「お待たせしました。
背後からゆっくりと歩く音、そして聞き馴染みのある声。しかし、ホシノはその声に違和感を感じた。
「…?うん、もう大丈夫なの?」
「…ええ、ミカさんはヒフミさん達に預けました。あそこが一番安全でしょう。」
ホシノはナギサが居る背後に振り返らずにふぅ、と息を吐く。
「違うよ、
後ろから息を飲む音が聞こえる。気が付かないと思ったのだろうか、これでも長く相棒関係をやっているのだ、甘く見ないで欲しい。
「……彼女なら大丈夫でしょう、今はこれの使い方を教える為に代わっているだけですから。」
動揺は一瞬で消えたようだ、黒獣から目を逸らさずにホシノは口を開く。
「ふーん…まぁ、どちらにせよこれで反撃開始ってとこかな、
「ええ、それなりには。彼女とは少々やり方は変わるのでそこの所だけフォローお願いします。」
そう言うと、暴れていた黒獣がナギサに視線を向け、彼女に意識を集中しているように見える。
「了解。どちらにせよ私がやることは変わらない。
「…ありがとうございます…それではお願いします。ホシノさん。」
そう言って二人は黒獣に向かい銃を構えた。
何故”私”がミカさんの銃を扱えるのか、その事に疑問を持ちながら私は”私”に身体を預け、その動きに集中する。
『魂が違えど同じ身体を使う以上やり方さえわかれば貴方もこの武器の100%の力を引き出すことは可能でしょう、ついでに、といいますか、桐藤ナギサの”恐怖”の力の本当の使い方も教えて差し上げます。』
今まで”私”が基本的に表に出ることがなかったが故に、分からないことだらけだった。私は”私”の事を思った以上に知らないのではないだろうか。
”私”の戦い方は私とは大きく違った。無理に前に出ずに、ホシノが攻撃を通さないことを予測した上で後方から銃弾を当てていく。
すると”私”の撃った銃弾が黒獣の身体を抉り取っているのが分かった。その抉り取られた部位の回復が明らかに遅い。
『生徒達は武器を選ぶときに相性がいいと思ったものを使います。桐藤ナギサであれば拳銃を、ミカさんならこのサブマシンガン。』
”私”が使っているのは本来の拳銃でなくミカさんのサブマシンガン、彼女も桐藤ナギサならなぜそれを使えるのか。
『愛銃とした武器には神秘が宿ります。銃の威力が変わるのは元々の威力の違いもありますが、本人の神秘の量…銃に込められる神秘量などの影響も少なからず出ます。そして、それは弾丸として神秘を放出する段階で更に個人差が出るでしょう。』
”私”に体表を抉られ悲鳴のような咆哮を上げる黒獣、怒りが故にか獣が靄の様な物を纏いはじめる。
『その武器の相性を無視して使う方法は、向いていない武器の習熟を諦めずに行う事です。ホシノさんもショットガン以外に拳銃も扱えますから。彼女はその才能が特に優れている所がありますけれど。』
黒獣が靄を纏うとホシノ、ツルギさん、空崎さんの攻撃の通りが悪くなったように見える。
『そして他人の神秘が込められた武器は更に使い辛くなります。神秘による認証、といった感じでしょうか。なら何故私がこの武器を使えるのか、その理由は。』
”私”は銃に恐怖の力を込める。より多くの恐怖を込めたが故に黒獣とその他のホシノ以外の周りから脅威を見たかのような視線を私に向けられる。
『武器の習熟、そして神秘に込められた想い、その二つです。ミカさんは
大きな恐怖を込められた弾丸は一発ごとに黒獣が纏った靄ごと体表を抉る。最後の一撃と共に空中からミカさんの隕石を彷彿させる光線が黒獣に降り注ぎ、その光線に撃ち抜かれた獣は体に穴を開けた。
『そして、桐藤ナギサの恐怖の本当の使い方、それは力の本質を知る事です。この力の本質は、神秘の拒絶と否定です。』
成程、つまりは我が身に宿る恐怖の力は神秘に強力な効果を持つという事だろうか。
『はい、彼女は失った身体を膨大な量の神秘で補っているようです。あの黒い靄も
”私”は切れた弾丸の補充の為に手慣れた手つきでマガジンを変える。
『さぁ、ここから先は貴方の手でお願いします。私はもう終わった者、見届けるだけの存在です。この物語は貴方の物なのですから。』
そう言って身体の操作権を返される。銃の使い方も、力の使い方も身体が覚えている。
黒獣はダメージを負っているのにもかかわらず空いた穴を靄で塞ぎ、こちらに突撃してくる。
「空崎さんとツルギさん、シロコさんは抉れている部分を中心に攻撃をお願いします。ホシノ、私はこの武器にまだ完全に慣れていません、この距離を維持しますのでフォローお願いします。」
「…了解、相棒。心は決まったの?」
その言葉に即座に返す事は出来なかった。この期に及んで私は悩んでいる。
『貴方の恐怖の力、そしてこの身に宿る神の力、両方を使えば彼女を救う事は不可能ではありません。異世界に飛んだあの時の事を思い出してください。』
”私”の声が聞こえる、そうだ、あの時も逃避の為とは言え願いは叶った。なら彼女を救うことを強く望めば。
黒獣は参加したエージェントAの火力もあり、着実に肉体を削られている。もはや肉体を維持するのも難しいのか全身が靄に覆われていた。
ビナーの時のあの感覚を思い出す。あの力を解放しようとした瞬間。
ぞくりと背中を冷たいものが伝うような感覚。
「…っ!皆さん!散開っ!敵の正面から離れて!」
その言葉と同時、相手の近くにいた分危機の認識が早かったからか、ツルギさんは声が届く前に黒獣の前から飛んでいたが、全員がその場から移動する。
それと同時にビナーの光線もかくや、といった出力の攻撃が放たれた。
全員回避が間に合ったものの射線上にあったものは融解し穴が開いていた。
それと同時に靄に変化が起こり黒獣だったものは竜の姿に変わっていた。
「…まるで、黙示録の獣だな…。」
「まだ余力があるなんてね…。」
ツルギさん、空崎さんが言葉を溢す。おそらくは、中の彼女の力の象徴のイメージなのだろう、しかし今までよりも危険な状態であることがわかる。先程まで靄として身に纏う程度だった彼女の力が、制御を放棄したかのように放出されている。
おそらく故意に暴走させているのだろう、その影響でまだ暗くなる時間には早いというのに空がその力の影響を受けて薄暗くなるほど。
「うへー、ドラゴンなんて聞いてないよー、ピンチになったら変身とかゲームじゃないんだから。」
「ん!こんなファンタジーな相手は初めて!」
ホシノは溜息を吐き、シロコさんは目をキラキラさせているが、これはまずい状況であるとしか言えない、先程の一撃を考えれば戦闘能力が獣の時よりも向上しているだろうことは分かる、そして、恐らくあの状態は諸刃の剣、この状態が続けば中の彼女も無事では済まないかもしれない。
しかし、竜は飛ぶもの、といった認識通りに翼を使い空に上がろうとする。しかしそれを咎めるように戦車が主砲と、恐らく陸八魔さんの弾丸による爆発を竜の翼に当てて墜落させる。
それを鬱陶しく思ったのか、竜は落ちながらも口から先程の熱線の様な光線を放つ。
ヒフミさんが操る戦車は竜が首を動かしながら光線を戦車に向けているのにもかかわらず、普段の彼女から考えられないような荒々しい操縦で回避していく。その上で必死に戦車にしがみついて悲鳴を上げている陸八魔さんが見えた気がする。
「敵が落ちました!このまま空に上がらせないように攻撃を!」
あの力を使う為に集中する余裕もない。どうにか隙を作りたいのだが、想像以上に相手が厄介である。
竜が暴れ剛腕を振るう、獣の状態と比べて速さが落ちているように見えるものの、攻撃が凄まじい。さらに肥大化した尻尾に薙ぎ払われ、ツルギさんと空崎さんが吹き飛ばされる。
私はこちらに視線を向けさせるため先程の”私”をイメージしマガジンの弾すべてを撃ち尽くし最後の一撃に恐怖の力を込める。先程と同じような光線が頭を貫き頭の部分を消しとばした。
しかし、消しとばしたはずの頭が二つになって蘇った、恐怖により回復は侵害されるはず…ならばこれは再生…ではない?
『恐らく創造し直してるのでしょう、回復よりも膨大な量の力を使うはずですが、あちらの力が尽きるまで続けるでしょうね。このまま続ければ中の彼女も力尽きます。』
嬉しくない状況報告である。タイムリミットが付いた上で攻撃が激しくなるだなんて何の冗談だろうか。
その後も膠着状態が続いた、相手の強力な攻撃はタイミングを見て指示を出し回避、私は強力な一撃ではなく創造をさせない程度の傷を付ける為のダメージを重ねる。
しかし、時間が過ぎる毎に相手の攻撃は激しさを増している。命を薪として燃やし尽くす勢いだ。このままではまずい。もう一か八か、それにかけるしかない。
「皆さん、どうか時間をくれませんか…?あれをどうにかする方法があるのです。」
ホシノはビナーとの戦いの後の事を思い出したのか渋い表情をしている。
「大丈夫なの?あの時みたいに血まみれになるのは勘弁だよ?」
「大丈夫、あの時よりもあの力の理解もあるし、絶対に無理はしない。」
ミカさんに庇われて如何に自分が周りに心配をかけているかを知った。無茶をし過ぎれば誰かがまた代わりに怪我をするかもしれない。自分のせいで誰かが傷つくのはもう嫌だ。
「…風紀委員長ちゃんと正義実現委員会のエースさん、それにシロコちゃんも。持てる全力であいつを押さえて。」
「……。」
「わかったわ。」
「ん。」
ツルギは無言で頷き、空崎さんとシロコさんも了解してくれた。
「さて、じゃあおじさんは全力でナギサの盾になるから…だから頼んだよ?」
ホシノから信頼の目を向けられる。ならば私はそれに応えなければ。私は深呼吸をして自身の中のもう一つの力に集中した。
「ひぃいいぃ、今!今何か掠ったわよ!安全!安全運転でお願いするわ!」
白目をむきながら余裕があり、相手に隙があるならば鋭いスナイパーライフルの一撃を叩きこむ陸八魔アル。なお、メガネが無い為あまり良く見えてないのだが、相手が大きい為に割と適当に撃っているはずが何故か良い位置に着弾している。
『……。』
戦車として存在している彼も、奇妙な感覚を覚えていた。
もっと効率的な動き方があるはずだ、なのに結果的にはこちらの計算を上回る結果を出している。人間であるのに電子戦装備を使いこなす浦和ハナコ。
そして、普通を豪語する少女、かつて預言者と呼ばれた彼ですらも絶対に普通ではないと言える、現在自分を操作している少女、阿慈谷ヒフミ。
なんども行われている回避運動、ここに来て覚醒したと言わんばかりの回避率100%、無駄が多いように見えて派手な動きはあの竜を完全に攪乱していた。
じっとなんてしてらんないよね!と言いながら激しく動き回る戦車の中で直感で砲撃をする頭に包帯を巻いている、現在負傷者である砲手、聖園ミカ。なお、無理をしないでください!と衛生兵の少女に叱られている。
今、自分は100%を超える性能を引き出していると言えた。自分の身体のはずなのに自分よりも成果を上げているだろう少女達。
認めよう、彼女達の優秀さを。
そして、ヒフミの近くのモニターに表示されるリミッターOFFの文字。
自身を普通と称する少女は何の迷いもなく解除のボタンを押した。
異音と共に更に加速する戦車とあああああああ!と叫び声を上げる少女の声が響き渡った。
ナギサが戦線から離れている間、全員で受けに回り時間を稼いでいるかと言えば、まさにその逆だった。
「おおおぉぉ!」
叫びと共に高威力のショットガンを絶え間なく放つツルギ、その攻撃速度は凄まじく、竜ですらも無視が出来ないほどの猛攻。
「ん、させない。」
二本ある首の片方で熱線を吐こうとするも開いた口に的確にグレネードを投げられる。口の中で爆発し、苦悶の声を上げる竜。このメンバーのなかで攻撃力という面では劣るものの的確に妨害し、状況判断能力が優秀なシロコ。
もう片方の首も高速で走り回る戦車と狙撃手に攪乱され攻撃頻度が落ちている。
その中でエージェントAを名乗る少女は焦りを見せていた。
「くっ…ダメージの拡大と計器の故障、攻撃予測の精度が…。」
いま彼女が使っている機体は実験機であり、完成とは程遠いものだ、そしてそのボディは大きく相手からは狙いやすい標的だった。
竜も相手の数を減らすことを念頭に置いたのか彼女が集中して狙われた。
「……っ!」
気が付けば竜の顔はこちらを向き口を開いていた。そして彼女が咄嗟に取った行動は。
「重武装パーツをパージッ!及び射出!」
損傷して使い物にならない部位をこちらに顔を向けた竜に射出、高速でぶつかった影響で竜の顔は空を向き、光線が放たれた。
エージェントAはもう自身に残された武装も少ないと判断し、何かないかと必死でマニュアルを脳内で思い浮かべた。
そして浮かんだものが。
「嘘でしょう…?」
腕の部分に括りつけられた実用性0と思われたもの。
超高出力ヨーヨー。
自身の主人に当たる少女が自信満々の表情で切り札と言い出した産廃。
彼女曰く、どれほど強靭なキヴォトスの生徒達も気絶させる威力の電撃を放つと言っていた。
危険なので最大出力では使わないようにと言われていたそれを半ば投げやりの気分で、上を向いた竜の首を狙い放った。それが竜の首に絡んだのを確認し、腕部に付いたワイヤーを切断。首に異物が付着し首を振る竜を見ながら遠隔装置で最大出力で起動した。
その結果、起こったことは、今までにない程の凄まじい叫びを上げながら地に沈む竜の姿。
体表よりも内部にダメージが入ったことで、数秒であるが相手の肉体を弛緩させることに成功したのだ。恐らくこの戦いにおいてエージェントAが上げた最高の戦果だった。
釈然としない表情のエージェントAを横目に起き上がり始めた竜に接近したツルギはにぃ、と口を歪め。
「よくやった。」
と、言葉少なく賞賛の声を呟いた。
持ち上がりかけた頭に激しい銃撃の嵐を叩き込み竜の視線を自身に向けさせる。
「出番だ、風紀委員長。」
空に飛び上がり大きく翼を開いたヒナが銃口を動きの止まった竜に定める。
「ここで切り札を切ることになるとはね。」
ツルギがその場から飛びのいた瞬間、ヒナの持つ銃から太いレーザー状のエネルギーが発射された。
「うへ、おじさんの出番なんてなかったねぇ…いやぁ、強い子ばっかりだよ本当に。」
そう言いながら、未だ放たれ続ける光の柱を眺めるホシノ。
その間にこちらの準備は終わっていた。
「ホシノ、少々手伝って欲しい事があります。」
「んー、何の手伝い…ってどうしたのその背中。」
そう言ったホシノの目線は私の翼。
あの竜の放出する力に負けず劣らず、発光する翼から放たれる力。
そのせいで今、私の服の背中の部分は焼け落ちている。
「身体に溜め込むと暴発するので放出してるんです…。一瞬だけ全力で撃つので背中を支えてください。」
このまま撃つと射線上の物を消しとばしかねないので対象に当たった後、砲撃を操作し上空に飛ばす。その間自分も吹き飛ぶので背中を支えて欲しいのだ。
ホシノに頼むのも、ホシノなら高出力の力に耐えきれるという事以外に、未だ小さく迷いの心があるから、可能なら相棒とする彼女に傍にいて欲しい。
「…わかった。」
ホシノは私の背中側に移動すると、うへぇ、熱いよー。という声を上げる。
「申し訳ないけど盾越しに支えるよ。…うう…動いてないのに熱いよー。」
その声と共に肘を引き弓を持つような姿勢でサブマシンガンを持つ。
引き金に指をかける、光の柱が収まるのを待つ。
光が消える、射線上に味方がいないことを確認。
止めていた息を吐く、引き金を引いたその瞬間。
どうか、彼女に救いを
(自分を信じて、ナギちゃん)
その声が、私の知る彼女と同じものだったのかわからない、放たれた桃色の光と共にそんな声が聞こえた気がした。
とある世界で凄まじい力が放出された時間。
何もない空間で、誰もいないその場所で。
何者かの視線が一つの世界に向けられていた。
ミ ツ ケ タ
”私”が黒獣を圧倒できた理由は完全にメタっているからですね。圧倒的に相性が良い。というかキヴォトスに存在する神秘を持つものに対してアドバンテージを持つのでやばいです。ゲームで言うなら高倍率の
後、ミカ隕石の光線verをやってますがミカの武器を持ったところで普通は出来ません。なのでそれが出来るのには理由があります。
”私”が表立ってあまり話さないのは介入を最低限にするため。ナギサが無茶しすぎる為ちょくちょく助け舟は出してますが、ママかな?
作者モンハンやってるせいでブルアカモンハンになってしまった…反省。