「こいつは……ロックスミス!?ヴェスパーの首席隊長がなぜ!?」
『いや、今の俺は独立傭兵ケイト・マークソンだ。壁越え以来だな、猟犬』
光学迷彩を解いたロックスミスが、レイヴンと対峙する。エアは、アリーナの情報にアクセスしてロックスミスの機体データを解析する。
「アリーナのデータと武装が違います。企業のデータには登録のない、未知数の兵器です。注意を、レイヴン」
ロックスミスの武装で唯一変わっていないのは、先ほどレイヴンを襲い、V.Ⅶを殺害した左肩のレーザードローンだけだ。右腕には、アーキバス製のレーザーハンドガンを装備しているが、左腕の銃剣付きのバズーカ砲と右肩の巨大なミサイルはどちらも企業製ではなかった。
『ライセンスの譲渡までできるとは、胡散臭い依頼だ。同士討ちも後味が悪い。だが、お前と戦えるなら何でもいい』
「レイヴン、来ます!」
ロックスミスが、脚部のブースターを点火して移動を始める。先ほどの攻撃から冷却と充電を済ませたドローンを再展開する。
「独立傭兵レイヴン、この状況は逆に好機だ。V.Ⅰを排除できれば、これ以上の戦果はない」
レイヴンも、機体を加速させる。一目散にロックスミスへ接近していった。肉薄することで、ドローンの射撃を制限させる教科書通りの戦法だ。
レーザードローンは、レイヴンを包囲するように浮きながら追従してくる。だが、その銃口はまだ光らない。飛び続けるドローンは、レイヴンにプレッシャーを掛け続けていた。
レイヴンとV.Ⅰは、追いかけ合いを続けながらお互いの銃を撃ち合っていた。だが、重武装に身を包んだロックスミスに対しては、レイヴンの方が速い。徐々に距離を詰めていく。
そして、ブレードの届く距離にまで踏み込んだ。直後、ロックスミスのミサイルが発射される。それは、巨大な弾頭の一発のミサイルだった。レイヴンは容易くミサイルを
それは、かつてレイヴンが戦った老兵が装備していた、爆導索付きのミサイルだった。発射された弾頭は、目標に回避されても囲い込むように飛翔し、対象を爆弾の檻で囲い込む。
レイヴンが爆導索から逃れようとするが、その進路を遮るようにドローンの射撃が襲う。逃げれば熱線に焼かれ、逃げなければ爆発に巻き込まれる。ミサイルに回り込まれ、いよいよ左右に逃げることもできない。
『これで詰みだ、猟犬』
逃げ場を失ったレイヴンに、V.Ⅰが爆発を待たずにドローンで止めを刺そうとする。が、レイヴンは唯一残った上方へと機体を逃す。V.Ⅰもそれは予想していたようで、上昇中のレイヴンに向けてドローンのレーザーを撃ち込こんできた。レイヴンは、背面のメインブースターの片方を停止させて、推力に任せて機体を無理やりにロールさせた。光線は、レイヴンのすれすれを通過していった。
『ほう……そういう動きもあるのか』
V.Ⅰも、爆導索に進路を遮られてレイヴンの追撃をそれ以上行えなかった。ドローンを収納し、次に備えようとしている。レイヴンは、爆導索の爆発に合わせて、V.Ⅰへ急接近していった。爆炎を目隠しに距離を詰める。察知したV.Ⅰが両手の武器で時間を稼ぐ間に、充電を終えた二機のドローンを展開した。
ドローンの数が少ない今が、攻撃のチャンスだった。パルス・シールドでピストルの弾を受け止め、レイヴンはブレードを振るうために踏み込む。そして、ブレードの間合いに入った。
『近づけば撃たれないと思ったか?』
レーザーが、レイヴンの機体を焼いた。察知したレイヴンは一発は避けたが、もう一発が左肩のシールド発生器に命中する。装備が融解し、使用不能に陥る。
ドローンは、レイヴンの背後から撃ち込まれていた。射線上には、V.Ⅰ本人がいるというのに。
『これで厄介な盾は潰した。次はどう攻める』
レーザードローンには、その使用の複雑さもあり、自機や僚機を誤射しないための安全装置が付いている。本来ならば、射線上に自機がいる状態では撃てないのだ。レイヴンもそれを知っていたからこそ、接近を挑んだのだが、V.Ⅰにはもうその戦法は通用しない。
「V.Ⅰフロイト……やはり一筋縄ではいかないか……」
機体のデータによれば、レイヴンは「壁」で一度V.Ⅰと交戦している。その時はV.ⅣとG5もいたが、レイヴンはV.Ⅰと互角以上の戦いを繰り広げていたはずだ。その後も、レイヴンは幾度もの死闘を越えて、実力を上げているはずだった。だが、今はV.Ⅰに圧倒されている。
『お前との戦いは、やはり面白い。以前とは違った動きもある。だが、まだ予想の
仕切り直しをした両者が再び対峙した時、レイヴンの通信機にノイズが走った。エアが通信を傍受しようとしたが、強固な隠匿回線だったために侵入できない。
『何?今すぐ地下に戻れだと?』
どうやら、謎の通信はV.Ⅰに向けて送られているらしい。レイヴンが好機と見てすかさず攻撃を開始するが、V.Ⅰは通信を続けながら簡単に射撃をあしらっていく。V.Ⅰの言葉だけがレイヴンにも届いていたが、どうやら通信主はこの連絡通路の下層にいるらしい。侵入者、という言葉がV.Ⅰの口から出る。だが、エアが状況を掴む前にV.Ⅰが渋々ながら承諾した、ように見えた。直後、謎の通信が途切れノイズも収まる。
『……さぁ、続けようか』
V.Ⅰは地下に戻るような素振りは一切見せず、レイヴンと再度の交戦に入った。今度のレイヴンは、積極的に近づこうとはしない。シールドも失い、先ほどのように絡み取られれば次こそ討たれるだろう。
だが、中距離の撃ち合いでも火力の差で優位に立っているのはV.Ⅰだ。このままでは、いずれドローンに撃ち抜かれる。エアが、レイヴンに何か打開策があるかを訊ねようとした時、彼の顔を見た。大きく見開かれた両目は、V.Ⅰではなく、空中を飛ぶドローンを見続けていた。瞬きすらせず、
レイヴンがミサイルを放つ。六発のミサイルは、広い角度に分散して扇状に飛んでいく。V.Ⅰは、自身に当たりそうな二発だけを選んで、ドローンで迎撃しようとした。その瞬間を、レイヴンは狙っていた。宙に浮く六つのドローンの動きを予測し、アサルトライフルを撃った。飛んでいく弾は、未来予知のような精度で、迎撃のために移動した二機のドローンを撃ち抜いた。
ドローンを迎撃されたV.Ⅰは、咄嗟に回避に移る。が、一発は避けきれずに左肩に命中した。致命傷には至らなかったが、V.Ⅰの体勢が崩れる。レイヴンがすかさず追撃に移る。急接近し、接近戦に持ち込んだ。
ロックスミスの胴体ユニットが展開していく。ジェネレーター推力の急上昇を、センサーが探知した。コア拡張機能だ。電撃に包まれていくロックスミス。だが、レイヴンは構わず突っ込んでいった。
ロックスミスを包んでいた電撃が、収縮していく。レイヴンが搭載しているパルス爆発とは違う。電撃は、ロックスミスと外界を分離していき、機体を丸々と覆う
レイヴンが左腕のパルス・ブレードを振るう。瞬間的に発生した電流が、パルス・アーマーに叩きつけられる。両者のパルス波形がぶつかり合い、干渉する。火花がバリバリと散り、両機の装甲に叩きつけられている。
まるで、時間の流れが遅くなったかのように、光刃が電撃の盾をゆっくりと進んでいく。ゼリーを切るようにゆっくりと。だが、刃はロックスミスに届く前に、パルス・アーマーに中和されて消滅してしまった。ブレードのオーバーヒートだ。
剣を失ったレイヴンに、V.Ⅰは左腕に持っていたバズーカの銃剣を、槍の要領で突き立てる。回避の間に合わないレイヴンは、右腕を犠牲にして銃剣を受け止めた。
『この武器はつまらんな。
レイヴンが、銃剣が刺さったままの右腕を振り上げた。直後、バズーカの砲身ごと機体の右腕が吹き飛ぶ。その衝撃に、レイヴンの機体がよろめいた。
その隙を見逃すV.Ⅰではなかった。使い物にならなくなったバズーカを投げ捨てながら後退し、再びミサイルと爆導索による包囲網を作ろうとする。が、レイヴンは拡張機能を展開してパルス爆発を起こし、ミサイルも爆導索もまとめて破壊した。
『ミサイルは弾切れか』
V.Ⅰが、右肩のミサイルポッドをパージする。これで、お互いに残されている武器は少なくなった。レイヴンがドローンを警戒していると、再び通信にノイズが走る。
『通信は切ったはずだが……うるさい客だ』
そしてすぐにノイズが収まる。V.Ⅰが再び通信を切ったのだ。もはや、返事すらしていない。
『お前とは、本気でやり合いたい』
言葉と裏腹に、V.Ⅰが、ドローンを機体に格納する。
『だが、どうやら邪魔が来たようだ』
「レイヴン!こちらに接近する機体があります!識別コード「ツバサ」、ミドル・フラットウェルの乗機です!」
『猟犬、仕切り直しだ。お前との戦いは、まだ面白くなる。それを、こんな形で終わらせるのは惜しい。お前も、そう思うだろう?』
それだけ言い残すと、V.Ⅰは背を向けて去っていった。まるで、レイヴンが背後から撃ってこないと分かっているかのように。
レイヴンの実力、見せてもらった。あのV.Ⅰをあそこまで追い込むとは。奴を討ち取れなかったのは痛手だが、それはこちらの問題だ。当初の内容から外れた分は、上乗せしておこう。
……いつかお前が、私たちにとっての戦友となることを祈ろう。お前なら、ルビコンの灼けた空を越え、まだ見ぬ自由を選べるのかもしれん。