全員揃ったようだな。それでは、作戦の説明を始める。一言一句聞き洩らすな。
攻略目標は、コーラル抽出施設「バスキュラープラント」だ。そのコントロールセンターの奪取、不可能な場合はセンターもしくは施設そのものの破壊。
アーキバスも我々の接近に気づいたらしく、駐屯戦力による防衛線が構築されている。鹵獲した強襲艦の迎撃艦隊も出撃してくるだろう。
作戦は至って簡単だ。ストライダーに搭載されている「アイボール」の火力をもって、敵の防衛線を突破する。ACがストライダーの直衛となって、戦線を押し上げる。ストライダーが破った穴から、MT部隊が突入して浸透する。
俺と五花海がストライダーの直衛、レッドは突入部隊の指揮。作戦の総指揮はミドル・フラットウェルが執る。ストライダーの死守が最も重要だ。
と、アーキバスに思わせる。ストライダーが現れれば、連中の注意もそちらに向くだろう。ストライダーは二の手であり、囮だ。
G13、アーキバスの注意がストライダーに向いている間に、単独で戦線を突破して防衛部隊の指揮官V.ⅤホーキンスとV.Ⅷペイターを始末しろ。この二人が、地上部隊の陣頭指揮を執っている。
解放戦線のラスティが、協力を申し出ている。機動力のある二人を遊撃要員として、敵指揮官の排除と後方攪乱を行え。作戦の成否は、お前たちにかかっている。
最も障害になり得るのは、強襲艦隊だろう。指揮官の排除後、G13とラスティには艦隊迎撃に向かってもらうことになる。ストライダーのカタパルトを使えば、滞留コーラル層まで上昇させられる。
説明は以上だ。出撃しろ、命知らずども。
『G13、
格納庫内で出撃を待っていたレイヴンに、G6から通信が入る。
『そいつは、ミシガン総長がお前のために用意していた機体だ。今のお前には、似合わない名かもしれないが』
整備兵たちが退避し、隔壁横のランプが赤色に点灯する。格納庫内の警告灯が回り始める。
『お前には、我が方の依頼も幾度となく遂行してもらったな』
ハッチが開き、格納庫内に眩い光が差し込んでくる。ルビコンの地平線の向こうから、太陽が顔を出そうとしていた。
『今回も、お前には無茶をさせる。壁越えの時のような、危険な役だ』
濃紺に染められた機体が、照らし出される。その全身は、ベイラム社製量産フレームの軽量化カスタムパーツで組まれている。
『だが、俺はお前を信じている』
レイヴンが格納庫の外へ出る。ストライダーの巨躯から眺めるルビコンは、荒れた大地が広がっている。空には雲はなく、滞留するコーラルの濁った赤い空が良く見えた。
『存分に暴れ回ってこい、G13レイヴン』
機体のペダルを踏みこみ、ブースターを噴射し、灼けた空へと飛びだした。
「アイボール」の放つレーザーの光が、レイヴンの飛んでいる位置からも確認できた。曳光弾が地上から伸び、戦闘が始まったことが分かる。
『こちらも始めるとしようか、戦友』
レイヴンの傍らには、僚機であるラスティがいた。これまでのスティールヘイズとは違う、新型機に乗っていた。企業のデータベースにもない、完全な新型だ。
『強襲艦が現れる前に、目標を排除する必要がある。準備はいいか、戦友』
レイヴンは、返事の代わりとばかりに機体の姿勢を落とした。エンジンを吹かしてブースターの噴射体勢に入る。ラスティも、それに呼応してブースターを熱し始めた。
『彼らに見せてやろう。灼けた空の向こうには、未来があるとな』
二機は、一直線に戦場に向かって飛んでいった。道中のMTは無視し、敵の主力が確認された地点に向かって飛ぶ。
『ホーキンスは実直な男だ。指揮官の立場なら、本隊とともに可能性が高い』
目標地点に向かって飛んでいる最中、エアは機体の制御プログラムに妙な違和感を覚えた。それは情報導体として電子データそのものを実体のように感じられるエアだからこそ、すぐに気づけたであろう、見慣れない文字列だった。
「……レイヴン、機体のソフトウェアに、不正なプログラムを発見しました。これは……機体の停止コードでしょうか。起動テストの時にはこんなものはなかったはずですが……とにかく無力化しておきます」
目標地点に接近していくと、地上から対空砲火が飛び始めた。
『上空をACが接近中!ホーキンス隊長に報告しろ!』
『どうやら発見されたようだ。ここからは強行突破になるぞ、戦友』
地上に展開していたMTが、上空のレイヴンたちへ撃ちまくる。
「ストライダーに砲撃支援の要請を行いました。そのまま離れていてください……来ます!」
光の柱が、レイヴンたちの足元の地面を焼き払った。閃光が走った後には、MTは跡形もなく蒸発し、焼け焦げて溶解した地面だけが残った。
『ストライダーからの砲撃……手早いな』
対空砲火を避けるために高度を落としている時、ロックオンアラートが響いた。レイヴンは反射的に回避した。すると、先ほどまでの降下速度から予測された位置へ、レーザーの蒼白い光が通過していく。
『この狙撃を避けるとは、手練れだね』
『第五隊長殿、敵性二機、ともにデータに無い機体です』
『誰だろうと構わんよ、ペイター君。狙いは僕たちのようだ。迎撃始め』
レーザーが、細かな粒子となって霧散する。その軌跡の方へ視線を巡らせると、二機のACが臨戦態勢で接近していた。軽武装の逆関節と、重武装の四脚AC。間違いなく目標の二機だった。
『足が速い方は引き受けよう』
ラスティが加速し、V.Ⅷの「デュアルネイチャー」へ接近した。
『そのエンブレムは……貴様、第四隊長ラスティか』
『久しぶりだな、第八隊長殿』
『今はV.Ⅵだ。正直言って、あなたがいなくなって清々している。出世の機会が生まれたのでね!』
『君はそれしか頭にないな』
ラスティとV.Ⅷがブレードを交わして戦闘を始めた横で、レイヴンもまた残りの敵機と相対していた。
『レッドガンのAC……見ない顔だね』
レイヴンが、肩に積んだガトリング砲で弾幕を張る。だが、装甲の厚いV.Ⅴの「リコンフィグ」には目くらまし程度の効果しか与えられない。だが、レイヴンは弾丸とともにさらに接近していく。
レイヴンの希望に沿った改良を施された本機は、これまでとは違う攻撃に特化しか武装を装備していた。右肩にはレッドガンが特注させた肩部ガトリング砲「
V.Ⅴが装甲にモノを言わせた反撃に転じようとするのを、レイヴンは二丁拳銃の射撃によって阻止した。V.Ⅴが装備している各武装だけを狙って撃ち抜いていく。
たまらずV.Ⅴは残ったブレードを守るように身を捻らせる。レイヴンは装填を挟みながらなおも接近していく。
『とてつもない技量だ。だが……』
「リコンフィグ」の背後が光る。それは、身を隠して準備を終えたレーザーブレードの刃の光だった。居合切りの要領で、隠していた刀身を薙ぎ払うように横一線に振るう。
が、レイヴンはその攻撃を予知いていたように跳躍し、回避した。大振りの隙を晒している「リコンフィグ」の脚部を狙って銃弾を撃ち込む。至近距離で絶大な威力を発揮する大口径の徹甲弾が、四つの足を貫通し、切断した。
身動きの取れなくなったV.Ⅴに、レイヴンが左腕の拳銃をウェポンハンガーにかける。そして、背負っていた武装と交換した。左腕に装備された
『そうか君が……ヴェスパーを選ばなかったのは……残念だ……』
「リコンフィグ」の胴体を撃ち抜いた鉄杭は、損傷していた機体をバラバラに吹き飛ばした。機体の上半身は粉々の鉄片になり、千切れた脚部だけがその場に残った。
『第五隊長殿!』
『余所見とは感心しないな、第六隊長殿』
V.Ⅷが上官の戦死に動揺し足を止めた隙を、ラスティは見逃さなかった。「デュアルネイチャー」の胴体へ、右肩のニードルランチャーを射出する。高速で撃ちだされた巨大な針型の砲弾は、その貫通力で容易にACの装甲を突き破った。砲弾に付いているあごが、機体内部をぐちゃぐちゃにし、その中身を背中からぶちまける。「デュアルネイチャー」は機能を停止して、仰向けに倒れた。
『流石だな、戦友。フラットウェル、目標は排除した』
『頃合いだな。シュナイダーACを投入する』
ストライダーから、数機のACが飛び立つのが、レイヴンの位置からも見えた。それらは、レッド率いる突入部隊のいる主戦場へと向かっていく。
『実戦データの採集を条件に、お蔵入りになった実験機を提供する。シュナイダー社との裏取引で得た最新鋭ACだ。あれがあれば、突入部隊も封鎖機構の兵器と渡り合える』
『喋りすぎだ、ラスティ。それよりも、バスキュラープラントの方角を見ろ。迎撃艦隊が来たようだ』
フラットウェルの言葉通り、バスキュラープラントの方角から黒い影が迫っていた。三つの群れに別れ、陣形を組んだ強襲艦だ。十数隻はいるだろうか。
『お前たちは艦隊の迎撃に向かえ。手筈通りストライダーの……待て、なんだこの反応は』
フラットウェルの動揺した声が聞こえてきた直後、レイヴンたちの背後からいくつかの光線が飛び、迎撃艦隊に注がれた。光線が直撃した一隻が、瞬く間に爆散する。
レイヴンが振り向くと、アーレア海の方角から巨大な物体が飛来していた。かなり上空を飛んでいるが、それでもなお目視できる、ストライダーよりも大きいであろう物体だった。