はたらくアウラさま!   作:〆鯖缶太郎

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 地球に転生した場合のIFです。
 ゲートを潜るまでの流れとしては前話の続きとなっているのでよろしくお願いします。


【IF】地球に転生していた世界線
アウラ、名前を決める!


 結論から言えば、魔王サタンはゲートの制御に失敗した。

 アウラから魔力を借りたとはいえ、やはり勇者との戦闘で満身創痍だったのが原因だろう。

 ゲートの奔流に流され漂着したのは、見たことのない高度な文明を有した異世界だった。

 

「どこよ、ここ」

 

 かつて魔界に転生した時と同じように、アウラは呟く。

 

 周囲に草木といった自然物はなく、明らかに人工物で囲われていた。

 地面は平らに舗装され、そそり立つ垂直の壁だと思っていたものは見上げると所々光が漏れ出ており、形状的にもこの世界の建物だと思われる。

 その更に上の暗い空には星が輝き、今が夜であることが窺えた。

 三人がいるのは巨大な建造物の狭間の薄暗い裏道であり、この世界の知的生命体であってもそうそうに通ることはないだろう場所だ。

 事実、先程から何かがしきりに通り過ぎていくような聞いたこともない騒音が耳を叩くが、それがこちらに近付いてくる気配はない。

 一先ず安全の確保はできた。これからの方針を決めるためにも、まずは話し合う必要があるだろう。

 そう考えた三人が向かい合った時――異変に気付いた。

 

「ま、魔王様……その、お姿は……っ!」

 

 声は間違いなくアルシエルのものだった。

 しかしその姿は、アウラの知るかつての屈強な大悪魔の面影はどこにもない……脆弱な人間の姿。

 

「お前、アルシエル……なのか?」

 

 続いてサタンの姿を確認しようと目を向ければ、アルシエルと同じく服装は変わらぬものの、こちらも人間の姿へと成り果てていた。

 ならば当然自分も……と、アウラは二人の反応を窺う。

 

「アウラは……まぁ……」

「角や翼が無くなったぐらいで、元から人間みたいな姿でしたもんね。何故か魔力も全く感知できませんし」

「懐かしいな。アウラが魔王軍に加入した頃、人間の侵入者とよく間違われてたの」

「見た目が小柄なことも相まって、滅茶苦茶なめられてましたもんね……。知っている者からしたら自殺行為でしかなかったですけど」

「ちょっと、私だけ色々と酷くない?」

 

 二人の微妙な反応に、アウラは思わず顔をしかめる。

 追加で文句の一つや二つを言いたいところだったが、今はそれどころではない。

 何故自分たちが人間の姿になってしまったのか。その原因を、アウラは早々に突き止めていた。

 

「ところでアルシエル。サタンはもう気付いて対策しようとしているみたいだけど……貴方、自分の魔力はどうしたのよ?」

「何を言って――ッ!?」

 

 そこで漸く、アルシエルは更なる異変に気付いた。

 体内の魔力が全く回復しない。それどころか徐々に漏れ出しており、止めることができないことを。

 

「アルシエルほどの大悪魔でも、魔力の制限はできないのね。まぁ、普通はする必要がないから当然かもしれないけど」

「ぐっ……」

 

 魔力を制御しようとすると、余計に漏れ出てしまう。

 その事実にアルシエルは苦悶の表情を浮かべる。

 

「落ち着けアルシエル。……と言っても、俺も余裕はないけどな」

「魔王様……」

 

 よく見てみれば、サタンは落ち着いているように見えるものの、何かに抗うように歯を食いしばっていた。

 あの魔界の王が魔力が漏れ出ないという一点に集中して、やっとの思いでなせる(わざ)

 それをアウラは今まで何食わぬ顔でやっていたことに、サタンはその異常性を再認識した。

 

「アウラ。いつもこんなことやってたのかよ」

「そうね。今となっては呼吸と同じだから、違和感に気付くのに遅れちゃったけど」

 

 魔力が回復せず、制御しなければ漏れ出てしまう。

 それはつまり、この世界に魔力が自然に湧出していないことを意味していた。

 そしてそれこそが、三人の姿が人間になってしまった原因だ。魔力不足のせいで、高等悪魔の姿を保つことができない。

 悪魔の外見は本人の力の質に比例する。

 だからこそ、かつてアウラはその姿から弱いと判断され、なめられてきたのだ。

 

「で、これからどうするの?」

 

 忘れてはならないが、ここは三人にとって未知の世界だ。

 今こうしている間にも死の危険が迫っているかもしれない。

 魔力の件で大変なのは分かるが、早急に方針を決める必要がある。

 

「その事なんだが……。アウラ、俺に《服従させる魔法(アゼリューゼ)》しろ」

「……は?」

 

 サタンの返答に、アウラは自分の耳を疑った。

 前世と合わせ700年以上生きてきて、そんなことを言われたのは初めてだ。

 

「急にどうしたの? 気でも触れた?」

「俺は正気だ。それで、どうなんだ?」

「嫌に決まってるじゃない」

 

 そしてアウラは当然のように断る。

 それもそのはず。《服従させる魔法(アゼリューゼ)》は魔力の大きい方が半永久的に相手を操れる魔法。態々自分より魔力の多い今の(・・)サタンにアウラが使うはずもない。

 

「なら、俺と勝負するか? 今の俺が本気を出せば、お前を操って強制的に《服従させる魔法(アゼリューゼ)》させることだってできるぞ? 魔力だって俺に貸して、勇者との戦闘で不死の軍勢を使い切ったことは分かっているしな」

「……本当にどうしたの? 今ここで仲間同士争ったって何もメリットがないじゃない。それにこの状況で魔力を無駄にするなんて、自殺行為よ?」

「そんなことは分かっている。だが、俺の方が確実にアウラより魔力の多い今だからこそ、やらないといけないんだ」

「……もしかして、私が裏切るとでも思ってる?」

 

 アウラの問いに、サタンは迷いなく頷く。

 そしてもしもう一度断るようなら、本気で魔力を使ってでも操るつもりだとアウラは理解した。

 

「ここがどういった世界なのかは分からない。だからこそ三人で協力し合う必要がある。そのためにはアウラ、お前が必ず裏切らない保証がいるんだ」

「…………」

 

 必ず裏切らない。

 言葉で言うのは簡単だが、実際に裏切らないかどうかは結局信用問題になってくる。

 だが《服従させる魔法(アゼリューゼ)》をすればそれが確かなものとなるので、サタンの言っていることは間違いではないだろう。

 断ったところで強制的に操られて《服従させる魔法(アゼリューゼ)》させられる。

 それなら自分から使った方が、互いの魔力の消耗的にも今後を考えれば得策だ。

 だが――。

 

「だが、俺自身がアウラを裏切らない保証もない。そうだろ?」

「……ええ。今の私の魔力量なら、確かにサタンには敵わない。でも、逃げるぐらいなら恐らくできる。できればやりたくはないけど」

 

 この世界での安全を完全に確保できてない今、一人になるのは危険だ。

 だからこそ、アウラも穏便に済ませたいというのは本心である。

 

「安心しろ、俺は裏切らない」

 

 そんなアウラを落ち着かせようと、サタンは語り掛ける。

 

「俺がその気ならこんな提案をせず、問答無用でお前を操れば済んだ話だ。態々逃げる猶予(ゆうよ)を与える必要がない」

 

 そう。サタンが馬鹿ではない事は他ならぬアウラ自身が知っている。

 こんな提案をしてきた時点で、ある程度説得する算段があるのだろう。

 

「そしてアウラ。もし魔力を確保する方法を見つけ、再び“ゲート”を使用し元の世界に戻れたのなら、最優先で協力することを誓おう」

「……協力?」

「常々言っていただろう。“私には復讐する相手がいる”と。だがその相手はこの世界にいないとも。アウラ、その相手は異世界にいるのではないか?」

「そうね」

「だからこそ、俺の“ゲート”の能力をお前は喉から手が出るほど欲しいはずだ。故にそう遠くない未来、俺はお前が確実に裏切ると踏んだ。違うか?」

「……違うと言えば、嘘になるわ」

 

 今更否定したところで意味はないだろうと思い、アウラは認めた。

 フリーレンと再戦する。しかしそれは不可能だろうと思っていた。

 だがサタンの“ゲート”を見て、そして実際にこうして異世界へと渡ったことで、アウラは確信した。

 サタンを使えばもう一度あの世界に行ける。魔王サタンと悪魔大元帥アルシエルという、あちらの世界でも十分に通用する最強の駒を持って。

 だからこそ裏切るつもりだったのは本当だったが、どうやら見抜かれていたらしい。

 

「アウラ、もう一度言う。俺に今ここで《服従させる魔法(アゼリューゼ)》しろ。そうしたら確実に協力してやる。だがここで断るなら、俺はお前を敵とみなす」

「ずるいわね。結局貴方が裏切らない保証がないじゃない」

 

 もはやこれは交渉ではない。拒否権のない一方的な押し付けだ。

 《服従させる魔法(アゼリューゼ)》をした後、サタンが「気が変わった」といって裏切れば、アウラの全てが破綻する契約。

 

「――アウラ。俺は魔界の王、魔王サタンだぞ。俺はいつだって民のために行動してきた。違うか?」

「……分かったわよ。どうせ私には選択肢がほとんどないんだから、関係ない話だけど……《服従させる魔法(アゼリューゼ)》」

 

 アウラの手に天秤が現れる。アウラとサタンの禍々しい魂。それが当然のようにサタンに傾いた。

 

「“アウラ、俺とアルシエルを裏切るな、協力しろ。今はそれだけでいい”」

 

 こうして三人は、改めて一致団結することを誓い合った。

 

 ――そうやって騒いでいたからだろうか。あるいは一歩間違えば一触即発の空気だったがために、周囲への警戒を怠ったからかもしれない。

 近付いてきたその存在に、三人は気付くことができなかった。

 

「あなた方、何かお困りのようですわね?」

 

 聞いたこともない言語であるはずなのに、三人は何故かその言葉の意味を理解できた。

 振り向いた先に立っていたのは、禍々しいオーラが凝縮されたような、肉体構成は辛うじて人間という生き物の範疇に収まる存在。

 

「フフフ、突然ごめんあそばせ」

 

 目を離したいのに、離せない。

 かつてエンテ・イスラを震撼させた三人の大悪魔が、身を震わせ戦うどころか逃げることすらできない。

 

「あら、驚かせてしまいましたわね」

 

 そんな巨大な紫のオーラの塊は少しだけ雰囲気を和らげると、三人に向かって一枚の紙を差し出した。

 エンテ・イスラでも、アウラがかつていた世界でも見たことがない、羊皮紙とは比べ物にならないほど薄く滑らかなその紙には、三人の理解できる言葉が並んでいた。

 

「突然ですが、あなた達にぴったりのお話がありますの」

 

 ニコリと、どんな魔族や悪魔よりも邪悪に感じるその微笑みに、気付けばアウラは意識を手放していた。

 

 

 

 

 

「――悪い夢を、見ていた気がするわ」

 

 アウラが再び気付いた時には全てが終わっていた……いや、始まったと言った方がいいだろうか。

 アルシエルから説明を受けたアウラは、この世界の基準で見ても明らかにボロく狭いであろう一室で呻く。

 三人がいるのは“ヴィラ・ローザ笹塚”という、あの人間らしき紫色の存在――志波美樹(しばみき)がオーナーをしているアパートだった。

 一室の広さは六畳一間。その中央に置かれた年季の入った木の机には書類が積み重なり、三人がそれを囲んでいる形だ。

 書類の一番上には紫色のキスマークが()された賃貸契約書があり、アウラは身震いしながらそっとその紙を伏せた。

 

「それで、私たちはこれから何をするの?」

 

 アウラが気絶している間、大まかな説明はアルシエルが聞いたらしい。

 因みにサタンも、アウラが気絶してからほどなくして同じ道を辿った。

 

「大体の手順はこの紙に書いてある……が、我々がすることは契約書に名前を書くだけでいいらしい。いや、選択肢がそれしかないと言った方が正しいな」

 

 未知の世界で経緯はどうあれ住処を確保できた。

 だが、それで終わりな訳がない。

 この魔力が存在するかも分からない高度な文明を持つ世界で生きていくには、かつてのように力での支配は期待できないだろう。

 この世界にだって、生活する上でのルールは存在するはずだ。

 

「このアパートとやらに移動する間、私は馬を必要としない馬車に乗せられ外の景色を見た。どうやらこの世界は人間が支配しているらしい。そして、立ち並ぶ建物や服装などから考えても、明らかにエンテ・イスラにあった人間の住処とは比にならない文明社会だった」

 

 力説するアルシエルの(げん)を、サタンとアウラは真剣に聞き入る。

 今は少しでもこの世界のことを知る必要があるため当然のことだが、(はた)から見てみれば痛いコスプレをした三人が寸劇を繰り広げているようにしか見えない。

 

「そしてこの世界……日本で生きていくには、あの志波美樹と名乗った人間……人間? が言うには、こちらの世界の名前がないと話にならないらしい。でなければ、この契約書も書くことはできないと」

 

 アルシエルはそう言うと、机の上にひらがなとカタカナの五十音表とローマ字表、更には辞書を含めた数冊の本と一台のノートパソコンを置いた。

 

「これがこの世界の文字のようだ。そしてあの人間が言うには、このパソコンという板を使ってある程度のことは自分で調べろと言われた。説明書はこれだ」

「……随分と支援してくれるのね。あまりにも話がうますぎない?」

「だとしても、他に手立てはない訳だしな……。取り敢えず、言われた通りにやってみるか」

 

 初めて見る言語。初めて見る機械に苦戦しながら、三人は自分の名前を決めていった。

 

 

 

 三人の地頭はいいらしい。

 最初こそ手こずっていたものの、すぐさま言語の法則性を見つけ出せば書き順まで習得。

 何故か理解できる説明書を頼りに進めていた三人だったが、気付けばパソコンを使いこなしこの世界の情報を順当に仕入れ、価値観などをすり合わせていった。

 そして夜が明ける頃――三人の名前は決定した。

 

「まずは俺からだな」

 

 そう言ってサタンの出したメモ用紙には『真奥(まおう)貞夫(さだお)』と書かれていた。

 得意気に腕を組むサタンに、アルシエルは賛辞(さんじ)を贈る。

 

「さすがです魔王様。まさかご自身の名に“まおう”の文字を入れるとは……。このアルシエル、感服いたしました」

 

 膝を付いて頭を下げんばかりの勢いのアルシエルに対し、アウラは何とも言えない表情を浮かべた。

 

「いや……名字が“まおう”って……。この世界に詳しくない私が言うのもなんだけど、明らかに変じゃない?」

「アウラ……お前今、全国の真奥(まおう)を敵に回したな?」

「全国の魔王(まおう)が敵に!? 何よそれ、勝てるわけないじゃない!」

「おいアウラ、急に馬鹿になるな。ビックリするだろ」

 

 一体何を勘違いしたのか、突然ヒステリックに叫んだアウラにアルシエルは自身の耳を塞いだ。

 ボロアパートであるが故に間違いなく隣室にまで筒抜けだっただろうが、現状ここに住んでいるのはアウラ達しかいない。

 そんなやり取りを挟みながら、続いてアルシエルが名前の書かれたメモ用紙を出す。

 

「私の名前は『芦屋(あしや)四郎(しろう)』です」

 

 こちらもサタンに負けず劣らず、自信たっぷりに言い放つ。

 実際アウラも早く自分の名前を公表したくてうずうずしているので、案外悪魔というのは子供っぽいところがあるのかもしれない。

 あるいはこれが深夜テンションというやつだろうか。

 魔力を失い人間体となったことで、色々と変化もあるのだろう。

 

「おー、悪くないんじゃないか?」

「さっきのサタンのに比べたら、よっぽどまともに見えるわね。というか、普段から呼び方に気を付けないと、ふとした時に間違えそうだわ」

「確かにな……。そう言うアウラはどんな名前なんだ?」

 

 ついに自分の番が来た。

 この時を待っていたと言わんばかりに、アウラは声高らかに宣言する。

 

「聞いて驚きなさい。何と私の呼び方は、アウラのままでいいわ!」

「何だと!?」

「馬鹿な! そんな事が可能なのか!?」

 

 衝撃の事実に驚愕するサタンとアルシエル。

 そのノリと勢いは、やはり深夜テンションという他ないだろう。

 

「刮目しなさい! これが私の名前――」

 

 バンッ! と、アウラは自身の名前の書かれたメモ用紙を、机の上に勢いよく叩きつけた。

 

「――『藤代(ふじしろ)愛麗(あうら)』よ!」

 




【後書き】
 想像以上に書くのに手こずった……。
 一応まだ続く予定ではありますが、投稿ペースには期待しないでください。
 原作1巻の終わり辺りまで書けたらな~っと何となく思ってます。

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