レッドガンの死神   作:抜殻

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旧宇宙港防衛(2)

『強化人間C4-621。レイヴンの名を返せとは言いません。ただ、あなたにその資格があるか、見極めさせてもらいます』

「本来のライセンスの持ち主か」

『その前に、残った邪魔者に退場してもらいましょうか』

『ッ!』

 所属不明機の狙いが、背後を取ろうとしていたG5に向けられる。

「レイヴン、援護を!」

 機体の急制動に耐えられないのか、G5の動きは鈍い。シールドを展開してミサイルとライフルを受け止めているが、それではすぐにやられてしまうだろう。

 レイヴンが、所属不明機とG5の間に割って入る。敵も諦めたのか、注意をG5からレイヴンに移した。

『野良犬……てめぇは……』

「G5、聞こえるか。あとは621に任せて離脱しろ。足手まといだ」

『……ぐっ……クソが……クソッたれが……』

 G5がブースターを噴射して、飛んでいくのを、レイヴンは目尻に確認していた。

『まぁいいでしょう。目的はあなたです、C4-621』

 レイヴンと所属不明機は、挨拶替わりの射撃の応酬を繰り広げる。ミサイルが交差し、銃弾が飛び交う。レイヴンは、杭打機(パイルバンカー)を警戒してか、シールドを張りながらの射撃だけで、敵機との間隔を保っている。

 決定打のないままの撃ち合いが続く。その均衡を崩したのは、所属不明機の方だった。レイヴンのミサイルが装填(リロード)に移ったと見るや、所属不明機は上昇し、右肩の二連装砲を撃ちおろしてきた。二つの砲弾は、偏差射撃によってタイミングをずらして撃ち込まれる。初弾で回避を誘い、二発目で直撃を狙う。

 回避先を読まれたレイヴンは、二発目を避けるために連続でブースターを噴射する。その連続の噴射に、ブースターのノズルが赤く変色していく。

 一度守勢に入ったレイヴンに、敵機は容赦なく追撃を加えていった。砲弾を避けると次はミサイルが迫る。挟み込むように飛来するミサイルを、さらに機体を跳ばすことで何とか避ける。姿勢制御システム(ACS)が異常を知らせるアラートを響かせる。爆風と急制動に耐えられず、処理が追い付いていなかった。

『企業の走狗(そうく)か、ハンドラーの猟犬か。どちらにせよ羽ばたくことはないでしょう』

 そして、再びの砲撃を回避した時、遂にレイヴンの機体のACSは停止した。機体中枢のシステムが復元するまでの間、レイヴンはこの巨大な精密機械を自身の力だけで動かさなければならない。それは、強化人間であっても不可能なことだ。レイヴンの機体が、敵の目の前で棒のように立ち尽くす。

 所属不明機は、ACS異常のタイミングを予測していたように、既に距離を詰めていた。システムが復元する前に止めを刺そうと、踏み込み、杭打機を掲げる。

 が、突如レイヴンへの止めを刺す前に離れていく。レイヴンの機体の、排熱弁が開いていることに気づいたのだ。レイヴンを中心に、電撃の大樹が生える。だが、敵機に当たったのは細枝のようなわずかな量だけで、回路を焼き切るには至らない。

 コア拡張機能は、ジェネレーターに過負荷を与えることで膨大なエネルギーを一時的に生み出す。発生したエネルギーは、パルスとなって機体外へ放出される。が、ジェネレーターを暴走同然の状態に稼働させるため、大量の熱を生み、排熱を終えるまでは再使用はできない。そして、ジェネレーターは自壊を防ぐためのリミッターによって、排熱中は出力が低下するという、諸刃の剣でもあった。

 撃破自体は凌いだものの、レイヴンの機体の動きは、明らかに鈍くなっている。同型機同士の戦いでは、それがより顕著になっていた。

「621、障害物を利用して時間を稼げ」

 レイヴンが、屍の山に身を隠す。所属不明機が破壊し尽くした兵器の群れには、封鎖機構の強襲艦もある。その巨大な残骸は、ACの姿も隠せる程に大きい。

『……そのままでは』

 敵機も、レイヴンを追って鉄の墓場へと足を踏み入れる。この中では、残熱が多すぎて熱源探知も働かない。レイヴンは障害物を縫うように進み、敵の視線から逃れる。そして、冷却の時間を稼ぐために物陰で足を止めた。壁を背にして、正面を警戒して敵を待ち伏せる。

『レイヴンとは、意志の表象。相応しいのは選び戦う者だけです』

「構うな、621。お前は戦いに集中しろ」

 辺りが静寂に包まれる。聞こえてくるのは、死者の嘆きのような爆ぜ音だけだ。その音に混じって、エアは、鉄が擦れるような音を聞いた気がした。機体の集音器を通じて、それは背後から聞こえてきた。

「レイヴン!敵は後ろです!」

 レイヴンが咄嗟(とっさ)に機体を跳ばした直後、背にしていた壁を鉄杭が突き抜いた。そして、爆風で壁自体が吹き飛ぶ。回避が遅れていれば、今頃はくし刺しになっていた。敵機が、突き破った壁から現れる。

 レイヴンが、ミサイルを撃ち込む。敵は狭い通り道にいて、回避はできない。レイヴンがありったけの火力を叩き込もうとするが、所属不明機は右肩の砲弾を地面に向けて撃った。敵機のやや手前で、火柱が起こる。その爆風に巻き込まれて、レイヴンのミサイルは撃墜してしまった。

「このAC……強い」

 レイヴンは、引いて距離を取りながら射撃を行う。敵機の弾丸は、シールドで受け止めながら。再びの膠着状態に陥るかと思われたが、所属不明機は間が空くのを許さなかった。

 敵の二連砲弾が飛来する。レイヴンはそれを回避するが、直後に背後の残骸にぶつかった砲弾は、熱と風を生み出す。避けたはずのレイヴンの機体は、爆風に(さら)される。

 レイヴンの機体の方が、所属不明機よりも若干速い。距離を詰められることはなかったが、火力では分が悪かった。シールドで展開している以上に、所属不明機の火力が上回っている。このままでは、再びACS異常に持ち込まれてしまう。

 二機は、強襲艦の残骸の周りをまわりながら撃ち合っていた。飛び出した骨組みが、機体にぶつかって折れる。そのたびに激しく揺れるコックピットの中で、レイヴンが血走った眼で相対する同型機を(にら)む。

 敵のミサイルが、レイヴンの機体を挟み込む。右側には、強襲艦の残骸があり、そちらへは回避できない。左側へ機体を跳ばす。が、ミサイルの一つが、右腕のアサルトライフルに命中した。ライフルは、銃身から先が吹き飛び、使用不能になってしまった。

 これでレイブンの武器は、ミサイルとブレードしかない。絶望的と言っていい状況だ。逆に、好機と見た敵機が一気に距離を詰めてきた。ミサイルでの応戦は、花火のように空中に火を咲かすだけだ。

 その時、全員が忘れていた。視界の中で、もはや使うことのできないゴミだと思っていた。レイヴンの傍らには、G4のキャノンヘッドが、項垂(うなだ)れていた。レイヴンは、その腕に握られていた、ベイラム社製散弾銃を(つか)む。

 刹那の出来事だった。敵機が、その状況を飲み込み、回避に移る前に、レイヴンが手にした武器は火を吹いた。蛍の群れのような弾丸の束が、所属不明機へと向かっていく。それは、敵機の至る所へ穴を穿(うが)ち、胴体を蜂の巣にした。

 だが、それで終わってはいなかった。所属不明機はまだ生きている。一発限りの弾を使い果たしたレイヴンに向かって、左腕の武器を振るおうと接近してくる。左腕を引き、殴打の要領で棘を繰り出す。

 レイヴンが、ブレードを振るい、敵機の左腕を切り落とした。

『レイヴン、反撃を……!』

 敵機の機体が、電撃を(まと)い始める。放電のための準備動作だった。だが、レイヴンは逃げようとせずそのまま二撃目を振るった。敵の放電より前に、胴体を袈裟(けさ)切りにする。

『……』

 だが、敵の帯電は止まらない。それどころか、異常なまでのエネルギーを生み出している。

「制御装置の故障!ジェネレーターが暴走しています!」

「621、離れろ!」

 レイヴンが急いで距離を取る。敵の機体はガタガタと震え、振動で装甲が剥がれ落ちるほどだ。相当な熱が発生しているのか、内部フレームが溶けだして、関節部から垂れ落ちている。

 目の前に雷が落ち続けているかのように、電流が(ほとばし)っている。機体の機器類にも、その影響が出ていた。

 そして、目が潰れそうになるほどの閃光とともに、所属不明機のジェネレーターは臨界点を迎えた。巨大なパルス爆発が、周辺の残骸を巻き込んでいく。レイヴンは、間一髪のところで放電を逃れた。

 爆心地には、ACの影すら残っていない。周辺にあったモノも吹き飛ばされている。G4のキャノンヘッドも、機体上部と下部が真っ二つに千切れてしまっていた。

『そう……見届けようというのね』

 レイヴンが、肩を揺らしながら息をしている。彼がこれほどまでに追い込まれているのを見るのは、エアには初めてだった。

『この翼が、彼らをどこに運ぶのかを』

 

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