能ある鷹とカレーはウマいというお話
どれだけ騒げて馬鹿出来る阿呆でも、空腹には勝てはしない。
「いやぁ面白味のない場所かと思ってたけど、ロマン詰まってておもろかったぜ工房。サテライトキャノンとか作ってくんないかな」
「一高校に超破壊兵器を作らせようとするんじゃない」
フォークでハンバーグをぶっ刺して齧るという小学生のファミレススタイルで飯を食う赤猿へ、達也は相も変わらず呆れた様子でツッコむ。もうここ二日で見慣れてしまった奇行。こいつはきっとドリンクバーも混ぜて持ってくるんだろうなという確信が達也にはある。なんで高校にいるんだろうこいつ(当然の疑問)
「でもやっぱりさすがは国立高校よね。設備もきれいで最新式ばっかり」
「日本一の高等魔法教育機関ですからね」
「飯もうまいし最高だな!」
「最後は関係ないだろ。それに颯真人参はじくなちゃんと食え」
「いやだ!美味しくない!!食べない!!!」
「あずささんにチクるぞ」
「食べまぁす!!!!」
相も変わらずデカい声。かなり広い食堂にはもちろん反響して視線を集める。注目の的の現状に甘んじるつもりは達也も毛頭ないのだけれど、どうしようもないことも世の中にはある。諦めも人生においては肝心だと、達也はまた一つ大人になったのだ。偉いぞ達也、多分今後三年間はこんな感じだ(悲報)
「にしても、本当に面白いわよね颯真君って」
「うぇ?」
人参を食しした結果パワプロの絶不調顔そっくりな色合いになっている颯真へそう投げたのは同じく赤毛代表エリカ。口から何か漏れ出そうな相槌には誰も触れることなく、エリカは言葉を続ける。
「普通試験で見かけた人目当てで高校決めるなんてないわよ?というか、どしてそこまで達也くんに惹かれたわけ?」
「直感」
「息継ぎなしの解答かよ」
「だってほんとのことだもん」
どかっと椅子の背に凭れて腕を組む。出で立ちだけを文章にするなら悪くない恰好だが、身の丈160弱ではイマイチ映えない。隣にガタイの良いレオが座っているのでなおのことちんまりと見える。
「なんだろな、なんかピンと来たんだよ。こいつはただ者じゃないってな。人を殺してそうな目つきとか特に」
「喧嘩を売ってるのか?」
「お!買う!?いいぜやろうぜ運命のライバルゥ!」
「騒ぐな立つな座ってろ!」
いきり立つ颯真をレオが強引に座らせる。絵面がペットと飼い主のそれである。レオも苦労して来たんだなと、食卓を共にする全員が同情するも、同時に三年間そのままでと内心問題児を押し付ける。こんなのの手綱なんて握れないしね、しょーがない。
「てっきり一科生かと思ったけど、同じ二科生しかも同じクラス!これは僥倖!!運命と言っても過言ではないッ!!」
「過言だ」
「わかってる。皆まで言うな。そうは言いながら、お前のこぉこ(ネットリ)。燃えてるんだろう?ソウルがよぉ!!」
「平温だ」
「能ある鷹は爪を隠す。お前が、この第一高校という小さな箱庭で測れる器でないことは俺も承知している。それは、俺もだからな!!!!」
「だれか止めてくれこいつを」
聞く耳持たずを地で行く、というか本当に耳がないんじゃないかと思える一人語りの停止を周りに求めるも、苦笑いが返るばかり。頼みの綱の|飼い主
「所詮国が決めたルール、枠組み。そんなものを超えた何かが!お前には!!ある!!!」
食堂に木霊しながら、ビシィ!!とオノマトペがつきそうな勢いで指す颯真に、さすがの達也もたじろぐ。本当に見抜かれてるのだろうかと内心心配になるほどの本気度に眼前の赤猿の脅威度をあげそうになるも、いやこいつはただのバカだと切り捨てる。お願いだからやり直したいと切に願う達也の下へ、
「お兄様?」
救世主がやってきた。
向かずともわかる聞きなれた声音の方向へ目を向けると(きゃんきゃんうるさい赤猿を視界から外したいという願望もあったりなかったり)、そこには愛しの妹の姿があった。美貌さながら、今は彼女が天が迷える達也へ遣わした天使のように神々しく見える。無論、深雪がいつも天使のように美しいのは前提条件である(ブラコンEX)
「お昼を一緒にと思ったのですが・・・」
「ああ構わないよむしろぜひそうしてくれ」
早口に捲し立てる達也。深雪の周りに恐らく彼女のクラスメイト達がわちゃわちゃと交流を図ろうと試みているが、ようやく降って湧いた蜘蛛の糸を逃す達也ではない。疲弊した達也の心にはミユキ二ウム(深雪から発せられているマイナスイオン。達也の原動力である)が火急必須であったのだ。
「ありがとうございます。それはそうと・・・中条君、ですよね?」
「ジョン・コナーです。ターミネーター2のショットガン回しかっこいいよね」
「見え見えの嘘と突然の語りやめろ」
「隙を見せたロングちゃんが悪いね」
「隙も何もなかったような気がしますが・・・」
「美月気にしちゃ負けよ」
目を点にする深雪を放置して広がる颯真ワールドと順応しつつある1-E組。無量空所を食らった漏瑚のそれな深雪の反応に今日もうちの妹はかわいいなぁと達也は無視を決め込む。関係ないけど漏瑚って漢字で書くとちょっとHだよね(???)
「冗談はさておき人参はレオ置き」
「おいさらっと押し付け――」
「俺の名はァ!!!中条 颯真なり!!!!」
レオの反抗なんのその。相も変わらずでっかい声で名乗りを上げると、たちまち深雪トリマキーズは一歩たじろいだ。
「よかった、あってましたね。ところでさっきはなんと?」
しかし相対するは日本魔法師業界を牛耳る十師族の中でも特にやべーい一族四葉家のご息女司波深雪(特大ネタバレ)。猿の雄たけびなんのその。堂々と対話を試みる姿勢はまるで猿の惑星のワンシーンの様だったと、後に達也が語ったとか語ってないとか。
「さっき?ターミネーターの話?」
「いえそこではなくて、もう少し前でして」
「工房でサテライトキャノン作りたいって話?」
「サテラ・・え?で、ではなく!!」
アホが阿呆であほなことを口にするも諦めない強い娘深雪。ぶんぶんと頭を振った拍子に長く艶やかな黒い長髪が奮われて近くの男子が幸せそうな面持ちに。あいつはあとで〆よう。そう勝手に決める達也であった。グッバイ森崎。
「先ほど高らかに叫んでいたことです!」
「叫んだ?ああ枠組みがどうこうってやつ?」
「そう!それです!」
珍しく熱の入った返事に、達也の嫌な予感メーターが揺れ始めた。いやいやまさか、そんなはずはない。深雪は天使、救世主でありメシアだ。四面楚歌な兄を救おうと導きの一手を差し出してくれるに違い―――
「その通りです!!!お兄様はすごいのですよ!!!」
おっとぉ流れが変わったぞぉ?嫌な予感メーターがさらに加速する。
「お兄様の凄さを表すには、この国・・・いえ世界の枠組みがどれだけ狭義なことか。そこに怒らず、そして自身の実力に驕らず!研鑽に励むご姿勢!なんと素晴らしき事か!!」
「深雪?」
「それだけに留まらず、まだ未熟な私を支えるやさしさと言ったら・・・まさかわかってくださる方がいるとは!」
「へへっ。こいつには何かとんでもなく光るすごいないかこうすごいやつがあると、一目見た時思ったんだよな」
「え語彙力どこで捨ててきた?」
関与したくないがツッコまざるを得ない達也。饒舌に、そして熱に浮かされたが如く語る我ら(達也一人のみ)が深雪と、うんうんと納得したように首を振るアホこと颯真。二人は語り終えるや否や、数瞬視線を交わし。
「「同士!!!」」
固い握手を交わした。あーもうめちゃくちゃだよ(達也の内心)
「頭のおかしいヤバい人だと思っていましたが、どうやら私の勘違いのようですね」
『あってるよ深雪』とツッコミたいが、もう達也は疲れたのかがっくりと椅子に全体重を預けている。ちなみにほかのメンバーはというと、我関せず食事と談笑を楽しんでいる。もっとちなむと、人参は颯真の皿にクーリングオフされている。因果応報である。
「いやぁ仲良くなれそうだぜロングちゃん」
「深雪です。司波 深雪です」
「深雪ね。覚えた。よろしくぅ!」
「こちらこそ!」
謎シンパシーの発生に、達也の頭痛と胃痛は止むことを知らない。救世主は猿と和解し向こうへ行ってしまった。予想外過ぎる船渡。何度目かの天を仰ぐ。深雪トリマキーズが猿の突然の下の名前呼びにどよめきたつが、ライフもSAN値もゼロな達也には右から左である。
なんというか、もう帰りたい・・・そんな心境の達也であった。
―――
なんだかんだすったもんだがありつつも、時は皆一様平等に流れていく。
今日一日でずいぶん老けたような気がしてならない達也は、もうこれ以上面倒事は本当にマジでごめんだと思っていたのだが・・・
「深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるんです!他人が口を挿むことではないでしょう?」
どうもこの世の神は、達也のことが嫌いで嫌いでたまらんらしい。嫌も嫌も好きの内というがそんな愛情まったくもってごめんである。ごめんである(大事な事なので二回)
状況を端的に表すなら、深雪のクラスメイトの嫉妬である。眉目秀麗品行方正文武両道な深雪とお近づきになりたいトリマキーズ及びクラスメイトたちであったけれど、悲しいかな深雪はお兄様至上主義である。まだよく知らないクラスメイトと、尊敬敬愛大好きちゅっちゅなお兄様とを天秤に乗せてクラスメイト達が勝てるはずもなく。
しかもうるさくやかましくバカみたいなやつが誰よりも先に深雪とお近づきになったという事実がさらにその嫉妬心を加速させたらしく、達也にべったりだった深雪にではなく達也達1-E組に難癖をつけたのであった。深雪に直接言えないあたり小物臭全開である。
ちなみに原因の一端どころか三端ぐらいを担っている颯真だが、午後の三年生の実技見学にて一校生徒達のアイドルであり生徒会長の七草真由美を真由美ちゃん呼びしただけに留まらず、腹黒だなんだと達也達に吹聴した結果張り付いた笑顔の真由美に連行されそれ以降帰ってきていない。ドナドナられる様は見てて清々したのは達也の胸の内に留めてあるが、冷笑が漏れ出ているのは他メンバーにはバレバレであった。
まぁそんなこんながあった結果、こうやって帰る事も出来ず立ち往生してるわけである。はいさようならとしたいところだけれど、美月にエリカ、レオとクラスの友人たちが矢面に立つ以上素知らぬ顔して帰るのも気が引けるし妹のクラスに不和を残すのを忍びない。
はてさてどうしたものかと疲れた頭をどうにか回す中、美月がさらにヒートアップする。
「深雪さんは別にあなた方を邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。それを一体何の権利で二人の仲を引き裂こうというのですか!」
「引き裂くなんてそんな・・・えへへ」
「深雪?なぜ照れる?」
ぽっと朱色が差した頬に手を当て身をよじる妹に当惑するも、どうもこういう事は渦中の者より外野の方が熱が上がりやすいらしい。
「僕らは彼女と話がしたいだけだ!」
「そうだ!少し時間がほしいだけだ!部外者は黙っててくれ!」
「ナンアルヨカレータベル?」
「私たちはクラスメイトよ!とやかく言われる道理はないわ!」
「ちょっとまて変なやつ混ざってたぞ」
ナン押し売りインド人いなかったか?
「はっ!約束も話もナン作りも、そーいうのは自活中にやってな!」
「いやナン作りは別に自活中もダメだろうレオ」
「そうよ。ちなみに私はC〇C〇壱のが好きね」
「別に誰も聞いてないし伏字になってないぞエリカ」
なんだろう。中条と関わったせいでなんだかみんなバカになってる気がする。別にこれはナンとかけたわけではない。ないったらない。
的外れな回答に堪忍袋が切れたのか、一人の男子生徒が吠える。
「うるさい!『ウィード』の分際で、僕たち『ブルーム』に逆らうのか!」
怒りのままに発した言葉は、校則で禁止された蔑称であった。
「説明スルヨ!(唐突)魔法科高校ハ一科生と二科生ノ二ツに分ケラレテ、両者ハ華ノエンブレムノ有無デ分ケラレルヨ!優秀ナ人一科生、ダメナ人二科生ネ。教育ノ質ト差カラ、一科生カラ二科生へムケテ差別ガ蔓延ッテルネ。ズット問題視サレテルヨ!!」
「・・・誰?」
「オニイサンオネエサンイケメン美人サンネ。ナンタベル?カレーモ二人ミタク熱々ヨ?」
「いや・・・誰?」
突然の一般インド生徒に困惑を隠せない達也。むしろ恐怖すら感じそうだ。
そんな達也を置き去りにして、喧噪はさらにヒートアップする。
「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点でどれだけ優れているというのですか!!」
「・・・・・・そんなに知りたいなら身をもって教えてやるぞ」
まさに売り言葉に買い言葉。美月の言葉に、一人の男子生徒がCAD(魔法起動を簡略化するデバイス)に手を伸ばす。さすがにマズイと、達也の顔が強張る。それはそうと隣では謎のインド人がナンとカレーを進めてくる。本当に誰なんだこいつは。それはそうとスパイスのいい香りがする。今日の晩はカレーがいいかもしれない。
「さぁよく見ておけウィード共!」
勢いよく男子生徒がCADを美月へと向ける。攻撃偏重の特化型であるそれは、撃てばただでは済まないことを明確に表している。マズイ。達也はそう感じ動こうとすると―――
「待て―い!!!!」
今一番聞きたくない声が、喧噪に待ったをかけた。
声の発生源は校舎四階の教室。開かれた窓のそこを達也は確か生徒会室であると認識しているのだが、声の主は窓のサッシに足をかけてこちらを見下ろしていた。誰であろう、そうトラブルメイカー中条 颯真その人であった。
「生徒同士の私闘!そして!友人たちと、終生のライバル(バカデカボイス)の危機!見過ごすわけにはいかん!!」
「終生のライバルじゃないぞ」
否定しながらこの否定にどこまで意味があるんだと思うも、これをやめたら本当に負けた気がするので言い続けることにする。意地っ子達也っ子である(???)
「今!そっちへ行こう!トゥ!ヘァー!!」
サッシを勢いよく蹴り、独特な掛け声のまま空中を駆ける。二転ほど宙返りをし、そのまま勢いよく・・・
勢いよく・・・
勢い・・・よく・・・
「「「「「「いやおっっっっそ!?」」」」」」
三階から落下する彼は空中にてひじょーーーーーにゆっくり落ちてきている。加速魔法で落下のベクトルを弱めているのだろうが、にしてもタイミングも変数設定も下手すぎる。加えて空中で丸まりながらゆっくり落下する様はシュール以外の何物でもなく、対立しかけた二グループは一瞬にして同じ思いを胸に、頭に上がった熱が急速に覚める感覚を味わった。
「待っていろお前らぁ!そしてライバル達也ぁ!!!!」
どや顔で言うが、前述の通り空中前転固定である。なんにも締まらない。生徒会室からはシャッター音が何度も聞こえ、笑い声がひっきりなしに耳を打つ。
「なんだろう・・・もういいや」
「ごめんね司波さん。また明日ね」
「アホ見てアホらしくなった」
「帰ろ帰ろ」
ぞろぞろぞろりと、山のような深雪のクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように解散。気づけば現場には、深雪のクラスメイトは女生徒二人のみとなった。
居たたまれない空気と、わずかに漂うスパイスの香りだけが、その場を支配していた。
なお、颯真は着地まで5分を要したのであった。