ありふれて無い勇者達の力で異世界最強   作:龍牙

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十四話目

「……オレも甘いな」

 

そうする価値もない、そう言って帝国兵の命を奪えなかった。

いや、命を守る者達の力で人の命を奪うことに躊躇があるのは認める。

 

(……人型のエイリアンと何処が違う。人からかけ離れていれば簡単に命を奪えるのに、か)

 

魔物と言うだけで今まではそれをして来た。そして、何は魔人族と言う人間と殺し合いをするのでは、と覚悟はしていた。

だが、その時になった時、命を奪わない様に手加減してしまっていた。

何は覚悟をする必要があるかも知れない。……何より、ハウリア族にとっては家族の仇であった相手だ。

 

(本当に嫌な気分だな)

 

正解などない。それを理解しながら、自己嫌悪を覚える勇斗を他所に、七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

ハジメが乗っている二輪には、ハジメ以外にも前にユエが、後ろにシアが乗っている。

当初、シアには馬車に乗るように言ったのだが、断固として二輪に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。ユエが何度叩き落としても、ゾンビのように起き上がりヒシッとしがみつくので、遂にユエの方が根負けしたという事情があったりする。

 

シアとしては、初めて出会った〝同類〟である二人と、もっと色々話がしたいようだった。ハジメにしがみつき上機嫌な様子のシア。果たして、シアが気に入ったのは二輪の座席かハジメの後ろか……場合によっては手足をふん縛って引きずってやる! とユエは内心決意していた。

 

若干不機嫌そうなユエと上機嫌なシアに挟まれたハジメは、二輪を走らせつつ自己嫌悪に陥っている勇斗を見ながらボーとしていた。

 

そんなハジメにユエが声をかける。

 

「……ハジメ、いいの?」

 

「ん?」

 

ユエが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。

あの時、勇斗は一人で戦うことを選んだ。ハジメとユエが参加しようがすまいが結果は〝瞬殺〟以外には有り得なかっただろうが、どうも帝国兵を倒した後の勇斗は物思いに耽っているような気がして、ユエとしては気になったのだ。

 

「ん~、まぁ、ちょっと自己嫌悪にでも陥ってるんだろうな……」

 

「……自己嫌悪?」

 

同じ人間族でも地球人とトータス人、と明確に分けている事から、どんな形にせよ、何一つ変わらずに奈落の底から生還した勇斗なのだ、あの場にアーシュ達がいたのならば、話は変わるだろうが、覚悟と割り切りを持っていたと言うのに、帝国兵を一人も殺すことが出来なかった。

 

「……なら、その分は俺がすれば良いだけだろ……」

 

そんな自己嫌悪に陥る友人の姿を見てそう呟くハジメ。勇斗には地球にいた頃は何度も助けられてきたのだ、ならば今度は自分が助ける番だと考える。

まだ試していないが、敵であれば容赦なく殺すという価値観は強固に染み付いている自分なら、人殺しの経験は未だなかったが、殺す前も殺した後も動揺せずにいられる筈だ、と。

 

そんな中、ハジメとユエの様子に疑問を覚えたシアがこれ迄の経緯を聞きたがったので、樹海に向かう道すがらシアにこれまでの経緯を話しつつ先へ進む。

ブレイバーンを呼び出した事に着いては面倒なので黙っていたが。……ダグファイヤーを見せた時点で今更感はあるが。

時折魔物が出てきたが、ハジメと勇斗の前には全くと言っていい程無力だった。

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。

樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、勇斗殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆さんを中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが、ハジメに対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った“大樹”とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な1本樹木で、亜人たちには“大樹ウーア・アルト”と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

当初、ハジメは【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨っている魔境ということになり、とても亜人たちが住める場所ではなくなってしまう。

なので、【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入口が何処かにあるのだろうと推測した。そして、カムから聞いた“大樹”が怪しいと踏んだのである。

 

カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメたちの周りを固めた。

 

「ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者たちと遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

そんなやり取りの後、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、勇斗達は歩みを止める。

数も殺気も、連携の練度も、魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

勇斗も、ハジメとユエも相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 

樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向けた。

その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

ドパンッ!!

 

虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

 

理解不能な攻撃に凍りつく虎の亜人の頬に擦過傷が出来る。もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直している。

 

そこに、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメの声が響いた。〝威圧〟という魔力を直接放出することで相手に物理的な圧力を加える固有魔法である。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」

 

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

詠唱もなく、見たこともない強烈な攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握していると告げられ思わず吃る虎の亜人。

それを証明するように、ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、とある方向へ銃口を向けた。その先には、奇しくも虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった。霧の向こう側で動揺している気配がする。

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 

威圧感の他にハジメが殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んだ。

 

「悪いが、誰かが盾になって近づけば、って考えは捨てた方が良い。コイツのキルゾーンの内側は俺の間合いだからな」

 

勇斗もスキルで動輪剣を取り出してそう宣告する。森の中では炎の技はまずいと考えて、比較的安全な武器を選んだ結果だ。

 

(冗談だろ! こんな、こんなものが人間だというのか! まるっきり化物じゃないか!)

 

恐怖心に負けないように内心で盛大に喚く虎の亜人など知ったことかというように、ハジメがドンナー・シュラークを構えたまま、言葉を続ける。

勇斗も動輪剣を持ったまま何時でも応戦できる体制をとる。

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「そう言う事だ。帰ってくれるならオレ達は何もしない」

 

虎の亜人は確信した。攻撃命令を下した瞬間、先程の閃光が一瞬で自分達を蹂躙することを。運良く近づけてもそこは単なる処刑台でしか無いことを。

その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを。

 

虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。

フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。

その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

 

「……その前に、1つ聞きたい」

 

「ああ、構わない」

 

虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めてハジメ達に尋ねた。勇斗は虎の亜人に続きを促す。

 

「……何が目的だ?」

 

端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。

虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈にハジメと勇斗を睨みつけた。

そんな守ると言う誇りと使命感に好感を示しつつも、勇斗は返答をハジメに任せる。

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

 

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない“大樹”が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。“大樹”は、亜人たちにしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺たちは七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

 

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「いや、それはおかしい」

 

「なんだと?」

 

妙に自信のあるハジメの断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

 

「弱い?」

 

ハジメは言葉を続ける。

 

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

 

「なんだ?」

 

「大迷宮というのは、“解放者”たちが残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「ああ。この樹海は本当の迷宮の上澄み。言ってみれば、潜るだけの資格があるか試すための修練場だ」

 

この程度を楽に走破できないならば、潜ることは出来ないと解放者達が暗に言っているような物。

まだ引き返すことが可能な上澄み部分は、せめてもの解放者達からの慈悲と言うことだろう。望んでいた者達が現れたとして、まだ力が及ばない場合を考えたのだろう。

 

「……」

 

ハジメと勇斗の話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。ハジメの言っていることが分からないからだ。

樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。

普段なら、“戯言”と切って捨てていただろう。

 

だがしかし、今、この場において、ハジメが適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのはハジメの方であり、言い訳など必要ないのだから。

しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。

 

虎の亜人は、そこまで瞬時に判断した。

しかし、ハジメ達程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かない。この件は、完全に自分の手に余るということも理解している。

その為、虎の亜人はハジメに提案した。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、周囲の亜人たちが動揺する気配が広がった。

樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私たちとこの場で待機しろ」

 

冷や汗を流しながら、それでも強い意志を瞳に宿して睨み付けてくる虎の亜人の言葉に、ハジメは少し考え込む。

 

虎の亜人からすれば限界ギリギリの譲歩なのだろう。

樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞く。今も、本当はハジメたちを処断したくて仕方ないはずだ。だが、そうすれば間違いなく部下の命を失う。それを避け、かつ、ハジメたちという危険を野放しにしないためのギリギリの提案。

 

ハジメも勇斗も、この状況で中々理性的な判断ができるヤツだと、少し感心した。

 

「どうする?」

 

「受け入れよう。向こうもこっちの話を聞いた上で譲渡したんだ。なら、こっちも相応の誠意を見せるべきだ」

 

ハジメは勇斗にそう問いかけると、勇斗からの返ってきたのは待っても良いとの事。

相手の使命感や覚悟、この場での理性的な判断に敬意を示し、相手の譲歩を受け入れたのだ。

勇斗の判断、そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。

 

更に、大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。

もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。勇斗は100%の人道的判断だが、ハジメは人道的判断ではなく、単に殲滅しながらの探索はひどく面倒そうだからだ。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。

ハジメは、それを確認するとスっと構えていたドンナー・シュラークを太もものホルスターに納めて、〝威圧〟を解いた。

空気が一気に弛緩する。それに、ホッとすると共に、あっさり警戒を解いたハジメに訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。中には、〝今なら!〟と臨戦態勢に入っている亜人もいるようだ。その視線の意味に気が付いたのか勇斗がそちらを睨みつける。

 

「変な気を起こすなよ。俺一人でもお前達程度なら、簡単に殲滅できるぞ」

 

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

 

「わかってる。友人は信頼してるけど、ハジメにも、万が一にも下手な事はさせない」

 

「おい! それって信頼してるって言わないだろ!?」

 

勇斗の言葉にツッコミを入れるハジメ。漫才じみたやりとりだが、僅かに空気が緩む。

包囲はそのままだが、ようやく一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。

 

それから暫くして、調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップしている中、霧の奥から、数人の新たな亜人達が現れた。

彼等の中央にいる初老の男性が特に目を引く。

その男性は長く尖った耳を持った、地球で言う所のエルフであり、トータスでは森人族と呼ばれる。

地球に於けるファンタジーの知識では魔法などに長けた種族なのだろうが、トータスでは他の亜人族と同じく魔力を持たないらしい。

 

現れた森人族に勇斗とハジメは、瞬時に、彼が“長老”と呼ばれる存在なのだろうと推測した。その推測は当たりのようだ。

 

「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「オレは鳴海勇斗です。で、こいつは」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

ハジメの言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を!と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

「うん? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

目的ではなく解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝しみながら返答するハジメ。

一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの驚愕していた。何故ならハジメから出た解放者という単語と、その一人『オスカー・オルクス』の名は長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

あるいは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、ハジメに尋ねるアルフレリック。

ハジメは難しい表情をする。証明しろと言われても、すぐ示せるものは自身の強さくらいだ。首を捻るハジメにユエが提案する。

 

「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」

 

「あぁ。オスカーさんの指輪なら証明になるんじゃ無いか?」

 

「そうだな、それなら……」

 

ハジメは頷き、“宝物庫”から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

 

そう言って、オルクスの指輪を見せた。

アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族たちだけでなく、カムたちハウリアも驚愕の表情を浮かべた。

虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の1つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人たちを宥める。しかし、今度は勇斗達の方が抗議の声を上げた。

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない」

 

「ああ。そっちの反応を見るだけでも、オレ達がアンタ達の国に入るのは良く無いんだろ? オレ達は大樹まで案内して貰えばそれで良いんだ」

 

「……ん」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

あくまで邪魔する気か? と身構えるハジメ。そんなハジメを待てと彼を止めると勇斗は問い掛ける。

 

「この状況でそう言うなら、何か理由があるんだろ?」

 

そんな問いかけをする勇斗に、逆にアルフレリックの方が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは10日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

「はぁ……?」

 

間抜けな声を上げる勇斗だった。

アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」と不思議そうに勇斗達を見たあと、案内役のカムを見た。

勇斗達は、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……

 

「あっ」

 

まさに、今思い出したという表情をしていた。ハジメの額に青筋が浮かぶ。ユエはジト目で見ていた。呆れた様に勇斗はハジメとユエに視線で「好きにしろ」と言う意思を見せる。

 

後ろでカム達が制裁されて天高く舞い上がっている残念なウサギ達に呆れながら眺めていると、アルフレリックが呟いていたのが聞こえた。

 

「……もう少し早く来てくれていたら、あの子も君達に託せていたかもしれんな」

 

と。

追加ヒロインは次の内誰が良いでしょうか?

  • 白上フブキ(ヤマト幻想怪異譚)
  • ベータ(陰実)
  • テラコマリ(ひきこまり吸血姫の悶々)
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