何処かの暗い室内。その場所で黒いスーツを着た異形の貌を持つ大人とトリニティの制服を着た生徒が対談をしていた。
「うら若き少女をこんな所に連れて来るだなんて…大人として恥ずかしくはないのですか?」
「クックックッ…大人としては問題かもしれませんが、あいにく私は悪い大人なのでね。」
黒のスーツを着た異形は少女…甘背テマリと言葉の応酬を交わす。テマリは嫌みを、異形は単純な興味を。
「先程までは無垢な少女のようでしたので驚きました。本当に誘拐犯になった気分でしたね…。人格をお分けになったのですか?」
「本来、他人の要素をツギハギにして、主となる人格の記録を元に生み出されたのがわたくしですから、ある意味で別人なのには違いがありません。後から継ぎ足したわたくしという要素を切り離したのが、先程まで貴方が相手にしていた、本来の甘背テマリと言えるでしょうね。」
「ほう…分かれた神秘毎に人格を形成、興味深い結果です。あなたが敬愛する彼女と同じような状態になったという事でしょうか?」
興味深い、と口にする異形に対し、少女は嫌な表情を隠さない。
「あの方とわたくしを一緒にしないでいただきたいですわ。こんな不純物があの方と一緒な訳がありません。」
自身を卑下するからのようにテマリは言った。異形はその言葉にクックックッ…と笑いを溢した。
「そんな事よりも本題について聞かせていただけませんか?わたくしをここに連れてきた理由。ねえ…
テマリは異形、黒服の聞きたい事について予想は出来ていたが、敢えて聞いた。
「クックックッ…そうですね。あなたも私も忙しい身、質問をさせていただきましょう。」
黒服、と呼ばれた彼は嬉しそうに笑う。その名で呼ばれることに喜びを感じたかのように。
「その為にこの身を晒したのです。彼女は我々を簡単に消す事が出来る。あの場にいたのがマダムであったなら…いやはや…どうなっていたか。」
彼女は生徒に対しては、その引き金も重く感じた事だろう。だが、一線を越えた悪い大人が相手の場合、向けた銃口から、容易くその命を奪い去るだろう。
「よかったですわね?
この存在と同じ扱いなのが少々気に食わないと思いながらも、テマリは自身に与えられた新しい名を思うと口元が綻ぶ。
「彼女も獣があなたである事には予想がついていたようでした。そして、あなたが首謀者であると知られる事がよろしくない状況を生み出す事も。」
必ず彼女を無事に帰す事を約束させられた。そして、悪い大人の彼にとって望外に喜ばしい事が訪れる。
「
そう、自身の見た目から安直ではあるがそう呼ばれたのだ。興味の対象である少女に呼ばれたそれを彼は気に入った。
ナギサの知らぬことではあるが、この世界でホシノと黒服の接触は一度だけ。その時にもホシノに胡散臭い大人としか思われておらず、内心で思っていたかもしれないが、黒服とは口に出していなかった。
その為、この世界線においての黒服の名付けはナギサによるものとなった。小さなズレではあるがこれも「物語」のズレになるのだろう。
その事を思い出しながら黒服はテマリに質問をした。
「まずは何故あなたは人としての姿を取り戻せたのか。そして、あなたの人格が何故安定しているのかです。」
黒服は暴走したテマリの姿を見ている。故に、人としての器と人格が壊れたことを知っている。
そう、あの瞬間に甘背テマリが終わった事を知っているのだ。
「分かりました、教えて差し上げます。」
簡単にあの奇跡を黒服に語る事に対していい気分にはならないが、テマリには黒服を筆頭に彼らの組織には借りがある。
「わたくしは確かに死にました。それが事実です。」
「……ほう……。」
黒服は興味深い、と言葉には出さないものの、態度に如実に表れていた。
「ならわたくしは誰か、といいますと…死んだはずの獣であることも事実。」
あの方に備わる権能の数々が自分を生かした。いや、新たな存在として生まれ変わらせたのだ。
「あの時、わたくしに起こったことは甘背テマリと継ぎ足した神秘が形成した何者でもない獣、それを分離させたのです。死という現象をもって。そして、新しく甘背テマリとわたくしを再構成させたのですわ。」
それを聞いた黒服の口と思われる部位は裂けるように釣りあがる。未知を知る子供のようにも見えた。
「ククククク…クックックックック!人間の創造などまさしく神の所業、神の奇跡そのもの!ああ、彼女は私の想像を超えていく、本当に興味深い。」
黒服の目の様に見える亀裂が燃えるように揺らぐ、興奮しているのか感情が喜色に溢れている。そして、彼の脳裏に水神であった筈の彼女に憑いた神は生と死を司る存在である可能性を思い浮かべる。神は出典などにより複数の側面、別の名を持つ神と同一視されるものがある。彼女に宿るのもそれの可能性がある。
「ええ、まさしく奇跡。あの方を英雄程度に考えていたのが愚かでした。」
英雄は偉業を成したものに与えられる称号の様な物。しかし、たかが英雄に自らの力だけで人間を蘇らせる事が出来るだろうか。
「あの方は英雄ではなく、救世主ですわ。わたくしの思った以上のお方でした。」
彼女を思うと胸に熱が宿る。子供のころに見た英雄譚、それよりももっと素晴らしい救世の物語。それを我が身で味わえたのだ。
「わたくしに起こった事は言葉だけならば大したことのないように聞こえますわ、わたくしと甘背テマリを蘇らせたのは単なる名付け、なのですから。」
しかし、生まれた子供に付けられる名付けとナギサによって起こされた名付けには大きな違いがある。
単純に個体の名称を付けると言う事が人間の名付けとするなら、ナギサのしたことは名を付けることで存在の証明をする事による創造や再構築。
甘背テマリの神秘と記録を元に、甘背テマリの肉体と人格を主人格として再構成、名無しの獣を内に封するように。
「名付け…ですか。つまり桐藤ナギサの名付けにより、甘背テマリは都合良く神秘を受け入れる前の一般的な女生徒としての彼女を取り戻させた。そしてあなたという存在まで生徒として生まれ変わらせたわけですね。」
そう、甘背テマリを救うだけならば獣となった彼女を救う必要はなかった。彼女を救ったのは、ただのナギサの我儘であり自己満足だ。
「ふふ、本当に素晴らしいですわ、素晴らしいですわね?まさに超越者らしい傲慢さ、もうわたくしあの方の奴隷といっても過言ではございません。」
ナギサはそんな事を一つも望んではいないのだが、もはや彼女の想いは信仰の域に達していた。
「という事は、あなたには神意としてだけではなく、名前も与えられたという事ですか?あなたが純粋な甘背テマリではないとするならばなんとお呼びすればいいでしょうか。」
ナギサに撃ち抜かれ、消滅しかけた瞬間、彼女の意思と繋がった。その時に私という存在に楔を打つ為に付けられた名前は。
「パラドックスですわ。素直に綺麗な名前はわたくしが嫌だと申しましたので。私という存在と別の意味も込められておりますが。」
ある意味でゲマトリアらしさを感じる名前。本来ティーパーティーの首長になるはずの無かった少女に付けられる名としては理解できるかもしれない、女性名としてはいかがなものかとナギサは少しだけ嘆いていたが。そして、蘇った甘背テマリは内に封じられたパラドックスの存在を知らない。つまりは箱に詰まった
そう、
「まぁ…わたくしがあの方の意に反することなどもうしようとは思いませんが…。ですが、あの方に危険が迫った時は…開けてしまうかもしれませんわね。」
パラドックスはクスクスと、
「成程、今のあなたはあの時のように好き勝手に暴れる事が出来ないという事ですね?甘背テマリというリミッターをかけたという事ですか。」
「ええ、こうして表に出ることは出来ても力を放出することは出来ませんし、また、本気を出せたとしても異形化も出来ません。生徒という人間の枠に収められてしまっているので。」
つまり、甘背テマリが箱を開けたとて、精々最強クラスを除いた上位クラスの実力程度しか出せない。パラドックスが表に出ても聖園ミカに剣先ツルギ、空崎ヒナ、小鳥遊ホシノ、そして桐藤ナギサの様な最上位勢には単独で簡単に鎮圧される程度だ。
「ふむ…あなたに起こった蘇生…興味深い事象ではありますが、再現性はありませんか…ならばこのまま研究したとてほぼ意味はないでしょう。」
新たな研究の一つとしようとも考えたものの、そもそも自身のテーマから外れるとも思い、知識のみに留めることにした。黒服にマダムと呼ばれる存在ならば喜んで追求したかもしれないが。
寧ろ、黒服にとっては桐藤ナギサという存在に更に興味を深めた。自身の研究の解答とも言える存在なのだ。興味を持つなというのが難しい。
「しかし、神の力を使ったその代償は…いかほどのものか…彼女の事はこれからも観察を続けたくはあるのですが…。」
その発言を聞いたパラドックスに冷たい目で見られるが、それを気にしているようではあんな組織には所属はしない。
「…あの方の主人格は恐らく気付いてないかも知れませんわ…今のあの方は容量いっぱいに詰め込まれた状態ですから…それどころではないでしょう。」
苦い表情を浮かべる、パラドックスもナギサの悲しむ表情は見たくないと考えているものの、今回の事は自分が引き起こした事でもある。申し訳なさが湧き上がった。
「ええ、神の力が増した。つまりは何処かの容量を減らさなければ器が壊れてしまう、それが主人格に起こってないという事は、必ず別のどこかに代償として出ているはず。」
二人が主人格とするナギサには特に影響を及ぼしていないようだった。ということは別の場所が削り取られているという事に他ならない。
「魂が複数あると言うイレギュラー、その上で神が宿るというその存在がまさに奇跡の産物。これから良い関係を築きたいものですが…壊れてしまっては意味がない。」
もちろん、ビジネスパートナーや研究対象といった意味で、ではある。それに気付いた上でパラドックスはまたも冷たい視線を送る。
「パラドックスさん。今後彼女と接触の機会があれば神の力を多用しないよう伝言をお願いしたいのですが。」
「良い印象を持って欲しいなら自分自身で言った方が良いと思いますわ。まぁ、あの方はあなたにかなり疑いを持たれているようですが。」
そもそも、悪い大人を自称している上にパラドックスの事について弁明すらしなかった。時間が無かったとはいえ疑われても仕方が無いと言える。
「伝言については承りましたわ。こちらとしてもあの方と話せる機会ですもの。あの子には少々寝てもらってその間に接触させていただきましょう。」
憧れの相手と話が出来る事を想像したパラドックスは、普段濁っている目をキラキラさせる。それだけ見るならば普通の少女に見えるのだが。
「そう言えば、以前隠者のタロットカードを扱っていましたが、どのような意味だったのですか?」
「ああ、あれですか。」
そう、ゲヘナや各地に残したもの、羽沼マコトなどには挑発を受け取られているが。それについて黒服は単純な疑問として尋ねた。
「あれはただの自己認識ですわ。どんどん自身を失っていって誰だかわからなくなって。知識にあったタロットを介して自己を確立しておりました。」
隠者ハーミット、怪盗のようにカードを残すことで忘れない為に、誰かがその名を呼べば思い出せるように。
「ですが、これはもう必要ありませんわね。」
逆位置で取り出された隠者のカード、もう彼女にはパラドックスという名前がある。崇拝する彼女から貰った大切な名前が。
そっとテーブルに置いたカードを正位置に置き直し、もう必要ないとそのまま席を立つ。
「もう用はありませんわね?
そう言って黒服の返事も聞かずに部屋を出ようとし、部屋から出る直前パラドックスは振り返る。
「わたくしの物語はお気に召しましたか?」
見届け人としてあの戦いを見ていた黒服に一言残し、パラドックスは返事も聞かずにその場を去る。
「ええ、想像した悲劇ではなく、あなたにとってのハッピーエンドと言える物語。ククク、ゴルコンダには凡作と言われるかもしれませんが…見ごたえのあるものでした。」
そう言った黒服も闇に溶けるようにしてその場を後にする。
黒服とパラドックスの対談の後、数時間後、黒服が所属する組織ゲマトリアに事件が起こる。
アリウス襲撃によりベアトリーチェ負傷、アリウスは襲撃者に制圧されたと。
テマリさん祝復活!ですが凄まじいナーフを受けました。仕方ないね。それでも武闘派の部活のネームド部員クラスに強いです。マコトは頭を抱えても良い。
主人格テマリさんは綺麗なテマリさんです。都合よくセイアが凄い事も覚えてるので、原作ティーパーティー勢のファンです。
副人格パラドックスさんはある意味でナギサの娘みたいなものです。ナギサ様がマッマです。認知はしません。
以前セイアとの会話時にボロボロだった肉体はかなり好調ですが、再構築されたとはいえ肉体を変質させた神秘はツギハギではなくなったとはいえそのままなので、髪色などの容姿は戻りませんでした。
戦闘のポジションで言うならEXでリジェネ付与する回復タンク、一度だけなら完全回復もするタイプ。しぶとい。
神パワーは代償付き、所謂大人のカードなので多用するとバッドエンドルートの可能性大です。
ナギサはやべぇことやってますが0から想像は流石に無理です。
こっそりと怪我しちゃってるベアおばかわいいですね。