トム・クルーズとは違う強さを感じます。(小並感
父の葬儀からその翌日、母の所へ行こうとしたのだが、グレイスがすぐに会いたいと電話してきた。
なんとしてでも親父が造ったISを早く手に入れたいのだろう。
本当は会いたくないのだが、断ったら何をしてくるかわからない。
ほっといたら何処からともなく黒いスーツの男達に拉致されて袋叩きにされるかもしれないし、狙撃され脳天を射抜かれるかもしれない。あるいは此方の根が折れるまでネチネチとあとをつけてくるかもしれないので早々に話を聞いた方がいい。仕方なしに承諾してホテルを出た。
呼ばれた場所はなんだか敷居が高そうなレストラン。真昼間からこんな場所にいたい気分ではないな……
気乗りしないまま店内に入り進んでいくと、奥の席に居座っているグレイスがにこやかに自分は此処だと手を振っているのが見えた。
「やあレックス君、待っていたよ。今日は私の奢りだ。遠慮なく頼みなさい」
「どうも‥‥」
この人の作り笑いははっきり言って不気味だ。その上っ面の笑顔とは裏腹に今すぐに目の前にある獲物に喰らいつきたいと言わんばかりの獣の目をしている。
この人は親父と違って力には力をという冷徹な男に違いない。きっとあの手この手で親父のISを手に入れたいはずだ。下手に出れば何をしてくるか分からない。
「ははは、そう畏まらなくていい。君には何もはしないさ」
「は、はは‥‥」
どうして考えていたことが分かったのだろうか。増々不気味だ。適当に頼んで相手が何を言い出してくるか黙ったまま食事をする。料理は美味いのだが、グレイスがこちらを見てくるので食が進まない。
「さてレックス君、君はマイケルが遺したあのISをどう思うかね?」
「そうですね‥‥今は何て言えばいいのか分かりません」
勝手に死んだ親父が俺に押し付けて遺したIS‥‥今すぐにでも手放したい。だけど今ここでそれを口にしてしまえばこの男の物になってしまう。グレイスはどう考えているのか、腹の中を知らなければ。
「グレイスさんはどうお考えなのです?」
「私かね?あれは素晴らしい物だ、と私は思うね」
「素晴らしい‥‥ですか?」
「あれは女、だけでなく男も扱えるISとして開発中のものだ。そしてあれこそが本来あるべきISの姿。私はね……あのISを大量生産させたいのだよ」
大量生産か。なんだかこの男の魂胆が何となく分かってきた。あのISを次世代の戦闘機として普及させるつもりか。
「今や世界各国はISの性能を巡って競い合っている。男でも操縦できるこのISが世に出ればどうなるかね?我が国の軍事力に大きく貢献し、この長く続くくだらない競争に終止符を打つ。そしてこの力を持ってすればより我が国を誰にも負けない国家へと進化ができるのだよ」
「力で、ですか‥‥」
「どうだね?私に委ねてみないかい?無論、君をエースパイロットとして台頭させる。あのISを大量生産したあかつきには君だけの部隊を創ってあげよう。更に君の欲しいものはすべて用意しよう。きっとマイケル、君のお父さんもそれを望んでいるはずだ」
グレイスは今すぐにでも我が物にしたいのだろう。話を聞けば聞くほど、この男は俺よりも親父が遺したISの方に目が行っている。俺を利用して更に上へとのし上がる魂胆だろう。
最初は誰でもいい、この人にでも押し付けてもいいかなと思っていたが……
やっぱりやめた。この人に委ねたらいけない気がプンプンとしている。
「すみません‥‥まだ決断ができかねます。もう少しだけ考えさせてくれませんか?」
「む‥‥そうか。お父さんの死は悲しいものだからね、ゆっくり心の傷を癒してから答えてくれても構わないさ」
やっぱりな。この男も親父の事をちっともわかっていない。
グレイスはゆっくりと席を立ちあがると俺の分の会計も払ってくれた。肩をぽんと軽く叩いてくると上っ面の笑顔を見せる。
「だが、これだけは分かってくれ。彼は今のIS世界の常識を覆す事をしたのだ。それがどう世界に影響するのか、そしてその責を担うのは誰か。君1人では背負えるものでないことを、事の重大さを考えてくれたまえ」
ゆっくりしてから帰っても構わないと言い残して帰っていった。あの男にはどす黒いものが感じられる……深く関わってはいけない気がした。
「1人では背負えるものではない、か‥‥」
今すぐにでも捨ててしまいたいよ。俺はすっかり冷めてしまった食後のコーヒーを静かに啜った。
「うーん…束さん的にはぁー、あんまりよろしくないなぁー」
「ぶっ!?」
何処からかアニメ声のようなのんびりとした声が聞こえてきた。突然の事で思わずコーヒーを吹きそうになったが落ち着いて見回す。
一体何処からだ。というかこの話を誰か聞いていたのか。そんな事を考えていたら背後から誰かの手が俺の視界を遮った。
「だーれだっ♪」
「いやマジで誰だよ!?」
変なツッコミを入れてからその手をどかす…って、すごく力強いんだけど!?
なんとか力尽くでどかして振り向くと、そこにいたのは機械で作った兎耳をつけた独特なファッションセンスをした女性だった。その女性は俺の顔を見るや否やのほほんとした笑顔をみせた。と、言うよりもこの人は本当に誰なんだ!?
「いやあの‥‥本当にどなたですか!?」
「むぅー私をご存知ないとは。仕方がないなぁ、この私がみんなのアイドル!篠ノ之束さんだよぉー!」
「篠ノ之‥‥束!?」
つまり目の前にいるピョンピョン跳ねてバインバインしている女性がたった1人でISを開発した天才科学者であり、白騎士事件で世界各国の軍事基地にハッキングした張本人なのか‥‥!?
見た目からしてそう思えないのだが。
「はいそこ!束さんを見た目で判断してはいけませんぞ♪」
「なっ‥‥!?」
何なんだこの人。人の思考を読むことができる力でも持っているのか‥‥というか何しに来たんだこの人は。
警戒して見ているのにも拘らず、束ははしゃぎながら先程副大統領が座っていた椅子に「どっこいしょーいち」と言いながら腰かけた。
「いやー、君のお父さんには驚かされたよぉ!少しやけになって徹夜で急遽拵えたシステムの影響でできた僅かのバグを盗っていくなんてさー……ちーちゃんを乗せる前に隅々までチェックしておけばよかったなー」
「あ、あの‥‥束博士は此処に何しに来たんですか?」
「んー?そうだねー……君のお父さんが遺したモノ、私にちょーだいっ♪」
束博士は満面の笑顔で答えた。この人もか‥‥正直うんざりしているのだけど。誰もかれもが親父の遺したISが欲しいのか。
「束さん的に、あのISはこれから私の制作中のシナリオの邪魔になるんだよねぇ。それに、君のお父さんは……私が本来やろうとしたことを引き継いじゃったし―……まさか天才が凡人に出し抜かれてちょっとくやしいなぁー」
楽しいのか、嬉しいのか、怒っているのか、表情を見てもこの人が何を考えているのか、今どんな気持ちをしているのか分からない。
というよりも束博士は俺を見て話しているのだろうか。目を見て話しているけども眼中にないような気がしてきた。
それよりも束博士が本来やろうとした事とは、それを引き継いだ親父は一体何をやろうとしていたんだ?
「君はあれが欲しくないなら今すぐに束さんに献上しなさいっ!そうすれば君の人生も安泰だよ♪」
人生、か‥‥
確かにあれのせいで人生は狂うかもしれない。いっそ親父が遺したモノは全て捨てて忘れてしまいたい。
しかしなんでだろうか、この人に譲るのは心なしかいけないような気がしてきた。
「束博士、申し訳ありませんがあのISは俺がどう処分するか考えようかと思います」
「‥‥そっかー、残念♪でもまあ束さん的には構わないよ!でも‥‥軍事兵器に使おうとしたら容赦なく潰すね♪」
束博士はにぱーっと笑顔を見せたが俺はゾッとした。笑顔とは裏腹にグレイスのレベルではないくらい恐ろしくどす黒い気を感じた。
この人は言葉通り、容赦なくこの国を消しかけるかもしれない。
「あの‥‥束博士」
「なぁにー?束さんに質問?今日は特別に何でも聞いてくれても構わないよ!」
「‥‥束博士は何故ISを女性にしか反応しないようにシステムを変えたのですか?」
「―――――――――――――んん?」
あ、やばい。先ほどまでウキウキ笑顔だった束博士が急に真顔になった。一番気になっていた事だったから知りたかったのだけど、触れてはいけない核心に触れてしまったようだ。俺、ここで死ぬのか…!?
「うーーーーん、いい質問だねぇ‥‥‥質問を質問で返すようだけど、君は今の世界に満足してる?」
「え‥‥?」
「ま、君のお父さんは答えてくれたし、君の答えも期待しているよ♪じゃあまた後日、会いに行くね!バイバーイ!」
束博士はそう言い終えると勢いよく窓を突き破って突っ走って人混みの中へと消えていった。まるでサイクロンのような人だ‥‥最後に言っていたことはどういう事なのか、束博士の問いに親父は答えたというし、更に分からない事がのしかかってきた。
まだ昼だというのに‥‥色々頭を使う事が多すぎて疲れた。
誰もかれもが親父の遺したモノを欲しがっている。やっぱりこんなもの、早く捨ててしまうべきだ。親父はどうして破棄しなかったのか。いや、考えるだけでもムカついてきた。
今日は早く母さん達に会いに行こう‥‥
____
「ようやく着いた‥‥」
荷物を担いでバスに揺られて数時間。ワシントンD.Cから少し離れた場所にある静かな住宅街にある少し大きな家。ここが我が家だ。
ここに帰るのは何年ぶりか‥‥帰って来たけれども辺りは何も変わらない。ようやく落ち着ける。安堵と懐かしさで心躍らせてドアを開けた。
「ただいま!」
懐かしい匂い、代わり映えの無い玄関、やはり我が家が落ち着く。昼までの嫌な気分がきれいさっぱり落ちた気分だ。俺が帰って来た声に気づいてリビングから母がひょっこり顔を覗かせて笑顔を見せた。
「レックス!お帰りなさい!」
穏やかな表情で優しい笑顔を見せてくれるけども、昨日までの葬儀が大変だったようで少し疲れているようだ。
「母さん、あれから休んでないんじゃないのか?少し疲れているようだけども」
「愛する息子が帰ってきたんですもの。疲れなんてふっとばしてやったわ」
フンスとあまりない力こぶを見せてくれる。母さんは親父にも劣らない負けず嫌いだ。少し無理して疲れを見せないようにしてるけども心配だ。
「今日は腕によりをかけて美味しい物作ってあげるわよ!荷物を部屋においてきたらゆっくりしてちょうだいね」
「あ、あまり無理しないでくれよ…?それとアンリは学校?」
「ええ、夕方になったら帰ってくるわ。そういえばレックス、学校の方はどう?お友達できた?」
う‥‥あっちではいつも喧嘩沙汰になってるもんなー。友達という友達は‥‥うん、ノーコメントで。
「ま、まあね!毎日が楽しいよ!」
「あら、そうなのねー。それで体付きが逞しくなったわけだわー。あの頃の躓いて大泣きしていたレックスがこんなにも大きくなっちゃって」
「昔の事はよしてくれよ、恥ずかしいじゃないか」
母さんが俺が子供の頃の話をしだし、あまりにも恥ずかしい思い出の事ばかり玄関で話すのでいそいそとリビングへ母を押していく。
真っ先に目に映ったのはカーペットに山積みされた沢山のアルバム、手編みのグレーのセーターやグローブ、親父だけが写っている写真や家族の写真がざっくばらんに置かれていた。
「これは‥‥」
「お父さんのね、思い出の整理をしてたの。整理してたらこんなにも沢山あって、気が付いてたらちょっとごちゃごちゃしちゃった」
母さんは少し照れながら再び親父の遺品整理をしだした。母の背から悲しみの気が感じられる。
葬儀ではずっと涙を流すのを堪えていたが、今も悲しみを見せまいとずっと心の内に抑えているように見えた。
「誰かのために、誰かを守ろうとなると昔から一人で無茶する人なんだから‥‥ほんとおっちょこちょいな人」
額縁で飾られている笑顔で写る親父の写真を見つめ、母さんは寂しい表情を見せた。
俺はアイツを許せない。誰かを守るとか言いながら一人死んでいったあいつは自分勝手じゃないか。結局誰も守り切れず、母さんをこんなにも悲しませて、家族を傷つけて‥‥
「母さん、こんな奴の思い出は捨てようよ」
「レックス‥‥」
「親父は‥‥あいつのしてきたことは俺達家族を悲しませただけじゃないか。ろくに家族の下に帰らず、たった一人で無茶して、挙句には俺に遺したモノを押し付けて、迷惑をかけて勝手に死んだんだ。こんな奴の思い出は何一つ‥‥!」
何一ついいものはない。と言おうとしたがその前に母さんが優しく俺の両手を握り首を横に振った。
「レックス、それは違うわ‥‥父さんは、あの人はずっと後悔していたわ」
「え‥‥?」
「実はね、レックス。お父さんは亡くなる前日に帰って来たの‥‥貴方と同じように玄関を開けて『ただいま!』って元気な声で笑顔で帰って来たわ」
信じられない。いままでずっと帰って来なかった親父が帰って来たなんて。
「そして私やアンリ、おばあちゃんや亡くなったおじいちゃんにずっと帰って来れなくてすまないって謝ったのよ。自分のやろうとしていた事に私達家族を巻き込みたくなかったって」
巻き込みたくなかっただって?今現在、俺は巻き込まれているのだが。
怒りたい気分だったが、今はどう答えればいいか混乱していた。
「そしてレックス、貴方にもずっと会いたかったって。何一つ貴方に素敵な思い出を作ることができなかったと、もしも自分がいなくなったら貴方を巻き込むかもしれないと後悔していたわ」
母さんは少し悲しみを込めた笑みを見せると小さな小箱を渡した。中には白いUSBが入っていた。
「これは‥‥?」
「父さんがもし自分の身に何かよくない事が起き、レックスがお家に帰ってきたらこれを渡してって‥‥レックス、父さんは決して貴方を見捨てる気はないわ。ずっと貴方を私を家族を守りたかったの」
「‥‥」
今は何て答えたらいいのか分からない。無言で受け取り、俺は自分の部屋に戻る。
埃一つない綺麗な部屋。母さんが俺の帰りを待って毎日掃除をしてくれたんだ。数年前に母さんが誕生日に買ってくれたパソコンを起動させ、USBを繋げる。
「‥‥映像のファイル?」
中に入ってたのは映像ファイルのようだ。どんなモノが映っているのか、恐る恐るそのファイルを開き、映像を映す。
『‥‥ごほん。あー……あー……なあアルフ、これ映っているか?』
いきなり画面に映ったのは親父の顔だ。映像のテストのつもりか何度も咳払いをする。親父が映っていたことに驚いたが‥‥なんだろうか、昔の頃と比べて少しやつれている。映像のテストが終えると親父は真剣な表情で前を向いた。
『レックス……すまないな。本当はお前に会いたかったのだが、今は映像で我慢をしてくれ』
もし昨日の俺だったらどの面下げて映ってるんだこの野郎と液晶画面をぶん殴っていただろう。母さんの言っていたこともあるし今は我慢した。
『まずは謝らせてくれ……いや、許してくれとは言わない。お前にずっと辛い思いをさせたのは私の罪だ。何一つできなくてすまなかった』
親父は大きく頭を下げて謝って来た。今更なにを…の
『色々と言わなければならない事は積もりに積っているが…時間が無い。お前に私がやっていたことを伝えなければならない』
伝えなければならない事…そう言うと親父は自身を映しているカメラを持って移動すると、あのISが映った。
『10年前の白騎士事件‥‥私はペンタゴンのコンピューターに潜入したISのAIと、白騎士と接触して手に入れたバグを組み合わせ、独自のISコアを造り、このISを造った。女性だけでなく、男性でも扱える、本来あるべき姿のISかもしれない』
何という恐ろしいものを造ったのか。このせいで俺はグレイスと束博士に目をつけられてしまっている。
『世に出ればきっと大変な事が起こる‥‥でもその前に、このISを製造した理由を話そう。私は束博士の本当にしたかったことを証明したいのだ』
あの兎耳博士がやりたかったこと‥‥?
確かに束博士も親父が『本来やろうとした事を引き継いだ』と言っていたな。
『ISは本来、宇宙開発のために造られたものだ‥‥だが誰もが彼女の事を否定し、否定された結果束博士は白騎士事件を起こし、ISの性能を見せようとした。しかし彼女の意図は外れ、世界はISを兵器と見なしてしまった』
自分の造ったものを否定され、実力で証明しようとしたが結局彼女のやりたかった事は誰も理解してもらえなかった。
その彼女がどう言う気持ちでこの世界を見ているのか、いますぐに否定したこの世界を壊したいのかもしれない。
『今は条約もあり、女性だけが扱えるものだが…いずれ犯罪に使われ、戦争の兵器になるかもしれない。きっと束博士は全てを壊すだろう‥‥だから、私はこのISで博士の証明を、世界に証明したいのだ。ISは空を、宇宙を駆けていき人々と繋がりあえるものだと』
親父はこれで青空を、星空を、そして宇宙を見せたかったのか。胸を張って語っていた親父だがすまなそうに苦笑いする。
『しかしながら、結局今の段階では武器もつけなければならないようで本末転倒になってしまうのだが‥‥一歩一歩改善していく。こいつは雲を突き破り空を駆ける。名付けるとすれば【クラウドブレイカー】だ。まだ未完成だけどな』
親父はコツンと拳をISに軽く当てると、今度は悲しい表情を見せた。
『レックス‥‥男性でも扱えるこのISが世に出るとどうになるかお前でも分かるはずだ。きっと世界中が大きく変わる。此奴の仕組みを真似しようとする者もいる。これを利用して悪用する者も、これを奪いに来る者もいる。きっとテロリスト達が私の命を狙ってくるだろう‥‥奴等は私の家族を巻き込むかもしれない。だから絶対にお前達を巻き込ませないためにこれは私一人担うつもりだ』
だからずっと家族の下に帰らず、1人で自ら囮になって家族を守ろうとしていたのか‥‥俺は何故か拳を握り締めていた。今は怒りの感情が沸き上がらない。
『そしてレックス、もし私が死んだらこのシステムはお前の承認で再起動するようしているが‥‥捨ててしまっても構わない』
「えっ」
『こんな重荷をお前に背負わせたくない‥‥先生から聞いたぞ?いつも喧嘩してるお前だが、本当は誰にも優しくて情熱的な生徒なんだと。優しいお前に無理をさせたくない。だから継がなくてもいいからな。お前はお前の道を進め。アルフ、もしレックスが断ったらシステムを全て消去してくれ』
『了解致しました‥‥ですが、よろしいので?』
『いいんだよ。これは私のやろうとしていた事。息子に無理やり押し付けるつもりはない‥‥グレイスには、ざまあみろとでも言ってくれ』
親父は満足そうに笑顔を見せ、再びカメラの方を向く。この目は優しく、真剣な眼差しだ。
『なあレックス、一仕事終えたら今度学校に行ってお前を迎えに行こうと思う。一緒にお家へ帰ろう。それから一緒に野球観戦して、お前の好きなプラネタリウムへ行って…そうだ!お前の欲しかった望遠鏡も買ったんだぞ!お前がずっとやりたかった天体観測で星や宇宙を見よう!』
『旦那様、レックス様がやりたかった天体観測は6歳の頃‥‥今は別のやりたい事があるのでは?』
『そうなのか?うー……アルフの言う通りかもなー‥‥レックス、今度一緒にゆっくり話そう。お前のしたい事、好きな事、将来の事……話したい事は沢山あるんだ。キャッチボールでもしながらでもいいかな?』
親父はニッコリと笑いながら頷き、少し悲しそうな表情を見せた。積もりに積った後悔に押しつぶされそうな顔をしていた。
『母さん達を悲しませる事もあるかもしれない。だからレックス、母さん達を慰めてやってくれ。頼れるのはお前しかいなんだ‥‥母さん達を頼んだぞ』
「‥‥」
『この先、お前を傷つける事がたくさんあるかもしれない……その時は、私を恨め。私を呪え。そして私を忘れろ。私はそれを受け止める義務がある……だがこれだけ言わせてくれ。決して最後まで諦めるな。前へと進むんだ。私の愛する息子、レックス。また会おうな』
最後に親父の笑顔で映像は終了した。
どうしてだろうか‥‥ずっと俺はプルプルと震えていた。怒りでも、悲しみでもない、この感情はどう表現したらいいのか分からない。
「レックス……」
気が付けば母さんが俺の部屋に入っていた。一緒に親父のビデオレターを見ていたようだ。母は堪えていた悲しみが一気に来たのか、涙を流していた。
「レックス‥‥お願い。父さんの事を、父さんの思い出を捨てないで‥‥!」
母さんはそう言うと再び俺の手を優しく握った。弱い力で、熱く、震えていた。
「‥‥」
俺はどう言えばいいのか、どう表情を見せればいいのか、困惑して何も言えなかった。今は母さんを励ますことしかできないが‥‥もう答えは決まった。
この世界線の束博士は味方でもなく敵でもなく中立です。