そして始まった戦闘、防衛部隊からの援護を受けながら正面戦力に穴を開ける。
「きひ、ひひひひひ、きひゃひゃひゃひゃ!」
先陣を切るのはトリニティ、正義実現委員会のエース剣先ツルギさん。彼女とは私が正義実現委員会にお手伝いに行っていた時に何度か話すことがあった。
普通に接していただけなのだが、それが良かったのか彼女からは好意的に思われたらしい、結構可愛らしい所もある少女である。
そんな彼女は奇声を上げながら両手に持つ銃を撃って敵を吹き飛ばしている、あの姿を見れば普通の相手であれば萎縮するであろう、しかし、今の相手は無表情にこちらに攻撃を行うのみ。
しかしこちらも精鋭の集まりである。ミカさんが落とす隕石のような神秘の塊、空崎さんが手に持つ機関銃から飛び出す一撃一撃が凄まじく重い弾丸。
私も飛び出していきたいのだが、ミカさんから周囲警戒と指揮を頼まれそちらに専念することになった。
「背後は振り返らず、このまま真っ直ぐ目標まで向かいましょう、後の事は残った皆さんを信頼し、私達は元凶と思われる相手の撃破及び捕縛を行います。」
私はまだ見ていない為相手の様相は分からない、こんな事をする相手だ。正直に言って大人しく捕縛されるとは思えないが。
だけどあのまま引き籠っていても何も解決しない、物資にだって限りはある、故に打って出たのだ。
圧倒的な火力で突き進む私達を相手は止める事が出来ず、どんどん先へ進んでいく。
「うわぁ…話には聞いてはいたけどツルギちゃん凄いねぇ…。相手の攻撃…ものともしてないよ?」
そう言いながら向かってくる弾丸を躱しながらお返しとばかりに反撃を返すミカさん、いや、ツルギさんは確かに丈夫ではある…圧倒的な治癒能力で見た目がなんともないだけなのだが、何気に直感で危機察知して弾幕を躱しているミカさんも大概だ、その上にあの見た目で意外と身体が丈夫である。この中で一番耐久力が無いのは私だろう。
周囲の警戒を続けながら私も持っている重機関銃をツルギさんに当てないよう細心の注意を払いながら、敵を薙ぎ倒していく。
ツルギさんは正面突破、ミカさんにはその支援。そして空崎さんには背後の警戒と余裕があれば前線の支援を頼んでいる。
頼んではいるが…いや、流石と言ったところである。
撃ち漏らしや別の場所から来る相手を私が伝えているとはいえ、それを的確に排除し、もはや前方の援護のみに集中している。
正直に言って空崎さんが強く優秀であることは分かっていたのだが、想像よりも更に上だったと言わざるを得ない。
言い方は悪くなってしまうがワンマンアーミーの気質があると思っていたのだが、きちんとこちらに合わせてくれる上に…なんと言えばいいか、なんとなくやりやすい感じがする。
そう、例えるならホシノと一緒に戦っている時のような…。
しかし、敵を撃った時に何故かきょとんとした顔をしているのが少し気になった。なんというか違和感を感じているかのような表情。
「銃弾の威力が上がっている…。いえ、これは…彼女と戦っているから…?」
小さく空崎さんが何かを呟いたがそれを気にしている時間はない、その間も周囲警戒は怠らない、防衛部隊から距離が離れた為、背後からの援護はもう無い。後は私達だけで首謀者とその集団と戦わなければならない。
…もしも、ここにゲームのプレイヤーがいたならば気付いたことだろう。空崎ヒナの疑問、それはつまり、ゲーム上の
「相手が動いてなければこの先の広場に相手はいるはず…準備は良い?」
空崎さんの言葉と共に全員が一度足を止める、私も言われた場所に意識を向けた。
「…っ!?」
その瞬間に感じる違和感、なんだろう、
例えるなら闇鍋…だろうか?混ぜてはいけないものを混ぜ合わせ、深淵のようになっているかのような。
「ナギちゃん?」
ミカさんが心配をしているような表情を私に向ける、いや、今はそんなことを気にしている時ではない、この状況を終わらせないといけないのだから。
「…いえ、大丈夫です。確認しました、確かにいますね。奇妙なモノが…。」
実態は見ていないが奇妙としか言えないモノ、人間なのか…それを模した何か…ただ。
アレは此処で何とかしなければならない、放置していれば大変な事になる、そう感じた。
「…あれが何かは分かりませんが止めなければ被害が大きくなるだけです。」
私がそう言うと皆が頷く、私も頷き返し口を開く。
「それでは…皆さん、行きましょう!」
私の合図とともに全員がそれの前に飛び出した。
はっきりとそれを目に捉えた私が感じた感情は。
気持ち悪さ、だった。
本来混じり合わないものを無理やり合わせた、相性も考えずにツギハギをしたかのような、黒いヒトガタ。
「…なんですか?あれは…?」
まだ多くの配下を周囲に侍らせ、恐らくこちらに向けているだろう顔は黒い靄に覆われてはっきりとはわからない。ただ。
それの頭上に見える
いや、預言者だってヘイローは存在する。だからあれもきっと。
そう思いたいのだが、もしもあれが生徒であったなら。
生徒をあのようなものに変えられる存在に覚えがある、しかし。
いくら何でも”先生”が来ていないのに早すぎる、それにあれからは私の様な”力”は感じない。
つまりは何らかの要因で肉体を変質させられた、そんなことが可能なのは。
「桐藤さん、来るわ!」
空崎さんの声ではっとする、あれの周りにいた配下の生徒達がこちらに攻撃を仕掛けてきていた。
「っ!あれは空崎さんの攻撃を耐える相手です!なるべく火力を集中させたいので、まずは周囲の数を減らしましょう!」
皆の了解の返事と共に各員が動く、まずは射程が長い私と空崎さんが弾幕を張る、射撃が止むタイミングを見計らいツルギさんとミカさんが飛び出していく。
ここまでは道中と変わらない、違うのはあの異形の存在…だけなのだが。
「…何もしてきませんね?攻撃意思がないのでしょうか?」
武器を持っているようにも見えない、配下を戦わせるのがメインで本体に戦闘能力が無いのだろうか?
「私が攻撃した時も反撃はしてこなかった、ただ周りからは今みたいに攻撃されていたけれど。」
そうか、得体も知れない存在を相手取るのも何があるかわからないので動いてこないのは好都合、そう思っている間に周りは静かになっていた。
「流石はトリニティ・ゲヘナの主力ですね…。」
私達は異形に近付いていく、一応、声をかけてみる。
「この騒動を起こしているのはあなたですか?今すぐにあなたの仲間の戦闘行動を中止させ、ゲヘナ風紀委員会か正義実現委員会のどちらかに同行しては貰えないでしょうか?」
言葉は聞こえているのかゆらりとこちらを向いているように見える。ミカさんと空崎さんは警戒を緩めず銃口は向けたまま、ツルギさんは捕縛の為ゆっくりと距離を詰めている。
ゆらゆらと揺れている異形がこちらをはっきりと認識したのかぴたりと止まる、こちらを…いや、私を見ている?
そう思った瞬間、異形から黒い何かが高速でこちらに放たれた、私は無意識に持っている重機関銃を盾にした。
「ぐっ…うぅ!」
凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされた私とバラバラに破壊された銃。直撃していたら私の身体では危なかったかもしれない。
「…っ、相手に対話の意思はありません!これから相手の無力化をお願いします!…攻撃開始!」
私は即座に体勢を整え指示を出す、それを聞いた全員で攻撃を開始、私は破壊された重機関銃の代わりに両手に使い慣れた拳銃を手に取り異形に向かって走る。
不意打ちではなく攻撃が来ると分かっているならやりようはある。飛んでくる黒い何か…恐らくはあの異形の神秘…だろうか?をかわして両手の拳銃の引き金を引く。
弾は異形に当たる、黒い靄が大きく揺らぎ唸り声の様な声を放ちこちらに敵意を向けてくる。
攻撃が通っている?ならこのまま押し切る!
「皆さん!相手に攻撃が通っているようです!このまま攻撃をお願いします!」
「桐藤さん…やはりこれは…。」
空崎ヒナは自分の攻撃能力の上昇を確信した。確実に最初にアレと対峙した時よりも自身の戦闘力は上がっている。
流石にこの人数の同時攻撃は堪えるのか、仰け反り後退していく、それに近付き追撃をしようとツルギさんが近付いた瞬間。
異形から突如生まれた大きな黒い腕の様な塊が振るわれ、ツルギさんが吹き飛ばされ近くの街灯に叩き付けられる、街灯はその衝撃でくの字に折れ曲がっていた。
「ツルギさんっ!…これは…。」
異形の姿は人型から変わり、大きな黒い獣の様な姿へと変質していた。ゲームで言うならば第二形態といったところだろうか?
ミカさんが隕石状の神秘塊を獣にぶつけると当たった部分が大きく抉れて獣が咆哮を上げる、ビナーのように硬いわけではないか。
そう思った瞬間、ツルギさんもかくや、といった速度で瞬時に体が修復される。ああ、成程。
「空崎さんの攻撃…通じてなかったのではなく、瞬時に修復していたのですね…。」
そう口に出すと近くにいた空崎さんは何故か難しい顔をしている。
どうする?相手が持久戦が得意となると一気に押し切るのは難しい、だけれど正直今の戦力以上を求めるのは厳しいだろう、現状の戦力は最高といっていいくらいだからだ。
ならこのまま行くしかない、最悪未だ自由に使えないあの力に頼ってでも…、だが、恐らくこの異形…いや、この子は…。
頭を軽く振る、それはただの疑念であり事実かどうかは分からない、今すべきことはこの事件を終わらせる事だ。
「ミカさん!攻撃よりも回避を重視してください!空崎さんは相手に自由に動かれない為に相手の妨害を!隙があればダメージを与える事もお願いします。」
簡単な指示を出し私も攻撃をしようと飛び込もうとした瞬間、横からゆらりと近付く気配。
「…ツルギさん、大丈夫なのですか?」
「…問題ない…。」
見た目はなんともなく見えるが身体のダメージはゼロではないだろう、しかしここで無理をするなというのは彼女の信頼に反する、彼女がやれるというなら私が言う事は一つ。
「これから目標をあの場に留める為に動きます。見た目通りの俊敏性を持っていたらかなり厄介ですので身動きが出来ぬよう釘付けにします。その為に目標の正面を受け持っていただけますか?」
「わかった。」
少々心苦しくはあるが、一番危険な場所をツルギさんに受け持ってもらう事にする、それがわかった上でツルギさんは即答した。
答えを聞いた私達はお互いに即座に動く、ツルギさんは異形…黒獣の正面へ、私は速度を生かして背後に。
「っ…!?」
ツルギさんに注意を引いてもらう為に正面に行ってもらったのに何故か黒獣はツルギさんを無視して私の方に振り返って攻撃を仕掛けてくる、空崎さんやミカさんも止めようとしてくれているが、黒獣自身の回復力を生かして強引に突破し私の目の前に迫る。
「くぅっ…!」
獣の見た目なだけあってやはり俊敏な上、ケテルレベルの大きさから振るわれる攻撃の威力はかなりの物。
回避しながら隙を見て反撃をするのだがすぐに回復されてしまい、勢いそのままこちらに飛び込んでくる。
「こんっの…!ナギちゃんばかり見てるんじゃない!」
ミカさんが獣を睨みつけながら私に向かって飛び込んでいる状態の獣に隕石をぶつける。それは獣の顔の部分を吹き飛ばすも数秒かからずに修復した。
一旦相手と距離を取り皆と合流する。仕切り直しの形になったが周りを無視して私を狙って来る事が想定外だったので仕方がない。
「…本当に厄介ね、大質量の攻撃が出来るミカの攻撃以外通じている気がしない。それにしたってすぐに回復されるし、このままだとじり貧になるわ。」
空崎さんは苦い顔を浮かべながら言葉を口にする、空崎さんの攻撃力も凄まじく、相手の体を蜂の巣にしているのだが、瞬時に修復されてしまっている。
黒獣の体ごと吹き飛ばす威力の攻撃か、人数を集めての一斉攻撃しか方法が無いだろうか?それをしてもそれごと回復されたら意味はないのだが。
ビナー程ではないと思っていたのだが、ある意味でビナーよりも厄介かもしれない。火力はビナーが勝るが耐久力はこっちの方が上だろう。
だが辞める訳にもいかない、防衛部隊も頑張っているのだ、私達が問題を解決しなければ。
しかし、黒獣もこちらの考えが纏まる前に、こちらに向かい突進してくる、狙いは予想通り私。
「がぁぁぁぁぁあああ!」
叫び声と共にツルギさんは黒獣と私の間に割り込み受け止める、大型トラックのような勢いの突撃を受け、ツルギさんは数メートル足元が抉れるほどの跡を残して受け止めることに成功する。
相手を止めた瞬間にミカさん、空崎さんからの攻撃、ツルギさんも反撃とばかりにショットガンの連発を叩きこんでいる。
私もそれを好機と思い十分逃げられる距離を取りながら黒獣の側面に回り込む。
そして、あの力を使おうと思考した、この戦力を集めても倒せないのなら切り札を使うしかないと。
しかし、私は躊躇った。あの黒獣はもしかすると「生徒」かもしれない、その可能性が頭を過ったから。ビナーを一撃で半壊させるほどの力…あの力を生徒に向けてしまえば、万が一…。
…その躊躇いがいけなかった、迷った事で隙を晒し、”私”からの警告に気が付くのに数瞬遅れた。
今までなかったはずの大きな爬虫類の様な尾、それが私の目の前に迫っていた。
回避は不可能、せめて衝撃を減らす為自分から後方に飛ぼうとするが、その瞬間足を掴まれる、その正体は倒したはずの敵の配下だった。
結果、その尻尾は私に対して薙ぎ払うように振るわれ、私はその場から吹き飛ばされた。
咄嗟に防御行動を取ったが、黒獣の尻尾の衝撃で持っていた銃を手放してしまった。思った以上に重い一撃だったため、その後の追撃に備える事が出来ず。
叩き付けられるように振るわれた尻尾を視界に収めた私はそこから
そう、投げ飛ばされた私が見たのは、私を投げ飛ばしたミカさんが黒獣の尻尾に打ち据えられバウンドするように何度も地面を跳ねる姿。
その光景を見た私は…呆然とした、しかし、普段は黙っている”私”が身体を動かしミカさんの下に走る。
身体のあちこちから血を流しながらうつぶせに倒れているミカさん、彼女の惨状を見て私の脳裏に見たことのない光景が思い浮かぶ。
崩れかけた建物の…扉の脇に背を預けながら目を閉じ、全身を赤く染めた
私の記憶にそんな事が起こった記憶はない。ならこの光景は一体…?
「ミカさん!」
私がそう考えている間に”私”はミカさんを抱き起こす。うっ…と声が漏れて顔を顰める、意識はあるようだ。
黒獣はそんな私達をあざ笑うかのようにこちらに向け突進してきた、ここにはまだ動けないミカさんがいる、彼女を連れて一旦退避しなければ。
そう思った瞬間、脇道から猛スピードで走ってきたトラックが黒獣にぶつかり爆発した。
黒獣はトラックと追加の爆発により、その場から吹き飛ばされる。何か悲鳴のような声も聞こえた気がしたが…。
そして、ミカさんを抱きしめている私の傍に近付く人影。
「ごめん、遅れた。人手を増やそうと思って時間かかっちゃった。…アレは私が押さえておくからさ、ここは私に任せて。」
傍に立つのは頼れる親友。アビドス生徒会長、小鳥遊ホシノだった。
ミカOUT→ホシノIN
ナギサの弱点、それすなわち「生徒」ですね…お仕置き程度の攻撃は出来ても、死んでしまうかも…という段階では躊躇います。ただしベアおばとかならブッパしそう。
ヒナが感じた違和感(バフ)ですが実はデバフも含まれています。
簡単に言えば、ナギサは味方に全体バフ、と特定の敵に対するデバフをかけています。それによりヒナと異形の初回戦闘時よりも実質倍以上の火力が出ています。
「ナギちゃんの腕の中、暖かい…」となっているピンクもいます。