汀渚のアーカイブ   作:buridish

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モチベが続くうち、早めに。


アリウス補習授業部・トリニティ支部

「アリウスを正しい手続きを持って正式な学校にしてしまいましょう!」

 

 パン、と両手を打ちニコニコ笑顔のパラドックスさんの言葉は室内を固まらせた。

 

「テマリ、簡単に言うが…学校を設立すると言うのは簡単な事では…」

 

「あら!ここをどこだと思ってるのですか?金持ちの巣窟、権力者の集まり。天下のトリニティですわ!」

 

「そうは言うが、さっきも彼女達がトリニティの庇護を受けるのは断ると…」

 

「それはアリウススクワッドのみの事情でしょう?アリウス全体の事を考えるなら彼女達も否やとは言いませんわよね?アリウス全体の利益になりうる事を断るだなんて…」

 

 セイアさんと言葉の応酬を交わすパラドックスさん。彼女はちらりとアリウスの少女たちに目を向けながる。

 

 すると、今まで黙っていた少女が口を開いた。

 

「私は…それがアリウスの為になるなら。アリウスの皆が光の下で笑い合える日々が来るなら、受けてもいいと思う。」

 

「…姫…」

 

 アリウススクワッドのリーダーはサオリさんではあるが、アツコさんの発言力はスクワッドの中でも高いようだ。その彼女の優しい願いを聞いて笑顔を見せるパラドックスさん。

 

「でも条件がある。アリウスの不利になる事には協力できない、それと…私たち以外にもアリウスを飛び出した子達もいるかもしれない…その子達の保護も可能な限りでいいから…。」

 

「無論です。わたくしの情報網は優秀かつ迅速なので、いくつか目星が付いているものもありますので。」

 

 パラドックスさんの言葉に部屋の全員が驚きを示す。それはそうだろう、事が起きたのはつい先日だ。

 

「ブラックマーケットに新入りが数名。ゲヘナ側で小競り合いを起こしている所属不明の生徒らしい少女達。今の所はこのあたりでしょうか、時間が経てば情報はもっと集まるはずです。」

 

 なぜこんなにも情報が早いかというと、彼女の神秘は変質を起こしており、神秘を奪った相手とのネットワークが出来ているから。相手側が協力的ならばさらに繋がりが強くなる。

 

 パラドックスの力の片鱗を知っているナギサも、ブラックマーケットの生徒には物資などの支援、仕事の斡旋を約束し協力的に。ゲヘナの生徒はそんなことをしなくても、普段は塵のように吹き飛ばされる自分たちが、あの空崎ヒナに煮え湯を飲ませられた。というだけで協力的だという事は知らないのだが。

 

 その力を持っていたとしても、倒されて間もなくでそれだけの動きを見せているパラドックスの行動力の高さは驚きではある。

 

「アリウスの皆を助けてくれるなら…私は良いと思う、皆はどう思う?」

 

「…アツコ…」

 

 アリウススクワッドの反応は、信用できないと言った感情が見えるにしても、アツコさんの言葉も理解できるという事。

 

「ここで返事を返す必要はないよ、少し考える時間も必要だ。それに、学校を設立すると言うのもそう簡単な話でもない。」

 

 そう、パラドックスさんは簡単そうに言ったが、そう簡単な話ではない。国を作ると言っているようなものだからだ。

 

「うふふ、ここにいらっしゃる方々の協力があればそう難しくはありませんわ。良家の方々がスポンサーに、そして学園単位での推薦。もちろんアリウスからしたらトリニティの傘下などお嫌でしょうから、複数の学園の承認が欲しいですわ。」

 

 パラドックスさんがこちらを細めた瞳で見てくる。まさか。

 

「アビドスは学園としての力は落ちてきているものの、住民の一体感は無視できない所があります。そして、近年どんどん勢力を大きくしているミレニアム。」

 

 そして、トリニティ…。

 

「それと先日連邦生徒会長になった方…その方ともナギサ様は懇意でいらっしゃいますわね?その方の承認があれば…」

 

 最高権力者の力も借りろ、と言われているようだ。彼女には一応の借りもあるし、話もあるから近々顔を出せと言われてもいる、丁度いいかもしれない。

 

「連邦生徒会もミレニアムも用事がありますし、そちらの交渉はかまいません、ですが絶対うまくいくという保証は出来ませんが。」

 

 アビドスに関しては何人か生徒を入学させるならホシノは受けてしまいそうな気もする。私からの依頼ならなおさら。

 

「…少し…考えさせて欲しい。」

 

 やはりメリットがあったとしても感情は簡単ではないのだろう、先日まで憎しみを埋め込まれていた相手の言葉に軽々しく頷けないようだ。

 

「取り敢えず話が纏まったところで、お茶会をしましょうか。」

 

 ついでに軽食も作ってこよう、スクワッドの皆、お腹が減ってそうだ。お腹も膨れれば余裕も出てくるはずだ。

 

 

 

 

「うわぁぁぁあん!!おいしいです!こんなにおいしいもの初めてですぅ!」

 

 お菓子を持って来ると、初めは警戒の様な物を見せていたようだが、食欲には勝てなかったか、一度口に入れてからは凄い勢いで食べているヒヨリさん。その姿を見て警戒を緩め、他のメンバーも食べ始める。サクラコさんとパラドックスさんは用事が出来たと言って出て行った。ナギサ様のお菓子…と名残惜しそうにしていたが。

 

「サっちゃん、ほら、あーん」

 

「ま…まて、アツコ」

 

 マスクを外したアツコさんが怪我をしているサオリさんに食べさせようとしてたりも。こうしてみると年相応の少女達だと思う。

 

「……」

 

 軽くつまめるものを食べながら、はぁ…とため息を溢すミサキさん。警戒しているのがばからしくなったのかもしれない。

 

「あんた、アビドスの桐藤ナギサって言ってたよね。」

 

「はい?ええ。」

 

 ミカさん、セイアさんとミネさん、ハナコさんがわいわいとお茶会を楽しんでいる、良い感じで空気が和らいできたと思う。そう思っていると、ミサキさんが声をかけてきた。

 

「…なんでトリニティに来たの?別にアビドスが嫌になって出てきたわけじゃないんでしょ?」

 

 その言葉に本心で答えることにした。

 

「セイアさんの助けになりたいと思ったからです。一人で全部背負いきれず、でも取りこぼしたくないと言う彼女の。」

 

 私がそう言うと、はっ。冷たい表情で口元だけ笑みを浮かべるミサキさん。

 

「偽善者だね、余裕のある人間は違う。トリニティなんて言うぬるま湯に浸かってきたから私達とは違う人種なわけだ?あんた飢えた事とかなさそうだもんね。」

 

 それに関しては理解を示してあげられない、寧ろ下手に気持ちが分かるなどと言っても上からの同情にしか感じられないだろう。

 

「それに関しては否定できません。でも、アビドスにいた頃はそんなに余裕はなかったんですけどね。毎日借金返済をどうしようって、大忙しでした。」

 

 宝探しとか突飛もないことを始めるユメさん、初めは嫌がってても意外とノリが良くそれに付き合ってしまうホシノ。良くあれから返済の目途が立つようになったと今でも思う。

 

「最初は悩んでたんです。あのままアビドスで副会長をしててもいいと思っていたんですが、相棒に尻を叩かれまして。」

 

 そう、迷ってるなら迷いを晴らしてこいと、家族の事、『物語』より爛漫さが少し大人しくなってしまったミカさんと雁字搦めにされたセイアさん。

 

 セイアさんにしても已むに已まれなかっただろう、何度も謝罪を受けた。けれど、彼女達がそうなったのも、「桐藤ナギサ」がそこにいなかったからと言われると私は何も言えなくなる。

 

「偽善でいいと思います。その結果誰かが救われるのなら。ええ、私にとって大切な人たちの笑顔が見れるならこれ以上なく私は満足です。」

 

「うわ、この人ホンモノかも。嫌みが通じない。」

 

 呆れた表情を受かべるミサキさん。彼女達も救われて欲しいと思う。不幸な生徒を見たくない、偽善だとしてもこれは本心だから。

 

 ふ、と笑いペロロ様の布教をアズサさんにしているヒフミさんを眺める。

 

「…はぁ…あんたらがお人よしだって事くらいは分かるよ、あの百合園セイアもね。私らを拾ったポンコツ姫だって。唯一、私達を警戒してんのはあのピンクの子だけ。」

 

 お茶を楽しみながら口元のみの笑みを浮かべ、視線はこちらに向けているハナコさんに笑みを返す。ハナコさんは困ったような表情をしながら溜息を吐いていた。

 

「…良く手懐けてるね。私がどう思ってもさ、この交渉は受ける事になると思うよ。姫が受けたいって言ってるし、食いしん坊のあの子はあの様、リーダーも気持ちは傾いてると思う。」

 

 ミサキさんはアズサさんを見ながら、あの子もダメそう。と溜息を吐く。

 

「ミサキさんみたいな子がチームにいる事も大事だと思いますよ、冷静に俯瞰して状況判断できる人は必要です。」

 

「どこが、私はただ厭味ったらしく自分の感情を重視しているだけ。」

 

 ふん、と顔を背けるミサキさん。アビドスの様な個の強さからの全員突撃を見てきたから本心なのだけど。

 

「すまない、一度スクワッドの皆と相談がしたい。一度席を外して貰えないか?逃げたりなどはしないと約束する。」

 

 空気が弛緩したことで余裕が出来たからか、決断が出来たようだ。ミネさんは怪我人を残していく事に不満があるようだが、ここは彼女達だけにさせてあげたい。

 

 部屋を出ると、おずおずとセイアさんがこちらに近付いてくる。

 

「ナギサ、その…私も後でちょっと君に話があるのだが。」

 

 セイアさんが上目遣いで申し訳ない表情を浮かべる。

 

「あー!セイアちゃん!また内緒話?ダメだよ?お仕事の話は。少しくらいなら私だって…。」

 

「…ああ、そうだった。ミカ、そう言えばこの間のゲヘナとの共闘の際、アルちゃんと親しそうにゲヘナ生に抱き着いてたと報告を受けているんだが?」

 

「えっ…あ…それはー…そのー…」

 

 トリニティとして、更に言えばティーパーティーとしてはまずかったとセイアさんから説教を受けるミカさん。上手く話をはぐらかしたようだ。

 

「それで、彼女達をトリニティで受け入れてどうします?なんとなく…嫌な予感がするのですが…。」

 

 近付いてきていたハナコさんがむすっとした表情をしながら口を開く。

 

「で…でも、ハナコちゃん。アズサちゃん良い子そうでしたよ?布教したらモモフレンズに興味を持ってくれました!」

 

 ヒフミさんには強く言えないのか、うっ…と言い淀んでしまい顔に手を当て困った表情を浮かべる。

 

「うちで引き受ける事になる気がするんです。次期首長二人、現首長がいたとしてもいきなり5人です。それに今後アリウス生が保護されたとして、あの3人はそっちのフォローを優先すると思いますし。」

 

 わぁ、アズサちゃんと一緒ですか!と喜色を浮かべるヒフミさん、モモフレンズ好きの同士が出来たから嬉しそうだ。彼女のコミュ強ぶりも凄いと思う。

 

「外部交流会、としては…彼女達と交流することも大事、だと思います。大変な思いをしてきた子達だから幸せになって欲しいとも。」

 

「…そう、ですよね。ナギサ先輩ならそう言うと思ってました。……との時間が…。」

 

 ぼそりと、何か呟いた声は聞こえなかったが、仕方が無いと言ってへにゃりと顔を崩すハナコさん。

 

「そう言えば、さっきは詳しく聞けませんでしたが、目、大丈夫なんですか?」

 

「ああ、これはですね。」

 

 眼帯を外す。するとブレる視界。複数の映像が脳を刺激する。

 

 簡単に言えば数瞬先の未来が見える。目が良すぎる、と言ったレベルを超えている。ついでに目を開いてるときに修理中の銃の代わりに適当な銃を選んで撃ったら全弾命中と言った凄まじい結果が、狩猟の神にでも取りつかれたかのよう。

 

 なんとなく、ビナー戦を思い出す。あの時使った力が制御できないレベルで強くなっているかもしれない。

 

「目の…色が…」

 

 あまり派手に変色している訳ではないのだけれど、隠している方の目は色が濃くなっているかもしれない。よく見ないと分からないし、オッドアイとは言えないと思う。力だけでなく見た目まで変わるとなると、だんだん人じゃなくなっていくかのような感覚を覚える。

 

 そう思っていると身体に小さくぶつかるような衝撃と共にハナコさんが抱き着いてくる。

 

「急にどうしたんですか?病気とかじゃないと思うので大丈夫ですよ。」

 

「なんとなく…なぜかわからないんですけど。ナギサ先輩が消えてしまいそうで。」

 

 ギュッと、抱きしめられる力が強くなる、胸が潰れるくらいに強く。

 

 そんな彼女の頭を優しく撫でる。大丈夫、私は此処にいると証明するかのように。

 

「…えっと…話、纏まったんだけど…お邪魔だったかな…?」

 

 部室の扉が開いており、そこからミサキさんが呆れたかの表情、そしてここは部室の前だったことを思い出す。

 

「あ…」

 

 全方向から向けられる視線に私もハナコさんも顔を赤くする。

 

「ごっ…ごめんなさい!私!その!」

 

 普段落ち着いているハナコさんが取り乱す。心配してくれていたのに申し訳ない。

 

「こほん、取り敢えず部屋に戻って話を聞こう、ハナコもほら、ナギサから離れて。」

 

 そっと身体を離しながら顔を赤くしたまま俯き部室に入っていく、私たちもそれに続く。

 

 部屋に入ると椅子に座り目を瞑るサオリさんの後ろに並ぶスクワッド、ミサキさんもサオリさんの背後まで歩いていく。

 

「それで、結論を聞こうか。」

 

「私達の答えは…」

 

 サオリさんが深く息を吐く、僅かに震えているように感じた。

 

「アリウススクワッドをトリニティに受け入れて貰いたい。無論アリウスを正式に学校とするためなら我々は可能な限り協力する。その為、トリニティ側もこちらに可能な限り便宜を図って欲しい。あくまで対等な関係として契約を結びたい。」

 

 つまりお互いに協力しあおうという事、これが最大限の譲歩だったのだろう。立場からしてもトリニティの下には付きたくはないというミサキさんの意見も取り入れたのだろう。

 

「了解したよ。この件、先に出て行ったサクラコとテマリにも伝えておく。それで…だが。」

 

「えっとね、さっきセイアちゃんともお話したんだけど、入学に関してやっぱり最低限の学力は欲しいかなって。それで、ナギちゃんたちには悪いんだけど…」

 

 どうやらハナコさんの懸念は当たったらしい。顔を赤くしていたハナコさんもやっぱりといった感じで肩を落としていた。

 

「この部室を外部交流会、兼アリウス補習授業部として使わせてもらいたいんだ…外部交流会の皆はごめんね?アリウスの皆はまだ堂々と姿を見せる訳にはいかなくって…」

 

 ティーパーティーには私から申請しておくから、といって申し訳なさそうに手を合わせるミカさん。

 

 まぁ仕方ない事ではある。そもそもアツコさんは年齢的にも来年入学になるだろう。それまでは勉強を頑張って貰おう。

 

「…桐藤ナギサ、浦和ハナコ、阿慈谷ヒフミ。アリウススクワッド改め、補習授業部の錠前サオリだ。よろしく頼む。」

 

 改めてそれを聞くととても不思議な気分になるのだった。

 

 

 

 

 

 アリウススクワッドの皆をセイアさんのセーフハウスの一つに案内し終わってから、私はセイアさんの私室に向かう。話があると言っていた件についてだ。

 

 部屋の前につきドアをノックする。直後にどうぞ、という声が聞こえたので中に入る。

 

 部屋に入るとベッドに横になっているセイアさん、お休みだっただろうか。

 

「ああ、ナギサ、こっちへ。ベッドに腰かけて構わないから。」

 

 そう言われたのでそっちに向かい、行儀が悪いがベッドに腰かける。少々大きめなので余裕はある。

 

「さっきの話なんだが、ナギサはミレニアムに用事があると言っていただろう?」

 

 たしかにそう言った。リオさんに会いに行く用事が出来たのでミレニアムに近々行く予定だ。

 

「それに同行したいのだが、大丈夫だろうか?」

 

「セイアさんがミレニアムに?」

 

 ティーパーティーの業務関係だろうか?

 

「ああ、ティーパーティーは関係ない。私個人の、ミレニアムのセミナーと繋ぎを作っておきたくてね。いずれ協力し合う時が来るかもしれない。」

 

「成程…」

 

 と私は息を吐く。彼女は、セイアさんはお互いメリットを提示し合うビジネスライクの関係を作りに行くという事なのだろう。

 

 ふわ、っと小さくあくびをするセイアさん。昨日はミカさんに起こされてしまったらしいので眠いのだろう。

 

「より良い…未来の為に、わたし、皆と笑いあえる世界…」

 

 言葉が小さくなっていく。少しするとすぅすぅ、と小さな寝息が聞こえてくる。

 

「セイアさんももう少し難しく考えず。友誼を結べるいい出会いがあればいいのですが。」

 

 苦労性の友人の頭を優しく撫でながら、私はそう願わずにはいられなかった。




この後、一旦他視点とかもとかも挟みたいと思います。流石にアリウス関連はすぐに終わりません。今占領されてますしね。

現状アリウス→ナギサの好感度

サオリ 0
アツコ 0
アズサ 0
ミサキ 5
ヒヨリ 50

今回のメインで話してたのセイアちゃんだからね、仕方ないね。なお、食い意地。
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