今回はホシノ視点です。
ミカさん(度々遊びに来るので自然と名前呼びになった)が入院したという連絡が来てナギサがお見舞いに行った翌日、あからさまに悩み事がありますと言ったような様子を見せているナギサを見て溜息を吐く。
何やら強くなろうと努力しているシロコちゃん。苦手意識をなくそうと心ここにあらずと言った憂い顔のナギサに襲撃を仕掛ければ無意識の裏拳*1で一撃で昏倒させられていた。
考え事をしているナギサがボーッとしながら遊びに来たノノミちゃんにお茶を出せば、お茶を飲んだノノミちゃんが噴き出し驚きの表情を浮かべていた。どうやら昆布出汁の味がしたらしい。
ユメ先輩も普段は一緒にお風呂に入るとき最低限の手伝いしかしないらしいのだが、あちこち綺麗に洗われたらしい、ちょっと恥ずかしかったーっとユメ先輩は顔を赤らめていた。今度ミカさんにナギサは巨乳好きだよってチクってやろう。
そんなナギサに後輩たちは心配しているらしい。無論私も心配しているけど、いつもなんだかんだで自己完結して数日でケロッとしているので放っておいたのだが、どうやら今回の悩みはかなり深刻なようで一週間以上続いていた。
ここまで悩みが続くのは初めてだった。なので悩みの内容が相当に深刻なのだろうという事でナギサに直接聞くことにした。
今日も左手の人差し指を唇に当てながら、少々行儀悪く右手で淡々と書類仕事をこなしているナギサに私は声をかけた。
「何をそんなに悩んでるの?みんな心配してるよ?」
「…あっ…ホシノ…?顔に出ていたでしょうか…?」
顔というか行動に出ていた、それはもう分かりやすく。普段は淑女だのなんだの言ってるくせに結構抜けてる行動が彼女は多い。
「私に言える悩み?この間ミカさんのとこにお見舞いに行った後からだよね?何かあった?」
「…そうですね。この話は私の、アビドスにも関係ある事ですから…。」
そうしてナギサの口から語られたのは留学の話、しかも問題が起こったトリニティへの。
何故ナギサなのだろうか?確かにナギサは優秀だし強い。だからと言って彼女一人がいたところで状況が変わるとは思えない。聞いた話かなり面倒な学校らしいし。
「それってさ、ナギサじゃなきゃダメなの?」
「…外部からの協力者が必要なんだと思います。その中でも最も信用のおける人間が私という事でしょうね。」
…その相手とは初対面だったんだよね?それなのにそこまで信用されてるのは何故なのか。この女…また誑し込んだのだろうか?あれ程恐怖に震えていたシロコちゃんも最近は割と懐いているし。
ノノミちゃんも言わずもがな、令嬢のような空気を発しているからか話が合うようだ。トリニティになんて行ったら誑し込まれる相手が増えるんじゃないだろうか?
「…相手になんでそこまで信用されてるのかは置いといて…。ナギサはさ、どうしたいの?」
「私…ですか?」
そう、大事なのはナギサ自身の考えだ。もちろんアビドスとトリニティどっちがとかそう言うのは関係が無い。アビドスに居ようが居なかろうがナギサはナギサだ。後輩たちもそう言うだろう。
そして何よりも、相手はアビドス籍を残してもいいと言った、留学でいいと。だから
「トリニティでしたい事があるならさ、やってきなよ。でも最後には絶対にアビドスに帰ってくる事、卒業は絶対にアビドスでする。これが私からの条件だよ。」
「ホシノ…。」
最近何かとカイザーの介入が増えてきてはいるが、ネフティスがいるからかそこまで入り込めてはいない。借金の問題もナギサのおかげで利率は正当なものになっている。
「ノノミちゃんも心からアビドスに来るって言ってくれてるしシロコちゃんもいる。だからこっちは大丈夫だよ、ナギサ。この場所は、絶対に私達が守るから。」
そう言ってナギサの背後に回り椅子に座ったままのナギサの頭を抱えるようにして抱きしめる。…やっておいてなんだけどこれ凄い恥ずかしいな。ユメ先輩のように、と思ったけど私もまだまだみたい。
「…ふふっ、無理はしなくていいですよ?でももう少しホシノは力を抜いてもいいかもしれませんね?」
「うへー、ナギサがいなくなると猶更気が抜けなくなるよ。いや、後進育成の為に多少はだらけた方が良いのかな?ユメ先輩もそうだったし。」
普段はダメダメなのに何故か周囲に愛されてアビドス復興の足掛かりを作った、そうは見えないけど偉大な人。会長メモも渡そうとしてきたが、それはお断りした。私らしい会長としてやっていこうと思ったし、それを受け取ったら本当に関係が終わってしまうんじゃないかって思ったから。
なんだかんだで未だにユメ先輩には甘えてしまっている。もうじきあの人も卒業してしまうのに。
止めどきを失いナギサを抱きしめたままいると、ナギサは前に回した私の手に自分の手を添えるように合わせた。
「…わかりました。ならホシノ達に甘えさせてもらいますね。私のしたいようにさせていただきます。」
そう言って重ねた手を離すナギサ。言い出しっぺは自分だけど寂しいのには違いない、それを隠すかのようにそっと体を離す。
椅子に座ったままのナギサがこちらに振り返り口を開いた。
「ユメ先輩の卒業と後輩の入学式。それを見届けたらトリニティに向かいます…ですが。」
言葉を切ったナギサは口元に笑みを浮かべ私の瞳を覗き込みながら言った。
「寂しくなったらここに来てもいいですよね?」
「あたりまえでしょ、ナギサの居場所はここなんだから。」
奇しくもあちらも同じように寂しがっていたらしい。この席は…生徒会長補佐の席はいつでも空けて置く。後輩が出来てもここの席はナギサの…私の相棒のものだから。
そして、ユメ先輩の卒業式。まだ入学していない後輩たちも卒業式に参加した。泣くかと思っていたユメ先輩は泣かずに、柔らかな表情だった。寧ろ珍しくシロコちゃんからユメ先輩に抱き着いていた。
ノノミちゃんは思ったより落ち着いていたしユメ先輩と二人で何かしらの話をしていた。
ユメ先輩もナギサがトリニティに行くことは知っているようで、お互いに頑張ってと激励しあっていた。
そして私の方にも声が掛かった。
「ホシノちゃん。次の会長はお願いしたけど何でも一人でやろうとはしないで出来ないと思ったら皆を頼るんだよ?ホシノちゃんは一人じゃないんだからね?」
そう言って精一杯伸ばした手で私の手を握る。車椅子の座った彼女を見ると心配になる。結局卒業までユメ先輩の足が治ることはなかった。
「お互い様です。先輩も足が動かないんですから誰かに頼ってくださいね?」
本当に…この抜けた所のある先輩が心配だ。どうか卒業後も楽しく過ごして欲しいとそれだけを願う。
ユメ先輩もナギサに車椅子を押され校門を出ようとしていた。ユメ先輩は校門を出る直前にこちらに振り返る。
「皆、アビドスの事好きかな?」
それに対して全員が同時に答えた。
「「「「はい(ん)。」」」」
「よかった。それじゃ…。」
またね。
そう言ってユメ先輩はアビドス高等学校を卒業した。
そして、間も置かずに入学式、ナギサの送別会も兼ねている。
ナギサがトリニティに留学すると言った時、少々騒ぎになったもののアビドスにきちんと戻ってくる事を説明すると、何とか皆納得してくれた。本当にナギサはいろんな子に慕われている。
そして、式場に入ってくる初々しくアビドス高等学校の制服を着る二人の生徒。
新年度のアビドスの新入生はシロコちゃんとノノミちゃんだけだった。
先輩方も二人の事は顔見知りなので温かく迎えてくれた。
まさか私が生徒会長として、学校の代表として挨拶するとは思わなかったけど…まぁ初めてにしては上手くやれたのではないだろうか?
そんな中皆を集めてナギサは話したい事がある。と言った。
「トリニティに行く前に一つみんなに伝えておくことがありまして。」
なんだろうと思って皆静かにナギサの話を聞く。
「実は私しばらく実家から家出をしておりまして、トリニティに留学の時に実家の…本当の名前を名乗ることにしました。」
家の名前も重要ですからね、あそこは。と、トリニティに思う事がありそうな表情で言った。
「だから皆に改めて名乗っておこうと思います。」
すぅ、とナギサが小さく息を吸い口を開いた。
「改めまして、私の名前は桐藤ナギサ。今後はそう名乗っていくのでよろしくお願いしますね。」
羽を広げながら名乗った彼女はどこか神聖な空気を出しているように見えた。
新年度が始まり私も二年生になった。ナギサが抜けたからか、いつも以上に忙しいアビドス生徒会。
ノノミちゃん、シロコちゃんが生徒会に入ってくれた為、多少はマシではあるが思った以上に大変だった。
そんなある日、ノノミちゃんからネフティスから人が来るとの話を聞いたので迎える準備をしていた。
ノノミちゃんが客人を迎えに行ってくれるそうなので、簡単な片付けをして待っているとノック音。
どうぞ、と言ってから扉が開いたその先にいたのは。
車椅子に乗った見慣れないスーツを着た見慣れた女性。
「セイント・ネフティス、アビドス支部の営業部所属の梔子ユメです!これからアビドス生徒会の皆さんとお仕事をする機会もあると思うのでよろしくお願いします!」
そう、先輩後輩としてではなく、アビドス復興の為の仲間として改めて彼女を迎えることになった。
今回はホシノとナギサのいちゃつき?に力を入れました。
送別会はカット、桐藤ナギサを改めて名乗る決心をしたナギサの決意たるや…。
出て行ったと思ったら戻ってきた梔子さん。ノノミは知っていた模様。足が治るまではなんかキヴォトスから出たくないなーと感じてるとか感じてないとか。