レイヴンの正面には、V.Ⅱスネイルが操る「オープンフェイス」がいた。火力と装甲に優れる重量二脚は、レイヴンの得意分野と言っていい相手だ。
V.Ⅱが、垂直軌道のプラズマミサイルを発射しながら、後退する。視界を外れるほど上昇したプラズマが、レイヴンに降り注ぐ。レイヴンは、距離を詰めつつ爆発を回避した。
『どいつもこいつも、身の程というものを弁えない。途方もない頭の悪さだ……!』
二人は、開けた場所からビルが立ち並ぶエリアへ移動した。ビルを挟んで並行していた「オープンフェイス」が、突然姿を消した。
「ビルの陰に隠れて、見失いました。警戒を、レイヴン」
レイヴンが、足を止めて警戒する。しかし、あちこちで戦闘が続いており、ソナーでも探すことは難しかった。レイヴンが、機体のカメラを全て起動して周囲を視界に収めて警戒する。
『ああ……あなたの再教育はもう諦めましたよ。上層部が間抜けなおかげで、無駄なことに労力を払ったものです』
レイヴンが視界を使って警戒している間、エアは機体に搭載されている探知機能を全て活用してV.Ⅱの位置を割り出そうとした。しかし、V.Ⅱは移動を繰り返しながらもレイヴンに接近してくる気配はなかった。辛うじて割り出せる位置情報は途切れ途切れで、攻撃のタイミングを伝えることは難しい。
『噛みつくことしかできない駄犬に、本当の狩りというものを教えてあげましょう』
「レイヴン、上です!」
ビルを越えて飛来したプラズマミサイルが、レイヴン目掛けて落ちてくる。建物に囲まれたこの場所では、レイヴンの逃げる方向は限られていた。レイヴンが、右側の交差点に向かって逃げる。
回避した先の交差点は、V.Ⅱの狩り場だった。スタンニードルランチャーの射撃準備を終えて、獲物を待ち構えていた。レイヴンをくし刺し刑に処そうと撃ち込まれた砲弾を、機体を屈ませることで回避するが、ビルに突き刺さった針が展開し、電撃を放出する。
間一髪で、電撃の爆発も回避した。あの爆発に巻き込まれれば、ACの電気回路はショートして機能停止に陥るだろう。が、爆発を回避した先のビルには、もう一発砲弾が刺さっていた。先ほどV.Ⅱが、移動している間に弾倉から引き抜いて突き刺したのだろう。レイヴンが逃げたのを確認して、V.Ⅱが電撃の網を展開する。前に、レイヴンは砲弾を拳銃で撃ち破壊した。
V.Ⅱの戦術は、それで終わりではなかった。レイヴンが砲弾に気を取られているうちに、レーザーランスの突進を始めていた。一本道で、左右に逃げ場はない。
『あなたの飼い主も、実に反抗的でしたよ!』
機体の推進力を全力で噴射し、アフターバーナーを使用して瞬間的な推力を得た「オープンフェイス」が、ビルの谷間を抜けてレイヴンをくし刺しにしようとする。
「オープンフェイス」の突進を、レイヴンは機体を捻って回避した。ビルに行く手を遮られ、またギリギリのタイミングだったため高熱の槍は機体の頭部を掠め、右肩のガトリング砲を溶かし潰して破壊した。が、レイヴンは機体を捻ると同時に左腕のパイルバンカーで、「オープンフェイス」の右脇腹へボディーブローを打ち込んだ。
『なっ……』
衝撃で突進の進路をずらされた「オープンフェイス」は、ビルへ思い切り突っ込んだ。ビルへ頭を沈めて動きの止まったV.Ⅱを背後から撃とうとするが、V.Ⅱは咄嗟にコア拡張機能を展開した。その前兆を読み取ったレイヴンが、すかさず距離を取る。
パルス爆発の衝撃でビルが吹き飛び、ガラスが割れて一面に散らばる。キラキラと反射しながら降り注ぐ姿は、光の雨のようだ。
『最新の調整を幾重にも重ねたこのスネイルに……カビの生えた駄犬が歯向かうだと!?』
突進の推力で思い切り激突した「オープンフェイス」は、至るところが変形していた。頭部ユニットは陥没し潰れており、V.Ⅱにはもう何も見えていないだろう。カウンターを喰らった胴体部は、厚い装甲に守られてジェネレーターこそ損傷しなかったものの、大きな穴が穿たれ火花が
『どこまでも
V.Ⅱが背を向け、上空へ飛んだ。
『だがプランはまだある……二重三重にな……!』
幾度か建物に激突するが、「オープンフェイス」は高度を上げていき、戦場を離脱した。
『続けましょう……レイヴン』
レイヴンが破壊されたガトリング砲の残骸をパージし、広場に戻る。広場では、LCを撃破したラスティが、残ったG3と交戦していた。四脚機の特徴である
『時代遅れのルビコニアンが……鬱陶しいですよ!』
「鯉龍」がマシンガンやミサイルで弾幕を張るが、ラスティの機動力に追いつけず、弾は空を切る。
『悪いな……私を捕まえられる人間は、一人しか知らない』
そして、肉薄したラスティが、レーザースライサーで足を切り落とす。遅れてシールドを展開するが、推進力が足りなくなった「鯉龍」は高度を維持できず、墜落していく。空中での移動力を失った「鯉龍」に、ラスティがニードルミサイルを撃ち込む。質量のある実体弾はシールドでは防げず、多少速度を殺す程度で貫通し、装甲へ突き刺さった。
『
ミサイルの貫通で崩壊しかかった機体は、墜落した衝撃で潰れ、バラバラになった。爆散こそしなかったものの、機体は原型をとどめないまでに損傷し、G3は死んだ。
『どうにか片付いたな……戦友』
「待ってください!レーダーに更なる反応!」
広域レーダーが、一つの機影を確認する。その速度は、確実にACのものだ。だが、コントロールタワーの方角から飛行する機体は、なぜか友軍の識別コードを発信していた。
機体が、広間に着陸する。紺色に塗装された、ベイラム社製特注フレームで構成されたAC。左肩から胴体まで、袈裟のように赤いペイントを加えた二脚機。
『独立傭兵レイヴン……お前の名前じゃねぇよな』
その肩には、ベイラム社のエンブレムを背景に、クワガタの頭部を持ち上げる蟻のエンブレムが描かれている。
『てめぇはいったい誰だ、野良犬』