レッドガンの死神   作:抜殻

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壁越え(3)

『フロイト。お望みなら、私はG5を狙うが?』

『そうしてくれ。初めての猟犬だ、一人で楽しみたい』

 接近してきた紫色のACが、右肩に装備したベイラム社製拡散バズーカ砲を放ち、戦いの火蓋は切られた。砲弾は、イグアスと、彼が野良犬と呼ぶ独立傭兵を狙うように、両者の真ん中を狙って発射された。十字に飛ぶ砲弾を避けるために、二人は別れるように左右に跳ぶ。

 イグアスの回避先に、シュナイダー製ACが待ち受けていた。イグアスはすぐさま機体を急制動させて、後方に跳ぶ。それを、V.Ⅳは執拗に追い回した。

 ヘッドブリンガーは、両手の射撃武器と、ミサイルとシールドを積んだ、引き撃ちに特化した構成をしている。対するV.Ⅳのスティールヘイズは、近接戦用軽量二脚。ヘッドブリンガーの速度では、振り切れない。

 イグアスは後方に跳び続けて距離を取るが、エネルギー残量が尽きればそれもできなくなる。肉薄されれば、勝ち目はないだろうことは、イグアスにも分かっていた。

 V.Ⅳは、回避に専念しながら近づいてくる。そして、右手のリニアライフルが弾切れになった所で、噴射して一気に距離を詰めてきた。

「読めてんだよ!」

 対するイグアスも噴射して、スティールヘイズと交差する。イグアスは、七年レッドガンにいる。それまでに、何度も対AC戦を経験してきた。その中には当然、ヘッドブリンガーよりも速い相手もいた。そういう相手には、こうして距離を詰めてきたところをすれ違うことで、交戦距離をリセットするのが有効だと、ミシガンに叩き込まれていた。

 イグアスが機体を反転させ、再び射撃を再開しようとした時、既に、スティールヘイズは懐に飛び込んでいた。イグアスの逃げる先を、逆に読まれていたのだ。

「なっ……」

 急いで左手のマシンガンを連射するが、レーザースライサーの回転する刃によって弾を弾かれる。回避しようとするも、さっきの噴射でエネルギーは復元待ちだった。苦し紛れにシールドを張る。が、パルスシールドの出力では、レーザースライサーを防ぎきれないことは、イグアスも知っていた。

 スティールヘイズが左腕を振りかぶった時、その背後からミサイルが飛んできた。V.Ⅳが間一髪で察知し、攻撃をやめて回避に移る。その隙に、イグアスはV.Ⅳから再び距離を取った。

「野良犬……お前(てめぇ)……邪魔すんじゃねぇ!」

 イグアスは、悔しさに歯を(きし)ませた。自身の窮地を救われたことが、妙に苛立った。イグアスが、チラリと視線を投げる。

 621は、ヴェスパーの首席隊長と、互角に戦っていた。二機は、互いの装甲がぶつかり合うような近距離で、パルスブレードを切りつけ合っていた。が、密着状態でドローンを封じられているV.Ⅰは、手数で621に押されている。

『ドローンへの対処も手慣れているな。これならどうだ』

 V.Ⅰが大きく後方へ跳ぶ。621は、密着を維持しようと追いかける。が、レーザードローンの射撃が621の行く手を阻むように撃ち込まれた。621は急停止し、レーザーが地面の雪を解かす。

 距離を取ったV.Ⅰが、621が停止した隙に拡散バズーカで追い打ちをかける。それを621は、左肩の同じ武器で撃ち返し、すべての砲弾を空中でぶつけ合って迎撃した。

「マジかよ……」

 先ほど恨み言を吐いていたイグアスでさえ、息を飲む神業だ。あんな戦闘を繰り広げながら、イグアスを救う余裕すらある。その事実に感嘆していることに、再び苛立ちが募った。

()せてくれる』

「ッ……余所見してんじゃねぇキザ野郎!」

 

 「壁」の上空に垂れこめていた雲間から、光が差し込んでいる。雪も止んでいた。ベリウス連峰が一時でも晴れるのは、珍しいことだ。

 そして、その光に最も近い「壁」の屋上では、未だ戦闘が続いていた。だが、そこには既に流局の流れとも言えるような、閉塞感があった。拮抗状態を崩せないままの、時間切れだ。

『……了解した、スネイル。フロイト、どうやらここまでのようだ』

『何を言っている、楽しいのはここからだろう』

『そうも言ってられない。スウィンバーンが、市街地の制圧に失敗した。これ以上は邪魔が入るぞ』

『……了解した』

 G4からの撃退の連絡とほぼ同時に、屋上の戦いも終わった。ヴェスパーの二機が引いていく。G5と621は、追撃しなかった。

『独立傭兵レイヴン。次は、死ぬまでやろう』

 アーキバスは去った。今度こそ、ウォルターは勝利を確信した。椅子に深く腰掛け、息を吐く。621は、不測の事態にも対応した。それどころか、あのヴェスパーの首席隊長と互角以上の戦いを繰り広げた。ウォルターは今度こそ、621の可能性を確信した。

「よくやった、621。後はベイラムに任せて、お前は戻れ」

 621が、「壁」を離れていく。それを、G5は忌々しげに見つめていた。

 

 G13、見事な活躍だった!だが、貴様は雇われの身だ。”壁越えは、レッドガンによって達成された”それを忘れるな!

 そういえば、補給品の盗難があったらしい。AC用の拡散バズーカ砲が一艇、何者かに奪われたようだ。残念な話だが、ルビコンではよくあることだと、帳簿係に伝えなければな。おっと、貴様には関係のない話だったか!

 では遠足は終わりだ!次までに、その汚れた機体でも拭いておけ!

 

 

 

 

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