レッドガンの死神   作:抜殻

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アイスワーム撃破(2)

『これよりアーキバスとベイラムの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始します。全機、作戦エリアへ突入しなさい』

 V.Ⅱスネイルの指示が下り、待機していた四機のACがアイスワームの待つ巨大な氷原へと足を踏み入れる。先頭を行くのは、前衛役のV.Ⅵメーテルリンク。621がその背後に付く。そのやや後ろに、ミシガンとチャティ・スティックが斜めに並びながら続いている。作戦エリアの対岸には、バートラム旧宇宙港の巨大な発射塔が、アーレア海の靄の向こう側にぼんやりと見える。そこには、オーバードレールキャノンの射手として待機しているV.Ⅳラスティがいた。

『寄せ集め各員。アイスワームがそちらに接近しています。統率をかかないように』

 巨大な地響きが聞こえてくる。まるで、ルビコンが割れてしまうかのような揺れだ。

『散開しろ、命知らずども!絶対に固まるなよ!』

 621を追従しているミシガンは、愛機の「ライガーテイル」ではなく、ベイラムの訓練用教官機(トレーナーAC)に搭乗していた。「ライガーテイル」はルビコンでの組み立てが完了しておらず、今回の作戦には間に合わなかったのだ。

 ミシガンの指示通り、縦隊を組んでいた四機のACは、それぞれが左右に散らばる。そして、縦隊が直前まで進んでいた進路上の地面に大きな亀裂が走った。土まで凍りついた中央氷原の凍土が、ガラスのようにひび割れていく。崩壊の波はみるみる広がっていく。

 その亀裂の中央部分の地面が、沈下したと思った瞬間、爆発のような勢いでアイスワームが飛び出してくる。顔面部に、渦巻く削岩機を持ったアイスワームは、名前通り地中を掘り進んできたのだった。

『まずは厄介な防壁を引き剥がします。独立傭兵レイヴン。あなたがスタンニードルランチャーを当てなければお話にもなりませんよ』

 地上に現れたアイスワームは、その巨大な体躯をうねらせながら大地に(えぐ)った(あと)を残していく。あれだけの質量と衝突すれば、ACでも耐えられるものではない。散開した各機は、アイスワームに接触しないようにしながら、621が好機を生むのを待っていた。

『こちらV.Ⅳラスティ。レールキャノンの準備はできている。戦友、出番なしで終わらせてくれるなよ』

 アイスワームが、再び地面に潜った。

「621、アイスワームが顔を出すタイミングがチャンスだ。座標とタイミングはこちらで伝える。スタンニードルランチャーの弾は少ない。無駄弾は避けろ」

 アイスワームの行動パターンは、あれだけ巨大な兵器ゆえにいささか単純だ。本能で動く動物と言ってもいい。だが、それは脅威のレベルを下げるわけではないと、ウォルターは知っていた。コーラルは、そう生半可なものではない。

 アイスワームが現れるのは、地上を滑走するACの真下だ。恐らくは地上の振動を感知しているのだろうと、ウォルターは考えた。621に、機体を滞空させるよう指示を出す。これで狙いは、他の三機へ移るだろう。

 地上へ迫り上がる物体を感知する。それは、ミシガンを狙っていた。

「621、目標はミシガンの真下だ!」

 621が機体を方向転換させる。展開している味方機は、621が射撃をしやすい位置についていた。ミシガンがブースターを吹かして、亀裂の入った地面から離れる。その直後、アイスワームが地面を破って顔を出す。

『ははっ、こいつはなかなかスリリングだな!一歩遅ければ粉微塵だ!』

 上空で待機していた621が、対峙したアイスワームの顔面へスタンニードルランチャーの初弾を命中させる。電撃を(まと)って発射された砲弾が、削岩機の表面でコーラル防壁と衝突して、その二重の防壁の一枚目を無効化する。

『シールド消失を確認。レールキャノン発射シークエンスに入る』

 プライマリシールドが消えたことで、仕事はV.Ⅳラスティに引き継がれた。

『EMLモジュール接続。エネルギータービン開放。出力80%』

 アイスワームが、再び地中へ姿を隠す。今度は、621も地上を滑走してアイスワームの狙いを分散させる。この後は、V.Ⅳの射撃の腕に作戦の成否がかかっていた。

『照準補正良し。90……95……』

 再び、センサーが地中を進む物体を捉える。それは、621を狙って上昇していた。直感で分かったのか、ウォルターが伝えるよりも前に621が回避に移る。アイスワームが、獲物を喰らおうと、大地から現れた。

『外しはしない』

 その時、一筋の閃光が、アイスワームの頭部を撃ち抜いた。命中させたのだ。対岸のV.Ⅳからすれば、針のような小さな的に。

『今です。全機、目標への総攻撃を』

 オーバードレールキャノンの砲撃と、コーラルシールド消失によって、アイスワームが倒れこむ。一時的にだが、システムがダウンしたのだろう。システムが復旧するまでに、完全に破壊しなければならない。

『この距離を当てるとは……ナンバーに空きがあれば勧誘しているところだ!』

『ベイラムの歩く地獄にそう言われるとはな。光栄だが遠慮しておこう』

『当然です。この程度はやってもらわなくては』

 身動きの止まったアイスワームに、四機のACの火力が叩き付けられる。ミサイルが装甲を砕き、砲弾が炸裂する。621のブレードが、顔面の削岩機を切り裂いた。

『頭部だ!頭部に火力を集中しろ!』

 だが、通常の装甲が分厚いのか、サイズ故の生命力か、ACの手持ち武器では未だ中枢部へのダメージには至っていない。

 やがて、再起動を終えたアイスワームが再び動き出す。だが、動き出したアイスワームは地中へ潜ろうとはせず、地上を(うごめ)く。そして、蜷局(とぐろ)を巻くような動きをしながら、赤い電撃を纏い始めた。

「待て、様子がおかしい」

『全機、化け物から離れろ!』

 それは、ACのコア拡張機能に似ていた。アイスワームを中心に、赤い稲妻が(はし)る。

『これは……!?まだ機能を隠していたのか!?』

 あれは、コーラルジェネレーターを利用したパルス爆発。あれほどの巨体を駆動させる出力だ。もし巻き込まれていれば、ACなど跡形もなく消滅しただろう。だが、幸いにも全機無事に離脱していた。

『これは……悠長にやっている余裕はなさそうだな』

 V.Ⅳも、望遠カメラを通して先ほどの爆発を観測したらしい。

『レールキャノンの出力を限界まで引き上げよう。被害が広がる前に決着を付ける。次が、最後の一発と思ってくれ」

 アイスワームが、再び地面に姿を隠す。既に作戦エリアは、アイスワームがぐちゃぐちゃにしたせいで穴だらけで、足場が悪い。そう何度も逃げ続けられるような状況ではなくなっていた。

『ビジター、目標が子機を展開した。対処する』

 さらには、アイスワームの胴体に収納されていたレーザードローンが空中に残されている。ドローンは空中を漂いながら、アイスワームから逃れようとした目標を撃とうと、海月(くらげ)のようにフワフワと浮いていた。

 アイスワームが地面に身を潜めている間に、ドローンを撃ち落とそうと全機が空中に注意を向けた。しかし、それこそがドローンの狙いだった。

「地中から飛び出て来るぞ……反応は、V.Ⅵの真下だ!」

 V.Ⅵは、ドローンに気を取られ、反応が遅れた。地面が割れ、沈み、機体の足を取られる。メーテルリンクが自身の失敗に気づいた瞬間、インフェクションは削岩機に飲み込まれた。

「V.Ⅵの信号が消えた」

『ちっ。一機やられたか』

 飛び出してきたアイスワームは、先ほどよりも荒々しく地表を走っている。それは、死にかけの魚が水を求めて跳ねている姿に似ていた。追い詰められている証拠だ。

 アイスワームの胴体から、(おびただ)しい数のミサイルが発射される。着弾したミサイルは、赤色の爆発を起こした。コーラル燃焼性のミサイルだ。

 621とミシガンは、なんとかミサイルの雨をかいくぐった。しかし、チャティ・スティックが被弾する。赤いシャボン玉のような爆発が起こる。爆風はなく、コーラルが燃焼した部分にだけ熱と衝撃が発生する、特殊な弾頭だ。だが、その威力は絶大だった。

「すまないビジター。手伝えるのはここまでだ」

 チャティ・スティックのサーカスから、カプセルが射出された。チャティ・スティックの電脳が入ったサーカスのシステム中枢だろう。カプセルは、ロケット推力を得て作戦エリアを離脱していく。

『二人っきりだな、G13!あのロマンスの欠片もない化け物を倒さん限り、手も握れんぞ!』

『私を忘れてもらっては困るな。こちらの準備はできている』

『ならば、俺がチャンスを作ってやろう。上昇しろ、G13。そうすれば、残った餌は一つだ。よく狙え』

 ミシガンが、621から離れていく。621も意を汲んで、機体を上昇させて滞空する。

 単純な思考回路しか持たないアイスワームの弱点が出た。敵の行動に対して、柔軟な対応ができないのは、あの兵器の欠陥とも言えるだろう。アイスワームは、一人地上に残ったミシガンを執拗(しつよう)に追いかけている。

『焦るなよ、戦友』

「来るぞ!」

 ミシガンがわざと速度を緩めると、アイスワームは獲物が弱ったと勘違いしたのか、一気に深度を上げてきた。ミシガンを食い殺そうと、地上に顔を出す。

 だが、獲物はすでにそこにはいない。浮上した先には、621が、スタンニードルランチャーを構えて待ち構えていた。再び、砲弾がアイスワームの顔面に撃ち込まれる。

『よくやってくれた、戦友』

 アイスワームが、(もだ)えるように身を捻じらせて暴れる。621は、あわや巻き込まれるところだった。

 V.Ⅵが、二射目の準備に入る。だが、先ほどとは違い、リミッターを解除した出力超過の一撃は、V.Ⅵの通信にすら影響を与えていた。ノイズ交じりの通信の中で、V.Ⅵは淡々と射撃準備を終えていく。

 対岸で、レールキャノンが淡く光っている。まるで、日の出の太陽のようだ。タービンが駆動する音と熱までもが、遠く離れたウォルターの元にまで届いているかのようだった。

 アイスワームが、621をまたも喰おうと現れる。大地が隆起し、土と溶けた氷が飛び散る。

『これで決める……!』

 V.Ⅵは、外すことなく止めの一撃を射抜いた。世界が静止したかのような静寂が、辺りを包んだ。いや、レールキャノンの発射の衝撃によって、あらゆる音が吹き飛ばされたのだ。ウォルターの乗っているヘリの集音器は、発射の轟音で故障してしまったらしい。

 アイスワームのコーラル防壁が、完全に消失する。システムエラーに陥ったアイスワームは、再びその巨躯(きょく)を氷の大地に横たえた。

『後は任せたぞ、戦友!』

 だが、まだ終わりではない。レールキャノンによってシールドは消滅したが、アイスワームの機能はまだ生きている。頭部の中枢システムを完全に破壊しなければ、再起動して立ち上がるだろう。そうなれば、もうシールドを突破する手段はない。

『G13!これで終わらせろ!』

 621とミシガンが、アイスワームの頭部へ再び攻撃を開始する。アイスワームも、損傷した頭部で地面を潜ったせいか、かなり自壊していた。だが、頭部にある中枢電脳は、まだ見えない。

 621が、弾切れになったアサルトライフルを捨てる。ミサイルも無くなり、ブレードを突き立てて装甲を融解させていく。空の右手で、装甲を引き剝がす。

『どけ!G13!』

 ミシガンが、621がこじ開けていた箇所へ、残弾全てを叩き込む。ミサイルが爆ぜ、マシンガンとリニアライフルの弾丸が装甲を削っていく。そして遂に、中枢電脳が見えようとしていた。

「621、アイスワームの再起動が終わりそうだ。今すぐに止めを刺せ!」

 だが、621もミシガンも、既に弾が無かった。ブレードはオーバーヒートして冷却中で、すぐには使えない。だが、冷却を終える前にアイスワームは再起動してしまうだろう。

「間に合わなかったか……」

 ウォルターが諦めかけた時、621は左腕のブレードを捨てた。そして、拳を中枢電脳を守る最後の装甲板へ叩きつけ始める。621の腕と、装甲板がひしゃげていく。

『その手があったか!』

 ミシガンも、621の傍で拳を振り始めた。残された時間は少ない。ウォルターは、その最後の足掻きに掛けた。

 アイスワームに電流が走る。再起動が終わったのだ。だが、621もまた、最後の賭けの準備を終えた。ひしゃげた装甲の隙間から、わずかにだが中枢電脳が見える。ミシガンが、621の考えを読んだように離れていく。

 機体を、電撃が包み始めた。アイスワームの体が動き始め、頭部を持ち上げようとした瞬間、その目の前でパルス爆発が閃光を発する。その放電は、強固な装甲に守られていた、アイスワームの電脳を焼き切った。

『やったか……!?』

 アイスワームの体が、痙攣(けいれん)するように跳ねる。そして、あちこちから漏れ出したコーラルが燃焼を起こし、爆発がアイスワームを包む。

『爆発するぞ!離れろ!』

 ミシガンの警告に、621が距離を取った直後、アイスワームは内包したコーラルすべてを道連れにして、巨大な火の玉となって爆発した。

「終わったようだな……」

 死した防衛兵器は、もはや二度と動くことはないだろう。天に向かって伸びた巨体が揺れ、巨木のように倒れ煙を上げる。

「爆発の余波は汚染を伴う。作戦領域から離脱しろ」

 621は、アイスワームの亡骸を見上げていた。その脈拍は、わずかに高い。

「621、戻って休め。これから忙しくなる」

 封鎖機構との戦いは終わった。アイスワームが守っていた、中央氷原にある何か。ウォルターには、その目途がついていた。そして、付きまとう硝煙の匂いにも。

 

 G13、化け物退治ご苦労だった。一名の殉職者を出したことは残念極まるが、連中の訓練不足だったと考えろ。

 封鎖機構への打撃は成功した。アイスワームも退けた今、新たに見つかったウォッチポイントを巡って競争が始まる。お偉方はアーキバスに後れを取っていると考えているらしい。先手を打つために、奴らよりも早く探査に乗り出す気だ。

 未知の領域に大軍を送り込んでも、役立たずどもが役に立たないまま棺桶になるのがオチだ。それを防ぐには、役に立つ鉄砲玉が引率してやる必要がある。貴様だ、G13!

 今回も裏道を使って貴様を無理やり作戦にねじ込んだ。ベイラムからの先行調査の依頼だ。安心しろ、屍はしっかり拾ってやる。

 もし依頼を引き受けない時は、背後に気を付けることだな!

 

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