はたらくアウラさま!   作:〆鯖缶太郎

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 今回は働く要素ないです。
 最後にアンケートあります。


転生、そして帰還

「“アウラ、自害しろ”」

 

 気付いた時には手遅れだった。

 アウラとフリーレン。二人の魂の乗った天秤が、その現実を突きつける。

 

「……ありえない」

 

 アウラが使う《服従させる魔法(アゼリューゼ)》の仕組みは単純だ。

 互いの魔力を測り、より魔力の大きい方が半永久的に相手を操れる魔法。

 何故その天秤が自分ではなくフリーレンに傾いたのか、アウラは今更ながら理解した。

 

「この私が……」

 

 あぁ、今から私は死ぬのだ。

 自らの魔法によって。自らが勝てると確信した相手によって。自らの手によって。

 

「(……何がいけなかったのかしら)」

 

 抵抗しても無駄だと理解した瞬間、死を悟った瞬間。アウラは冷静だった。

 走馬灯のように引き延ばされた時間の中で、今回の戦いを振り返る。

 

 敗因はフリーレンの魔力量を見誤ったこと。これに尽きる。

 では何故そんなことが起きてしまったのか?

 それはアウラ自身が、フリーレンが魔力を制限していたことを見抜けなかったからだ。そして自分が、500年以上生きた大魔族だという(おご)りがあったから。

 

「(……いや。そもそも私が、魔族だったから……?)」

 

 魔族にとって魔力とは誇りだ。

 人間が地位や財産に縛られるように、魔族は魔力に縛られる。

 魔族の世界は強いことが正義。そんな世界で長期間魔力を制限する魔族なんていないし、その発想にすら至らない。

 

「(……本当に?)」

 

 アウラは今、身をもって体感した。

 魔力を制限し、相手を欺くという強さを。

 自分も魔力を制限していればフリーレンに勝てた? いや、それはないだろう。

 相手は千年以上生きた魔法使い。そこには絶対的な超えられない壁がある。少なくとも、純粋な魔力量だけで言えばアウラに勝ち目はなかった。

 

「(……でも……だとしても)」

 

 魔力を制限して生きることを覚えていたら、フリーレン相手に不用意に《服従させる魔法(アゼリューゼ)》を使うことはなかったのではないか?

 少なくとも、今回のような敗北はなかったのではないか?

 かつて敗走した時のように、時間を空け対策することができたのではないか?

 何だったらあの日から今日に至るまで、もっと穏便に過ごし研鑽する手段も取れたのではないか?

 

 そんな後悔が押し寄せてくる。

 

「(……今更こんなことを考えたって、意味なんてないのに)」

 

 だからこそ、思う。

 もし、もう一度チャンスがあるのなら。

 

「次こそは――」

 

 ――絶対に間違えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死んで、ない?」

 

 間違いなく、自害したはずだった。

 剣が自らの首を切り落とし、視界が暗転するあの瞬間まで鮮明に覚えている。

 まさか、死後の世界だというのだろうか?

 首元をなぞりながら呼吸を整えたアウラは、フリーレンの魔力が感知できない事を確認し、ゆっくりと辺りを見渡す。

 

 そこは赤い世界だった。

 空が赤く、大地も赤い荒野の一面。アウラはそこで一人、ポツンと立っている。

 

「どこよ、ここ」

 

 その声に答えてくれる者は誰もいない。

 ただ一つ分かるのは、少なくともここは元の世界とは違う場所ということだけ。

 

「不死の軍勢は出ない……けど、天秤は問題なさそうね」

 

 フリーレンとの戦いで全ての不死の軍勢を使った訳ではないが、召喚できなくなっていた。

 代わりに《服従させる魔法(アゼリューゼ)》に関しては問題なさそうであり、保有している魔力にも変化はない。

 だが、あちらの世界で大魔族だったからといって、こちらの世界でもアウラの強さが通用するとは限らないだろう。

 フリーレンのように一見弱そうに見えて、力を蓄えている存在もいるかもしれない。

 

「取り敢えず、この世界の生命体を見るまでは何とも言えないかしら……」

 

 この状況に既に適応しつつあることに内心驚きながら、アウラはあてもなく歩き出す。

 折角の第二の人生なのだ。

 次こそ間違えないためにも、まずは穏便に過ごすことを目標としよう。

 そのためにも――。

 

「魔力を制限する……ね」

 

 それは、以前までのアウラなら絶対にありえなかった選択。

 500年縛られ続けた魔力に対する価値観を、たった一日で捨て去る。地位も、誇りも、何もかも。

 フリーレンに負け、死んだからこそ――割り切ることができた。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 ――あの日から、少なくとも200年以上経った。

 あれから色々とあった。

 この世界でもアウラの強さは健在だったこと。気付いたら背中に漆黒の翼が生えて自由に空を飛べるようになったこと。いつの間にか『ハグレ悪魔』として魔界で名を馳せていたこと。ひょんなことからこの世界の魔王と関係を持ったこと。魔力を制限することに何の抵抗もなくなったこと……。

 

 

 

 そして再び、勇者一行に殺されそうになっていること。

 

 

 

 ――あれ? もしかして私、また間違えた?

 

 穏便に過ごすとは何だったのか。

 ある意味アウラらしいとも言える現状だが、一年前までは間違いなく順調だった。

 ――聖十字大陸(せいじゅうじたいりく)エンテ・イスラ。

 一年前まで魔王軍の勢力は大陸全土に及び、人間を初めとする神の勢力をあと一歩で殲滅するところまで行ったのだ。

 だが、突然現れた勇者を名乗る存在によって盤面をひっくり返された。

 四天王の内、三人が一年で敗北するという予測不能の事態が発生。

 気付けば魔王城での防衛戦を強いられ、そして今に至る。

 

 場面は最終局面。

 相手はここまで破竹の勢いで攻めてきた聖剣を持つ勇者とその一行。対してこちらは魔界の王である魔王サタンと四天王の生き残りにして悪魔大元帥である知将アルシエル、そしてアウラの三人。

 今はアウラの不死の軍勢によって拮抗しているが、時間の問題であることは明らかだった。

 

「(厳しいわね。私の不死の軍勢も残りわずか……。だというのに、全く消耗しているように見えない)」

 

 かつての勇者ヒンメルのような出鱈目(でたらめ)加減に、アウラは思わず舌打ちする。

 隙があれば《服従させる魔法(アゼリューゼ)》をするつもりだったが、今やった所で前世の二の舞だろう。

 勇者というのはどこの世界でもこうなのだろうか?

 

「アウラ、不死の軍勢は後どれぐらい持つ?」

「今のペースなら、せいぜい持って十分ってところよ」

 

 アルシエルの問いに答えるアウラ。

 彼もこのままでは死を待つばかりだというのを理解しているのだろう。

 ――丁度その時だった。

 不死の軍勢の間を縫い、勇者が魔王サタンに肉薄。勇者の振りぬいた聖剣が、サタンの片角を砕いた。

 

「……撤退だ」

 

 このままでは命すら危うい。

 彼の言葉にアウラは頷くと、今まで小出しにしていた不死の軍勢を惜しみなく全て展開。同時にアルシエルが魔力による衝撃波を繰り出すことで、勇者一行と無理矢理距離を取った。

 その間に二人はサタンの元に辿り着き、アルシエルが上申(じょうしん)する。

 

「申し訳ありません、魔王様。今や人間の軍勢が我が軍を圧倒しつつあります。この魔王城が落ちるのも時間の問題かと」

「勇者などという一人の人間に、ここまで追い詰められるとはな……。アウラ、悪いが魔力を貸してくれないか?」

 

 サタンの問いに、アウラは頷くと躊躇いなく手を差し出した。

 《服従させる魔法(アゼリューゼ)》が使えない以上、今のアウラが魔力を持っていたところで宝の持ち腐れだ。

 それなら確実に撤退するためにも、サタンの魔力を少しでも回復させるのが先決だろう。

 この世界でも指折りの魔力を有するアウラだが、サタンの手によってそのほとんどが吸収される。

 その事実がサタンの強さを物語ると同時に、勇者の異常性をより際立たせた。

 壁を破壊し魔王城から強引に脱出した三人が空へ飛翔すると、サタンは異世界への門である“ゲート”を召喚。

 その中へ飛び込む直前、最後の咆哮をエンテ・イスラ全土に轟かせた。

 

「人間どもよ! 今この時は貴様らにエンテ・イスラを預けよう! だが俺は必ず貴様らを、エンテ・イスラを、この手に収めるために戻ってくる!」

 

 サタンに追随し、アウラとアルシエルもゲートに入る。

 

 ゲートを使うのはサタンにとって賭けだった。

 勇者から確実に逃げるために異世界に渡る。アウラから魔力を貰ったとはいえ、勇者との戦闘で消耗した分を完全に回復できた訳ではない。

 角が折られ、傷も癒えていない今の状況で果たしてゲートを制御しきれるのか。

 

「何とか安定はしているが、想像以上に魔力の消耗が速い。持ってくれよ……」

 

 ゲートの奔流。その中でも比較的流れが緩やかな場所を、導かれるように三人は進んでいった。

 

 

 

「――いきなり戦闘になる可能性もあったが、それは無さそうだな」

 

 何とかゲートを渡り切り、辺りの景色を見渡したサタンが呟く。

 完璧に制御しきれなかったとはいえ、無事に魔力のある異世界に辿り着くことができた。

 しばらくはこの世界で力を蓄え、来たるべき日に備えるのが得策だろう。

 

(いず)れにせよ、この世界の情報を集めるのが先決か……」

「――やっぱり、ここって……」

「アウラ、どうかしたか?」

 

 未だ警戒を解除しないアルシエルとは対照的に、何かを探し納得したように辺りを見渡すアウラにサタンは声をかける。

 そんなアウラは一呼吸置くと、突拍子もないことを言い出した。

 

「私は、この場所を知っているわ」

「……どういうことだ?」

「サタン、覚えているかしら? 貴方と初めて出会った時、私が言ったこと」

 

 初めて出会った時と言えば、まだサタンが魔王ですらなかった時だ。

 もう随分と昔のことだが、印象に残っていることが一つあった。

 

「確か、転生したとか言ってたか? って、まさか……」

「そのまさかよ。ここは、私の元いた世界」

 

 当時からサタンは疑問だった。

 アウラほどの実力者が、まるで降って湧いたかのように現れたことに対して。

 いくらハグレ悪魔とはいえ、今まで一切の噂すらなかったことに対して。

 

 確かにアウラが本当に転生したのであれば、辻褄が合う。

 そして転生したということは――。

 

「そしてこの場所は――私が殺された場所よ」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「フリーレン様、大丈夫ですか? 最近よく(うな)されているようですが」

 

 朝。寝起きで目をショボショボとさせたフリーレンに、フェルンは心配そうに声を掛けた。

 最初の内は本人も気にしている様子がなく、そんな日もあるかとスルーしていたのだが、さすがに毎日となれば話は変わってくる。

 そんな気遣ってくれるフェルンに、フリーレンは何でもないことのように言った。

 

「もしかしたら私は、呪いにかかったかもしれない」

「えっ、呪いですか!?」

 

 フェルンが驚くのも無理はない。

 呪いとは即ち、魔族が使う原理の解明されていない魔法。

 そんなものにかかったとなれば最悪命すら危ういし、今のフリーレンに呪いをかけられる魔族となれば相当な手練れだろう。

 

「一体どんな呪いを!?」

「悪夢を見る呪い」

「悪夢を見る呪い!? それはなんと恐ろし、い……?」

 

 恐ろしい……恐ろしいのだろうか?

 口元に手を当て、フェルンは考える。

 パッと思い浮かんだのは、寝付きが悪くなりそうだなということ。目覚めも悪くなるだろうが、今のフリーレンを見るとそうでもないように感じる。

 精神的にキツイと言われたら納得しそうだし、所詮は夢だからと言われたら大したことでもないような……。

 

「むむむ……」

 

 恐ろしいか恐ろしくないか、絶妙なラインにフェルンは唸る。

 

「ごめん。呪いは嘘だよ」

 

 そんなフェルンの様子に「本気にしないでよ」とフリーレンは言う。

 

「もうっ。冗談もほどほどにしてください」

「でも、悪夢を見るっていうのは本当だから」

「はぁ……。そうかもしれませんが。それで、どんな悪夢を見るんですか?」

 

 呆れまじりなフェルンに対し、フリーレンは再度謝ってからその内容を打ち明けた。

 

「夢なんだけど、夢じゃないと言うか……。アウラとの戦いを、何回も繰り返すんだ」

「アウラとの戦いを……ですか?」

「うん。あの時とまったく同じ内容。あの時とまったく同じ展開。それで最後にアウラが笑いながら(・・・・・)言うんだ。“次こそは、絶対に勝つ”ってね。おかしな話だよね、次なんてないのに」

 

 神妙な面持ちなフリーレンに、フェルンは目を細める。

 

「魔族の言葉に惑わされないでくださいよ」

「分かってる。でも、そのぐらい考えさせてよ。夢にまで出るんだしさ」

 

 それに――。

 

「それに、あの時のアウラは……間違いなく本心で言ったと思うんだ」

 

 だって、そうだろう。

 自らの手で自らの首を切り落とし、意識を手放し魂を消滅させながら、それでもなお紡いだ言葉が嘘だとは、フリーレンには思えなかった。

 




 続かない。
 近々連休があるので、その時に原作通り地球にゲートが繋がったIFを投稿予定です。
 ちょっとしたアンケートが下にあるので答えていただけると幸いです。

 お気に入り、評価、感想など、お気軽に。

アウラは接客業が……

  • 得意だと思う
  • 苦手だと思う
  • そもそも働かない
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