見えざる敵からの砲撃に、レイヴンは反撃の糸口を見つけられないでいた。賭けに近い一か八かの回避を繰り返しているが、いつかは命中する。
エアは、全意識をセンサー類に集中するが、それでも、飛来するわずかな予兆を感じ取れるだけだった。この暴風の中では、センサーは壊れた羅針盤のように当てにならない。隙間を縫って手に入る一瞬の情報だけが、レイヴンを救う手掛かりだった。
砲撃の発射炎は見えない。発射音も聞こえない。いったい敵がどうやってこちらを見ているのかも、エアには見当がつかなかった。
「このままでは……」
『間接照準射撃だ、G13!』
撃墜されたはずのG6から、通信が入る。どうやら、乗機は撃破されたが彼自体は無事だったようだ。
『観測情報を元に行う遠距離射撃だ!とにかく動きまくれ!動く相手には不向きな戦法だ』
「レイヴン!次弾が来ます!」
今度は、回避が間に合わず爆風が機体に叩きつけられる。大した損傷こそないが、敵がレイヴンを捉え始めていた。
『
G6からの通信が、距離が離れたことによって途絶する。だが、敵を攻略するには充分すぎる助言だ。
「レイヴン、今までの砲撃方向から、敵がいる大まかな方向を算出しました。少なくとも、あなたの背後に敵はいないのは確実です。G6の言う通り、まずは敵の目を見つけなくては」
レイヴンが、表示した方向に向かって進んでいく。ジグザグに動いて、砲撃の座標をずらそうとする。
だが、近づいていくほど敵の砲撃は正確になっていった。今では、飛んでくる二発の砲弾はそれぞれが着弾位置をわずかにずらした偏差射撃になり、回避しても危うい場面が増えている。さらには、射撃の頻度も増えていった。だがそれは、敵に近づいている証拠でもあるのだろう。
レイヴンが熱源スキャンを実行する。ベリウス連峰のでこぼこした地形を、赤い波が走っていく。そして、遂に敵の姿を捉えた。
それは、灰褐色のMTだった。頭部に巨大なレーダーアンテナを積んでおり、背部にT字型のデバイスを背負っている。既にレイヴンに気づいていたのか、逃げようと移動し始めていたが、その重い装備のせいで普段以上に
「このMTは、解放戦線の機体です。レイヴン、機体は破壊せずに無力化してください。私に案があります」
レイヴンが、アサルトライフルを一発撃ちこみ、MTの足を破壊する。
「MTに接続してください。敵の通信記録から、配置を割り出します!」
武器を持っていないMTは、されるがままレイヴンの機体と接続させられる。エアは、MTにかかっていた微弱な
『なっ……情報が吸われているのか!』
解放戦線の兵士が、なんとかコンピュータをロックしてエアを締め出そうとするが、エアのハッキング能力相手には時間稼ぎにすらならない。
『くそっ!かくなる上は……』
エアのハッキングが中断され、閲覧していた文字列の海が引いていく。レイヴンが機体を後方に飛ばして、接続が切れたのだ。
『灰被りて、我らあり!』
直後、MTが爆発する。自爆したのだ。
「っ……レイヴン、ハックした情報から、敵の位置を割り出しました。機体システムに反映します」
これで、レイヴンの視界には敵の配置が見えることだろう。だがあくまで、通信によって割り出した大まかな配置であり、敵が移動すれば無意味になってしまう。
「レイヴン、手早い対処を」
機体が、再び走り出す。それと同時に、敵の砲撃も再開した。だが、今度はそれも長くは続かない。敵の目は、分かった。
「どうやら敵は、背部のアンダーグラウンド・ソナーで、レイヴンの足音を聞いていたようです。こうして飛べば、敵にレイヴンの姿は見えない」
吹雪の影響で、上空を飛ぶことはできない。レイヴンの機体は、地上すれすれを滑走するように飛んでいた。時折、機体のつま先が雪を
「先ほどのMTは、解放戦線の精鋭である近衛部隊の所属でした。近衛は、解放戦線の指導者サム・ドルヤマン直轄の部下で、彼を深く信奉しており、命令されれば死すらもいとわない。そして、その近衛を率いているのは、解放戦線のACパイロット、リング・フレディです。」
『どうやら、種がバレたようだな』
若い男の声が、通信から聞こえてくる。
『封鎖機構の執行に乗じて、壁を奪還するつもりだったが……帥父は、お前の死を望んでいる。悪いがここで消えてもらう』
リング・フレディの声には、ノイズが無く明瞭に聞こえる。どうやら、惑星通信用の巨大な装置を搭載することで、電波を強力にしているようだ。
「レイヴン!砲撃が来ます!」
空中を移動していたレイヴンに、砲弾が飛来する。回避が間に合わないと判断したレイヴンは、シールドを展開して受け止めようとする。が、二発目の砲弾に耐えきれず、シールドは過負荷を起こして破損した。さらに、衝撃でレイヴンの左腕も故障する。止む負えず、レイヴンはシールドをパージした。
「左腕の回路が断線して、パルスブレードを起動できません!」
レイヴンは、ブレードも捨てる。残っているのはライフルとミサイルだけだ。左腕は、動かすことはできるが、細かい動作はできなくなっている。
「どうやら……通信回線を無理やり繋げることで、レイヴンの位置を特定したようです。ですが、リング・フレディの居場所も把握できました」
レイヴンが、リング・フレディを目指して疾走する。再び、リング・フレディから通信電波が飛ばされ、回線が強制的に繋がる。
今度の砲撃は、山なりには飛んでこなかった。既に、リング・フレディとの距離を大きく詰めている。予測していたレイヴンは、この砲撃を二発とも回避する。だが、回避した先に、ミサイルが撃ち込まれた。
レイヴンが、排熱弁を解放し、放電を行う。巨大なパルス爆発に巻き込まれて、リング・フレディの放ったミサイルは空中で爆散した。右肩の二連装砲を発射するが、レイヴンは機体を屈めてこれを避けた。
『チッ!』
「敵はリロード中です!一気に勝負を決めましょう、レイヴン!」
距離を取ろうとするリング・フレディに、レイヴンが肉薄する。重い通信装置を搭載していたリング・フレディのキャンドルリングは、思うような速度が出ないのか、レイヴンに追いつかれる。
リング・フレディが、再装填された左肩の大砲を撃とうとするが、レイヴンはその前に左腕をキャンドルリングに叩きつけた。衝撃に怯んだキャンドルリングの体勢が崩れ、砲弾はあらぬ方向へ発射された。
そして、左腕でキャンドルリングの頭部を鷲掴みにすると、アサルトライフルを胴体に押し付けて乱射した。キャンドルリングのコックピット部が、ゼロ距離射撃でめちゃくちゃになっていく。
『帥父……申し訳……』
弾切れになるまでライフルを撃った後、とどめとばかりにコックピットを左腕で叩き潰す。リング・フレディは、脱出すらかなわず絶命した。
「レイヴン……」
キャンドルリングの機械油が、返り血のようにレイヴンの機体を染めていた。
G13レイヴン!「壁」での殲滅遂行、ご苦労だった。今回は、貴様に助けられた。礼と言ってはなんだが、落とした武装は回収しておいた。
一つ、俺から助言を送ろう。貴様は、独立傭兵にしておくには惜しい。正式にレッドガンに入隊すれば、より上位の番号を狙えるだろう。そのナンバーは縁起が悪い。付け続けているとロクなことにならんぞ。
以上だ。これからも使い倒してやるから、覚悟をしておけ。