壁越え(1)
仕事を始めてから、数日が経った。621も、少しはルビコンに慣れたようだ。既にいくつかの依頼もこなしている。ばら撒きの依頼だったが、企業への受けは良さそうだ。
621は有望だ。素質がある。まだ調整は粗削りだが、そろそろ大きな依頼を任せてもいい頃合いだろう。目的のためにも、企業に名を売っておく必要がある。
621には、まだ話していない。あいつには関係のない話だ。いずれ伝える時が来るが……その時は、俺から話そう。
お前のところにも近々顔を出すつもりだ。会うのは数年ぶりになるか。その時は、621も連れて行こう。お前にも面倒を頼むかもしれない。
ウォッチポイントの件は任せる。何か分かったら連絡をくれ。
ハンドラー・ウォルターは、友人宛てのメッセージを書き終えると、深く椅子にもたれた。簡素な作りの部屋を眺め、立てかけてある杖を見て、嘆息する。
強化人間C4-621。第四世代型強化人間、その621番目の被検体。ルビコン3に彼が連れてきた、たった一人の手駒だ。そして、彼が買い取ったハウンズの、最後の生き残りでもある。
ウォルターの計画に欠かせない、優秀で従順なパイロット。それが、621だった。買い取ったハウンズたちはどれも、裏社会でも
「皮肉だな……」
621は今、彼の知人の元へ出向している。見立て通り、才能はある。今のあいつに必要なのは経験だろうと、ウォルターは思った。今回の任務が、621にとっていい刺激になればいいが。
残された時間は、恐らく少ない。今後、621には危険な仕事をこなしてもらうことになる。ベイラムとアーキバスのコーラル探査は、あまり順調ではない。まずはそれを後押ししなければ。たとえ侵略者と罵られようとも、破綻が訪れる前に……。
「新着メッセージ、一件」
無機質な機械音声が流れ、ウォルターは思索を断った。今しがた送った友人からの返信だろうかと、メッセージを確認する。だがそれは、また違った知人から送られたものだった。
「新しい犬も役に立つようだな。流石だと褒めてやろう、ハンドラー・ウォルター。そこで、一つ提案がある。お前の猟犬を、うちの役立たず共の中にねじ込んで、壁越えに参加させる。本社には、ナイルの口添え付きで上申した。承認されれば、お前の方に依頼が来るだろう。色よい返事を期待しているぞ、ウォルター」
ウォルターは、口を綻ばせた。621にはどうやら、ツキもあるようだ。ベイラム上層部とのパイプ役であるG2にまで念押しさせるあたり、ミシガンは相当621を気に入ったのだろう。
「壁越えか。名前を売るには、絶好の機会だ」