ゲヘナ学園の一室で万魔殿の長、羽沼マコトと風紀委員長、空崎ヒナが対面していた。
「……それで、今回の顛末について説明して貰おうか?風紀委員長。」
議長席にふんぞり返るように座り、向かいに立つ少女に向かい口を開くマコト。
「…別任務の遂行後にトリニティとの情報交換に向かっていた天雨アコからの救援要請に応じ、そのまま現場に直行、その場にいた生徒、同じく援軍として現れたトリニティの正義実現委員会と共に共闘、首謀者と思われる存在の撃破。これが事の顛末になるわ。細かいことは後で資料として提出するからそれで確認して。」
それに対しマコトはふん、と鼻を鳴らし、つまらなそうにヒナを眺める。
「…首謀者とやらはどうした?縛り上げて連れてきたのか?それともトリニティに奪われたか?」
「…首謀者の生存は確認できなかったわ。最後の攻撃後からその姿を見ていない。」
そうか、と別段興味が無いかのような反応を見せるマコト。実際に彼女はこの事件にさほどの興味を示していなかった。
首謀者がもしトリニティの人物であったなら、それを切り口に色々仕掛けようとは思っていたが、それが出来ないとなっても何も問題はない。寧ろ、今の彼女にとって重要な事は。
「…それで、トリニティはどうだった?」
「……展開次第によるけれど、7割であちらが優勢ね。」
マコトの言葉少ない質問に対し、自らの思考能力でマコトの聞きたい事についての答えを返すヒナ。
「キキキ、なんとも自信が無いものだな。…その数字は万魔殿を含めてか?」
「いいえ、万魔殿と…あちらのティーパーティーが出てきた場合は8割から9割ね。」
ヒナの言葉を聞いたマコトはそれに対し眉を顰める。
「なるほど、ティーパーティーに厄介な相手がいると…貴様と相打った聖園ミカか?」
「ええ。あの子、以前よりも大分強くなっていた。直感が鋭い上に攻撃力なら私以上、これは私の予想なのだけど、アレは特に鍛錬もしていない天才型よ。戦えば戦うほどに開花するタイプに見えるから、どんどん手に負えなくなるでしょうね。」
その言葉に呆れた表情をするマコト。
「なんだそれは、戦闘民族でもあるまいし、お姫様然した容姿とは裏腹の蛮族なのか?」
ミカの思考が脳筋寄り、という意味では否定できないヒナ、そんなヒナの脳裏に、ちょっと!失礼じゃないかな!と頬を膨らませる桃色の少女の姿が思い浮かんだ。
「…話を戻しましょう。もしも今、トリニティに仕掛けるとしたら勝ち目はゼロと考えた方が良いわ。」
その言葉を聞いたマコトは気に食わないと言った表情でヒナを睨んだ。
「ほう、1割もあれば策次第でどうとでも出来るとは思わんのか?風紀委員長。」
羽沼マコトは優秀である、普段の遊びならともかく、本気の政争や謀略ならば現状彼女に比類するものはそうはいない。しかし、その上でヒナの脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
「桐藤ナギサ、彼女がトリニティにいる間はやめておいた方がいい、小競り合いならともかく本格的な争いになれば出てくる可能性がある。」
彼女との共闘の時間はそれほどでもない、それでも今までの人生において最高のコンディションだったと言える。そんなことはあり得ないが、彼女と協力して2人でトリニティを落とせと言われれば可能ではないかと思えるほどだ。
正直に言えば欲しい、それに彼女の傍はどこか暖かく、安心感を感じる。
「それほどの存在か、アビドスの片翼は。」
アビドス…戦場ではホシノ、政治はナギサ、少数精鋭でありながら厄介さはかなりのものだ。以前、冗談でアビドスを攻め落とさないかと口にしたところ。満場一致で否決した。
「やれやれ、フットワークの軽いお嬢様には参ったものだ、実家の力でのんびりと権力に縛られていればいいものを。」
あんなのに自由に動かれたらこちらがやり辛くて仕方がない、と憂鬱さを隠さないマコト。
「ええ、それには同意見。現所属はトリニティなものの、所属している部活に連邦生徒会がバックについている。個人ならともかく部活単位で他学園を堂々と歩けるのは面倒よね。」
交流を名目にすれば簡単な介入をも許される、何を思って連邦生徒会はトリニティにかの部活を作ったのか。
…まるで、
「まあいい、今はその時ではないという事だ、キキキ…奴も厄介事ばかり置いて…。」
そう言いながら苛立ちを隠そうともしないマコト、ヒナの前でこのような表情をするのも珍しい。
「…私はな、奴が素直にこの椅子から降りたとは思っていない、議長から下ろされることは想定内だったのだろう。トリニティの生徒に簡単に裏をかかれる奴でもない。今頃は我々が苦心してるのを見て愉悦に浸っているのかもしれんな。」
軽く舌打ちをするマコト。軽く息を吐き冷静さを取り戻す。
「今回の件ご苦労だった。トリニティに負けぬよう、励むがいい。それが出来ない場合、キキキキキ…書類の束が絶えず風紀委員長の机を覆う事になるかもしれんぞ?」
目に見える成果を出さなければ嫌がらせをする。と言い出す議長に面倒だ、という感情が湧く。まぁ彼女との関係も今年限りではあるのだが。
「ああ、空崎ヒナ風紀委員長?」
そんな彼女はにやりと口元に笑みを浮かべる。
「
「あなた…まさか…。」
厄介な縁はまだ続くらしい。
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「試験機の損傷…申し訳ありませんでした。」
ミレニアム内の某所、とある人物の拠点の一つでボロボロのパワードスーツを装着していた少女がもう一人の少女に謝罪していた。
「いいえ、有意義なデータが取れたし目的も達成している。問題ないわ。」
パワードスーツから降りた少女、飛鳥馬トキは身体のラインがはっきり見えるぴっちりとしたインナースーツ姿で彼女の主、調月リオと対面していた。
「護衛対象は無事にアビドスへ、戦闘データも対人、大型種のデータを取れて、此方としては大いに助かったわ。」
トキに聞こえないほど小さな声で、預言者に対する試験とも考えれば上々ね。と表情は変わらないものの嬉しそうな声色が漏れる。
「今回も急で申し訳なかったわ。準備もなしに緊急出撃、想定外の戦闘も含めてね。」
「いえ、主に仕えるものとして当然のことです。」
従者とはかくあるべき、といった応対をするトキに対し、本来の物語よりも人間性を重視する傾向の強いリオは困ったような感情を抱いた。
「それで、本当に留年で構わないのかしら。セミナーとしての私の立場を使えば出席扱いにも…。」
「いいえ、授業に出ている訳でもありませんので、留年で構いません。」
「……そう…。」
彼女を道具や駒として扱えたなら簡単に済む話題なのだが、縁、絆。今回の事件を経て人間の可能性を未来の為の鍵の一つとして認識した。
そのため部下とも円滑な関係を…とも思っているのだが、調月リオは元来コミュニケーション能力が高いわけではない。
対話が出来ないという訳ではないのだが、彼女の頭脳が正論を相手に叩き付け、結果的に相手に距離を取られてしまうのだ。
明星ヒマリの様な自分と同等の天才、梔子ユメのように、話を聞き、へー!すごいね!リオちゃん!と理解はしなくとも話を合わせられる人物、もしくはこちらの性格を理解した上で最適解の言葉を返す桐藤ナギサ。このあたり以外とはあまり交流が取れないのも彼女の欠点である。
その為、現在とある計画を立てているのだが。
「後はこちらでやっておくから後の事は任せて、下がってもらって大丈夫よ。」
そうトキに伝えると了解しました。といいながらその場から離れる。
その途中であ、と何かに気付いたかのような声を出しリオの方へと振り返った。
「あの…申し訳ないのですが、機体の軽量化と…機動力の強化…それと、その…機体名だけはどうにかならないでしょうか…?」
その言葉に目を見開くリオ、それも一瞬だけだったが。
「軽量化、機動力については考えておくわ。それと…機体名…気に入らなかったかしら?」
「その…出来れば別の名前を…。」
それについて了解と返すと、今度こそ、その場を離れていくトキ。彼女がその場から完全に離れるのを確認してから、珍しく形のいい眉をハの字にしながら。
「駄目だったかしら…
少々沈んだ声で呟く、アバンギャルド君で良好な成果を出してきている為に、アバンギャルドに脳が寄り過ぎているのかもしれない。折角の部下の嘆願なのだ、聞き入れようと意思を固めていると。
「見つけましたよ!リオ!」
現れたのは調月リオと同等の天才。明星ヒマリである。
「あら、良くここが分かったわね。」
「ええ、ええ。この私ですら少々苦戦しましたが…いいえ!そんなことはどうでもいいのです!これは一体どういうことですか!」
そう言いながら手に持った紙をリオに突き付けるヒマリ。
「…ああ、これの事?」
彼女の言いたい事を理解した彼女は特に驚いた様子もない。
「あなたは…いったい何をするつもりですか!?」
どうやら興奮していつもの優秀な思考が出来ないようだ、と少し困った様子のリオ。
「取り敢えず、落ち着いてお茶でも飲みなさい。」
冷静なリオの態度に腹を立てているものの、リオが常備してあるお茶を手渡すと、素直に受け取り一口口に含む。
「これについてはそのままの意味よ、来期の生徒会長…一応私に確定はしているのだけど…特例によりしばらくの間、一般生徒には非公開の予定よ。」
「訳が分かりません、身を隠す予定でもおありで?ここ最近何かしら暗躍されているようですが?まったく!ここ最近マシになったと思ったら、その秘密主義もいい加減にしたらどうです?流石は下水道に流れる水の様な女ですね!」
よほど腹に据えかねているのか、機関銃のように放たれる言葉、よくわからないような言葉も含まれているが…。
「一応その資料は、部外秘の物なのだけど…いえ、あなたには関係なかったわね。」
それなりに厳しいプロテクトをかけていたのだが、流石のヒマリだった。
「少々やらなければならない事があるの、場合によってはあなたにも手を貸してもらう事になると思うわ。」
今後予想されることに正直一人では手が回らない。全部一人でやるならば相応に汚い事やかなり強引に事を進めなければならないからだ。
「やりたい事…それがこれですか?」
冷静になったように冷たい声色、もう一枚の資料を指を向ける。
そこに書いてあったのは、来年度ゲーム開発部の部員についての資料である。
3年が卒業し、残った生徒から、次期部長、花岡ユズ、出席日数不足により留年。
そして、新入部員、調月リオ。
「いったい何がしたいんですか!?セミナーの後輩に面倒をかけて自分は遊び惚けたいのですか!?」
「ヒマリ、落ち着きなさい、これには事情が…。」
息も絶え絶えのヒマリ。なんだかんだで色々問題を起こすミレニアムの生徒であるが、後輩等に関しては可愛がっていたりもする。だからこそ許せないのだろう。
「はぁ…もういいです。その事情とやらも話してはもらえないのでしょう?何のために人間には対話という能力が備わってると思っているのですか。」
頭を押さえながら深い溜息を吐くヒマリ、流石に申し訳なく思ったのか、リオが口を開く。
「問題が何もなければセミナーとして、生徒会長としての役割を果たすわ。それに、私の予想が確定したならば…その時は説明をする。約束するわ。」
「…あなたが約束だなんて、珍しいものですね。それなら私からはひとつだけ、生徒会長の代理として顔を出すことになる子達にきちんとフォローする事!それだけです!」
言いたい事だけ言ってその場を離れていくヒマリ。その姿を見ながらリオは溜息を溢す。
「…最悪はいくらでも想定しておかなければならない…。ヒマリ…生徒を思うあなたならミレニアムを…。」
そう言ってちらりと目線を手元にある端末に向ける。そこには。
"Key"と表示されていた。
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全力で駆ける音、息を切らしながら複数の少女たちが走る。
「ぐっ…!ゲホッ…はぁ…はぁ…。」
「――ちゃん!大丈夫!?血が…こんなに…。」
「くそっ!何なんだあいつらは!」
全員がどこかしらに傷を負い、その内の一人はかなりの負傷をしていた。
何が起こったのかは分からない、唐突に現れた敵、自分たちの居場所は、その敵に制圧された。
「――――はもう終わりだ…あれでは―――も無事では済まないだろう…。」
「そんな…。」
今まで必死に生きてきた。泥水をすすろうとも尊厳を壊されようとも、生きてさえいればいつかはと。
流石に傷だらけの身体で駆けるのは限界が来たのか、傷だらけの少女が膝をつく。
それを見てひとりの少女が膝をつく少女に肩を貸した。
「すべては虚しい…か…。」
肩を貸され、歩きながらも少女は今までやってきたことが走馬灯のように思い浮かぶ、今までの事がすべて無駄だったのならば私達は何のために…。
もう銃声は聞こえないがまだ油断はできない、傷だらけの少女は虚ろな意識の中思い出す。
あれは確実に私を狙っていた。
自分の大切な少女ではなく、そして仲間達でもない、私を。
「このままでは…逃げきれないかもしれない…私が、殿を受け持つ、お前たちは…行け…!」
「そんな身体で何を言ってるの!私に諦めるなっていったのはアンタでしょ!?」
普段口数の少ない少女が苛立ちを隠さない声で叫ぶ。ああ、自分はこんなにも仲間に…。
肩を貸されながら歩いていく少女たちの向かっている場所に人影が見える。
即座に人影に向けて銃を向ける仲間達、それに対し人影が慌てだす。
「わ!わー!なになに!?落ち着いて!いきなりなんなの!?」
どうやら人影は少女のようだ。両手を上げ抵抗はしないと意思表示をしている。
「…全員、武器を降ろせ、奴らは会話すらできなかった。」
可能性を信じる。自分たちが助かる道はもうこれしかない。
「…抜け出して散歩してただけなのに、どうしてこうなるの…?絶対にこれ、厄介事だよぉ…。」
人影と向かい合う
「すまない、あとを…頼む。」
仲間の声が聞こえる、薄れゆく意識の中、見えたのは仲間たちと。
桃色の天使の姿だった。
マコトが真面目にしてると強者感凄い、でもどっかではっちゃけさせたい。
アバンギャルドに脳を汚染されたリオさん、人間の可能性を期待しながらも、まだ背負い込もうとする悪い癖は消え切っていない模様。
桃色は厄介事を持ってくる。仕方ないね。桃色だもの。