汀渚のアーカイブ   作:buridish

32 / 51
まずいです。知り合いをもっと増やさないと永遠にナギサとハナコがいちゃつくだけになる。早く来て!ヒフミ!


いつもと違うあなたと

 ハナコさんが外部交流会に入部し、変わった事と言えば特に何も変わらなかった。

 

 元々半分入部していたようなものだったし、なんとなく距離感が精神的にも物理的にも近付いたかなという程度だ。表情が柔らかい事が増えた事と部室で過ごす時に座る場所などが近付いていたりと些細な違いだけれど、どうやら女好きという誤解が解けたようで私もホッとしている。

 

 そんな私達、外部交流会の部室内では今、問題が起こっていた。

 

「分かっているんですか?セイアちゃん、この件はトリニティ、主にティーパーティーや正義実現委員会内でどうにかすることでナギサ先輩の領分ではありません!」

 

「いや、あの…すまない。分かってはいるんだが私も出来る事が限られていて…ナギサに頼り過ぎてはいけない事は分かっているつもりで…。」

 

「本当にわかっているんですか?」

 

「…あれだけ最初は警戒していたくせに見事に落ちてるじゃないか…。」

 

「何か言いましたか?セイアちゃん。」

 

「何でもないよ…。」

 

 というような応酬が目の前で起きていた。

 

 セイアさんが困り事を私に相談しに来たのだが、その内容についてハナコさんに思う事があったのだろう、私としてはセイアさんが困ってるのならお手伝い程度ならと思ってはいたのだが。

 

「ナギサ先輩一人でどうこう出来る問題ではありません。」

 

 とハナコさんに一蹴された。

 

 問題の内容は正義実現委員会の問題で、重傷を負った上級生が指揮や現場に出られなくなったことで指揮系統に問題が起こっているらしい。

 

 その為、問題発生時に手間取り、解決までに時間がかかってしまい場合によっては犯人に逃げられてしまう事もしばしばあるという。

 

 ティーパーティーは初め非公式ながら自警行為を行っているトリニティ自警団に正義実現委員会に合流することを望んだのだが、自警団側は組織に属することで動きが鈍る事、自由に動けない事で救いたい人を救えなくなることを問題視して頷かなかったらしい。

 

 セイアさん自身の見解は。

 

「そもそも人が増えたところで人海戦術が取れるようになるだけで何も問題解決は出来ていない。」

 

 という事を理解出来てはいるのだが、まだ首長ではない立場上代案を用意しなければ言ったところで聞きもされないだろうと言っていた。

 

 そして、困り切ったセイアさんが部室に来てお茶を飲みながらどうにかならないかと私に相談したところ、ハナコさんが先程の状態になったという事だ。

 

「指揮系統の混乱ということは指揮の出来る人間が3年生にしかいなかったという事ですか?」

 

 トリニティの治安維持組織という立場である正義実現委員会、組織という以上は指揮する人間が不可欠なはずなのだが…。

 

「例の抗争でね…。指揮の出来る人間はおおよそ現場に出てしまっていて、運悪く皆怪我を負っているんだ。現在は引き継ぎも出来ずに当時の一年生、今は二年生だけど、その子達の中で指揮の適性のある子がどうにか頑張っているのが現状だ。」

 

 結果につながっているかはさておき…ね。と言ってセイアさんが溜息を吐く。トリニティを守る組織がそんな状況になっているとは…。

 

「その中でも私が交流を持っている子が一際指揮適正が高いと思っているんだけれど…まだ経験不足で失敗がそこそこ続いてしまっていて自信を無くしてしまっているんだ。羽川ハスミと言う子なんだけどね。」

 

 もう薄れてしまっている記憶の中に聞き覚えのある名前、恐らくは「物語」に登場する人物だろう。

 

 時間が経てば少しずつ良くなっていく可能性はある。けれどその間被害に遭う子が増えてしまうのも間違いはないだろう。

 

 私はちらりと先ほど反論していたハナコさんを見ると彼女と目が合った、彼女は目を逸らしてナギサ先輩のお好きなように、と小さく口にする。

 

「セイアさん。私の出来る範囲でお手伝いをさせていただきます。色々便宜を図ってくれている友人の頼みですから。」

 

 そう言うとセイアさんは笑みを浮かべながらも申し訳ない、と口にし、ハナコさんは溜息を吐いた。

 

「折角のナギサ先輩との時間が…。いえ、ナギサ先輩がそう決めたのなら私から言う事は何もありません。ですが先に言っておきたい事があります。」

 

 一瞬本音が聞こえた気がしたが、それはまぁ置いておいて。折角外部交流会に入ってくれたハナコさんをいきなりこんなことに巻き込んでしまっているのだ。彼女の言うことは出来る限り聞いておきたい。

 

「まず今回の件。セイアちゃん、もといティーパーティーからの依頼としてください。その件でセイアちゃんから正義実現委員会にナギサ先輩が行く事を伝えておいてください。」

 

 今の私はあくまでアビドスからきた留学生だ。それがいきなり乗り込んできて口出ししてくるのを頷ける訳がない。そういう事だろう。

 

「そして…矢面に立ってナギサ先輩が解決する事、これはしない方が良いと思います。ナギサ先輩が目立つ事はトリニティの為にならないからです。やるならば最終手段という所でしょうか。」

 

「確かにね。ナギサの武力で解決してもナギサに頼り切る体系が出来るだけで結局解決しないという事だね。」

 

 成程、言いたいことは分かるけれどそれでは私が行っても何もすることがないのでは?

 

「あの…どういうお手伝いをすればいいのでしょうか?事務…とか?」

 

 そう言うとハナコさんはきょとんとした顔をする、あまり見ない表情なので珍しい。

 

「いえ、ですからあちらは指揮の経験が足りないから問題が起こってるのですよね?だったらナギサ先輩が指揮をする所を見せてあげれば解決すると思うのですが。」

 

 えっと、私自身も指揮の経験なんてそれこそビナー戦であれこれ口を出したくらいで大した経験などないのだが。

 

「…私に指揮なんてできるでしょうか?」

 

「私、何度か連れまわされた時、問題が起きた場所でこうした方がよさそうですね。とか口に出してた時がありましたよ?それにナギサ先輩は視野が広く見えますし間違いなく適正があると思います。」

 

 ハナコさんがそういうのなら…まぁ適性があるのだろうか…?でもあれは”私”の力を利用してただけなのだが。

 

「…ならまずはその方向性で協力してみましょう、ダメなら別の方法をやってみるだけです。」

 

 失敗してしまったらその時はその時だ。期待に沿えなくてごめんなさいと謝るだけ。

 

「本当にありがとう。夢と違う世界の中でナギサとミカ、それに友人の皆がいるから何とかやっていけている。だからまだ私は頑張れる。」

 

 そう言って頭を下げて部屋を出ていくセイアさん。その姿を見たハナコさんも眉根を下げていた。

 

「…厳しい事は言いましたがセイアちゃんが頑張っている事は分かっているんです。どうしようもなくなっているからナギサ先輩を頼っている事も…。どうしてあそこまで背負い込もうとするんでしょうか?」

 

 セイアさんはより良い未来の為に自分を犠牲にしてまで頑張ってくれている。それに報いてあげたい気持ちはあるしもう少し甘えて欲しいとも思う、彼女はまだ子供なのだから。

 

「セイアさんも結局のところ皆と笑い合う青春をしたいだけなのだと思います。それには障害が多過ぎて人より沢山悩んでしまうのでしょう。」

 

 並行世界を見る力とは厄介だ、現実との差異に悩みながら走り続けているセイアさんはどこまで知っているのだろうか?「物語」の彼女は終末を迎える世界に絶望し諦め、先生が来るまで誰に頼ることもしなかったが。

 

「ちょっとだけナギサ先輩にも嫉妬しちゃうかもしれません。セイアちゃんにこんなに頼られているんですから。」

 

 頼られることは嫌じゃない、怖いのは何も言われずに知らず失敗を迎える事。手を差し伸べられない事。

 

「ふふ、大丈夫です。ハナコさんにもそのうち頼ってくると思います。今回だってハナコさんは助言してくれましたし。」

 

 ハナコさんはきっとセイアさんの助けになる時が来る。今じゃないだけでいつかはきっと。

 

「それはそうと、前線に出るのではなく別の事をするならまずは形から。ですよね?」

 

「え?…えっと…?」

 

 そう、つまりは前線(STRIKER)から後方支援(SPECIAL)へ。

 

ここ(トリニティ)での私はアビドスの私とは別、と考えましょう。ならすべきことは。」

 

―――お着換え(別衣装)です。

 

 

 

 と息巻いてやってきたのは眼鏡屋さん。指揮官キャラのイメージとして、眼鏡をつけておけばとりあえずそれっぽく見えるのではなかろうかという安易な考えではあるのだが。

 

 制服はとりあえずアビドスのものとは違うしこのままでいいだろう、変えるのはちょっとした小物、伊達眼鏡である。

 

 その為の買い物に来たのだが、ハナコさんも何故か一緒に来ていた。何か気になるものでもあっただろうか?

 

「色々なものがあるんですね。これとか結構お洒落です。」

 

 なんというかいつものショッピングのような光景になってしまっていた。ハナコさんが楽しいのならいいのだけれど。

 

 デザインは別に何でもいいのだが、あまり奇妙な物じゃなければ。

 

 そう思いながら眺めていくと目に留まるものがあった。耳に掛ける部分が薄いピンクでフレーム素材の色が金色のリムレス眼鏡。

 

 この間会ったばかりなのに思い浮かぶホシノの顔。なんだかんだで私も寂しいのだろうか?

 

「ナギサ先輩、それにするんですか?」

 

 私が持っているものを近くで見るハナコさん。似合いますよ。と言ってくれたのでこれにしようか。

 

 店員に度なしで眼鏡を注文し、待ち時間の間、髪型も変えようと思い色々と試行錯誤していた。

 

 途中でハナコさんが楽しそうに髪型を色々変えてくれたのでどんな風にしようかと思っていたら店員に呼ばれたので、最後に変えた一つにまとめた三つ編みをサイドから前に垂らすスタイルにした。

 

 そして店員から注文通りの眼鏡を受け取ったのだが…何故かハナコさんも同じデザインで購入していた。

 

「これでお揃いですね?」

 

 と嬉しそうに笑っていたので、彼女が嬉しいならそれでいいかと私は考えるのを辞めた。

 

 準備は整った、セイアさんのお願いを成功させよう。




毎日何かしら忙しくしているセイアちゃんに幸せな日常を…絶望の未来なんて見せないでください。

ハスミは悪くないんや、悪いのはトリニティの治安なだけで。

結局何故かデートしているナギサ様とハナコ、なんだかんだで楽しんでますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。