レッドガンの死神   作:抜殻

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バスキュラープラント到達(2)

 ガレージで機体の最終調整をしていると、「オープンフェイス」が戻ってきた。機体はボロボロになり、激しい戦闘を繰り広げていたことが分かる。そこから降りてきたスネイルは、フロイトに目もくれず大股でどこかへ向かおうとしていた。その様子を見て、フロイトが呼び止める。

「スネイル、機体をどうした」

「あなたこそ、いつまで遊んでいるんです!」

 スネイルが、青筋を浮かべて叫ぶ。

「ずいぶん取り乱しているな。お前らしくもない」

「あなたに構っている暇などない!一分一秒でも早くあの駄犬……害獣を駆除しなくては……!」

「駄犬……ああ、あいつにやられたのか」

 合点がいったフロイトが、納得した声を出すと、スネイルは物凄い形相で睨んできた。

「最後に勝つのはこの私です。バルテウスさえあれば……」

「猟犬と戦うのは俺だ。邪魔するな」

「は……?」

 スネイルが、信じられないものを見るように、フロイトを見た。

「これが最後の機会かもしれん」

「あなたのそのゲーム感覚の態度が……」

 焦点の合わない目で捲し立てるスネイルを遮って、乾いた破裂音がガレージに響いた。それで、スネイルの頭は冴え、いや思考が停止した。フロイトは、携えていた拳銃を抜き、その銃口からは煙が上がっている。その先には、スネイルの太股があった。穴の開いたパイロットスーツから、血が滲んでいる。

 スネイルが、傷とフロイトを交互に見やる。痛みよりも驚きが勝っていたようだが、そのあとで激痛にのたうち回った。白目を剥き、体を痙攣させて口から泡を吐いた。どうやら、混乱と痛みで失神したようだ。

「悪いな、スネイル」

 銃声を聞きつけてきた整備兵たちがスネイルを運ぶのを背に、フロイトは機体の調整へと戻っていった。

 

 嗚呼、お前との戦いは楽しい。フロイトは、対峙する敵を前に思う。既に二度、レイヴンと戦った。そのうえで、フロイトは敗北のイメージを拭えない。その強さに、底が見えない。これまで戦った誰よりも強いという確信が、フロイトにはあった。

 ドローンの動きの癖は、地下で見切られている。その時の感覚を覚えているのか、ドローンの包囲攻撃は通用しない。一機を破壊されたところで、戦法を切り替える。

 「ロックスミス」を、猟犬狩りのためだけに作り替えた。興味本位で積んだ試作品のジェネレーターはやめ、今までの既製品に戻した。武装も、ベイラム製重拳銃とブレードで接近戦に対応し、中距離はプラズマミサイルとドローンで削る。

 ドローンをオービットのように追従させ、接近を封じる。あの人間離れした反射速度は、手術をしていないフロイトには追い付けない。

 レイヴンが、左肩に積んだコンテナミサイルを射出する。ミサイルは高度を取ってから飛来し、フロイトの真上で子機の爆撃を始めた。だが、誘導性の低い子機ミサイルを避けるのは容易い。

 回避した先に撃ち込まれたミサイルを、ドローンで迎撃する。その爆炎に紛れて、レイヴンは接近してきた。だが、フロイトは予想済みだ。ミサイルの迎撃位置に被せるようにプラズマミサイルを撃っていた。レイヴンの目くらましを利用する。

「お前の戦い方、まさに猟犬という感じだ」

 プラズマミサイルの電撃が、レイヴンに命中する。致命的な損傷には至っていないが、好機と判断しフロイトは攻勢に出る。

「この高高度で、鳥じゃないのが面白い」

 レーザードローンの射撃で逃げ道を塞ぎ、そこへ拳銃を撃つ。レイヴンは、ドローンのレーザーをブレードで切り裂いた。だが、衝撃に体勢が崩れる。そこへ、すかさず追い打ちをかけた。

 拳銃の徹甲弾が、胴体部を食い破る。コックピットは無事だったが、さらに体勢を崩す。レイヴンの機体制御システムが、連続の被弾にフリーズしかかる。止めを刺すためにフロイトが踏み込む。

 が、機体背面の排熱弁が開き、電撃が走り始めるのを見て、フロイトは追撃を諦め距離を取った。直後、レイヴンを中心にパルス爆発が起こる。

 その直後を狙って、弾倉の弾をありったけ撃ち込む。アサルトアーマーは余波で銃弾やミサイルも防ぐが、その防御効果と動きだしには僅かなラグがある。その無防備の状態へ、銃弾を撃ったのだが、レイヴンは、機体の腕で飛来した弾丸を弾いた。

「ははっ!これも耐えるか!」

 フロイトが、機体のエネルギー残量を確認し退く。これ以上の追撃はできない。ドローンも充電をしなければならず、拳銃も弾切れだ。

 そして、レイヴンがそれを見逃すはずがなかった。攻守が交代する。弾切れのコンテナを捨て、軽くなった機体でレイヴンが接近してくる。

 リロードした拳銃を、近づけまいと乱射するがレイヴンは機体を螺旋を描くようにロールさせ、速度を殺すことなく回避した。

 近接に持ち込んだレイヴンを迎え撃つために、フロイトはレーザーブレードを起動する。接近を予測して横一文字にブレードを振るうが、レイヴンは直前で停止した。斬撃は宙を切り、わずかに切先が掠っただけに終わった。

 晒した隙を見逃すはずもなく、レイヴンがブレードを振るう。フロイトは拳銃を盾にしていなそうとするが、拳銃は容易く両断され斬撃が胴体を切り裂く。だが、勢いは殺せたのか致命傷には至らなかった。

 アラートが、フロイトを包む。機体の深刻なダメージに脱出を促しているらしいが、フロイトにはもうよく聞こえなかった。レイヴンが更なる一撃を加えて、止めを刺そうとしている。

 目の端に捉えたメーターに、復元したエネルギー残量を確認し、フロイトはブースターを噴射してレイヴンに突っ込んだ。

 機体が激突する。けたたましい金属音が響き、レイヴンの機体が吹き飛ばされる。ドローンの充電は完全ではないが、一発撃てれば充分だと、フロイトはドローンを展開する。

 レイヴンの機体を囲む猶予はない。自機の背後に漂わせたドローンから、火の糸が吐かれる。この距離ならば回避は間に合わない。が、レイヴンは被弾を恐れず、再び全力で噴射して接近してきた。

 レーザーがレイヴンの機体の頭部を、右肩を、背面ユニットを焼く。だが、致命傷には至らない。倒れるように地面から離れた機体を、姿勢制御バーニアでロールさせたのだ。あの一瞬で、ドローンの射撃角度を全て把握し、コックピットへの被弾を避けた。

 フロイトが、その戦闘技能の高さに笑みをこぼした時、レイヴンの刃が、ロックスミスを切り裂いた。

「動けロックスミス……!」

 停止しかけた機体を、コア拡張機能が無理やり再起動する。ターミナルアーマー。機体の爆散や機能停止を防ぎ、パイロットの生還率を上げるための脱出機能。ドローンによってコックピットへの直撃を避けたことで、発動することができた。

「これからもっと……面白く……!」

 本来の用途から外れた戦闘続行は、無茶だった。断線した部分は空気放電で無理やり回路を繋げ、いつジェネレーターが爆発してもおかしくない状況には変わらない。それでも、レイヴンも限界だった。

 フロイトが、すれ違い背中を向けたレイヴンに切りかかろうと振り返る。レイヴンは背後を見せている。ブレードを受け止めるには間に合わない。

 フロイトは勝利を確信してなお、なぜか期待を抱いた。普段ならば、勝利の確信は興奮を冷めさせる。勝利は、戦いの終わりであり、享楽の終わりでもあるからだ。そして気づいた。レイヴンの機体の排熱弁が電撃を纏い始めたことに。放熱はまだ続いていた。それは、明らかな自爆行為だった。だが、レイヴンはすでに動作を終えていた。

 電撃が、ロックスミスを包んだ。

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