某日、カイザーコーポレーションの一室での定期報告会。
「それで?成果は出ているかね?PMC理事。」
「…予定通りにはいっていない、あの女…アビドス前生徒会長の梔子ユメと言ったか。能天気なバカのように見えてうまく立ち回りおって…おかげで土地の購入も予定の二割程度しか進んでいない。」
杖を突いた仕立ての良いスーツを着たロボットの大人が同じくスーツに身を包んだ大柄のロボットの大人に状況の進行具合について尋ねると、PMC理事と呼ばれた大人は腹を据えかねた様子で言葉を返す。
「アビドス生徒会がネフティスと組んでからというもの借金も大幅に返済されている。このままでは数年以内に完済するだろう。そうなれば土地の利権にすら口を出してくる可能性もある。しかも追い打ちをかけるようにトリニティの介入だ。」
先日、何故かトリニティからもアビドスの借金について介入が入った。その事でアビドスの借金も現生徒会長が在籍中に返し切ってしまうのではないかという勢いだ。
「…成程、アビドスもやるものだな。各校の有力者と協力関係を作りこちらの思惑を潰してくるとは…。」
杖を突いたロボット、プレジデントはこちらの思惑を潰しているアビドス生徒会を純粋に感心をした、子供だと思い侮っていた事が裏目に出た。
「この事でPMC理事を責めることは出来ん、こちらも片手間とはいえゲヘナの雷帝が残した物に手を出そうとしたのだが…先を越された。」
「ゲヘナの雷帝…?アビドス…?…!例の列車砲か…!」
PMC理事が驚きの声を上げる。アレもまたカイザーが欲していたものだからだ。
「ああ、見事に痕跡も残さず持ち去られたようだ。どんな相手かもわからず、ただゲヘナ側から噂程度の情報が流れてきただけなのだが。」
流石にあれだけのものを持ち去るには大規模な組織が関わっている可能性が高いが、何も痕跡も見つからず、そして目的も分からないのでは探しようもない。
「むぅぅ…アビドス生徒会…それに謎の組織…か…。」
現状カイザーに出来る事は少ない。下手に手を出せば各所に睨まれることになる。ここ最近大きな功績を上げている連邦生徒会の「超人」を相手にするのもなるべくは避けたい。
「カイザーとしては現状維持、PMC理事にはアビドスにハラスメントは続けて貰いたい。」
「了解した。こちらも結果を出せていない以上大きな口は叩けん。チャンスが来るまでは最低限の事はさせて貰おう。」
例の「超人」がいなければ連邦生徒会にも何かしら仕掛けられただろうに、と両者が思いながらこの日の報告会は終わりを迎えた。
ゲヘナ学園の一室にて。
「さて、空崎ヒナ、貴様がなぜここに呼ばれたかわかるか?」
「…なんとなく風紀委員会関連の話だとは思うのだけれど…。」
豪華な調度品が揃えられた一室で、先日パンデモニウム・ソサエティ、ゲヘナにおいてのの生徒会に位置する組織の長に立つことになった少女、羽沼マコトは目の前に立つ少女、空崎ヒナに対して尊大な態度をとりながら口を開く。
「お前が私よりも目立つことは…遺憾だが…ひっじょーうに遺憾だが!背に腹は代えられん、このままではトリニティに対抗などできんからな。」
不満たらたらといった様子を隠さず、マコトはむすっとした顔をしながらヒナに向かって言葉を向ける。
「現状、風紀委員会は崩壊。トップに大きな求心力か力を持つものが立たなければ纏まらん。という訳でヒナ、お前を風紀委員会の委員長に任命する。一応拒否も出来るぞ?」
ここでヒナが頷かなければ困るのはマコト自身だというのに一応の確認は取っているのはこれからヒナに与えられる重責に対して思う事があるのか、もしくは彼女に並び立たれるのが嫌なのか。
ヒナは溜息を吐きながらゲヘナの現状を考えて任を受けることにした。
「風紀委員長の任受けさせてもらうわ、万魔殿議長。それで?私はいつも通り取り締まりを行えばいいの?」
奇しくもトリニティと同様に治安維持組織がガタガタな状態で風紀委員各々がバラバラに状況を対処している現状、状態で言えばトリニティよりもひどいのだが。
「それは通常業務として続けろ、追加でして欲しいのは部下の育成だ。」
「…?部下を育てる?」
ヒナがきょとんとした表情でマコトの言った言葉を復唱する。
「ああ、お前一人がどれだけ優秀だろうが限界はある。このゲヘナは広大だ、更に自由な校風を掲げているこの学園はそれを免罪符に暴れる人間に事欠かない。委員長以外が無能では意味がない。」
現在の治安の悪さに愚痴をこぼしながらもマコトは座った椅子の背にもたれる。
「お前は現状ゲヘナの最高戦力だ、お前に業務を集中させ過ぎて有事の際にお前が全力を出せず倒れるとなれば…今のゲヘナは終わるだろう。」
ふん…、とつまらなそうにしながらヒナの実力は認めているようだ。だからこそ本人からしたら面白くないと思っているのかもしれない。
「こちらで有能な生徒をピックアップしておく、お前が欲しいと思った人材には自分で声をかけてもかまわん、必要なら運営資金も多めに出す。」
「…あなたがそんな風に言うなんて驚いた…それほどの状況なのね、分かってはいたけれど。」
本気で驚いた表情を向けるヒナに対し苦虫を噛み潰したような表情を向けるマコト。本当ならばもう少し好き勝手やりたいとマコト自身も思っていたのだが。
「これ以上トリニティに好き勝手させるわけにはいかん、これを見ろ。」
そう言って渡される一枚の資料、それに書かれている内容を読んだヒナは眉を顰める。
「見つかったのね、行方不明者。無事…とは言い難いのかもしれないけど。」
資料に書かれている内容は抗争の原因となった行方不明者の発見と状態。行方不明者は揃って何かしらの後遺症を患っていた。
「左腕の麻痺、両足の不随…眠ったまま目を覚まさない、五感の能力低下。状態はバラバラだけど皆何かしらの不調を訴えている、唯一良かったことは命が無事だった、という事だけ。」
行方不明者が見つかったのは良い事だけれどこれでは素直に喜べない。
「そして、被害者の証言を聞いても犯人は不明、いずれもトリニティで事件を起こそうとしていた…という共通点はあるがな。」
因果応報というには少々重い、追加で差し出されるカードの様なもの。
「タロットカード?」
「現場にこれが残されていた。他に痕跡は残さずこれだけな、怪盗のようなやり口…まったく嘗められたものだ。」
カードに写されているのは隠者のカード。そんなものを残していくのは何かの意味を持っているのだろうか。
「私が議長に就任した際にな、色々と資料を集めて情報を纏めた。そして、雷帝とトリニティの何かしらのやり取りがあったらしい。」
詳しくは書いていないがな、と口にし目を瞑るマコト、彼女もここ最近あまり寝てないのか普段そういうものを顔に出さない彼女にしては珍しい。
目を開けて腕を組んだマコトは落ち着いたように見える表情で口を開く。
「トリニティの”ハーミット”という相手との取引、それぐらいしか書いてはいない、が…そこのタロットの絵柄は隠者。ハーミットとも呼ばれるな?」
落ち着いた様子に見えるだけでマコトの内心は荒れている、嘗められていると感じたからだ。
「そもそもの話、抗争の被害だっておかしい、雷帝はそこまで馬鹿でもないし無能でもない。なのにもかかわらずゲヘナはこの状況だ。雷帝も私達に状況を押し付けて消えた。」
徐々に表情にも苛立ちが出始める。ヒナも流石にマコトに同情した、今のゲヘナを治めるのは相当に辛いのだろう。
「連邦生徒会の介入のタイミングもだ、明らかに何かしらの情報を得ていなければおかしい、今私達は戦争をしています。のような情報をな。」
多方面に疑念を持っているマコト、まだ情報が足りない事でどう動けばいいかまだ定まっていないのだろう。
「成程、少しでも戦力を安定させて優位に立ちたいのね。トリニティにも連邦生徒会にも。」
「キキキキキ、流石に理解が早いな、トリニティ側も被害を出したとはいえこちらと比べれば大したことはない。今はまだ伏して牙を研いでおいてやろう、今はな。」
少しだけ調子が戻ったのかキキキ、といつも通りに笑うマコト。
こうして誕生した風紀委員長空崎ヒナ、彼女は厄介事を押し付けられちゃったなぁ…めんどくさいと思いながら笑うマコトを見て溜息を吐いた。
カイザーのおじたん達の苦労話とゲヘナの苦労話。
抗争のせいでゲヘナがやべぇ、遊んでる暇がねぇからマコトは涙を堪えながら風紀員会の妨害などせず全面協力を行います。ヒナの心労が薄くなる意味合いで強化イベントかも知れません。
裏で何かが暗躍していますね、怖いなぁ。