汀渚のアーカイブ   作:buridish

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遅れてしまって大っ変……申し訳ございませんでしたぁ!


閑話 深き深淵の探求者

 その日、観察者とその観察対象は出会った。

 

「……素晴らしい、人間に複数の神秘を取り込んだことによる自己認識の破壊、それによる人体という器の変化。神秘というものの奥深さに更なる理解を得られました。そして……」

 

 スーツを着た異形は意識を失った生まれたままの姿の少女を抱き上げる。先程まで異形の獣、竜と化し暴れた後、死する未来しかなかったはずの存在。

 

「元の姿に戻っている…いや、しかし、内に秘めた神秘が変化している…?複数の神秘の安定、いえ…これは一体化?…違う…別種のものに生まれ変わっている?」

 

 異形は考察を続ける。彼にとって()()の起こす事象は興味の塊でしかない。観察対象である少女は彼にとってまさに天啓であった。

 

 何も身に纏わぬ少女を抱き上げ移動をしようとする。しかし、頭の中で考察をしていたことで周囲の警戒を薄れさせてしまったことが原因か、その存在が異形の認識するより速く近付いていたか、その両方か。

 

 冷たい銃口が異形の背中に押し付けられる。

 

 背中に銃器を押し付けられるまで異形はその気配に気付くことが出来なかった。

 

「……背中のそれを、どうか下ろしていただけないでしょうか?」

 

「……先にあなたが抱えている少女を降ろしなさい」

 

 有無を言わせぬ威圧感、乱れた感情が故か、普段は制御できている二つの力が溢れ、反発し、彼女ごと周囲に被害をもたらしている。

 

 本来ここで接触するつもりはなかった。異形は一観察者として、自分に銃を突きつける少女、ナギサの一挙一動を観察し、自身の研究を進める為に彼女に認知されずに観察を続ける、そのつもりだったからだ。

 

「まずは落ち着いてください、あなたの力が暴走しかけている。周囲を破壊するだけでなくあなた自身を傷つけている。もしもこの少女をあなたに渡した所でこの少女に傷が付きますよ?」

 

 ナギサは分かっていても力を抑えられず、周囲に破壊をまき散らす。その破壊の力は異形にも多少のダメージを与え続けている。

 

(本来競合しないエネルギーがぶつかることで起きる対消滅…?そこまでの現象ではないか)

 

 周囲をスパークするように指向性のない無意識の攻撃が襲う、かつて両方の力を認識したばかりの頃でさえもこんなことが起こった事はなかった。

 

「…なぜかわかりませんが、あなたを見ていると奇妙な感情が浮かんできます。制御が上手くいかないのはそれのせいかもしれません」

 

 目の前の存在をナギサは知識としては知っている。しかし、実際にあった事のないはずの存在に対し、恐怖、怒り、異形に対する敵意。そのような感情が入り混じる感覚を覚えていた。

 

 まるで、宿敵に出会ったかのような感情を。

 

 異形は振り向かずに言葉を告げる。

 

「この少女を我々の手で害さない事を約束しましょう、彼女()私にとって大変興味深い存在ですので」

 

 あなたより優先度は下がるが、とは言葉に出さない。

 

「あなた方の仲間達、彼女達に甘背テマリがここにいる事、そしてこの姿を見られるのは大変よろしくないと思われますが?」

 

 ナギサは荒ぶる感情を抑えながら周囲の気配を探る、少しずつこの場に生徒達が近付いてくるのが分かった。

 

「あなた達を信用しろと?彼女をあんな風にしたあなた達を?」

 

「誤解です。力を得る方法を提示しただけで、実行したのは甘背テマリ自身。それに…もうあまり時間はありませんよ?」

 

 生徒の気配が近付く、ナギサは目の前の生徒を連れて帰れない事に無力感を感じた。

 

 ミカから預かっている銃を異形の背中から下ろす。俯きながら怒りを抑えた声を向ける。

 

「……その子を必ず無事にかえしなさい、もしも私を謀りその子に害をなしたのならば」

 

 一呼吸を置いて、俯いた顔を上げながら異形を睨みつける。

 

「あなたを絶対に許さない。黒服」

 

「―――――」

 

 異形は目の前の少女が一瞬別の存在に見えていた、少女ではない別の誰かに。

 

 ナギサも無意識に出た呼び名だったのだろう。だが、その異形の姿を見て名を呼ぶのにそれ以上に相応しい名前もなかった。

 

 異形、黒服は。少女から与えられた思いもよらないプレゼントに歓喜の感情を覚えた。

 

「…ええ、約束しましょう、私の名に懸けて…必ず」

 

 強い風が吹き、一瞬ナギサが目を瞑る。目を開けたときには目の前には異形と少女の姿はなかった。

 

 

 

「……黒服?」

 

 名を呼ばれ、異形、黒服ははっとする。名を与えられたあの日の事を思い出していたのだ。

 

「ああ、失礼。あの日の事を思いだしていました」

 

 クックックッ、と笑いを溢す。あの日、甘背テマリから得た知見を彼が所属する組織、ゲマトリアの同士に伝える為、ゲマトリアのメンバーを集めたのだ。

 

 そして、開口一言。

 

「私はこれから黒服と名乗ります」

 

 と、それはもう嬉しそうに話していたとは、マダムことベアトリーチェ以外のメンバー達談、ベアトリーチェはそのような事で人を呼ぶなとヒステリックに騒ぎ立て、その場を後にしていた。

 

「しかし、黒服からの報告で、我々は貴重な知見を得ることが出来ました」

 

「そういうこった!」

 

 ゲマトリアのメンバー、ゴルコンダとデカルコマニーが黒服がもたらした情報により得られた情報に喜色の感情が浮かんでいた。

 

「よもや我々の思考すら干渉されていたとは思いもよらぬことでした。この世界は多数に存在するパラレルワールドの中においても異常な事態が起こっております。」

 

「そういうこった!」

 

 黒服は思考する。この世界において、黒服の研究の一つは桐藤ナギサが現れるまで停滞していた。

 

 黒服自体、その研究がこの世界において実現不可能であることは理解していた。しかし、何かに突き動かされるように、その研究を止めることは出来なかった。

 

 生徒は神秘を持つだけの人間である。これがこの世界の常識であり、事実であった。

 

 それ故に生徒に恐怖を適応する。という事は不可能であるという結論に思い至ったのだ。

 

 もしも、生徒がただの人間ではなく、生徒という記号を張り付けたナニカであったなら、黒服の研究はさらに先の段階まで進んでいただろう。凄まじい神秘量を誇る小鳥遊ホシノをマークしていたのも彼女ならば、という可能性を捨て去れなかったからだった。

 

 しかし、そこで現れたのが桐藤ナギサだった。

 

 彼女を初めて見た時に黒服は違和感を感じていた。

 

 彼女は恐怖を内包してはいないか?と。

 

 そこから黒服の行動は大きく変わる。小鳥遊ホシノから目標を桐藤ナギサに移したのだ。

 

 知れば知るほどに異常性が理解できる、神秘と恐怖が同時に存在する。彼女は何なのか、どうして彼女のような存在が生まれたのか。自身の探求していたものの完成形がそこに居るのだ、気にならないはずがない。

 

 観察の結果、得られたのは彼女が奇跡の存在であるという事、複数の魂を持つことと神を宿したことで、神秘と恐怖の合一を果たしている。

 

 二つの魂も相性が良い、そして、水の神が二つの魂を完全に混ぜることなく維持している。ただし、力を引き出せば引き出す程、存在の比率が変わり、彼女という存在は変わっていくのだが。

 

 その事から、再現性が無い、という事に失望を覚えた。しかし、今回、甘背テマリという存在が黒服に新たな指針を与えたのだ。

 

 神秘をうまく使えば生徒の人間という器を破壊できると。

 

 今の甘背テマリは人間の形をした何かである。神秘に人間、もしくは生徒というラベルを張り付け、取り敢えず形を人としている何か。

 

 その結果を知り、ゲマトリアに情報共有を行った。その結果、わかった事は。

 

「この世界にテクストを張り付けた何者かがいるという事です。キヴォトスという世界の上に張り付けた何者かが」

 

 それがゲマトリアにすら干渉していた。という事実は彼らにとって驚愕の事実であった。

 

「この世界において生徒が神秘を内包している。というのが通説でしたが、よもや本来逆であったとは思いも寄りませんでした」

 

「だとしても、この世界においては生徒が人間であるというのがルール、しかし、それを破る方法を知れただけでもかなりの収穫でしょう。」

 

 ゴルコンダは世界の真実に触れたことで、考察をさらに深め、黒服は自身の研究を進める事が可能だと知った事に喜びを感じていた。

 

「とはいえ、彼女と約束をしてしまいましたからね。甘背テマリを実験に使うことは出来ません」

 

 ふむ、と黒服は思考する。自身の実験を行う為の存在がいないものかと。

 

「黒服、無いというのならば作ればよいのではないですか?」

 

「作る…ですか…」

 

 成程、と黒服はゴルコンダの言葉に手を顎に当て考える。

 

「無名の司祭に近いアプローチですが、不可能ではない…でしょうか?」

 

 黒服はそう言えば、と喜色を浮かべる。

 

「良質な神秘の素材はありましたね。甘背テマリが必要としなかったので受け取ったものですが…それを使用しましょう、それに対し生徒と定義し、形を整える。問題は自意識が生まれるかどうかですが…」

 

 そればかりはおこなって見なくては分からない。しかし、チャレンジするという事に研究者としてやりがいを感じていた。

 

「おっと、いけませんね。そう言えば、彼女に名前をいただいたことの返礼を送っていませんでした」

 

 黒服は自身の神秘の研究の一つの情報をミレニアムのとある人物に対して贈る。無論、こちらの情報が洩れないよう、厳重に偽装して。

 

「クックックッ、私からの贈り物、喜んでいただけると嬉しいのですがね」

 

 黒服のそんな姿を見てゴルコンダは俗世的な考えが思い浮かぶ。

 

 言うなれば、その姿は、推しに貢ぐファンのようであると。




前書きにも書きましたが大変お待たせいたしました。忙しさもあり、モチベーションがさがっていてしばらく更新できませんでした。

推しから名前を貰って喜ぶ黒服、認知されるって嬉しいですもんね…。

それよりも、全裸の少女をお持ち帰りする黒服…ナギサから見たら変態でしかなくない?そりゃ止められますよね。おまわりさーん!
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