない提案に対して高野からは、そりゃ匂いの方が気になるだろう、と何気に傷つくことを言われた。

 

「最初は帳簿上、存在しない艦隊を丸ごと一つ作りたかったらしい」

 

それはなんとも、と歴戦の部下から反応が返る。もちろん節度を持ってであるが、多少、踏み込んだ話も部下としておくと信頼関係が築ける。優秀な部下は、優秀であるが故に情報に飢えているのだ。

 

ここからは技術ではなくて金の話だ。

 

かなりのどんぶり勘定だが、現代では艦隊を作る費用というのは、何兆円の単位になる。それも建造費だけでだ。

 

上を見れば、アメリカ合衆国海軍、空母機動部隊を一揃えするのに5兆円程度必要になると考えて貰えばいいだろう。海上自衛隊の護衛艦群で一つ1兆円いかないぐらいだ。

 

となれば、独立して戦力を保持できる艦隊を一つ所有するのに、最低で1兆円は確保したい。これだけの予算を秘密裏に生み出すことはできるだろうか?もちろん、できない。

 

高野から聞いた話によると、最初は、東京オリンピックの予算を削って捻出しようと考えていたらしい。具体的には、メイン会場の建て直しをやめる、金のかかる開会式を盆踊り大会に変えるなどだ。

 

実現すれば最も貧乏くさいオリンピックの座は確実だろう。しかし、オリンピックの予算を減らしたら、差額が自分たちが艦隊を作るための予算として入る、というロジックを組むことができなかったので断念した。

 

当たり前だろう。それに前原としてはオリンピックぐらい派手にやって欲しいと考えていた。そもそもオリンピック関連予算は全体で1.5兆円程度だ。その中でどれだけケチっても到底、艦隊を作る予算にはならない。

 

後世、それも失われた30年の最中にある日本において、戦艦大和に匹敵する予算源は存在していなかった。バブル期においてはまだ何とかなったかもしれない、しかしその時、高野はまだ駆け出しの士官だ。到底、何かを企める位置にいないのだ。

 

構想は縮小を余儀なくされた。結局、高野らが確保できた予算は、中野で半ばヤケクソで始めた「YMT56(フィフティーシックス)」という男性アイドルグループが予想よりヒットしたことによるものだった。

 

そのほかに手持ちの尖った技術群を使って色々、事業に手を出した。ただ大きく当たったのは、先ほどのアイドルグループぐらいである。

 

これらの予算でできるのは、新型潜水艦をちょっとの間、前借りすることだけであった。これでも前原としては、海上自衛隊という硬直した組織の中で、よくそんな芸当がこなせるな、と感心していた。

 

「この後の予定はあるんです?」

 

ベテラン海曹が尋ねる。

 

「しばらくは内海でテストだな。そのあとは高野さんの指示に従ってアチコチ行くことになる」

 

「モビーディックのままで、ですか?」

 

秘匿潜水艦のままで航海するのか?、と尋ねられている。それは、そうだろう。存在が秘密のまま旅をするのは何かと困難だ。

 

「いや、本艦は架空のそうりゅう型潜水艦、しんりゅう、として扱われるそうだ。諸々の手続きなどはそれで通すことになるな」

 

「シェンロン、ですか」

 

「しんりゅう、だよ」

 

この名前は少しだけ表に登場したため、自衛官の間で賞詞を7つ集めたら乗れる潜水艦として噂になった。

 

「まあ、次のテストに移ろう。いよいよヴァルタードライブだ」

 

単に酸化剤として酸素を供給するだけのモードから、過酸化水素から発生したガスを混合気としてタービンに供給して推力を発生させるモードへと切り替える。

 

ヴァルター機関の本領発揮であった。短時間ながら原子力潜水艦の水中速力と同程度の加速を得られる。

 

その分、危険度も段違いであるため、乗組員の間に緊張が走った。

 

これで機関が爆発したら今考えていることが、人生最後に考えていたことになるな、と前原は内心で思った。

 

なら、これまでの振り返りをしよう、となぜ自分が秘匿潜水艦に乗り込むことになったのか、それを振り返ることにした。

 

 

201x年3月1日

某所 貸会議室

前原海尉

 

「すまないな、前原君、こんなところで」

 

いえいえ、とお決まりの返事を返す。

 

「まあ、精鋭集団を自称していても、実態はこんなところだ」

 

貸会議室にありがちな安普請な椅子を引きながら高野が座る。

 

「そちらから声をかけてくれた、ということは紺碧会についてある程度知っていると考えても良いかな?」

 

「ですが、今一度、海佐から説明を受けたいと思い、参上しました」

 

あぁもちろんだ、と高野は頷く。外見のイメージと異なり、随分と温和な印象を受けた。

 

「紺碧会はただの私的な勉強会だ。表向きも裏向きも、だ。ただ世間の目が厳しいので、公式的にはラジコン愛好会として存在している」

 

だから基地の中では話し合いができないんだ、と高野は語った。軍人の私的な勉強会に対する世間の目は厳しい。施設の中で混みいった話をしてしまうと万が一、それが漏れた時に公的な企みとして扱われてしまう。

 

「最初の頃は泰山を貸し切って行っていたから、安い貸会議室でも豪華になったものだよ」

 

泰山は基地で行きつけの中華料理屋である。鳥の唐揚げが美味い。情報保全が今ほど厳しくなかった頃は、民官問わず店内を機密情報が飛び交っていた。

 

泰山のオヤジと仲良くなると定食の鳥の唐揚げを一つサービスしてくれる。飛行機マニアなので、それ関連の話が好きである。空自の方に店を出せばいいのに。

 

しかし中華料理屋のオヤジより、今大事なのは目の前の海佐だ。

 

高野海佐は経歴からして、明らかな変人であった。

 

まずはそのキャリアを「DASHの再評価」からスタートさせていた。DASHは70年代に米海軍と海自で採用された対潜ラジコンヘリである。厳密な定義はさておき、ドローンの時代を先取りしたような兵器であった。

 

詳しくは資料を当たってもらうことになるが、艦載兵装の歴史としては、大掛かりな有人ヘリコプターを標準装備にする前段階として、小規模で済む無人機で代用できないか試すために開発された。

 

結果はダメだった。評価としては、扱いづらく、よく落ちて、出来ることも少ない、という失敗兵器の烙印を押されたのだ。

 

しかし、この評価を下したのは米海軍で、海自ではそこまで悪い印象もなかった、という記録がある。ただ本家の米海軍がきっぱり運用をやめてしまったので海自もそれに追従した。

 

結果的に、汎用護衛艦にあっても結構なスペースを割いて有人ヘリコプターを標準装備する流れとなった。

 

当時の高野青年士官はこの流れに異を唱えた。と言っても有人ヘリコプターの搭載を否定したわけではない。何かとやれることが多い有人機はやはり便利だった。

 

しかし、無人ラジコンシステムを否定してしまうのも違うと訴えたのである。いくら有人機が大きいと言っても、そのスペースにも限界がある。高野士官は、将来的な任務の複雑化にあっては、仮に大型の有人ヘリコプターを採用しても容積が足りなくなると主張した。

 

であれば、ヘリコプターに期待するいくつかの任務を無人機に任せて、その分、有人機の汎用性を高めるべし、と声を大にしたのである。

 

と、まあ、ここまでであれば唯の血気盛んな青年士官であった。高野が変人と評価されるに至ったのは、この主張を具体的に形にしたからである。

 

まずはDASHの問題点から始まった。高野はDASHの故障率について、技術的に未成熟であったことが問題で、民間のラジコン技術を導入した改善により、徐々に下がると結論づけた。

 

また、故障することに対する運用観点からの問題。血税を費やして購入した装備品がホイホイ無くなるのはけしからん、とする意見にもメスを入れた。

 

具体的にはDASHの厳密な分類を標的機としたのである。つまり基本的には使い捨ての消耗品扱いとしたのである。

 

こうして海上自衛隊の独自の無人ヘリコプター対潜機材、DASH-Ⅱが90年代に採用された。当時の高野の階級を考えると、意見が装備品にまで反映されるのは異例のことであった。

 

2000年代にはこれをさらに発展させ、固定翼小型無人機までシリーズに追加したDASH-Ⅲが計画されていたが、防衛大綱の変更のあおりを受けて立ち消えた。

 

DASH-Ⅲが採用されていれば、少なくとも海自についてはドローンへの無理解という蒙昧な悪印象がつくことはなかったのに、と悔しがる関係者が多い。なんせDASHはドローンの本家である。

 

ただ当の高野は、2010年代以降、想像以上に膨らんだ民間ラジコン機の市場を見て、DASH-Ⅱで話が終わっていて良かった、と考えていた。

 

DASH-Ⅲ、その後に続いたかもしれないDASH-Ⅳは間違いなく民間のラジコン飛行機と比較される。その時、これらの機材は民間のものに勝てないのだ。

 

DASHに軍用システムとしての堅牢さが求められるのは当然である。しかし、それを加味してもやれることがショボくて高く付く印象を拭えない。頑張っても評価されない、というのは辛いのだ。

 

それよりは紺碧会に参加している、新明和の技術者と開発中のラジコン水上機の方が芽があると考えていた。民間でも水上機の需要は特殊である。軍用としてもそこまでコスト的に目立たないはずだった。

 

何より水上機というのがいい。帝国海軍のかおりがムンムンする。何をやらせるかはあとで考えるのだ。

 

そんなわけで実務的に紺碧会がラジコン愛好会である、というのは表向きも裏向きも正しかった。

 

「と、ここまでが紺碧会の広報にも書ける話だ」

 

愛好会は広報誌に会員募集広告を載せること、という謎のルールがあるので、紺碧会の詳細については基地の広報誌に載っている。そこには大きめのラジコン飛行機を抱えた隊員の集合写真まで載っていた。ちなみになぜか泰山のオヤジも写っている。

 

「そして、ここから先の話についても、君も多少は耳にしているはずだ」

 

「はい。曰く海佐は転生者である、と」

 

ここからが紺碧会の裏の入会条件である。それは、これから先の話を真面目に聞いていられるか、であった。

 

「そうだ。私の前世は大日本帝国の軍人にして、海軍大将で連合艦隊司令長官だった」

 

盛りすぎだろう、と思わずツッコミたくなるが、それをやったら会の入会条件から外れる。

 

「現代に転生して最初に感じたのは失望だった。今のこの国がまるで戦争をなかったかの様に扱っていると思えたからだ」

 

前原は話がなんだか右に傾いたように感じた。

 

「あぁ、会として靖国に参拝を強制するようなことはしないから安心してくれ」

 

取ってつけたように注意事項が加わって前原は安心した。紺碧会は結成から長いのでトラブル事例が豊富なのだ。

 

「ともあれ、転生時に青年だった私は、軍人の道をやめてパチンコでも打って生きていこうかと考え始めていた」

 

余談だが、高野は博打を趣味としている。

 

「その時、一人の男と出会ったのだ。ウロタウコ・シャハというどう見ても日本人の自称ロシア人だった」

 

高野はこの男から未来を予告される。これが会の言う事象シミュレーションモデル「グロブロー」であった。詳細は前原には知らされなかったのでわからないが、会の中心メンバーにあって信用に足ると判断された未来予測モデルである。

 

「グロブローはこれから起きる出来事が羅列された、いわゆる予言とは異なる。事象の基となる要因と、そこに至る確率が記されたグラフのような物で、それを正しく紐解くことで、使用者が修正した後の未来すら計算できる」

 

平たく言うと「グロブロー」は、この時にあの会社が倒産します、というタイプの予言ではないのだ。この場合、それを知ったものが会社の倒産を回避するとそこから先の未来は未知となる。

 

「グロブロー」には会社が倒産に至る要因が記載され、現在から事象への到達確率が計算できるようになっている。

 

「結論から言おう。シャハは2040年代での人類の終焉を予告してきた」

 

これは先ほど説明した通り、要因から計算できる未来である。大きな流れのような物であるため、仮に2040年代での終焉を回避しても2050年に延びるだけである。

 

「これはフィクションに出るような分かりやすい終わりではない。ただ人類が1つにまとまって行動することを辞めてしまうのだ」

 

これまでの人類社会は母体が増えると同時に、その集まりを1つにまとめていくことで成長してきた。それが2040年代を境に今度は細かく別れてしまう。

 

個のレベルでは、それまでよりも高い水準に達することもあるだろうが、それはやがて散ってしまう。全体としては人類は緩やかに滅びてしまうのだ。

 

「そして2040年の世界が確定的になるのが2020年代だ」

 

ウロタウコ・シャハは2020年を境に、世界をSHAKE(シェイク)世界線へと移行させると宣言した。

 

それはその名の通り、並行世界の様々な要素を現世に混ぜて行くのだ。そして高野には人類社会がその世界線を受け止める準備をして欲しい、という依頼をした。それがシャハが接触してきた理由なのである。

 

そうしなければならない理由が、人類滅亡の原因が緩やかに拡散、という対処が難しい要因であるからであった。つまり新しいイベントが起きないで技術発展すると人類はバラバラに散って行ってしまうのである。

 

高野はその対処をシャハに約束した。それはとても面白いことであるように思えたからだ。そしてウロタウコ・シャハは何処かへ消えていった。

 

「ここまでで、予想より吹っ飛んだ話であったはずだ」

 

どうする?前原君、と高野が尋ねた。答えは決まっていた。

 

「是非、お手伝いさせていただきたく存じます」

 

そうか!と高野が明るく答える。

 

ここで高野と前原の間に決定的なすれ違いが生じた。高野は前原を使命に燃える若手士官だと理解していた。

 

この世界での前原は、ただラジコンが好きなだけだった。高野の話は会員を絞るための虚言だと理解していたのである。

 

「それで活動の方は?」

 

「あぁ、毎週金曜の終業後に2時間。今は基地祭でお披露目する12式短魚雷君Jr.の制作を主に行っている」

 

12式短魚雷君Jr.は、敵国潜水艦を模したバイクに突っ込んで行く小さくて可愛い奴だった。

 

「昔は軍隊には威厳が必要だったが、今は国民に愛されていなくてはままならない。まあ、面倒だとは思うが、正業の方も大事なわけだ」

 

海自におけるラジコンの神様と一緒に活動できるのを前原は楽しみにしていた。





紺碧の艦隊は真珠湾までは面白かった、というネタがあるので、それを逆手にとって本作は最後に真珠湾に突撃します。
2020年代中に終わったらいいな、と思っています。
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