「あらあら、博麗の巫女じゃないの。ここがよく分かったわね」
「わたしの堪はよく当たるのよ。何を言いにきたかは分かってるわよね」
「この私、レミリア・スカーレットの下僕になりにきたのかしら?」
「はぁ...さっさと片付けさせてもらうわよ...!」
霊夢は地を蹴り勢いよく玉座の前に躍り出る。その右手にはお札が握られており、この距離で弾幕を食らえば一発KOだ。しかしスペルカードを発動する刹那、奇妙な感覚が体を包んだ。
「そして時は動き出す」
「....!んなッ?!」
「あら、どうかしたのかしら博麗の巫女さん?」
確実に間合いをつめ、先手を打ったはずだった。レミリアは弾幕を撃つ素振りもなく、ましてや身構えてもいなかった。
しかし今はなぜか、霊夢の喉元にレミリアの槍『グングニル』がつきつけられている。
「(まずいッ!!)」
霊夢はすかさず後退して距離を取った。思考を整理している時間はない、飛び道具のスペルカードを使って、一気に片付ける戦法に切り替える。
「させないわ」
「...っ!」
スペルカードを取り出す暇もなく、霊夢が立っている場所には火・水・風・地などの属性をもった弾幕が撃ち込まれた。
「ふふっ、聞いてたほど強くはなくて安心したわ」
「はぁ、はぁ、弾幕ごっこってのはね、タイマンでやるもんなのよ。知らないなら教えてあげるわっ...!」
「お嬢様はすでに存じ上げております」
「あんた...ここのメイドかしら?見たところ人間みたいね。なんでそんなのに仕えてるのよ、弱みでも握られてるのかしら?」
「...黙りなさい。お嬢様、そろそろよろしいでしょう」
「あ、脚が動かない?!」
霊夢の脚は脈打つ泥に捕らえられ、身動きを封じられていた。
「咲夜に同感よレミィ。そのうち他の妖怪も攻めてくるからコンスタントに始末していかないと」
「くっ...!わたしがこんなところで負けるわけにはッ...!」
何とか脱出しようともがく霊夢。しかし底なしの沼のように、動けば動くほど、脚は泥に浸かってゆく。
「安心しなさい博麗の巫女。あなたが死んでも、あなたの想い人は生かしておいてあげるわ、それなりにハンサムだし」
「ま、待ちなさい!ユキオに手は出さないでッ!!」
「もちろん、わたしのおもちゃとしてね♪」
レミリアがグングニルを構える。
「それじゃ、さよならよ、博麗の巫女」
グングニルが振り下ろされんとしたその瞬間
パァン!!
何かが破裂するような音がして、レミリアのグングニルが消滅した。
「い、痛い...!」
「お嬢様!!いったい誰!そこにいるのはッ!?」
「...」
玉座の上方にはめ込まれた大きな紫色のステンドグラス、そこから差し込む紅い光を背に受けて立つ人影ひとつ。
「....あなた、いつからそこにいたのかしら?そこは私の特等席なのだけれど?」
「...」
ステンドグラスの人影は、霊夢の傍までひとっ飛びでやってくる。ふわっと、白いマントがはためいて霊夢の黒髪を揺らした。
「なんて身体能力...あなた本当に人間なの?」
パチュリーが警戒しながら訪ねる。しかし、それは口を利かない。ゆっくりと霊夢の方へ振り返る。
白いターバンと覆面の上に黒いサングラスと白マフラー、白の全身タイツに黒いベルトを着け、裏地が赤い白マントをまとい、手袋とブーツをはめている。体格的に、おそらく男だろう。
白ずくめの男は霊夢のひざ元へかがみ、脈打つ泥の塊をいとも簡単に取り払った。
「大丈夫かね」
「あ、はい...ありがとう、ございます」
「ちょっと、レディーに対して無視はないでしょう?」
「...」
男は、再び3人の方へ振り返る。
「ただちに霧を止めてフランドールを解放しろ」
ぴくっとレミリアが反応し口を開いた。
「嫌よ。それにあなた、一体だれなの。事前の情報にはなかったわ」
「...月よりの使者、正義の味方。月光仮面」
「お嬢様!私が始末します!!」
パァン!!
月光仮面と名乗るその男は、咲夜がナイフを取り出したのを見逃さず、それを銃で撃ち落とした。
「咲夜!どこか撃たれたの?!」
「い、いえお嬢様...ナイフと懐中時計を撃ち落とされただけです...」
「パチュリー、君の図書館にあの霧を作っている装置があるのは知っている」
「ど、どうしてそれを...」
「私があれを爆破してもよいが、さすればこの館は凄まじい妖気に汚染され、諸君らは住む場所を失いかねない」
「くっ!...分かったわ、パチェ、止めてきてちょうだい」
「レミィッ!!」
「パチェ...今私は、この館が汚染され、朽ち果ててゆく未来を見ているわ」
「...わかったわ。ごめんね」
「...」
しばらくすると、紅い霧の放出が止まった。
「...さぁ、お望み通りにしたわよ月光仮面さん。私の負けね」
「...」
「無様だと罵ればいいし、殴りたいなら殴ればいいわ。好きにしてちょうだい。でも咲夜やパチュリーのことはどうか見逃してあげてほしい」
まだ紅い空を見上げたあと、月光仮面は口を開いた。
「紅霧で日光を遮れば、自由に外出できるのは君だけではあるまい」
「...なによ、私が妹のために異変を起こしたって言いたいの?」
「日傘なしで遊べるのはこの霧が晴れるまでだ」
「...分かったわよ、ホント変な人」
レミリアはドアの方へゆっくりと歩いて行った。しかしドアが閉まった後は走っていく足音が聞こえてきた。
「あ、あのっ」
「...」
「危ないところを助けてくれてありがとうございました...あなたがこなかったら私、死んでたかもしれません」
「君がユキオよりも、博麗の巫女として行動した事を私は知っている。安心したまえ、ユキオは無事だ」
「ほんとうですか?!よかった...」
「私は正しくあろうとする者の味方だ。では失敬」
そう言うと月光仮面は大きな天窓から飛び去って行った。
帰り道、人里の様子が気になって立ち寄ってみることにした。
「夏なのに雪が積もってるじゃない」
「へへっ!アタイが人里のみんなをあの霧から救ったのさ!」
「やめなさいよみんな風邪ひいちゃうでしょ!」
「霊夢、それは本当なんだ」
「あら慧音、本当なの?」
「ああ、チルノが雪雲で紅霧の濃度を薄めてくれたんだ。おかげで誰一人倒れずにすんだよ」
「あんた...たまには役に立つじゃない」
続けてチルノが何か言おうとしたが、慧音がすかさず口元を手で覆ったため聞き取れなかった。霊夢は、チルノの自慢話で時間を取らせたくないという慧音の配慮に感謝し、博麗神社へ向かう。
「霊夢さんおかえり!」
「ただいまー水まんじゅう冷えてるかしら?」
「こっちで冷やしてるよ~」
「気が利くわね~一緒に食べましょ」
「霊夢、初めての異変はどうだった?」
「気が向いたらまた今度話すわよ~」
「こりゃ先が長そうだ...それじゃ」
「「いただきま~す!」」
すっかり青色に澄み渡った空のもとで食べる水まんじゅうは、それはそれは格別だった。
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