レッドガンの死神   作:抜殻

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ザイレム制圧(1)

 やぁビジター、久しぶりだね。ウォルターに頼まれて助けに向かったんだが、ベイラムに先回りされてたとはね。なかなか笑えるじゃないか。

 あんたは生き残った。ウォルターは賭けに勝ったってわけだ。だから、あんたには私らの使命を明かすことにする。

 私たちは、「オーバーシアー」。アイビスの火がこの惑星(ほし)を焼き尽くしたあと作られた、観測者たちの結社。コーラルの増殖傾向を測り、「破綻」が訪れる前に……焼き払う。それが使命だ。私やウォルター……そして死んでいった「友人」たちのね。

 ここからが本題だ。これから、この浮上した「ザイレム」でバスキュラープラントに突っ込む。成功すれば、吸い上げられたコーラルに火が点き、私たちの使命は終わる。コーラルに点火すれば、アイビスの火の再現になることは、間違いないだろうね。

 だが、あんたに協力しろとは言わない。その機体に乗っている、理由があるんだろう。だから、何を選ぶかは、あんたの自由だ。

 

 秘匿回線で告げられたウォルターやカーラの正体、その使命を知って、レイヴンは珍しく動揺を見せた。何事にも即断即決だったレイヴンも、今回ばかりは迷っているように、エアには見えた。

 エアもまた、迷っていた。解放戦線は、現れたザイレムが迎撃艦隊と交戦しているのを見て、彼我の判断を決められずにいた。対応が遅れれば間に合わないことを知っているのは、エアとレイヴンだけだ。

 エアが独断で、情報を伝えることはできる。だがそれは、レイヴンへの裏切りに等しい。エアは自らの言葉で、レイヴンを説得することに決めた。

「レイヴン……無理を承知でお願いします。ザイレムを……止めてください。ウォルターの遺志に背くことは、あなたにとっても本意ではないでしょう」

エアは一瞬ためらってから、次の言葉を紡いだ。

「ですが、ザイレムの突入を許すことは、あなたを信じて戦っている人々を裏切ることになると思います」

 卑怯な言い方だと、エアは思った。言った瞬間に、後悔がよぎるが、それでもとエアは覚悟を決める。

「ザイレムを止められるのは、あなたしかいない」

 レイヴンは動きを止めて、目をつむった。身動きをしなくなったことに、ラスティが問いかけてくるが、レイヴンはそれにも返事をしない。無線からは、敵味方の通信が入り乱れて、戦場の混沌さが伝わってきた。

 レイヴンが顔を上げる。そこにはもう、迷いはなかった。機体を吹かし、ストライダーに向けて飛んでいく。そして、ラスティにザイレムの目的を伝えた。エアはホッとする。もしレイヴンがウォルターの遺志を継ぐなら、エアには別の手段でレイヴンを抹殺することができた。安堵と、そして罪悪感が混じった複雑な感情に絡めとられたが、エアの中に最も大きくあったのは感謝の言葉だった。

「……ありがとう」

 レイヴンの報告は、フラットウェルやナイルにも共有された。

『オーバーシアーか。星外の人間は、いつもルビコンを身勝手に扱う」

『ザイレムを止めるには、制御を奪って進路を変えるか、動力を破壊して撃沈するか。どちらにしてもザイレムに辿り着く必要があるな。どうする、フラットウェル』

『ラスティ、レイヴンはカタパルトを使ってザイレムに向かえ。直衛の二機も先行させる』

『了解した』

 レイヴンに続いて、ラスティもストライダーへ向かう。その射出用カタパルトからは、ストライダーを護衛していたG2が、上空高く飛ぶ第三勢力の母艦へ向けて撃ち出されていた。

 

 凄まじい衝撃が叩き付けられ、レイヴンはシートに押さえつけられる。常人ならば気絶するような負荷に襲われるが、強化人間であるレイヴンは顔色一つ変えずに耐えていた。

 コックピットの振動が安定した頃には、ザイレムの下部ブロックが見えるほど上昇を終えていた。ザイレムと艦砲射撃を交わしている迎撃艦隊の流れ弾に当たらないようにしながら、レイヴンとラスティはザイレムの甲板上に取り付いた。

 甲板上では、既に上陸していたアーキバス部隊と、RaD製MTが戦闘を始めていた。戦闘の余波でビルが倒壊し、幹線道路が崩落している。

「レイヴン、ザイレムを止めるには、カーラを排除して管制権限を奪うしかありません。まずはコントロールタワーを目指してください。恐らくそこに……カーラはいるはずです」

『こちらG2、どうやら反対側の甲板に着いたようだな。合流する時間が惜しい。このまま二手で、制御装置を目指す』

 ザイレムの甲板都市の中で、もっとも高い建物がコントロールタワーだ。アーキバス部隊もそこを目指しているらしく、残骸や瓦礫はコントロールタワーへ向かって残っていた。

 甲板上では、依然としてRaDとアーキバスが交戦を続けていた。戦況は、アーキバスが優勢と言って間違いない。機体の性能差は圧倒的で、戦闘というよりは蹂躙であり、交戦というよりは抵抗、というような状況だった。

『戦友、まずはアーキバス部隊の数を減らそう。残しておくと厄介だ』

 ラスティが、背後からLCに切りかかる。レーザースライサーの刃に巻き込まれ、LCはバラバラに切断された。レイヴンも、手近なSG機体に拳銃で風穴を開けていく。

『背後から敵だと!?』

『あれはレッドガンと……V.Ⅳラスティ!?死んだはずでは!?』

 背面からの敵襲に気づいたアーキバス部隊が、対応し始める。狙撃型LCが支援のためにビルの上に立ち、高機動型LCと重装型LC、そして部隊長である「オープンフェイス」に乗ったV.Ⅱスネイルが、ラスティとレイヴンの元へやって来る。

『負け犬と、脱走犬ですか。首輪が外れてさぞ気分がいいでしょうね、ラスティ』

『そちらは苦労が多そうだな、スネイル閣下。サプライズは楽しんでもらえてるかな?』

 「オープンフェイス」の左腕に装備されたレーザーランスのブースターが噴射され、猛烈な勢いで突進してくる。ラスティとレイヴンがそれを左右に分かれて回避したところに、重装型LCのミサイルが撃たれ、レイヴンに高機動型LCが襲いかかった。 

 レイヴンは、降り注ぐミサイルの雨をガトリング砲で迎撃し、接近してきたLCを拳銃で釘付けにした。シールドを構えて防御の姿勢を取るLCで、狙撃機の射線を塞ぎながら、懐を越える。

 レイヴンの狙いは、重装型LCだ。上空の高機動型が、シールドの陰からアサルトライフルを撃って来るが、レイヴンは最小の動きで回避し重装型に近づいた。重装型はその装備量から、重すぎて飛行できず足も遅い。拡散バズーカ砲でレイヴンを撃退しようとするが、その為の構えを取った隙に背後に回り込んだ。そして、装填されているミサイルポッドへ、拳銃を撃ち込んでいく。誘爆するかは運だが、量ゆえにチャンスも多い。そのうちの一つが、不幸にも当たり、LCは自身の背負った爆弾で木っ端みじんに吹き飛んだ。

 そして、爆風を利用して噴射し、狙撃機の位置まで一気に距離を詰める。チャージが間に合わない狙撃機は離陸して離れようとするが、その前に左腕のパイルバンカーのストレートをコックピットに食らい、パイロットは潰されて死んだ。

『この動き……貴様ハンドラーの駄犬か』

 V.Ⅱが、レイヴンの正体に気づく。

『いや、駄犬というのは訂正しましょう。貴様は……駆除すべき害獣だ!』

『私の友人を、馬鹿にするのはやめてもらおう』

 レイヴンが、残った高機動型と交戦するが、空中を浮遊して距離のあるLCに、射程の短い拳銃ではダメージを負わせることができない。接近しようにも、空中での機動力は向こうに分がある。

 V.Ⅱと戦っているラスティも苦戦しているようだった。ラスティは火力不足、V.Ⅱは手数不足でどちらも押し切れない。

 猶予がない中で、決着のつかない戦いをしているところに、接近する友軍の姿がレーダーに映った。

「あれは……G3五海花です。加勢に来たのでしょうか?」

 反対甲板から飛んできていたのは、迷彩色に塗装されたベイラム製四脚ACだった。だが、その姿は一つしか見えない。エアが疑問を持った時、レイヴンの機体がロックオンアラートを鳴らした。それは、友軍であるはずの「鯉龍(リーロン)」から照射された誘導レーザーを探知したものだった。

「G3にロックオンされています!」

 「鯉龍」からミサイルが発射され、それはLCの脇を通ってレイヴンへ飛来した。誤射ではない。確実に狙ったものだ。ミサイルはレイヴンに到達寸前に分裂し、逃げ道を塞ぐように花開いた。レイヴンはバックステップから、左側に機体を急制動させ、ミサイルの誘導を逸らした。

『どういうつもりですか?レッドガンの搾りカスが』

『そう邪険に扱わないでもらいたいですねぇ。G2ナイルの首を取ったというのに』

 エアはすぐさま広域レーダーで反対甲板の状況を調べた。さらに、G2の機体シグナルの受信状況もチェックするが、どちらも反応がない。それは、「ディープダウン」が撃破されたことの裏付けであった。

『彼には痛い目に合わされましたから。ずっと、後ろから撃つ機会を窺っていたのですよ』

 LCは、現れた「鯉龍」を警戒こそするものの攻撃はしない。その銃口は、眼下のレイヴンに向いたままだ。LCの隣に、「鯉龍」が並ぶ。そして、上空から一方的にレイヴンを撃ち下ろした。

『商売人として、時流を読んだ判断です。ベイラムはもう手遅れだ。レッドガンの首を手土産に、私はアーキバスへ鞍替えします』

『自惚れないでいただきたい。あなた程度のパイロット、アーキバスはいくらでも生み出せます。自分の有用性を示したいなら、そこな害獣を駆除してみせなさい』

『いいでしょう。G13レイヴン、悪いですが、あなたの機体には細やかな贈り物を忍ばせていただきました。ビジネスの基本は、根回しですので。……なぜ停止コードが機能しない?』

 G3との通信記録から、レイヴンの制御CPUに対してアクセスがある。単純な指令で、機体に仕込まれたコードを起動させる命令だったようだ。エアは、戦闘前に不審なコードを発見し、無力化させたことを思い出した。

『頼みの綱は不発ですか。尻尾を巻いて逃げても、私は一向に構いませんよ、G3』

『ならば実力で示すだけです。私のモットーは最大のリスクで最大の利益。生半可な覚悟で人は騙せません』

 G3は、感情を込めるように射撃を激しくした。しかし、接近する素振りは見せず、あくまでLCと空中に留まっている。レイヴンの武装では、あの高さの敵は倒せない。しかし二機分の火力を前に、無理に接近することもできなかった。

『これでは埒が明かないな。戦友!』

 ラスティの呼びかけに、レイヴンが応じる。二人は近づき、背中を合わせた。そして、背中を合わせたまま回転し、お互いの相対する敵を入れ替えた。

『選手交代だ。お互いの得意分野で戦うとしよう』

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