独立傭兵レイヴン。早速だが、仕事の説明をさせてもらう。企業勢力の筆頭アーキバスは、封鎖機構の技術を取り込み優位にあるとは言え、終わらない勢力争いに消耗し実態は疲弊している。今こそ、奴らの重要戦力を削ぐ好機だ。
目標は、V.Ⅶ「スウィンバーン」の排除。これに協力してもらいたい。深度2の探査任務に就いている奴を情報工作によりおびき寄せ、これを奇襲する。
本作戦では、お前には私の指揮下に入ってもらう。歴戦の勇士の戦いぶり、しかと見せてもらおう。
独立傭兵レイヴン。色
レイヴンは、ウォッチポイント第二深度の最奥にある連絡用通路に身を潜めていた。以前に、ウォッチポイントを防衛していた無人兵器と交戦した場所である。
「配置についたようだな。仕掛けるタイミングは、お前に任せる」
ミドル・フラットウェルからの通信は良好だ。彼は、今回に限ってウォルターの代わりにレイヴンの指揮を行う。解放戦線の実質的指導者が、自ら名乗り出たという事実に、エアは任務とは別の思惑を感じていた。
きっと、ミドル・フラットウェルはレイヴンの価値を測ろうとしている。彼が、解放戦線に与する可能性があるか否か。当のレイヴンは、いつもの何食わぬ顔で哀れな獲物が網にかかるのを待っていた。
連絡用通路の隔壁が開き、一機の四脚ACが侵入してくる。V.Ⅶの「ガイダンス」だ。
『スネイル閣下からの緊急の呼び出し……いったい何だろうか』
V.Ⅶの盗聴した通信を聞く限り、彼は偽りに命令に疑いを持っていないようだ。
『なぜ私だけが……。ベイラムに先を越されていることへの叱責だろうか。それとも……』
ガイダンスが、連絡通路の真ん中、レイヴンの真下で停止する。
「レイヴン、今がチャンスです」
返事代わりに、レイヴンの機体が火を吹く。発射された六発のミサイルが、直上からガイダンスに迫る。
『なっ……攻撃!?一体どこから!?』
ロックオンされたV.Ⅶが、
『貴様は……独立傭兵レイヴン!?一体なぜ!?閣下は!?』
「くそっ仕留めきれなかったか。ここからは力戦になるぞ!」
『そうか!これは罠だ!卑怯者め、貴様は再教育センター送りだ!』
ようやく状況を把握したV.Ⅶが、レイヴンから距離を取る。ガイダンスの機体は、砲撃戦特化の遠距離戦用の機体だ。大火力の武装を持つ反面、接近では分が悪いのだろう。
だが、あいにく連絡用通路は閉所であり、距離を開くことも容易ではない。レイヴンは、ガイダンスの弱点を突くために距離を取らせようとはしない。鈍重な四脚機の機動力では、引き離すのは不可能だった。
『指導だ!指導!』
V.Ⅶが、唯一近接で使用できる左腕のスタンバトンを振るう。悪あがきとばかりに、レイヴンが近づけないようにめちゃくちゃに振り回している。
レイヴンは、スタンバトンが当たらないギリギリの間隔を保ちながら、V.Ⅶを壁へと追い詰めていく。
『押されている……やはり最初の被弾が……』
ガイダンスが、剥き出しの岩盤へと激突する。それでもレイヴンから離れようと機体を擦りつけながら後退していたが、遂に左右どちらにも逃げることのできない隅にまで追いつめられる。
『このスウィンバーンが劣勢だと!』
そして、逃げ場を失ったV.Ⅶはスタンバトンのコアロッドを露出させ、一か八かの刺突を繰り出した。だが、その焦りから生まれた単調な攻撃は、レイヴンに容易く見きられる。そして、大きく突き出されたガイダンスの左腕を、レイヴンのブレードが切り落とした。
『なっ……』
そのまま、パルス・ブレードをガイダンスのコックピットへ突き立てようと左腕を引く。
『ま、待て!落ち着け!取引をしようじゃないか!』
V.Ⅶは、ガイダンスの武装を全て排除し、無防備な状態になる。エアは唖然とした。レイヴンですら、驚いたのかやや目を見開いている。機体は、左腕を引いたまま動かない。
「何をしている!早く止めを刺せ!」
『い、いいか。私はヴェスパー第七隊長、つまり会計責任者でもあるということだ』
レイヴンが、構えていた左腕を下ろす。パルス・ブレードが収縮し、冷却状態に入った。
「裏切るつもりか……独立傭兵レイヴン」
『部隊の入出金については、私に管理権限がある。見逃してくれれば、悪いようにはしない。分かるな?』
レイヴンが、ガイダンスから距離を取る。エアには、レイヴンの考えていることが分からない。まさか本当に、V.Ⅶを見逃すつもりなのだろうか。
『素晴らしい。道理を弁えているようだな』
ガイダンスから離れていくレイヴンは、何かを探すようにキョロキョロと周りを見渡している。
『貴様には……』
「待て!機体反応がある!お前の背後だ!」
ミドル・フラットウェルからの警告の直後、レイヴンの背後を囲むように飛んでいるドローンを、エアも探知した。それは、光学迷彩に包まれていて、発射直前までエアにも気づけなかった。だが、レイヴンはそれを予測していたのか、警告よりも早く回避に移っていた。
『おあーっ!?』
レイヴンが回避したことで、レイヴンと対峙していたガイダンスが、代わりに熱線に焼かれる。頭部、胴体、右腕と脚部を焼き切られたガイダンスが崩れ落ちる。
『悪いな、スウィンバーン。ここにいる人間は、全員消せという依頼だ』
レイヴンの見ている景色に、ノイズが走っていく。空気に電流が流れ、ジジジという羽音のような音とともに、光学迷彩を施されていた姿が露わになっていく。レイヴンの目の前に現れたのは、ベイラムとアーキバスのフレームで構成された一機の二脚ACだった。