アレから二ヶ月の月日が流れ、三人はまだオスカーの隠れ家に居た。
王国に残していたアーシュ達五人の事が心配だったが、ハジメの考えに従った訳だ。勇斗もいざと言う時にはIDアーマーやダグテクターは使うが、流石に目立つのでいざと言う時の備えとして、普段使う装備の準備も必要なのだし。(武器については豊富にあるが)
ハジメの失った左腕はオスカー製の義手にハジメのオリジナル要素を付け加えた擬似的な神経が繋がった物で補うことができた。生成魔法で作られた鉱石を山ほど使って作られたそれは、世に出れば間違い無く国宝として厳重に保管されかねない代物だ。
転落死は免れた物の、勇斗と逸れてしまった結果、魔物に襲われて片腕を失ってしまっていた為、義手を用意する必要があったのだ。
カイザーソードの素振りを続けながら勇斗はハジメの無事に安堵しつつも、地上に残す形になってしまったアーシュ達の事が気になっていた。
この世界の真実を知ってしまった以上は、王国で魔人族と戦う意味など無くなった。現在進行形で巻き込まれているアーシュ達とは時期を見て合流するべきだと考えながら、
(早く安心させてやりたいけど、な)
結局のところ、自身の無事を二ヶ月も伝えられずに終わったのだから、勇斗としては再会した時、何と説明するべきかと考えてしまう。
「……今考えても思いつかないか」
気を紛らわせるために繰り返していた素振りをやめて本日の昼(?)食を作ろうと、キッチンカーに足を向ける。
可能な限りの鍛錬と装備の充実……勇斗の場合は
武器は普段はカイザーソードかフレイムソードを持っていれば良いか。
(こんな気持ちで素振りしていても、気晴らし程度にしかならないか)
食事ができたらハジメを引っ張り出して食べる様に促そう。
ハジメ達と工房の設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を見つけた。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたオスカーの手記のようであった。
その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。
だが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見出来ず、現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。
(魔神……)
そして、念入りに処分していたのだろう。魔神達の事についての記述は何一つ存在していなかった。
映像にもあった事から考えると、見つけた事を本気で後悔していたのだろう。そして、一部でも資料を残していたとして、ここ迄来た実力の持ち主が『自分達なら魔神の力も扱える』等と思っても見つけられない様に。
いや、一つだけ見つけた。それだけならば問題ないと判断した故なのか、それとも、偶然にも処分し忘れただけなのか、一枚の絵だけが残されていた。
「……サーヴァ、ギャイ、メガ、すず…………アーシュ……」
焦りが無いわけでは無い。本来なら今すぐにでも此処から出て自分の無事を伝えたい所だが、この世界の真実を知った上で、元の世界に帰還する為の手掛かりを手に入れたのだ。
王国や教会に知られない様に動ける今の立場は好都合、としか言えない。
仮に、上手く行かなかったとしても、その過程で勇者王の力を完全に引き出せれば、元の世界に戻る為の目処は立つ。
「待ってろよ、必ず戻るからな」
あの時に見た星空も迷宮の底では見えないだろうが、改めてそう誓う。……昼食を作りながら。
さてさて、勇斗がアーシュ達の事を思いながら、ハジメが、ユエに年上の貫禄を見せつけられ色々吹っ切れてしまったそんな夜から二ヶ月が経っている。
奈落の底で、常識はずれの化物達を相手に体と心を作り替えてまで勝利し続けたハジメも、ユエの猛攻には太刀打ち出来ず勝率は0%だ。なので、ハジメは開き直って受け止めることにしたのだった。
……同じ屋根の下で暮らしている勇斗の事を忘れて。
流石に初日は目を瞑ったが二ヶ月が経つころには本気でジェイバスターを持って『ホールドアップ! ブレイブポリスだ!』と叫んで乗り込んでやろうかと思った所だ。
そんな二人は拠点をフル活用しながら、傍から見れば思わず〝リア充爆発しろ!!〟と叫びたくなるような日々を送っていたハジメとユエ。
遠くで、とある女子生徒がス○ンド的な般若を背後に浮かべ、親友が怯えるという事態が度々発生していたが、それはまた別の話。それ以前に接触禁止を言い渡されているのだから。
だが、そのピンク色な空気に一人晒されている独り身の勇斗が苛立ちを覚えてしまっていた。
まあ、日本にいた頃はアーシュ達五人と一緒に行動する事多かったが。
ハジメは〝魔力駆動二輪と四輪〟を自分用と勇斗用の物を製造した。
これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。
更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動すると地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。ハジメも男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。夢中になり過ぎてユエが拗ねてしまい、機嫌を直すのに色々と搾り取られることになったが……勇斗は本気でジェイバスター持って乗り込もうと思っていた。
本当にもう爆発しちまえよ! と言われそうな雰囲気を醸し出す二人。いろんな意味で準備は万端だった姿に本気で『良い加減にしろ!』とジェイバスター片手で叫びたい所だった。
「ホント、アーシュ達に会いたい」
それから十日後、遂に勇斗達は地上へ出る。
三階の魔法陣を起動させながら、ハジメはユエと勇斗に静かな声で告げる。
「ユエ、勇斗……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「ああ」
「ん……」
まあ、試作品の銃(銃弾なし)のデータは王国に残っているだろうが、現状では火薬の代わりになるものが無いので生産は不可能だろうし、今のハジメの装備は、王国で試作しようとしていた物よりも遥かに上にいく、
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」
「ん……」
「間違いなく、見つかったらそうなるな」
「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」
「ん……」
「ああ」
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「今更……」
ユエの言葉に思わず苦笑いするハジメ。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。
勇斗の『良い加減にしろ』と言う視線を他所に、気持ちよさそうに目を細めるユエに、ハジメは一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。
「互いが互いを守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」
ハジメの言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、
「んっ!」
「仲が良いのは良いとは思うけど、同居人の事を忘れるなよ、お前ら」
呆れた様に呟くと見慣れた迷宮の奥底の光る天に掌を翳す。
「サーヴァ、ギャイ、メガ、すず、アーシュ。待っててくれ、必ず迎えに行くから」
その頃には元の世界への帰還の目処が立っていれば良いな、と思う。
其処は何かを祭る神殿の様な場所、神聖さの無い禍々しき空間を一人の髪の長い女が歩く。
彼女を待っていた人影達が彼女の後ろに従いながら目的の場所に向かう。
その先にあるのは鳥と、虎と、竜の像だった。
「我らが魔神……いえ、我らが支配者 様」
三つの像の後ろに浮かび上がるそれに臣下の礼をとる人影達の中でリーダーを務めるであろう女がそう呟く。
追加ヒロインは次の内誰が良いでしょうか?
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