汀渚のアーカイブ   作:buridish

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この話から数話皆さんが望んだものとはちょっと違うと思うような話が続きますが、必要な話になるのでどうか温かい心で見守ってください。


もう一人のボク?

 …私はどうしたのだったか…。

 

 そうだ、私は家から、責任から逃げようとして、そして。

 

 そう、足元が突然消えてそこに落ちたのだ。

 

 となるとこの暗闇は、まだ落ちている最中なのだろうか?

 

「いいえ、ここは”私”の心の内です。」

 

 誰もいないはずのこの場所から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 声が聞こえた方に顔を向けるとそこには。

 

 「桐藤ナギサ」がそこには居た。

 

 私と同じ幼いせいか小さいもののそこにはまごうことなき本物の桐藤ナギサの姿が。

 

 そう思っていると、ナギサに溜息をつかれた。

 

「何を言っているのですか。あなたも桐藤ナギサです。ニセモノも本物もありません。あなたも私も桐藤ナギサですよ。」

 

 どういうことなのだろうか?二重人格とかそういうものなのか。

 

「…少々難しいところではあります。私とあなたは魂を別にしながらも同じ桐藤ナギサの肉体の中で混ざり合った存在です。いわば二心同体の双子のようなものでしょうか。」

 

 唇に指を当て考えながら言葉を発するナギサ、なら本来肉体の主導権は貴方だったのでは?

 

「いいえ、この肉体の主は貴方です。…ですが少し問題が起きています。」

 

 問題?

 

「はい、本来の役割に反している、いわば反転しているのです。」

 

 反転?

 

「知識を流用してお答えしますと、一般人にはさして違和感を感じさせませんが、ヘイローを持つものはハッキリと知覚出来るでしょう。」

 

 嫌な予感がする、反転という言葉、そしてヘイロー。

 

「貴方は無意識に”なにか”を振りまいています。だからこそ聖園ミカは貴方を怖がっていたのです。」

 

 私は呆然とした、知識の中にもしかしたら、というものに思い当たるものがある。

 

 ブルーアーカイブの生徒には”神秘”という力を内包している。明確にどういうものかの説明はあまりないが、神秘を持っている生徒は取り合えず体が頑丈になる。銃を撃たれようが爆弾で吹き飛ぼうが痛いですむのだ。そして、神秘の量の多い生徒は大抵上位の強さに位置している。色々考察されてはいるがここでは神秘は不思議なパワーだと思ってくれればいい。

 

 そして、神秘といういわば不思議パワーの逆に位置するもの、それが恐怖、合わせ鏡のようなもので本来の生徒は持ちえないもの…のはずなのだが。

 

「はい、何かは分かりませんが本来有しているものとは別の力を貴方は宿しています。そして、私もあなたとは違うものを宿している。」

 

 ん?つまりはこの「桐藤ナギサ」は異なる二種の力…もしかしたなら神秘と恐怖両方を持ち合わせていることになる?

 

「そのとおりです。人格に付与されているのか同時に扱うことは出来ませんし、切り替えて使う事も出来ませんが。」

 

 …私が恐怖を持っているならやっぱり本来の桐藤ナギサは君なんじゃ…。

 

「で、あったなら肉体の主導権は私にあるはずでしょう…。はぁ…まぁ私を認識できるようになった以上人格の交代は出来るでしょうけど。」

 

 ならもう全部君に任せてもいいかな?私はもういろいろな責任から逃げたくなっていて。

 

「いやです。というか無理です。言ったでしょう?主人格は貴方だと。私とあなたで得意分野は異なりますし同じ行動をすることは出来ません。」

 

 それだけ言うとナギサは、私の後ろに目を向けた。

 

「そろそろ時間です。これからは心の内の私もいますので一人で悩まなくても大丈夫です、私とあなたは二人で一人ですから。」

 

 それはとてもありがたい、知識を共有できる相手がいる安心感で気持ちにゆとりができる。

 

「目が覚めたらまず力の制御を出来るようにしましょう、それが出来れば神秘を持つものに怖がられることは無くなるはずです。」

 

 わかった。それじゃあこれからもよろしく。

 

 私。

 

「ええ、頑張ってください”わたし”。」

 

 

 

 

 

 頭痛がする。どうやら意識を失っていたようだ。

 

 さっきの事は夢だったのだろうか…?『夢ではありませんよ。』…どうやら夢ではなかったらしい。

 

 となるとここはどこだろう?半身を起こし周りを見渡すと見たことのない景色、少なくともここは桐藤家の土地ではない。

 

 …ともかく人工物は存在するようなので人はいるのだろう。誰かに場所を聞いて回るとしよう。

 

 そうして、歩き回ること数分、何人かと出会い話を聞いたところここは日本であると言う、ならばとキヴォトスについて尋ねてみるとそれに対しては疑問符を浮かべられた。

 

 どうやらここはキヴォトスの外、ではないらしい。おそらくだが私は別の世界の日本に飛ばされてしまったようだ。前世の記憶に近い世界なのだろう。

 

 何人かの人に心配され、交番に連れていかれそうになったが、親がすぐに来るから大丈夫と嘘を吐き何とかその場をやり過ごした。そうだ、今の私はただの幼児。しかもこの世界で私の戸籍は存在しない。厄介な事になった。

 

 取り合えず人目を避ける為、人気のないところに移動することにした。

 

 それにしても。

 

「キヴォトスを知らないにしてはヘイローや翼について気にしていませんでしたね。」

 

 そう、前世のような世界だったなら違和感を感じるはず、人と話をしていた時はスルーされていたので思わず気にしなかったが。

 

「もしかして、見えていない…?」

 

 もしかするとこの世界の人間には認識できないのかもしれない。いや、今はそんなことどうでもいいか、認識できないものに気を割いている余裕はない。

 

 そんなことよりこれからどうするか、庇護者のいないままここでどうやって生きればいい。

 

 もう一人の自分は傍にいるものの現状ではいても何も変わらない精々相談できる相手が増えるだけ、取れる札が増える訳ではない。

 

 とぼとぼ歩き、少々歩き疲れたので近くにあった公園に入りそこのブランコに腰かけた。

 

 そういえば生まれ変わってこういうもので遊んだことなんてなかったな、と思いながらゆらゆら揺れる。解決策も何も浮かばない。

 

 日も落ちてきて暗くなり始める。このままだとどこかで保護を受けなければならないかも知れない。

 

 かといって私に出来る事は何もなくただただ俯きブランコで揺られるだけ。

 

 そうしてしばらく揺られていると足音が聞こえてくる。

 

 誰だろうと思いながら顔を上げるとそこには高校生くらいだろうか?優し気な顔をした男の人がいた。

 

「えーっと…。ずっとここにいるから気になっちゃって…。お父さんかお母さんは?」

 

 どうやら私を心配してくれていたようだ、変質者の類の人じゃなくて安心した。

 

「…いません。」

 

 今ここに私の両親はいない。そもそも私は捨てられる予定だったのだ。そう考えると涙が浮かんでくる。

 

「わっ!な、泣かないで!ごめんね!俺が無神経だった。えっと、じゃあ他に家族は…?」

 

 私が泣き出したことに焦った様子の彼は、他に保護者はいないか私に聞いてくる。焦る彼を見ると少し笑いが込み上げてくる。

 

「誰もいません、私は独りぼっちです。」

 

 そういうと彼も困ってしまったようで、うーんとか、あーとか頭を悩ませ始める。

 

 しばらく悩んだ後、よしと言いながら彼は私に顔を向けて口を開いた。

 

「うちに来る?いや、変な意味じゃないよ?えっと俺の親も一緒に住んでるし…。」

 

 わたわたと、幼児に対してそういう態度をとる彼に私は毒気を抜かれる。

 

 …どの道私に選択肢はない、あちらの世界に帰れる保証もないのだ。

 

「連れて行ってもらっても良いですか…?あっ私は桐…いいえ、ナギサ、ナギサと言います。」

 

 名字を名乗ることは出来なかった。怖かったからだ。

 

「ナギサちゃんか、良い名前だね。それじゃ、えっと俺の名前は。」

 

 優しい笑顔を向けながら彼は名前を名乗った。

 

「結先正希、友達にはあだ名でセンセイ、何て呼ばれてる。」

 

「なんですかそれ、変なあだ名ですね。」

 

 それが私と彼の出会いだった。




ここの主人公が生まれて、本来神秘を持つはずだったナギサが生まれなかったことで、矛盾を埋めるために原作ナギサ様のようなもう一人のボクが生まれました。

もう一人のボクはいわば、主人公の理想のナギサ様なので原作のナギサ様とは別の存在になっています。

現実来訪っぽくなってますけど2話くらいで終わる予定なのでタグ付けなくても大丈夫…ですよね?
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