天之河光輝と言う人間にとって勇斗は邪魔だった。
もしかしたら、光輝当人にはそんな自覚などなかったのかも知れないが、これまで光輝という人間にとって、勇斗が居たら何もかもが上手くいかなかったのだ。
最初は剣道の大会だった。幼馴染である八重樫雫の祖父が師範代を務める八重樫道場の中でも雫以外には負けない実力だった光輝が、初めて負けたのが勇斗だった。
何より屈辱的だったのが、その勇斗に今度は負けないと挑んだ次の大会においての、決勝戦での不戦勝だ。
悔しくはあったが、逃げたのだと思ったが、後日光輝の優勝は取り消された上に、大会への出場も中学になるまでできなかった。
なお、事の真相は勇斗に決勝戦前にウザ絡みした時に、勇斗の応援に来ていたアーシュを怪我させた事が原因だったりする。
優勝の取り消しも大会への出場出来なかったのも、それが原因である。(なお、八重樫道場の人達や光輝の両親がアーシュの両親に謝った上での温情でもある)
中学に進学した後も何度も勇斗に負け続けた。そして、本来は全国レベルの実力は有りながら、周囲からは真っ当に評価されていないと感じていた。
決定的にそんな感情を抱いたのは高校に入学してからだろう。同じ高校になった勇斗が剣道を辞めた事でどれだけ結果を出しても「勇斗が居ないから」と周囲から言われ続けたことであった。
そして、剣道部の顧問が勇斗を部に誘っていた事も、光輝の心に陰を作り始めていた。
また、成績でも優秀ではあるが成績でもアーシュ(コミュ障なせいで勇斗しか友達がいなかったので勉強に費やした事もあり)、すず(言うに及ばず天才美少女(自称))、勇斗(アーシュに付き合って勉強していたので割と良い)の三人が上に居るので此処でも劣等感を抱いてしまっていた。
トータスに召喚された後も、勇斗もまた勇者の天職を得て、此処でも比べられる事になってしまった。
だが、自分と違い戦争に協力的では無い筈の勇斗が周囲からの評価が高い事も間違っていると思った。戦争にも協力せずに銃などと言う違法な物を、自分の弱さを利用して香織に構ってもらっているハジメと組んでばら撒いて楽を使用していた。しかも、連んでいる四人の女子と一緒にアーシュまで巻き込んで、だ。
……まあ、勇斗もその戦争はメルド達の物であるのだし、人数がいても一クラス程度の人数では、局地的な勝利程度で他が負けては意味が無い事とメルド達の被害も減らす手段と考えての銃の生産である。
そして、ベヒモスとの戦いでは、巨大なロボットの様な物を呼び出して、簡単に倒して見せた。
(……またかぁ!? またアイツが! アイツさえ! アイツさえ! アイツさえ居なければ!!!)
鋼の巨人ブレイバーンを呼び出してベヒモスを倒した勇斗にメルドを初めとした騎士団の騎士達も、クラスメイト達も、歓声を上げる。
あの圧倒的な強さのブレイバーンが居れば、魔人族も魔王も怖くないと思ったのだろう。
メルド達にしてみれば、直接的に戦争には協力には消極的だが、強力な武装の開発と言う形で、騎士団側の被害の減る裏方での協力はしっかりとしてくれているのだ。騎士団の感情も勇斗の方が光輝よりも良いのだ。
再度召喚されたトラウムソルジャー達に囲まれない様にメルドの指示で魔法を放って援護している中、光輝は一瞬だがそれを見た。
檜山が炎の魔法でハジメを狙った瞬間を。
(これは……)
そして、自分もまたメルドからの指示で二人の逃げ道を作り出すべく使おうとした瞬間、僅かにずらせば、
(あいつが、居なくなる)
悪魔の誘惑だった。
此処であいつが居なくなれば、勇斗やアーシュに付き纏ってる他の四人から彼女を助けられるのでは、(当然光輝の思い込みである)と。
己の行動を僅かでも肯定する思考が浮かんだ瞬間、既にそれを行っていた。
(そう、これは事故なんだ……。アレは鳴海が勝手に飛び込んできたんだ。オレは二人が逃げるための道を作ろうとした。そう、これは……事故なんだ)
歪んだ笑みが浮かぶ。これで、邪魔者は消えたのだ、と。そう考えてしまったのかもしれない。
本来ならば毒である魔物の肉を神水と言う回復薬の効果を使い飢えを癒し、その魔物の力と固有能力を奪い、力を得た南雲ハジメは迷宮からの脱出と、一緒に此処に落ちたであろ勇斗を探して彷徨い続け、そこで幽閉されていた金色の吸血姫とであった。
ユエと名付けた彼女を仲間に加え、迷宮を彷徨いながら、遂に勇斗が見つからないまま、ハジメが流れ着いた場所から百層目に到達した。
その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。
ハジメ達が、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒するハジメとユエ。柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。
ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。
「……これはまた凄いな。もしかして……」
「……反逆者の住処?」
いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。
「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」
ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。
「……んっ!」
ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。
(だけど、ついに此処まで来るまでアイツには会えなかったか……)
長く居続けたせいで時間の感覚は無くなって居るが、食料を得られない状況では勇斗とは言え生存はむずかしいだろう。
魔物の肉も神水が無ければ猛毒となるため、どちらにしても。
友人を助けられなかったことを悔やみつつユエと二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。
その部屋の魔法陣は赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせ、魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……
体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。
ヒュドラとの死闘の中、全ての首を倒したと思う中、ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨へいげいしていた。思わず硬直するハジメ。
だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。
ハジメは銀頭が視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。
青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。だが、その結果は全く違ったものだった。極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。
極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。
ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。
「ハ、ハジメ?」
「……」
ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。
その瞬間だった。
「ファイヤージェット!」
奥の扉が開き、青と白の飛行機がヒュドラの注意を引くように現れる。
見慣れないモノに新たな魔物かと警戒するユエに対して、ハジメはそれが何なのか理解できた。
「飛行機……何で……」
ヒュドラの注意を引くように飛行する飛行機が距離を取ったところで、人型に変形する。ヒュドラと同サイズの鋼の巨人の胸部から光が伸びると、ハジメにとって見覚えのある人間が、光を通って鋼の巨人の中に消えて行く。
「鳴海!?」
そして、新たに現れたもう一機の戦闘機が胸部に合体し、頭を覆う装甲と胸部を覆う鎧となる。
「ファームアップ! 武装合体! ファーイ、バード!」
その巨人は己の名を叫ぶ。そして、ハジメは信じられないと言う思いと共に、奈落の底に現れた太陽の勇者、ファイバードの姿を見つめるのだった。
アンケートは今話投稿にて終了です。
結果、追加ヒロイン有り、となりました。
追加ヒロインは次の内誰が良いでしょうか?
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白上フブキ(ヤマト幻想怪異譚)
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ベータ(陰実)
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テラコマリ(ひきこまり吸血姫の悶々)