レッドガンの死神   作:抜殻

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補給拠点襲撃(2)

 格納庫を飛び出してきたカタフラクトが、621に向けて突進する。

『このまま、むざむざとやられてたまるか!』

『そいつはまだ整備途中だぞ!戦闘は無茶だ!』

 621が、右腕のライフルを撃つ。しかし、発射された弾丸はカタフラクトの装甲に弾かれ、ダメージを与えることはできない。

「カタフラクトの装甲を破る武器は、今のお前にはない。コアのMTを狙え」

 特務機体カタフラクトは、金庫のように、堅牢な装甲の中にMTを収めた戦闘車両だ。巨体に相応しい大火力と、それに似合わない速度を誇る。唯一の弱点は、コアユニットのMTを収めた機体正面の隙間で、そこだけは装甲で覆われていない。自ら弱点を晒すような(いびつ)な設計だが、カタフラクトの正面に立つことは、その全火力と相対することでもある。通常、そのような選択肢を取れるパイロットはいないだろう。

『カタフラクトには誰が乗ってる!正規のパイロットじゃないな!』

『まだ戦闘用OSの書き換えが済んでないんだ。武装も使えない状態だぞ!』

 傍受した無線から、敵方の混乱を見て取ったウォルターは、621に指示を下す。

「621、物資を焼くのが俺たちの仕事だ。アレをどうするかは、お前に任せる」

 最近の621は、自主的に判断することが増えた。ウォルターは嬉しさを覚える反面、胸騒ぎも感じていた。621の変化は、計画に支障をきたす可能性もある。目的に賛同するとは限らない。だが、とウォルターは言い聞かせた。強制させることはできない。選ぶのは、621自身だ。

 621が、突進してくるカタフラクトの正面に立った。迎え撃つつもりだ。

「621、奴は武装が使えない。しっかりと狙え」

 621が狙いを定める。アサルトライフルの銃口(黒い瞳)が、コアユニットのMTに向けられている。

『武器が使えないなら、今書き直せばいいんだろ!』

 621が射撃を開始する。だが、距離が離れていて有効打には至らない。621が、反動でブレた狙いを定め直している時、カタフラクトのミサイルが噴水のように撒き散らされた。

 目標を持たずに発射されたミサイルは、無秩序な軌跡を残しながら滑走路を飛び回った。追い詰められた巨獣が、毛を逆立てて威嚇(いかく)しているようだ。ミサイルのいくつかは621にも向かって飛び、回避を余儀なくされる。

 ミサイルの雨が止むと、再び621がカタフラクトの正面に立ち、MTを狙おうとする。しかし、先ほどまでとは違い、カタフラクトは象撃ちの的では無くなっていた。正面に据えられた巨大なガトリング砲が、その真価を発揮せんと回転を始めていた。

 621が気づき、即座に回避に移る。それとほぼ同時に、円を結ぶ銃身の束が火を吹いた。その巨大な弾丸が、進路上に立っていたあらゆるものを(えぐ)り、なぎ倒していく。もし回避が間に合っていなければ、ACの装甲も紙きれ同然にズタズタにされていただろう。

 カタフラクトが、621を轢殺(れきさつ)しようと突進してくる。それを、すんでのところで回避した。あの重量とまともに衝突すれば、バラバラになるのは621の方だ。

 カタフラクトの側面には、回避した敵を(ほふ)るための武装が待っている。九連装レーザーキャノンで、多砲身を利用して散弾銃のように光の矢をばら撒いてくる。その威力は絶大で、かすっただけでもACには致命傷だ。だが、敵は絶好の機会に撃ってこなかった。

「戦闘中にOSを修正したのか……」

 だとすれば、敵のパイロットは相当な能力の持ち主だ。もし万全の状態で現れた時のことを思い、ウォルターは首を振った。

「621、予定は変更だ。あのカタフラクト(パイロット)はここで片付けろ」

 621は、分かっているとでも言うように、カタフラクトに向かっていく。敵の増援が来る前に始末するには、危険だが真正面から撃ち合うしか方法はなかった。

 カタフラクトは、減速が効かず旋回に手間取っている。まだ、調整が完全に済んではいないようだ。だが長引くほど、その性能を引き出してくるだろう。

 621とカタフラクトが、再び向かい合う。カタフラクトが、再度目の前の敵を()き潰そうとブースターを噴射して突進してくる。だが、621は今度は避けなかった。カタフラクトの進路上を、後ろに下がっていくだけだ。速度の差は歴然で、追いつかれるのは時間の問題だった。

 カタフラクトのレーザーキャノンが、射撃準備のために発光し始めたことに、ウォルターは気づいた。次は、側面に逃げることもできない。カタフラクトがガトリング砲を放ち、621の機体の装甲を食い破っていく。それでも、621はただ下がりながら右腕の武器で応戦するだけだ。

 両者の間隔が縮まっていく。もはや左右に逃げることすら間に合わないほど、カタフラクトが肉薄する。ウォルターは、撤退の指示を出さなかったことを後悔した。

 そして、衝突寸前の瞬間、621が両肩の武装をパージした。それらは、移動の慣性から外れて、空中に留まっていた。ウォルターには、そのように見えた。621が投げ捨てた武器は、新たな親元に向かっていくかのように、カタフラクト中央のMTへと、吸い込まれていく。

 621が設定していた時限信管によって、武器がMTに叩きつけられた瞬間に爆発する。装填されていた残弾全てに点火した衝撃で、カタフラクトが一瞬浮きあがる。そして、突っ伏すように停止した。

 なおも、コアのMTは生き残っていたが、衝撃の過負荷で制御装置がフリーズに陥っていた。そして、がら空きになったカタフラクトの弱点部に、621がパルス・ブレードを突き立てる。それで、カタフラクトは完全に沈黙した。

「片付いたか……」

 レーダーに、新たな敵影が映っている。旧宇宙港から駆け付けた、封鎖機構の増援部隊だ。だが、まだ距離がある。

「なんとか間に合ったな。621、急いで離脱しろ」

 621が、滑走路区画を跡にする。ウォルターは、(くすぶ)っている巨獣の亡骸を見て、かつての部下たち(ハウンズ)のことを想った。

 

 代わりの武器が必要だな。気にするな、こいつはお前の道具(もの)だ。好きに使えばいい。何か欲しいものがあれば、手配しておく。

 ……そういえば、幻聴は収まったか?仕事に差し支えるようなら言え。調整する。

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