レッドガンの死神   作:抜殻

2 / 29
チャプター1
壁越え(1)


 仕事を始めてから、数日が経った。621も、少しはルビコンに慣れたようだ。既にいくつかの依頼もこなしている。ばら撒きの依頼だったが、企業への受けは良さそうだ。

 621は有望だ。素質がある。まだ調整は粗削りだが、そろそろ大きな依頼を任せてもいい頃合いだろう。目的のためにも、企業に名を売っておく必要がある。

 621には、まだ話していない。あいつには関係のない話だ。いずれ伝える時が来るが……その時は、俺から話そう。

 お前のところにも近々顔を出すつもりだ。会うのは数年ぶりになるか。その時は、621も連れて行こう。お前にも面倒を頼むかもしれない。

 ウォッチポイントの件は任せる。何か分かったら連絡をくれ。

 

 ハンドラー・ウォルターは、友人宛てのメッセージを書き終えると、深く椅子にもたれた。簡素な作りの部屋を眺め、立てかけてある杖を見て、嘆息する。

 強化人間C4-621。第四世代型強化人間、その621番目の被検体。ルビコン3に彼が連れてきた、たった一人の手駒だ。そして、彼が買い取ったハウンズの、最後の生き残りでもある。

 ウォルターの計画に欠かせない、優秀で従順なパイロット。それが、621だった。買い取ったハウンズたちはどれも、裏社会でも(たち)の悪い連中が生んだ強化人間だ。完璧な商品を作るために、戦闘のための機能以外の一切を、切除された。命令に忠実で、死を恐れず、強い。倫理も尊厳も知らぬ狂った医者が生み出した産物は、しかしウォルターにとって必要な存在だった。

「皮肉だな……」

 621は今、彼の知人の元へ出向している。見立て通り、才能はある。今のあいつに必要なのは経験だろうと、ウォルターは思った。今回の任務が、621にとっていい刺激になればいいが。

 残された時間は、恐らく少ない。今後、621には危険な仕事をこなしてもらうことになる。ベイラムとアーキバスのコーラル探査は、あまり順調ではない。まずはそれを後押ししなければ。たとえ侵略者と罵られようとも、破綻が訪れる前に……。

「新着メッセージ、一件」

 無機質な機械音声が流れ、ウォルターは思索を断った。今しがた送った友人からの返信だろうかと、メッセージを確認する。だがそれは、また違った知人から送られたものだった。

「新しい犬も役に立つようだな。流石だと褒めてやろう、ハンドラー・ウォルター。そこで、一つ提案がある。お前の猟犬を、うちの役立たず共の中にねじ込んで、壁越えに参加させる。本社には、ナイルの口添え付きで上申した。承認されれば、お前の方に依頼が来るだろう。色よい返事を期待しているぞ、ウォルター」

 ウォルターは、口を綻ばせた。621にはどうやら、ツキもあるようだ。ベイラム上層部とのパイプ役であるG2にまで念押しさせるあたり、ミシガンは相当621を気に入ったのだろう。

「壁越えか。名前を売るには、絶好の機会だ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。