汀渚のアーカイブ   作:buridish

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文字数が、文字数がどんどん増えて…1話で終わらせようと思ったため今回かなり駆け足気味です。要望あれば番外編でエピソードを書くかもしれません。


平穏な日々と終わり

 私が日本に来てから早くも数年がたった。

 

 あの日、お兄さん(お兄様と呼んでいたが別の呼び方にしてくださいと頭を下げられた)の家に連れ帰られた時、それはもう大騒ぎだった。

 

 おじさまにはそれはもうどこから誘拐してきた!戻してきなさい!と怒髪天を衝く勢いで怒り、おばさまにはお兄さんから背に庇われるようにされ抱きしめられたりした。

 

 大変な誤解があったことが分かっていたし、ここで変にからかったりして警察沙汰になってもよくないので事情と言ってもここに来るまでのカバーストーリーだけれど。それをお兄さんの両親に話すことにした。

 

 良家の隠し子として産まれ表に出されず隠されて育てられた為戸籍が存在せず、預けられた後見人が亡くなり実家を頼ったものの、無き者として扱われていた私が現れたところで取り合わなかった。という、かなり無理がある設定だったが、嘘と分かっていたかどうかは分からなかったものの、受け入れることにしてくれたようだ。

 

 戸籍などにおいてもどうにかしてくれるとの事だったので、そこは甘えることにした。そうして私は結先家の一員として過ごすこととなった。

 

 そこで驚いたことの一つ目、どうやらお兄さんには私の翼とヘイローが見えてるらしかった。これにはかなり驚いた。かわいいアクセサリーだね?って言われて?マークを浮かべていた私の翼に触れられたときそれはもう動揺した。ひゃあんなんて声を上げてしまい、お兄さんが固まっておばさまが乗り込んできてちょっとした騒ぎになりかけた。

 

 ヘイローに関して私は存在は分かっていても形などは分からなかったため、()()()()()()の天使の輪と言われて正直愕然とした。本来の桐藤ナギサのヘイローの色とは違うからだ。反転、もう一人の私から言われていた情報に納得がいく理由が出来てしまった。割れてたり歪な形をしてなかったことだけが救いだった。

 

 そして小学校の入学、そこそこに時期は過ぎていたものの転入という形で小学校に入学することになった。まぁ、知識という面で通う必要はなかったのだが、おじ様たちに通いなさいと言われた以上は受け入れた。そこでもまぁ私が精神的に少々成熟している事、そして珍しい容姿をしていたことから男子からは揶揄われ、女子からは仲間外れにされる。

 

 なんてこともあったものの、もはや幼児レベルの子達の悪戯なんぞ私には大したこともなく、問題解決していくうちに何故か担任に頼られるようになり、まとめ役を任されるようになった。そうなってくると今度は逆にカーストのトップにされるようになった。ナギサのカリスマ力を正直舐めていた。

 

 時たまにもう一人の”私”にも平穏な日常を味わって欲しいと思い、結先家の皆に言って生まれのせいか二重人格であると言う嘘を吐き(少し申し訳ないと思った)入れ替わったりしていた。その際に分かりにくかったのでもう一人の方をなぎ、と呼んでいた。

 

 初めは戸惑っていたあの子も、自由に体を動かし家族に甘え笑っていた。年相応のかわいらしい姿だった。

 

 私という子供がいたからか夫婦に熱が再燃しお兄さんに年の離れた弟が出来たりした。とても気まずそうな顔をしていた。

 

 そこで初めて私は迷うことになった。そう。

 

 ここで生きていくか、それともあの世界に戻るか。

 

 ここで生きていけば間違いなく平穏な、幸せな日々を過ごすことになるだろう、大きな争いもなく、恐らく普通の女の子として生きていくのだろうと。

 

 だけど、と私はそこで頭を悩ませる。

 

 私が桐藤ナギサとして生まれた意味がきっとあるはずなのだ、あの場所で為すべきことが。

 

 私は世界からも見放され、親友になるはずだった子とも仲良くなる事が出来なかった。だけれど。

 

 不安があるのだ、私が何もしなかったことでこの幸せも消えてしまうのではないか?そして、あの世界で生まれた私が出会うはずだった子達も皆消えてしまう。

 

 そして何よりも、本当の両親の事が嫌いになれなかった。大好きだったのだ、桐藤家が。

 

 暖かかったあの場所、優しかった使用人たち、お父様に撫でられた頭、お母様の微笑み。

 

 そう、何もしなければ失われてしまうのかもしれない。そうなれば私は本当に桐藤ナギサでなくなる。重圧もなくなるけれど私でもなくなる。

 

 まぁ考える意味もないのだけど、戻る方法も分からないし。戻れる方法が分かった時その時に改めて悩めばいい。

 

 それまでにできることはまぁあの子のおかげで認識できるようになった力の制御、年々大きくなって抑えるのが難しいこの力、何とか表に出さないように出来るようにはなった。必要な時に必要なだけ使う。これが出来るようになってからお兄さんに雰囲気が柔らかくなったと言われた。これも認識できるお兄さん何者?

 

 高学年になってくると何故か周りからお姉様と呼ばれるようになった。何が何だかわからない。私はヘイロー持ち特有の身体能力を持っており、普段は抑えめにしてはいるものの危ない目にあっている人を助ける時には全力を出す。それをしているうちに何故かそう呼ばれるようになっていた。しまいには中学生のお姉さま方にもお姉様と呼ばれていた。どうして?

 

 お兄さんの方も高校を卒業後教育学部に進んだ。学校の先生になりたいらしい。それにほんの少しだけ嫌な予感を感じる。レポートなどが苦手で私が手伝ったりもしている。小学生に手伝ってもらうって大丈夫なんだろうか?でもつい甘やかしてしまうのは彼の人徳のせいだろうか?

 

 おじさまが宝くじの番号を選んでと言ってきたので適当な番号を選び当たれ―当たれーと念を込めた。そして当選日に確認すると当たっていた。おじさまもおばさまも卒倒しそうになっていたが私は少しだけ恩返しができたようでうれしかった。

 

 弟君もとてもかわいかった。沢山お世話したからか最初に覚えた言葉はねーちゃだった。皆が微笑ましそうに私を眺めていた。

 

 そんな幸せな日々に、終わりが近づいてきた。あの時の公園、お兄さんと出会ったあの場所で私は何故か呼ばれた気がして向かったのだ。そこで見たのは。

 

 底の見えない真っ暗な穴。

 

 見覚えがあった。私をここに連れてきたモノ。

 

 そして気付いた。私はあの世界に捨てられたのではなく私の力による願いで猶予期間を貰っただけだと。

 

 私は走って家に帰る。あの場所へこの世界の私の家へ。

 

 息を切らして帰った私をお兄さんは見てどうしたの?と声をかけてきた。

 

「いえ…なんでも…。」

 

 と考えの纏まらない頭で口に出したものの誤魔化し切れなかったようで。お兄さんに部屋に呼ばれて話をすることになった。

 

「はい、取り合えずお茶、紅茶切らしててこれしかなかった…ごめん。」

 

 そうして渡されたお茶の香りが漂うこの香りは…昆布出汁?

 

 それに対し思わず吹き出してしまう、ここでこれを回収するのかと、寧ろ私が飲まされる側なのかと。

 

 一口手元の昆布茶に口をつける。笑ったからか少し心に余裕が出来た。

 

 覚悟が…出来た。お兄さんなら大丈夫、すべて話してしまおう。

 

「お兄さん、大事なお話があります。」

 

 

 そして私はこれまでの事、そして、これからの事を話した。もちろん未来で起こることは確実ではない為ぼかしたものの、私があの世界に戻る事は確定事項だと。

 

「……。」

 

 お兄さんは黙って何も言わない、いろいろ考えているのだろう、真剣な顔をしている事から嘘ではないと信じてくれていると信じたい。

 

「それは絶対にナギサ達じゃないといけない事なの?」

 

 遠回しにここにいろ、と言ってくれているのだろうか。本当に、思った通りの優しい人だ。

 

「いいえ、私がしなければいけない事ではなく、私がしたい事です。」

 

 だから、私は甘えない為に、未練を断ち切るために言った。胸の奥が苦しい、どうやらあの子も悲しんでいるみたい。

 

「ここに連れてきてくれたこと、家族にしてくれたこと本当にありがとうございました。ここでの生活は本当に幸せでした。お兄さんの、あなたの手をつかんでよかった。」

 

 その言葉を聞いてお兄さんは眉根を寄せ苦しそうな顔をする。しばらくしてふぅ…とため息を吐くと困ったように笑った。

 

「ナギサは何でも一人で出来てしまうからもっと色々してあげたかったけど。寧ろレポート手伝わせたり不甲斐ない兄でごめん。」

 

 軽い冗談を込めながらお兄さんは言った。それくらい全然いいのに、でももう少しそう言ったものにも慣れた方が良いのはその通りだ。

 

「それで、いつ行くの?」

 

 引き止められないと知ったお兄さんは私にそう聞いてきた。

 

「そう遠くないうちに。」

 

 それだけしか返す事が出来なかった。

 

「分かった。」

 

 お兄さんもそれだけ返すと少し考えて口を開いた。

 

「せめて最後に家族でお別れを、パーティーをしよう、急にいなくなったら皆悲しいからね。」

 

 勿論ずっとここにいてくれるのが一番だけど。と言いながらお兄さんは苦笑する。

 

 それから一週間後みんな集まれる日、時間帯に私のお別れ会をすることになった。

 

 詳しい理由は話せないものの、私がしなきゃいけない事が出来た為お別れをする事、中学校の制服を着て見せてあげられないことを謝った。

 

 初めは引き留めていたおじさま、おばさまも私の意志が固いことを知り、涙を流しながらも理解をしてくれた。弟君はもう会えない事がなんとなく分かっていたのかねーちゃ、ねーちゃ、と泣いて私に縋り付いてきた、私はそれにごめんね。と泣きながら抱きしめて、あの子にお願いして作って貰ったあの子の力の籠った懐中時計を手渡した。何かあった時にきっと役に立ってくれるはず。

 

 あの子に代わって皆ともお別れをした。あの子も普段のすました態度と違い声を上げながら泣いていた。あの子にとって初めて甘えられた親だから存分に最後に甘えて欲しい。

 

 最後の別れを済ませ私は必要な物だけを持って家を出る、ゆっくりと時間をかけて噛みしめるかのように。

 

 そして、あの公園へと辿り着く、私は意を決して暗闇へと足を進める。

 

「待って!」

 

 振り返ると予想通りの姿。来てくれると思っていた。

 

 お兄さんは何かを言いたそうに、だけど何も言えず口を開閉するだけで、手を強く握りしめながら息を吐く。

 

「…見送りを…させて欲しい…。」

 

 それだけを絞り出すように口から吐き出すように。

 

「お兄さん。」

 

 私はお兄さんに近付き自分が付けていたマフラーを外しお兄さんに掛けた。

 

「もう寒いですし、そんな薄着では、ダメですよ。」

 

 私も言葉あまり浮かんでこない、本当に別れと言うものは嫌なものだ。

 

「お兄さん、これを。」

 

 お兄さんに渡すつもりだったもの、弟君とお揃いで申し訳ないのだけど。どういう訳かこれを作った時には私とあの子の気持ちが混ざり合った感覚だった。あの子と私の想いと力がこもっているという事だろう多分。

 

 お兄さんはそれを受け取りながら、大事そうにポケットにしまった。

 

「それでは、もう行きます。」

 

 私はお兄さんに背を向け再び暗闇に足を進める。

 

 私は振り返らずにただ一言。

 

「大好きです。お兄さん。」

 

 そして暗闇に足を踏み入れた。最後にお兄さんが私を呼ぶような叫びが聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ふえぇー、今日も暑いねぇ、と思いながらいつもと変わらない砂漠を歩く、年々砂嵐の影響で大きくなる砂漠、大事な故郷だけど砂嵐と貧乏なのだけは勘弁だよ…。

 

 そう思いながら学校への道を歩いているといつもと違うものがポツリと見えた。

 

 なんだろうと思って目を凝らすと…人だった。

 

「ええええぇぇぇー!?人ぉ!?たっ大変大変!」

 

 私は急いでその子に駆け寄る。わっ綺麗な子だ、それに綺麗な翼、トリニティの子かな?ヘイローはないけど、息はある。

 

 取り合えずこのままにしておけないと思い、私はこの子を連れていく事にした。

 

 私の通う学校、アビドス高等学校附属中等部へと。

 

 




アビドス高等学校附属中等部は生徒数少ないことから本作の捏造設定です。
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