1 親父
俺は親父が嫌いだ。
俺の親父はどんな仕事をしているのか知らない。俺や母さんや妹と自分の家族にさえ何の仕事をしているのか教えてくれなかった。
ある人は親父はロボット工学の研究者で最先端の技術を駆使して誰にもなし得ていないものを開発していると聞いた。
確かに家族の時間を割いてパソコンとにらめっこをしていた。画面にはよくわからない数字が羅列され、ヘンテコなロボットのポリゴン画像が映っていた。
しかし具体性もないし、あんながたいのいい体つきからして研究者とは思えない。それにどんな研究してたのかからっきし興味ない。
ある人は親父は機密機関のスパイで世界を股にかける凄腕のエージェントだとぬかしていた。
確かに親父は元軍人で『リアルダイ・ハード』とか『でかい方のジャック・リーチャー』とか数え切れない異名がつくほどの実力…いや、やらかしをした最強の軍人とか言われている。
しかし信憑性は皆無だし、そんな話は親父から一度も聞いたことがない。
親父は警察官だとか救急隊員だとか学者だとかスーパーマンだとかあれやこれやと言われるが誰も知らない。
ただ言われているとすれば……親父は『いい人』だとよく言われている。
車に轢かれそうな人を飛び込んで助けたり、火事で取り残された人がいたら自ら火の中に飛び込んで救助したり、銀行で強盗が押し込み人質を捕らえて立て籠もっていたら単身で突っ込んで強盗を打ちのめし人質を救ったり……あれやこれやで地域の人達は彼をヒーローだと嬉しそうに言う。
彼らが親父をヒーローと崇めるように、俺も子供の頃は父をヒーローだと目を輝かせて見ていた。
ベルトで変身するヒーローみたいに、巨大化して怪獣と戦うヒーローのように、強大な悪の組織と戦うヒーローのように、ピンチの時に必ず助けてくれる、子供の憧れの象徴ともいえるようなヒーローだった。
誰もから感謝される、頼りになる頼もしい父を見た俺はいつか父の様になりたいと思った。そう、子供の頃までは。
ヒーローというものは自らを犠牲にして家族を省みない。
月日が過ぎていくたびに親父は家族のもとに帰ってくる回数が少なくなってきた。しまいには連絡もせずにずっと何処かへ行ったきり連絡もないまま帰ってこないということもあった。
母の誕生日の時も、妹が病に侵され緊急手術することなった時も、おじいちゃんの葬式の時も、父は来ることは無かった。
そうして時が過ぎていくうちに家族の事には振り向かずにずっと悪者と戦う父が次第に嫌いになった。
時たま帰って来ても気づかぬうちに何処へと出ていく。何一つ語ろうとしない親父に対して何を考えているのか、怒りと憎しみが増してきた。
親父はよく『誰かを守る』『大切な人を守る』とよく口にしている。守るってなんだ……一人勝手に突っ走って、無茶をして、怪我をして、守られる側の事や残された者のことを一度でも考えたことがあるのか、こっちに振り向かないでよく『守る』と言い切れるよな。
だから俺は『守る』という言葉が嫌いだ。
俺は親父のような人になりたくない、そう決意した。
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「オラァっ‼」
渾身の頭突きを自分よりも図体のでかい野郎の顔面にぶつける。野郎は呆気ない悲鳴をあげて大の字に倒れた。
殴られて出た鼻血を拭い、狼狽えている図体のでかい野郎の腰巾着であろう生徒を睨む。
「……それで?残りはお前だけだが、まだやるか?」
「ひっ………た、大変だぁぁぁ‼レックスがまた暴れたぁぁぁ‼」
腰巾着の生徒は叫びながら逃廊下を走り何処かへと逃げていった。ていうか暴れたのはそっちだろ。図体のでかい野郎をはじめ、鉄拳制裁で叩きのめした不良の生徒4名に対してため息をつく。
「――――二度と喧嘩を売ってくんな」
騒ぎで集まりだした野次馬の生徒達からそそくさと離れる。
親父の母校に入らず全く関係ない離れた地域の学校に入学したというのに……生親父が有名すぎるのか、俺を親父の七光りと喧嘩を売ってくる輩が後を絶たない。なんでこんなところまで息がかかってんだか。
喧嘩のみならず親父のファンだの恩人だの弟子にしてくれだの色々と親父関係で絡んでくる。本当に世の中変わってやがる。
変わっているとすれば女性だけが扱える『インフィニットストラトス』、通称ISという物が現れ社会が変わったことだ。
日本のどこかイカレタ学者が開発した新兵器だとかなんとかそのISでパワーバランスが崩れて逆転して女尊男卑の社会となったらしい。
そういえば親父はISには反対していたな……一時は最強の破壊兵器として扱われると世論は恐れられていたが、ISに関する法律ができて兵器として扱わないよう世界が管理されるなことなった。
ISというものは国の交渉となるものだくでなく、頂点を目指すスポーツみたいなものになり、女性しか扱えないというわけで操縦士として少女達の憧れの的となっている。
しかし、そのISを巡ってテロだのを起こす輩が現れた。なんだか余計な事をしたのではないかと思えるのだが……これを開発した人の意図も分からないし、ISには興味ない。
親父はそんなご時勢の中、今は何をしているのだろうか―――いや、今はそんなことどうでもいい。
そんな奴等を、親父を見返すために俺はもっと強くならなきゃいけない……俺は親父の様にならないんだ。
「―――レックス」
ふと呼び止める声が。いつも喧嘩騒ぎの際に止めに入ってくれる先生だ。いつも理由を聞かず怒鳴りつける校長を諌めてくれたり、俺の話を聞いて理解してくれたり励ましてくれたりと心の底からお世話になっている人だ。毎度のことながら迷惑をかけてしまっている。
「先生、わかっています。罰はいくらでも受ける覚悟はあります」
今日は校長の説教6時間コースだろうか、あるいは反省文50枚、校内の全てトイレを掃除か……どんな罰も受けるつもりだ。
「実はその………大変言いにくいんだが……」
なんだろうか、先生の様子がおかしい。何やら告げるのをためらっているように見える。
まさか遂に校長の堪忍袋の尾が切れて退学処分が下されたのだろうか。いやそれでも構わない、地元に帰ってもできることがあるはずだ。
「先生、直ぐにここから退学する支度をします。本当に先生にはご迷惑をお掛けしました。でも、これだけは言わせてください。こんな俺を励ましてくれてありがとうございました……」
「――――レックス、君の退学処分ではない。君に伝えなければならない事があるんだ」
退学ではない……では何故、先生はこんなにも重苦しそうな顔をしているのだ?
混乱する俺に先生は一度俯いたが決意して顔を上げた。その表情はとても深刻で真剣な様子だった。
「レックス、よく聞いてくれ……先程、君のお父さんが亡くなったと連絡が来た」
「―――え?」
告げられた話に俺の思考が止まった。
その日、親父が死んだ。
そして親父の死で運命の歯車が動き始めたのは知る由もなかった。
クラウドブレイカーのデザインはとてもかっこいいと思う