コルンのアトリエ ~黄昏の星の錬金術士~ 作:アトリエファンA
「これを、本当にあなたが作ったんですか……?」
「えっと、はい。そうですけど。」
私が作ったヒーリングサルブを見て、先生は訝しげな表情を浮かべていた。
隣には、参考書に載っていたレシピをもとに作った道具が並べられている。
こうして改めてみると、本当に私が作ったのか自分でも疑ってしまう。
初めて錬金釜を使った日。
あれからいつの間にか寝てしまっていた。
目が覚めてすぐに釜の蓋を開けると、エスカさんからもらったヒーリングサルブと同じものが、そこにはあった。
とても感動したのを今でも憶えてる。
出来ないと思っていた古式錬金術が、私にも使うことが出来ると実感して、大はしゃぎ。
お父さんをすぐに呼んで完成したヒーリングサルブを手に、一緒に喜んでいたんだっけ。
それから数日間で、先生からもらった参考書に書かれている道具を古式錬金術で調合していた。
面白いほどに失敗することもなく、次々と道具を作り出していったのだった。
先生は何かを諦めたように一つため息をつくと、持っていたヒーリングサルブを机に置いた。
「とりあえずは合格よ、コルン。おめでとう。けれど、本当はここまで出来なくてもよかったのよ。」
そう言うと、少し物憂げな表情を見せた。
どうしてだろう。せっかく古式錬金術を習得できたのに、そんな表情を見せるなんて……。
「あの、先生。それはどういう事ですか?」
少しの不満が込められた言葉に気付いた先生は、一つ咳払いして表情を作り直した。
「ごめんなさい、嫌味で言ったわけではないの。まずは順を追って説明したいから、ちょっと待っててちょうだい。」
そう言うと先生は部屋を出ていってしまった。
しばらく待つと、先生はいくつか資料の様なものを抱えて戻ってきた。
ドサッと机に置くと、積まれた資料の一番上にあるファイルを手に取り、中を開いて私に見せてくれた。
「この写真の出来事、覚えているかしら?」
中はアルバムの様になっており、写真と、その下には名前が書かれている。
先生はパラパラとめくり、私の名前と写真を提示した。
「はい、授業の実習のものでしょうか。」
「そうよ、これはあなたの作品。そして、こっちが……、他の生徒のものよ。」
そう言ってページをめくり、同じクラスの実習結果を見せてくれた。
更にペラペラとめくっていき、みんなの結果を見せてくれる。
ふと、違和感を覚えた。
私の失敗の仕方と、他のみんなの失敗の仕方が明らかに違う……。
いつか手鍋で調合した時と同じ失敗作に対して、黒焦げで素材の形が跡形も見えないモノだった。
「先生……、これって……」
「そう、あなただけが違う失敗の仕方だったの。あともう一つ、こっちも確認してもらえるかしら。」
次に先生が見せてくれたのは、生徒に配布している歴史の翻訳辞典だった。
受け取ってパラパラとめくるが、私が持っているものと何ら変わりなく、よくわからない内容で埋め尽くされていた。
これがまたどういう事なのか理解できず首を傾げていると、先生が口を開く。
「この支給用の翻訳辞典では、あなたに渡した参考書を読み解くことは不可能なのよ。」
「それってどういう……、いや、でも!」
ハッとして持ってきていた参考書を取り出す。
確かにこの本の内容は現代の言葉で書かれていないのに、スラスラ読むことが出来ていた。
改めて翻訳辞典と見比べ、一文を訳そうとしても、全く支離滅裂な言葉にしかならなかったのだ。
私が何かに気付いたのを察した先生は、話を続けていく。
「この翻訳辞典は、元々歴史の教科書の資料を翻訳するために用意されていたの。端的に言えば、フェイクの解読書ね。けれどそんなものを使わずとも、コルンは古代文字を自然に読めているんだもの。」
急なカミングアウトに啞然とした。フェイクの解読書……?
「あの、どうして嘘の翻訳を生徒に教えていたんですか……?」
「さあ……、それは専門家の要望だそうだから私にはよくわからないわ。けどね、コルン。」
先生は一呼吸置くと、真っ直ぐと私の目を見た。
「あなたには、錬金術士の才能があるのよ。」