レッドガンの死神   作:抜殻

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壁越え(2)

 よく集まったな、役立たずども!ブリーフィングを始める!敬礼はいらん、その代わり一言一句聞き()らすな!

 解放戦線の拠点「壁」を落とす。「壁」の向こう側は、アーキバスも未踏の領域だ。成功すれば、このレースで連中にケツを追わせることができる。

 が、はっきり言って「壁」の守りは固い。多数の砲台に、市街地に配備されたMT、頂上には「ジャガーノート」。これ以外にも、ゲリラの部隊が駐屯しているはずだ。

 まずは、そいつらを引き離す。G6!別動隊を率いて、連中をデートに誘ってやれ!敵が陽動に引っかかったところを、本隊が正面から侵攻する。G4は先遣隊を率いて、市街地への突破口を開け。その穴から、本隊が雪崩れ込む。

 そして、それを上空から支援するのが、貴様だ、G13!貴様は、鉄砲玉のために「壁」に設置された砲台を、残らず叩き壊せ!G5、貴様は代打だ。おしゃぶりでもして黙っていろ!

 掃除が済んだら、G13は「壁」内部に突入。内部を制圧しつつ、頂上へ登ってジャガーノートを破壊しろ。

 作戦の鍵は三つある。テンポ、テンポ、テンポだ!思考はいらん、とにかく突っ込め!

 ブリーフィングは以上!遺書は書いたか?では準備しろ!楽しい遠足の始まりだ!

 

 「壁」は、ベリウス地方中部の山岳地帯、ベリウス連峰の谷間に作られた砦である。連峰一の谷幅を誇るベルナール渓谷を丸ごと塞ぐように作られており、遠目には山の一部にしか見えないほど巨大な建造物だ。ベリウス北部のコーラル探査のためには、ベリウス中部を横断するベリウス連峰を越えなければならない。「アイビスの火」による寒冷化によって氷河となったベルナール渓谷は、連峰越えの大動脈であり、「壁」は企業、解放戦線ともに心臓にも等しい要衝だった。

 その「壁」で、巨大な爆発が連続して起こった。熱風が、積もった雪を溶かしていく。それは、ベイラムの長距離ミサイルによる砲撃だった。

 ミサイルは、「壁」に備えられた砲台群によって、命中することなく撃ち落された。だが、ミサイルに混じって、一機のACが「壁」に接近していた。

「621、MTは無視しろ。お前は砲台を潰せ」

「本隊の到着まであと五分だ。それまでにおもちゃを片付けろ!」

 空中から接近する621の下には、地上を走破するタンク型ACの姿もある。その後ろには、先遣隊である数機の四脚MTが追従していた。

「621、まずはガトリング砲台を潰して、橋を確保しろ。そこから、先遣隊が市街地に入る」

 621は噴射をやめ、空中で停止する。真下には、目標の砲台が二つ並んでいた。直上に位置した621に、砲台は反撃できない。そして、621は左肩武器の射撃体勢に入る。今回の壁越えに際して、ミシガンが手配したベイラム社からの支給品。拡散バズーカ砲だ。五発の砲弾が十字型に発射されるこの武器は、敵集団の制圧に向いている。

 621は、直下のガトリング砲台に向けて、バズーカ砲を発射する。そして、散らばった砲弾は二つの目標に命中した。

「一度に二つの砲台を倒すか。見事だ、621」

「よーし、道は開いた。突入しろ!役立たずども!」

 先遣隊が市街地までたどり着けば、ジャガーノートからの砲撃から隠れることができる。だが、先遣隊がそこまで辿り着けるかは怪しかった。先行するG4の後ろで、ジャガーノートの砲撃が先遣隊に直撃する。二機のMTが、跡形もなく吹き飛んだ。

「ミシガン、このままじゃ後ろの奴らは間に合わねぇぞ!」

「とにかく足を止めるな!G13!派手に動いてジャガーノートの気を引け!」

 ミシガンの命令を受けて、621は堤防の上の砲台に襲いかかった。だが、一台を破壊したところで、突然機体が膝をついた。

「G13!どうした!」

 ウォルターのオペレーションシステムには、621の機体状況が表示されているが、そこには何の異常も出ていない。あれは、演技だ。

「イグアス、登板だ。G13を支援しろ!」

「あぁ?野良犬を助ける義理はねぇ」

 格好の的になっている621に、解放戦線どころかミシガンたちも動揺している。そして、解放戦線の兵士がまんまと引っかかった。ジャガーノートだけでなく、周囲の敵すべてが照準を合わせた時、その機体は起き上がった。即座に回避に移る。それは、ミサイルと砲弾の暴風の中を舞う羽根のように、捉えどころのない機動だった。

「ウォルター、今度の犬は……飼い主に似たようだな」

 ジャガーノートが装填をしている隙に、先遣隊は橋まで辿り着いた。そこから市街地は目の前だ。621は堤防の上の砲台を殲滅すると、市街地を飛び越えて「壁」に向かった。

 

 ベリウス連峰を覆う雲から舞い降りてきた雪は、地面に着く前に炎の熱で溶けて消えた。「壁」の屋上で擱座した、巨大な墓標を包む炎によって。

「ジャガーノートを粗大ごみにしたようだな!見事だと褒めてやろう、G13!」

「621、市街地の制圧も完了したようだ。壁越えは成った。仕事は終わりだ」

 ベイラムの兵士たちは、歓喜の声を上げていた。難攻不落だった「壁」を、僅かな被害で落としたのだ。それを成し遂げられたのは、621の活躍が大きいと、ウォルターは思った。

「報酬は、俺の方で色を付けておこう」

「その必要はない、ミシガン。貸しにしておく」

「そいつは恐ろしいな」

「621、戻って休め。……待て、接近する反応がある」

「別動隊に引っかかった連中か?」

 ウォルターの知らせに、ミシガンの声色が変わる。

「いや、それにしては早すぎる。それにこの速度……おそらくはACだ」

 レーダーに映る熱源は、二手に別れて、確実に「壁」を目指していた。そのうちの片方、二機のACが、621のいる屋上へ向かっていた。

 ブースターの噴射炎で、雪を切り裂くようにして飛来する二機のAC。621が、それを視認した。

『ジャガーノートを単騎でやるとは。流石は、ウォルターの猟犬』

 一機は、シュナイダー社製のフレームで統一された軽量二脚。もう一機は、ベイラム社とアーキバス社製のパーツが混ざり合った、紫色のACだった。

『ほう……あれが、あのウォルターの猟犬か』

「……621、データを照合した。あの二機は、アーキバス社AC部隊「ヴェスパー」の所属だ。軽量二脚はV.Ⅳラスティ。もう一機は、ヴェスパーの首席隊長V.Ⅰフロイトだ」

「どうやら、厄介な客が乱入したようだ。市街地にも、番号付きがMTを率いて侵入した。連中、このまま「壁」を掠めとる気だな。まったく陰湿な連中だ!

 G13、遠足コースの追加だ!貴様はそのまま、屋上にやって来るお友達と遊んでやれ!イグアス!貴様も見てないで加わらんか!」

「ちっ……」

 ミシガンの命令を受けて、待機していたG5が飛来し、621の隣に降り立つ。

「野良犬、お前(てめぇ)が死ぬまでは付き合ってやる」

 

 

 

 

 

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