汀渚のアーカイブ   作:buridish

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ナギサは意識が無いので他者視点です。以前名前だけ出てきたオリキャラ視点もあります。


激闘の終わった後で

「ナギちゃん!」

 

 ビナーに総攻撃を仕掛け、再び地中に潜ったアイツの行動を確認する為、調月さんに聞いたナギサは即座に駆け出した。

 

 その姿を見て聖園さんはナギサの名前を呼ぶもそのまま駆けだすナギサ。ナギサの足に追いつくのは難しいが追わない理由はない。そもそもユメ先輩と調月さんが危ないのだ、護衛を辞めて援護に来たのに護衛対象を危険に晒したのなら本末転倒。

 

 聖園さんも想像以上に足が速く、お嬢様なんて煽ったけど爆速で慣れないはずの砂地を駆けていく姿を見ると?マークが頭に浮かぶ。

 

 そうしてナギサを追っていた私が見たのは戦車が退避していた方向から現れるビナー、ボロボロの姿で爪痕を残そうとしているのか砂に埋もれる戦車に狙いを定めた。

 

 歯ぎしりしながら巨蛇を睨みつける。私があそこに残っていれば、ナギサのいう事を聞いていれば。

 

 たらればは意味が無いと分かっていたけれどそう思わずにはいられない。ナギサを助けたいという自分の我儘がこの状況を作ったのだ。

 

 その時、ビナーの方に集中していたから気が付かなかった。

 

 追っていたナギサの姿が消えていたことに。

 

 ビナーが大口を開きあの光線を放とうとした瞬間、雷のような轟音が砂漠に響いた。

 

 勿論、雷など落ちていないがそうとしか言えないような音が響いた。そしてその音と共にビナーは顔の大部分と胴体一部を失っていた。

 

 何が起こったのか理解できなかった。直後ビナーのいた場所で起こる大爆発、戦車の無事を心配するほどの爆発だ。

 

 その時ふと追っていたはずのナギサの姿が無いことに気が付いた。

 

 その姿を走りながら探していると、突如爆心地から何かが噴き出した。

 

「……水…?」

 

 噴水のように爆発した場所から水の様なものが噴き出している。水気もないこの砂漠ではありえない光景。

 

 いったい何が起こったのか、そう思っていると近くの砂場から戦車が這い出てきた。特に損傷もなく機能も正常みたいだ。

 

 それにホッとしていると足を止めた私よりも先の爆心地に向かい走っていた聖園さんが突然叫び声を上げる。

 

「い…いやあぁぁぁぁ!ナギちゃん!ナギちゃん!!」

 

 その叫びに私は止めていた足を聖園さんの方に向けた。調月さんとユメ先輩は心配だがそれよりも今の叫び声は尋常じゃない。

 

 そう、ナギサと聖園さんは言った。つまりあそこにナギサはいる。

 

 私は急いで聖園さんの所に駆け寄る。空から降る水に濡れながら私はそれを見た。

 

 口から血を流しながらアビドスの制服を真っ赤に濡らしたナギサの姿を。

 

 ごくりと喉を鳴らす。何故?どうして?と頭の中を疑問が埋め尽くしたが、壊れた様にナギサの名前を呼ぶ聖園さんの声にハッとした。今こんなことを考えている場合じゃない。今するべきことをしないと。

 

「…聖園さん!落ち着いて!」

 

 我を失って意識の無いナギサを揺らし名前を呼び続ける聖園さんを宥めながら、私はナギサの様子を確かめた。

 

 …ヘイローは消えている、つまりは意識が無いという事。まずはナギサの腕を取り脈を確かめる。脈はある。ナギサは生きている。

 

 どうやら気を張り詰めていたようで、安心したからか息を吐き出した。

 

「聖園さん、ナギサは生きてる。大丈夫だからまず戦車に乗せよう、病院に連れて行かなくちゃ。」

 

 私の言葉に冷静さを失っていた聖園さんは我に返る。涙を流しながらも私の言う事を了承してくれたようで小さくうん。と頷いた。

 

「私の身長じゃナギサは背負えないからさ…。手伝うから聖園さんが背負ってくれる?私よりはマシだと思う。」

 

「うん、分かった。」

 

 状況を理解しているからか言葉少ないながらも素直に言う事を聞いてくれる。そのまま聖園さんにナギサを背負わせ戦車の方に連れて行った。

 

 どうやらこちらの様子は分かっていたようで、調月さんは私達を戦車の中に乗せてくれた。流石に5人は少々狭いが文句は言ってられない。

 

 ユメ先輩は血に濡れたナギサを見るなり大泣きした。調月さんは専門じゃないけれど…と言いながらナギサを看てくれるようだ。

 

 それなら私が戦車を運転するか、したことないけど何とかなるだろう。と思っていたのだが。

 

「一番近くの病院まで可能な限り安全かつ最速でお願い。」

 

 と調月さんが声に出した瞬間戦車は勝手に動き出した。は?音声認識?

 

 いろんな機能が付いてると聞いていたがAIまで搭載してるのだろうか?なんでこんな戦車がアビドスにあるんだ。と思いながら私は聖園さんに抱かれながら眠る親友を眺める。

 

「…起きたら説教だ。何度言っても無茶するんだから…。」

 

 お嬢様の様な気品があるくせにユメ先輩にも負けず劣らず問題行動を起こす親友。無茶ばかりして今も皆に心配をかけて。

 

「だからどうかこのまま無事でいて…。」

 

 小さく零れた呟きは誰の耳にも入らず病院へ向かう戦車の中で薄れて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「こんな所に居たのですわね。」

 

 アビドスの砂漠を一人で歩いている少女が呟く。

 

「桐藤ナギサ…いえ、桐藤様。」

 

 ほう、と息を吐きながら少女は何も感情が浮かんでいないような表情のまま先ほど見た光景を思い浮かべる。

 

 ―――あれ程の怪物を複数人の助けもあったとはいえ退けるとは。

 

 それにあの最後の一撃…。

 

 その光景を思い浮かべ少女はゾクリと体を震わせる。

 

 あれ程の攻撃、あの聖園様ですら不可能。まさに力の権化。

 

 手入れはされているもののくすんだ白髪と、化粧でごまかしてはいるものの消し切れない隈を浮かばせ少女は小さく笑う。

 

「ああ、失敗でしたわ。」

 

 もしも知っていたなら聖園様から遠ざける事もしなかった。そのまま関係を続けていればトリニティの首長にすら推していただろう。

 

「ああ、いいえ。無理でしたわね。あの頃のわたくしは愚かでした。」

 

 あの中で絶対的な権力という力を持っていた聖園様。その存在に憧れ彼女の取り巻きとして侍っていたが。

 

 あの聖園様が恐れていた。

 

 そう、恐れていたのだ。桐藤様の放つ何かを聖園様は恐れていた。

 

 故に排除した。わたくしが憧れる存在は恐怖などしない、何者も頭を垂れる絶対者でなくてはならないと。

 

 愚か、実に愚かだ。桐藤様があのような力を持っていたと知っていたなら靴でも舐めただろう。

 

「ですが、もしもなどというものはありません。」

 

 本来家柄としても彼女はトリニティに来たはずだ、だが彼女は数年前に行方不明になりその存在も忘れていたほど、そんな彼女がまさかアビドスにいたとは。

 

「ああ、もっと早くあなたのお力を知れていたなら。」

 

 そうだったなら自分もこのようなことをせずにいたのに。

 

 手に持つ注射器にも似た奇妙な機械。何かを抽出するとは聞いてはいるがそれが何かまでは聞いてはいない。

 

 わたくしが言われたのはユメというアビドスの生徒会長にこれを使えと言われただけだ、わたくしの目的の為奴らの言う事を聞いたに過ぎない。

 

「無名の司祭…それにゲマトリア…ですか。」

 

 この世界の裏側、誰も知りえない深淵の世界。ただのお嬢様であれば今も知りえなかっただろう。

 

「これをどう使うかなんてわたくしの知ったことではありませんが。」

 

 それでも依頼料は前払いで貰っているし完遂したときも別の報酬がある。

 

「許されないでしょうね、知られたなら憎まれるでしょう。」

 

 だがもう手遅れだ、わたくしもまた深淵の世界を知り、深淵の世界に身体が浸りきっている。

 

「もしもなどないとは言いましたが。」

 

 桐藤様もトリニティに来てくれないだろうか?来てくれたなら相応の席を用意して差し上げるのに。

 

 そして、聖園様と桐藤様。先ほど見た二人が並んで戦う姿。ああ、素晴らしい暴の力。

 

 そう考えれば思い浮かぶことは。

 

「百合園セイア…あの女、邪魔ですわね。」

 

 そう口にしながら少女、甘背テマリはアビドスの砂漠を後にした。

 

 

 

 

 

「ビナーが動いていることに気付き様子を見てみれば。」

 

 面白いものを見た。いいや、面白いどころではない。あれは私が望むもの、私の理想の形である。

 

「クックックッ…初めはキヴォトス最高位の神秘を持つ小鳥遊ホシノ…暁のホルスに目を付け声を掛けましたが。」

 

 あの時はあまり彼女にとっては有益な交渉材料がなかったため断念したものの、彼女を観察し機会があればもう一度交渉しようと思っていた。

 

「盲点でした。答えはすぐ傍にあった。それなのに気が付かなかったとは。」

 

 合一でありながら相反する力と別の魂を持つ異常性。そして。

 

「桐藤ナギサ。彼女に何があったかは分かりませんが、もう一つ宿した神は後天的な物。」

 

 分かたれていた魂は混ざることなどありえなかった。だがそれを可能としたのは後天的に与えられたものの力であるのは間違いないだろう。

 

 かの神が司るものは水。想像ではあるが彼女の名前のナギサ。水際の名を二重に持つ彼女の魂に惹かれ宿ったのだろう。神にとって名とは重要なものだからだ。

 

 そして、本来彼女が縁のなかったアビドスに呼ばれたのも、かの神の影響と言えるだろう。偶然ではなく必然だったという事だ。

 

 話がずれた。そう、普段あの神は彼女らの裏側に存在している。例えるならば神という球状のコアを二つの魂が隙間なく覆うと言ったところだろうか。

 

 それ故に分厚い壁に分かたれた魂が触れ合う切っ掛けになったのだろう。混じり合うのは副作用の様なものだ。

 

 そしてビナーとの戦いに見せたあの力。

 

「本来の我々の考えとは少々違うものの、アレも反転と言えるでしょう…ですが。」

 

 そう、服の表裏をひっくり返すのと一緒で裏に隠された意思なき神が暴威を示すのが正しく反転した状態。だが。

 

「…彼女は、自らの意思であの力を使用した。」

 

 そう、彼女と神は二人のナギサとは完全なる別個の存在。故にその力を引き出すことは不可能なのだ。それを可能としたものはいったい何なのか。

 

「クックックッ、それを追求していくのも面白い。」

 

 無理に引き出したせいか彼女の体はボロボロになっていたが、あれ程の力だ。命を失わなかっただけ幸運だろう。しかし。

 

 あれ程の神威。砂漠にオアシスを生み出すほどの力。それを使用すれば生存できたとしても神に近付いていくだろう。その時桐藤ナギサという存在はどうなるのか。おそらく最終的には二人のナギサは消滅し、二人を…(ナギサ)(ナギサ)を取り込んだ神、汀渚の神となるだろう。そしてそれを望むものが我々ではなくもう一つの深淵に隠れ潜んでいる。

 

「それは彼女自身が答えを出すことでしょう。それよりも…これから少々アプローチを変えるとしましょうか。」

 

 新たな研究目標が生まれたものの、それに対し寧ろ喜びを見出していた。それを与えてくれた彼女達に感謝を。

 

「クックックッ…。桐藤ナギサ。私はいつでもあなたを見ていますよ。」

 

 闇に潜んだ黒い影は誰にも聞かれない場所で歓喜の声を上げていた。




みんな大好き謎の黒いスーツの人さん登場ですがこんなに書くのが難しいとは思わなかった。何気にちょっと見ただけで桐藤ナギサという存在のおおよその理解をしています。
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