ドラゴンボールかっての‼(半泣き
その日、一人の英雄が死んだ。
話によると親父は外出中、ある場所で銃撃事件に巻き込まれ、襲われている誰かを庇って撃たれたらしい。今は詳しく知りたいとは思わない。
メディアは親父の死を報じたようで、地元に帰るやいなやたくさんの地元民が俺に駆け寄りお悔やみの言葉と悲しみの涙での抱擁をしてきた。一緒に悲しんでくれるのはいいが正直なところ鬱陶しく感じた。
葬儀は俺達家族の他に父の親友や戦友、海軍から陸軍といった軍人、警察や消防の人達、何故かハリウッドの俳優達と溢れんばかりの人達が参加していた。親父の交友関係どうなってんだ。
墓地へその送迎は歩道には報道陣や市民が溢れ、上を見上げればヘリが幾つも飛び、警察も軍人達も敬礼をする。その様はまるでパレードみたいだ。
墓地へと運ばれた棺はゆっくりと降ろされていく。神父の親父の死と別れの話を聞き、そして黙祷。現世での別れとして軍人たちは『夜空のトランペット』に似た曲を吹く。
母も妹も祖母も、親父の友人も戦友も軍人達もそして市民の人達も、地元でヒーローとして親しまれた親父の死を悼んだ。
だが俺だけは違う、ちっとも悲しくもない。
「――クソ親父……勝手にどっか行って勝手にくたばってんじゃねぇよ」
親父の死を悲しむよりも寧ろ俺は怒りしか感じられなかった。今までずっと家族の下に帰らず、何故帰ってこないのか理由も言わずずっと何処かへと行って、俺とも会う事無く長い時間が過ぎ、久々に戻って来たと思えば今は棺の中。
死んだら元も子もないじゃないか。二度と口を開く事すらない親父の遺体が入った棺が埋葬されていく。
家族をほっといた挙句自分はさよならか。このぶつけたい怒りは何処へぶつければいい。俺は強くこぶしを握り締め、親父の墓を睨み付けた。
―――絶対にあんたみたいな人間にはなるものか
____
「……疲れた」
家にいると今は嫌な事しか思い出せないし、いたい気分じゃないから家には戻らず、ホテルへ泊まることにした。
大きくため息をついてベッドで仰向けになる。ここまで帰るのにかなり苦労した。葬儀が終わっていざ戻ろうとしたらあっという間に地元のマスコミに囲まれ『お父様の死について一言!』みたいな質問責めをされた。
はっきり言って親父について何も語ることは無い。家族に振り向いてくれなかった人に今更なんて言えばいいか。
泣いて悲しむ演技でもすればよかったのか、今はそんな気分じゃない。怒りでいっぱいだったのでマスコミには何も言わず押し退けて帰った。
誰もかれもが親父の表面しか見ていない。自分だけ犠牲になることばかり考えて家族の事は考えていないあいつはヒーローなんかじゃない。考えるだけでももう二度と関わりたくないと気持ちが募る。
―――もううんざりだ
明日は気持ちを切り替えてオウチに帰えろう。母さんや妹やばあちゃんといっぱい話をしよう。
しばらく会ってなかった。母さんも妹も親父のせいで悲しんでいるだろう。
慰めて、励まして、次の日には悲しい事なんてキッパリ忘れさせよう。明日の事を考えていると眠たくなってきた。
嫌な事があったら何だか眠たくなるもんな、もう寝よう。重たくなる瞼を身に任せて閉じようとした。
その時、眠りを邪魔するかのようにドアからノックの音が響く。
誰かのいたずらか、または部屋でも間違えたのだろう、そんなことより今はもう眠りたいんだ。無視して寝ようとするが相手は意地でも眠らせないつもりか何度もドアをノックしてくる。
しつこい……しばらく我慢をしていたがイライラが募り堪忍袋の緒が切れた。
ドカドカと大きく足踏みしながらドアのロックを解除して勢いよく開ける。
「帰れ‼今はほっといて‥‥くれ‥‥?」
ドアを開けたらそこにいたのは報道陣でもパパラッチでもなくスーツを着たブロンズ色の長い髪の眼鏡をかけた女性だった。その女性は俺をじっと見た後一度咳払いして眼鏡をクイッとした。
「貴方がマイケル・ロスチャイルドの息子、レックス・ロスチャイルドですね?」
「ああそうだが?というかあんた誰だ」
「私は貴方のお父様の助手を務めていました、キャロル・クロフォードと申します」
助手……俺は訝し気にキャロルと名乗る女性を見つめる。親父に助手なんていたの初めて聞いた。
助手の存在には驚きはしたが本当に親父は何の仕事をしていたのか、その助手とやらがどうしてここに来たのか。今はそんな理由も知る気もない。
「そっか、そりゃどうも遠路はるばるご苦労さま。だけど俺は今お話とか親父の武勇伝を聞く気分じゃない。帰ってくれ」
さっさと寝たい、と俺はドアを閉めようとしたがその助手さんはガッと足でドアを閉めるのを阻止してきた。何やら真剣な眼差しでこっちを見てくる。
「今は時間がありません。早急に貴方をお連れしなけなりません」
「はぁ?そんなの明日からでもいいだろ」
「お父様がもしも自分の身に何かあった時は貴方の事を頼むと言われました」
「そう、だがお守りはいらねえお年だ。帰れ」
「そしてこうも仰っていました。もし自分が死んだら貴方に伝え、見せてあげてくれと」
助手さんの言葉に俺はピクリと反応する。俺に『伝え、見せなければならない』物がある……親父が俺に教えてくれなかった事をこの人は知っている。
本当は行きたくもないし、知りたくもなかった。
だけど真実を知りたい、親父が何をしていたのか、心の奥に閉じ込めていた好奇心が駆り立ててきた。
「……話だけは聞いてやる。後は知らん」
「……!ありがとうございます。では、ついてきてください」
そう言うや否やキャロルは俺を引っ張って急ぎ連れていく。そんなに至急で大事なことなのか、親父に関連することなのだからスキャンダルとか変な事でなければいいのだがと願う。
ホテルの前に停められていた銀のメルセデスベンツに乗って連れて行かれる。
何も話すことも、親父について一言も云う気が無いので車内は物凄く沈黙に包まれていた。
一体何を見せてくるのやらと沈黙のまま1時間、連れてこられた場所は親父の母校であるレンガ造りの小学校だった。これには思わず目が点になった。
「……は?別に来たくともなんともないのだけど。寧ろ今すぐに帰らせてくれ」
「これからお伝えすることは至極重大な事です。どうか我慢してください」
キャロルは硬い表情で俺を見つめてきた。何が何でも無理矢理でも連れて行くつもりだ。引き返すことはできないと堪忍した俺は適当に見て帰ろうと決め、ただ言われているがままについていく。
校舎に入り、2階に向かわず廊下を進み職員室のすぐ隣にある図書室へ。
ここにあいつの書いた遺書が隠されていて、その遺書を取り出して音読してくれるのだろうか。それだったら破り捨てて帰ろう。
そんな事を考えていたら、キャロルは図書室の受付に置かれているパソコンに何か入力した。
すると、そこは本棚と壁しかないはずであった場所が横へスライドしエレベーターが現れた。思わず目を見開いてぎょっとする。
まさか映画みたいな仕掛けがあるとは思いもしなかった。俺が呆気に取られている間にキャロルは慣れた手つきでエレベーターの扉のコードを入力し扉を開けた。
「レックス、こちらへ」
言われるがままにキャロルの後に続いてエレベーターの中へ、扉が閉まるとエレベーターはどんどんと地下へと降りていく。地下9階を余裕で超すとか、学校の地下をどんだけ掘り下げているんだ……
エレベーターは地下16階へと止まり、扉が開く。その扉の先の光景に思わず息を呑んだ。
テレビとかでよく見るSFとか特撮物とかのオペレーションルームのようにモニターやらパソコンやらが設置されている。今は無人で黒い画面で機能していないが、数日前までは稼働していたような痕跡が幾つも残っている。
そしてもっとも俺の目にとまったのはオペレーションルームの奥に設置されている無骨なアーマーが装着され、パワードスーツのように全身に鈍色の装甲が施されているロボットのような物。
「あれは何だ……?」
「あれは『IS』と言っていいでしょう」
このロボットのような物の陰から白髪の壮年で執事の格好をした男性が現れた。その男性は俺を見るとニッコリと笑って一瞥する。
「お待ちしておりました、レックス様。私、レックス様のお父上様の執事をしておりましたアルフ・ペニーと申します」
「あぁどうも……ってか、これがIS!?」
執事なんか雇っていたのかと意外な事実に驚いたがそれよりもISの存在に驚かされた。
息を呑んでISと呼ばれた物を凝視する。雑誌で見たISと比べるとこれは異色すぎる。果たしてISと言っていいものか……しかしこれが親父と何の関係があるんだ?
「まあレックス様も疑問に思うのも当然でしょう。これはお父上様が自ら研究して開発していたものでございます」
「親父がこれを…!?いや待てどういう事か何が何だか分かんねえよ!?」
「レックス、貴方は『白騎士事件』をご存知ですか?」
そんな混乱する俺にキャロルは眼鏡をクイッとして尋ねてきた。
白騎士事件――――歴史の授業でも知られている10年前に起きた世界をひっくり返した事件だ。
日本の学者がISを発表して各国に否定されたその一か月後、日本を射程距離内とされるミサイルが配備されている軍事基地、長距離ミサイルやMBMが配備された各国の軍事基地のコンピューターがハッキングされて何千ものミサイルが発射された。
その時はアメリカではペンタゴンのコンピューターシステムもハッキングされ軍内部は大混乱に堕とされていた。
誰しも対処することができず、右往左往していたその最中、飛んできたミサイルは搭乗者不明のIS、通称『白騎士』により全て撃墜された。
その『白騎士』を見ていた世界各国の軍はそれを捕えようと戦闘機や戦艦を大量に出撃されたが全て撃退。
核はやらなかったが核を除いたすべての軍事兵器を無力化されたが、その戦闘で死者は出なかった。そのISの実力で世界はISの脅威と強大さを知った。
「知っているけど、これと何の関係が?」
「軍事基地のコンピューターをハッキングしたのはISの開発者である『篠ノ之束博士』の仕業でしたが…マイケルはペンタゴンをハッキングしたウィルスを解析し一部を捕獲。ペンタゴンをハッキングしたのはISのAIであることが分かったのです」
「ISのAI?それで?」
「そして彼はISのデータをさらに得ようと、自ら『白騎士』と接触しました」
まあ親父の事だから自ら戦闘機にでも乗ったりあるいは生身で飛びかかって相手にしてそうだな。きっとしつこく相手に纏わりつき、攻撃を掻い潜って飛び回っていただろう。
「身を挺して肉薄した結果、ごくわずかですがそのデータを入手することができました。彼が手に入れたのはISに『隠されたバグ』でした」
「隠されたバグ……?」
どんなゲームやコンピューターや機械の開発でも多少のバグはあるが……まさかISにもバグが存在していただなんてな。
「そのバグの研究を続け、お父上様は実はISは男性でも乗れるものだったのではないかとお考えになられたのです」
アルフがISのようなロボを見つめて告げた。
ISが男性でも乗れた…もし親父の考えが正しかったらそれは間違いなく世界をまたひっくり返す大事件に繋がりかねない。
「マイケルは秘密裏にこの開発のプロジェクトを立ち上げ、システムのバグをコアに組み込み開発にずっと専念していました。ですが……あと少しで完成という所で彼はお亡くなりに……」
「要はこの噂を聞いた何処ぞの輩に親父は命を狙われていたのか……」
「お父上様はご自身にもしもの時があった場合、このプロジェクトとシステムを一時停止させ、このデータと開発の権利をレックス様に引き継いでもらうようにと言い遺したのであります」
―――は?
いきなり話を振られてキョトンとする。キャロルもアルフも俺の方をじっと真剣な眼差しで見つめてくる。
「マイケルはこれを誰にも渡られないよう、亡くなると同時に全てのシステムを停止するよう組み込んでいました。レックス、貴方の認証でシステムは再起動します」
「レックス様、どうかお父上様のご遺志をお継ぎください。きっとお父上様も望まれていらっしゃいます」
「―――親父はずっとこれの開発で帰って来なくなり、そんでこれを俺に引き継いでもらいたいんだな?」
俺の問いに助手も執事も頷く。そう言う事だったのか……母さんや妹、おばあちゃん、家族のもとへ帰らずずっとこの地下で、男性でも乗れるかもしれないISを開発し続けた。
そしてその遺志を俺に引き継いでこの完成させてもらいたかったのか……
親父はきっと無心に、只管没頭して研究して開発していたんだろう。
父のことを考えれば
―――――――頭に血が上るばかりだ。
「ふざけるな……‼」
「え……?」
反対の答えが返って来てキャロルは首を傾げていた。聞こえなかったのならもう一度言ってやる。こぶしを握り締めて睨み付けて大きく息を吸う。
「ふざけんじゃねえ‼勝手に押し付けてんじゃねえよ‼」
「ですがレックス……!」
「俺達家族に何にも言わず!ただ一人だけ危ない橋渡って!結局あいつはこれに没頭した挙句死んだじゃねえか!」
もしロケランとかグレネードとかRPG7とか持っていたらいますぐにでもこのISを、あいつの、父親の積み上げた物をぶち壊してやりたかった。
「何が守るだ、死んだら意味ねえよ‼そんで自分が死んだら俺にこいつを擦り付けるつもりか‼ざけんな‼」
結局、あいつのしたいことは全く意味が分からない。もし幽霊になってここにいるんなら言ってやりたいよ。
「これ以上……家族を、俺を、巻き込まないでくれ‼」
これ以上家族を悲しませないでくれ。巻き込まないでくれ‼
「その通り、彼の言う通りだ。全く、自分のやりたい事を息子に押し付けるなんて、マイケルは父親失格だな」
ため息交じりの野太い声が後ろから響いた。後ろを振り向けば縦のラインの入ったスーツを着た顎髭の目つきが鋭い男性が辺りを成程と納得して見回しながら歩いていた。キャロルが俺の前に立ち、その男を警戒する様に睨み付ける。
「グレイス……!?権限時貴方は此処に来れないはず‥‥‼」
「いやなに、彼の死を悼み遺志を継いで新任の所長になるのだ。私がここへきても造作もないはずだが?」
グレイスと呼ばれた男はニヤリと笑う。その眼差しと笑みは獲物を狙う猛禽類のように鋭く、ひどく嫌な威圧が感じられた。グレイスはキャロルを押し退けて笑顔で俺に手を差し伸べた。
「初めまして、いや久しぶりかな?この研究開発の所長である君のお父さんの親友……アメリカ軍事秘密兵器開発部門所長グレイス・イーグルだ」
「どうも……」
「うーん、わかるさ。君の言いたい事はよぉく分かる。怒りたい気分だよなぁ。勝手に死んだあいつに色んなものを押し付けられて。私でも絶対に怒るさ」
なんだろうか……この男笑顔はまるで嘘。仕立てに出て賄賂を贈るというよりも、わざと俺に同情しているようで気持ち悪い気がしてきた。
「ええ、まあ」
「グレイス、これ以上レックスに近づかないで貰えますか」
「おお怖い怖い……」
「それよりもグレイス様、本日は如何様で此方に?」
「執事はよぉくわかってくださっている。要は私がマイケルの遺志を引き継ぎ開発に携わる。それを言いに来ただけだ」
「なっ……ふざけないで!」
キャロルが冷静さに欠けてきたのか非常に焦りながら反発している。だがそんな事はびくともしないかのようににんまりとする。
「ふざけないで貰いたいのは君だ。君達は何を考えているんだ?今、悲しみに開けている彼に無理やり押し付けることはないだろう。それに彼はISに乗ったことがないのだぞ?」
「グレイス様、貴方もご遺志を継ぎたいという気持ちは分かります……ですが遺書に、これをレックス様にお継ぎすると書かれ、そして決められております」
アルフが割って入り、懐から遺書を取り出すてグレイスに渡す。グレイスはそれを読むと目を細くして低く唸って頷いた。どうやら悔しいのだろう。
「なるほど、確かにあいつはこの権利を彼に託したようだ……だが、これを是か否か決めるのは彼だ」
グレイスはそう言うと俺の方をじっと見つめてきた。あの目、死肉を漁りたいと涎を垂らしているハゲワシのような目だ。
もし承諾したら俺は一生、親父の十字架を背負わなければならない。もし拒絶したら奴の好きなようにされてきっととんでもない事が起こる。
どっちに転んでも俺にはいいことがない、どう答えればいいか俺はグルグルと混乱する。
「―――考えさせてください」
「……そうだねぇ、彼の言う通りだ。父親の死を悼み辛い思いをしている最中にこんな事に巻き込まれているのだから混乱するだろう。ならばレックス君、また後日私とゆっくりと話をしようではないか」
グレイスはにこやかに再び俺と握手をした。舌なめずりしているのような猛獣の目だ。ここで断ったら後が怖い。
「日にちは連絡はする。その時はよろしく頼んだよ?」
「よ、よろしくお願いします……」
グレイスは低く笑いながらエレベーターへと帰っていった。ようやく秘書と執事と俺だけになったが、一気に疲労感がどっと沸いてきた。
「もう疲れた…ですが返事は後にする」
「その方がよろしいですね。レックス様、帰りは私めがお送りいたしましょう」
「レックス……どうか考え直してください」
アルフに先導されて帰ろうとした所、キャロルに止められた。振り返ればキャロルは悲しそうな表情で俺を見つめていた。
「貴方のお父様は、貴方を守りたいと考えていて、決して見捨てるようなことはしていません。ずっと貴方の事を考えておりました」
「―――じゃあな」
お前にあいつの何が分かる。親父は自分の事しか考えていない。俺に全て押し付けて勝手に死んでいった親父には失望した。
――――もううんざりだ
ACはエアプなので少しずつ勉強します