FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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95章 警鐘

大魔闘演武出場の為クロッカスに来た妖精の尻尾。だが予選開始を間近にして、リュークはナツと剣咬の虎の双竜が言い争っている所を襲い掛かった黒ずくめの刺客に遭遇。

 

"こいつを逃してはいけない。"

 

直感や本能に訴えかける、予感めいた"何か"に突き動かされ、リュークはフェルトの力も借り黒ずくめの刺客を追いかけ行き止まりまで追い詰めた。

 

「………!!」

「ふっ!!」

 

観念したのか、それとも勝算や隠し球があるのか、声から少女だと断定した黒ずくめの刺客は銀の直剣を手にリュークへ斬りかかった。

 

「大魔闘演武を辞退しろとは、どう言う事だ!?」

「答える義理は無い。」

「………ちぃっ!!」

 

数度斬り結んだリュークと黒ずくめの少女。苦戦していたのはリュークだった。

 

「(相手の背丈と間合いが合わない………!!)」

 

相手の背丈と、そこから繰り出される剣の軌道がどこか合わず、間合いを掴みかねているのがリュークの苦戦の理由だった。

 

「(考えられるとすれば………!!)」

 

リュークは"絆剣リベラシオン"を右の片手持ちに切り替え、左手の指輪を掲げた。

 

瞬閃ろ(かけぬけろ)、双影の紋章士(エムブレム)!!」

 

紋章士シェズを顕現するとスキル"双刀の極意"により"絆剣リベラシオン"と"細身の剣"の二刀流に切り替えた。

 

「………!!」

「そこっ!!」

「!?」

 

再び斬り込んで来た黒ずくめの少女の剣を"絆剣リベラシオン"で受け止めたリュークは、"細身の剣"で首と顔があるであろう所を素早く突いた。

 

「っ………!!」

 

不意の一撃は決まり、黒ずくめの少女はよろめいた。だが突いた時の金属音、そして出血が無かった事からリュークは確信した。

 

「………そう言う事か。」

「………バレてしまったのなら、これは用済みですね。」

 

すると黒ずくめの少女はゴソゴソとしてから、外套の隙間からあるものを出した。それは頭の長い帽子だった。鉄が仕込まれているのか、その長帽子は置いた時にカシャンと音を立てた。そして帽子の分だけ、黒ずくめの少女のシルエットが小さくなった。

 

「(帽子………と言うかあれは簡易的な兜か。それで身長を誤魔化していたか。となると………思ったより"幼い"?)」

 

そのシルエットはウェンディやチキと比べてあまり変わらない、僅かに大きいか?と言うくらいの身長だった。

 

「………これで邪魔なものが無くなりました。」

 

すると黒ずくめの少女は再び斬り掛かって来た。

 

「っ、く!!」

「………!!」

 

動きの邪魔をしていた長帽子が無くなったからか、より動きに無駄が無くなった黒ずくめの少女。

 

「(強い………!!パワーも、スピードも、歳不相応だ!!)」

 

一歩、一歩ずつ押されるリューク。

 

「(どこで鍛えたらこうも………だが、何だ。この、違和感………?)」

『リューク!!集中して!!』

「ホーッ!!」

 

黒ずくめの少女の剣から来る違和感。斬り合いには邪魔な雑念のハズなのに、どうも気になって集中し切れないリュークは更に苦戦していた。

 

「(らしくない………!!だが、本当に何なんだ!!)」

『リューク、気をつけて!!』

「ほ、ホホーッ!?」

「ッ、しまっ………!!」

 

紋章士シェズやフェルトの檄でも立ち直れない程に気が散っているリューク。それは大きな隙を生み、ガラ空きの所を目掛けて黒ずくめの少女の剣が振るわれた。

 

『させる………』

「「!!?」」

『ものかぁっ!!』

 

だが黒ずくめの少女の剣は真上から振ってきた、紋章士クロムと"エンゲージ"したルーシィの"天空"によって阻止された。

 

「くっ………!!」

『大丈夫!?』

「………すまない、助かった。だけど何故真上から………?」

『リネンに助けて貰ったの。』

「リネンに………?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「見失った………!!」

 

黒ずくめの少女を追ったリュークを追いかけたルーシィ、チキ、リネン。しかし路地裏をジグザグと進む2人に追いつけず、見失ってしまったのだ。

 

「どうしよう………」

「………ルーシィも、気になる?」

「え?」

「あの真っ黒の人のこと。………なんだろう、"放っておけない"って、そんな目をルーシィも、リュークもしてた。」

「……………」

 

暫しの沈黙の後、ルーシィは答えた。

 

「………うん。チキの言う通りかも。説明はできないけど………」

「でも、どうやって見つけよう。チキが竜に変身するのは他の人をビックリさせちゃうし………」

「紋章士を通じて居場所を把握しようにも、戦いになっていたらリュークにそんな余裕は無いハズ………」

「なら、私に任せて。」

 

するとリネンが指輪を掲げた。

 

「狭い路地を抜けるなら、鳥翼よりもあなたね………お願い、"跳兎"。」

 

すると顕現されたのは長い耳と短い尻尾………どちらも兎のそれが特徴の女性の紋章士。

 

『話は聞こえていたわ。』

「行けそうかな、ベルベット?」

『女の子1人に、若い頃の神竜様ね………問題ないわ。』

「それじゃあ決まりだね………"化身化"!!」

 

兎の獣人、タグエルの紋章士である紋章士ベルベット。彼女と"化身化"を行うと、リネンは馬に引けを取らないサイズの大きな兎へと変身した。

 

『乗って!!』

「ありがとう!!」

「お願い!!」

 

紋章士ベルベットの武器は自慢の脚力から生み出される、圧倒的な跳躍力。ルーシィとチキが乗ったのを確認したリネンはその場で大ジャンプをして近くの建物の屋上まで跳び上がり、屋根伝いに駆け出した。

 

『こっちの方に行ったハズだから………ここ!!』

 

目星をつけてからリネンは建物の屋上から踏み込み、更に跳躍。本来は跳躍してから落下ダメージを与える奥義"大跳躍"を人探しの為に使った。

 

「………いた!!」

 

ついにルーシィがリュークと黒ずくめの少女の居場所を見つけた。

 

『真上まで行けるけど、そこで降下すればいい?』

「………いや。チキ!!」

「なぁに?」

『マスターの宿の場所、覚えてる?』

「うーん………うん!!あそこ、覚えてるよ!!」

「じゃあリネンと一緒にマスターを呼んで来てくれる?」

「分かった!!でもルーシィは?」

「ここから飛び降りる!!真上までお願い!!」

『分かったよ………それなら、気をつけて!!』

「ありがとう、お願いね………ええいっ!!」

 

リュークの真上まで来ると、ルーシィは意を決してリネンの背から飛び降りた。

 

「っっっ………覚醒めよ(めざめよ)、絆の紋章士!!」

 

紋章士クロムを顕現すると即座に"エンゲージ"し、エンゲージ武器の"サンダーソード"を手に取ると体勢を立て直し、回転しながら落下した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『それで、大丈夫?なんかすごい苦戦してたみたいだけど………』

「………正直、疑問が疑問を呼んで調子が狂いっぱなしなんだ。」

『珍しいわね、あんたがそんな弱音吐くなんて。』

「全くだ………だから助かる。」

『………ふふん。しょうがないなぁ、あたしがいないとダメなんだから。』

「前言撤回、調子に乗った君は必ずトラブルを持ち込む。」

『なによ失礼ね!!』

 

夫婦漫才めいた会話を始めたリュークとルーシィ。

 

「………ね。」

「『!!』」

 

それを見て何かを呟いた、黒ずくめの少女。だが次の瞬間、逃げる素振りを取った。

 

『させないわよ。』

「!!」

 

だが黒ずくめの少女の退路は、突如現れたもこもこの綿の壁で防がれた。

 

「すみません………!!」

『ありがとう、アリエス。』

「さて、仕切り直しだ!!」

 

するとリュークはルーシィの肩に手を当てた。

 

「"エンゲージ"の魔力はこっちで受ける!!」

『お願い!!』

「"ツイン・エンゲージ"!!」

 

リュークはルーシィの"エンゲージ"を肩代わりしつつ自分は紋章士ルフレと"エンゲージ"し、"ソニックソード"と"トロン"の魔道書を手にした。

 

『考えるのはいいけど、ちゃんとサポートに徹してよ?』

『安心しろ、そっちこそ前に集中しておけよ?』

「………変わらないんだ。」

『『?』』

 

意図の分からない呟きをしてから、黒ずくめの少女はルーシィに斬りかかった。

 

「ふっ!!」

『くっ………ええいっ!!』

「!!」

『読み通り!!』

「っ………!!」

 

ルーシィが接近戦で応戦している所に、リュークが"ソニックソード"の風と"トロン"の雷で援護射撃。戦局が覆り始めた事でリュークには考えを整理する余裕ができた。

 

『(数の違いもそうだけど………"互いに"雑念があるのはダメだね。その点はルーシィに助けられた。それに………思ったより足取りが安定していない、腹でもすかせているのか?こんなのに苦戦してたとは、俺の雑念は相当だったと見える………)』

 

紋章士の力を入れても、ルーシィの剣術はリュークや黒ずくめの少女のそれとはかけ離れている。だがそれ故に余計なことを考える余裕、言い換えれば雑念が入る余裕が無い。一方で黒ずくめの少女も落ち着いて見ると先程のリュークと同じように何らかの雑念に囚われているように見えた。しかし考えを整理してスッキリしたかと言えば否だった。

 

『(………が!!何で整理したら疑問が"増える"んだよ!?ああもう………クロッカスに入ってからと言うもの、何なんだよッ!?)』

 

頭を掻きむしりたくなるようなフラストレーションを無理矢理飲み込んでリュークは黒ずくめの少女を押し始めているルーシィの援護に戻った。

 

『やあっ!!』

「………く!!」

 

戦局を立て直す為に後ろに飛び退いて距離を取ろうとした黒ずくめの少女。だが下がろうとした距離の半分もいかない内にふかふかの壁に阻まれた。

 

「!?」

「勝負の邪魔をして、すみません………!!」

『よっし、読み通り!!』

 

剣の振りこそがむしゃらだが、周りが見えていない訳では無かった。ルーシィは黒ずくめの少女が一度下がるタイミングがあると"確信"して、その導線上にアリエスの綿を展開。ルーシィの読み通り黒ずくめの少女はそこを通り、綿の壁に嵌った。

 

「ぐっ………」

『あんたに恨みは無いけど………倒れて貰うわよ!!』

「がはっ………!!」

 

身動きが取れない内にルーシィは黒ずくめの少女をカチ上げた。その先で待っていたのはリューク。

 

『これでどうだい!!』

 

"ソニックソード"と"トロン"の乱撃。そこに追いかけるようにルーシィが跳び上がり"サンダーソード"で追撃。

 

『これで………』

『終わりよ!!』

『『"デュアルアタック"!!』』

「きゃあああっ!!」

 

最後の剣の振り下ろしで黒ずくめの少女を地面に叩きつけたリュークとルーシィ。これで勝負こそ決したが、リューク、そしてルーシィも抱いた疑念、疑問と言った、しこりのようにモヤモヤと残る感情は何一つ解決していなかった。

 

「………さて。」

 

地面に降り立ち、"エンゲージ"状態を解除した2人。するとルーシィがアリエスと共に退路を断ちつつ不意討ちに警戒し、リュークが近づいた。

 

「何で幼い少女が暗殺者の真似事をしているか、何で仲間以外には殆ど明かしていない俺のフルネームを知っているのか………聞きたいことは他に5つはあるけど、取り敢えず顔を見せて貰おうか。」

 

"ソニックソード"を手にしたまま、リュークはボロボロになった外套のフードを外して黒ずくめの少女の素顔を見ようとした。

 

「ダメ………!!」

「!!」

 

だがフードを外されまいと黒ずくめの少女はギュッとフードの端とリュークの腕を掴んだ。

 

「あたしは妖精の尻尾の敵になるつもりは無い!!」

「!?」

「話せない事ばかりだけど、必ず明かします!!迷惑はかけません、どんな事でも、従います………!!」

 

悲痛な言葉の後、ふらついた黒ずくめの少女。

 

「ただ、あたしが良いと言うまで………顔は、見ないで………!!」

「「……………。」」

 

あまりにも悲痛で必死な訴えに、つられて苦しい表情のルーシィと、しきりに首を捻り複雑なしかめっ面のまま手を離したリューク。

 

「ここにおったか、リューク、ルーシィ。」

「お前が面倒事を引くのかよ。」

 

そこにやって来たのはマカロフとラクサスだった。

 

「事情はチキとリネンから聞いた。其奴が例の刺客か?」

「………ええ。」

「そいつがナツに斬りかかったってのか?」

「ナツか、セイバーの滅竜魔導士か、どっちかは分からないけど。」

「ふむ………で、どうするつもりじゃ?」

 

黒ずくめの少女の処遇を問うたマカロフ。すると、リュークが意外な答えを出した。

 

「………俺が預かります。」

「………ほう?」

「何のつもりだ?」

 

ラクサスの問いも当然。仲間への殺害未遂を行った者にお咎め無しも同然の判断に、ラクサスは聞こえたのだ。

 

「客観的に判断すれば、憲兵に突き出すのが模範解答、ここで始末するのが次善だ。それは分かっている………だけど俺の頭は"違う"と言っている。」

「………その心は?」

「こいつを、この少女を見た瞬間、疑念や疑問が止め処無く出て来て刃が鈍るんだ………そしてそれを後押しするように、俺の直感、本能が、正体を"解き明かす"まで殺すな、と警鐘をガンガン鳴らして来るんだ。」

「………お前らしくないな、そんなフワフワした答えで納得できるわけ………」

「あたしも、なんだ………」

「なに?」

「あたしはリュークよりも酷いと思う………論理なんてものは何一つ無いフワフワしたものなのは分かってる………だけどこの子は………"見失っちゃダメ"って、何かに言われてるような気がしてならないの。」

 

今度はラクサスが頭を抱える番だった。ルーシィはともかくリュークが大真面目にフワフワした事を言い出してこの先思いやられる、と悩んだのだった。とここで、思わぬ助け舟が出た。

 

『今の言葉、信じてみましょう。』

「「!?」」

 

新たな声にリュークとルーシィが振り向くと、そこにはあまりにも意外な人物が。

 

「マスターメイビス!?」

「何で………!?」

『天狼島にいるのもヒマなので、応援に来ちゃいました。安心してください、ギルドの人間しか私の事は見えません。』

「……………。」

『2人が同じ違和感を覚えている、しかも片方は若くても竜族、人間には感じ取れない何かがあってもおかしくありません。』

「………ハァー。」

 

深いため息をついたラクサスを尻目に、マカロフが結論を述べた。

 

「分かった。ならばこの件、お主に任せる………じゃが、その為には決め事が2つ。」

「………"代打"と"匿う場所"ですね。」

 

時間を見ると日はとうに暮れていた。出場者は指定された宿に12時までにいないといけないので、リュークはこれにほぼ間に合わないものとなってしまった。その上黒ずくめの少女は未遂とは言え往来で刃傷沙汰を起こした張本人、大っぴらに保護もできない。

 

「12時までに決めないと………」

「………そうか。"代打"の方はちょうどいいのがいたな。」

「本当!?でもいるとしたら………カナ、エルフマン、レビィちゃん、あとは………」

「いやいや、もっと上のS級がいるだろ。」

「S級?でもエルザはAチーム、ラクサス、ミラさん、リュークはBチーム、ギルダーツはいないし………」

「まだいるじゃねぇか。"ギルドに碌に顔を出さねぇ奴"が、な。」

「………まさか。」

 

リュークの予想は当たった。

 

「怪しい魔力の調査は妖精の尻尾宛の依頼だったはず。ならば俺達にも報酬があってもいいよな?」

「そう言う事か、理解した。」

「フェルトは居場所を把握してるよな?ならリューク、お前が手紙を書け。お前が戻って来るまでの代打は頼むぞ、ってな。」

 

リュークは素早く"代打"へ手紙を書き、その人物の居場所を知っているフェルトに託した。

 

「頼むぞ。」

「ホーッ!!」

 

手紙を受け取るとフェルトは静かにクロッカスの夜空を羽ばたいた。

 

「これで代打は解決した。あとはコイツをどこに隠すかだが………」

 

するとリュークが思いついた顔をした。

 

「………一か八かだけど、一ヶ所心当たりがある。」

「ほう。………信用できるか?」

「首を縦に振らせる事ができれば、はい。」

「ならばあとは任せるぞ。」

「迷惑かけてる自覚はあるだろうから、さっさと片付けて合流して来い。じゃあ戻るぞ、ルーシィもAチームと合流しろ。」

「うん………気をつけてね。」

 

後始末が終わり、リューク以外はその場を離れた。

 

「よし………立てるか?」

 

黒ずくめの少女に手を差し伸ばしたリューク。だが返事は少女のお腹から鳴った。

 

「………ごめんなさい。街に着いてから何も………」

「………仕方ない。」

 

ため息をついて、リュークは少女をおぶった。

 

「ルフレ。」

『呼んだかい?』

「万が一がある、見張っててくれ。」

『了解した。』

 

背中を刺されないよう紋章士ルフレを監視役につけ、リュークは歩き出した。

 

『でも、場所は分かるのかい?』

「"こいつ"の魔力を辿れば行ける。」

 

あるアイテムを出したリューク。それを見て紋章士ルフレは納得したのでそれ以上の追及はせず、リュークは歩き始めた。

 

「………図らずも君の忠告に従う事になったが。」

「………ごめんなさい。」

「何故謝る。」

「それは………」

 

言い淀む少女。

 

「ところで、名前は?」

「名前………」

「名前が無い、なんて暗殺教団の鉄砲玉みたいな事は無いよね?」

「………」

 

一瞬の間の後、少女は答えた。

 

「………ま、マーク。あたしの名前はマークです。」

「………マーク。」

『………へぇ!!僕の娘の名前なんて、凄い偶然もあったものだ!!』

「……………。」

 

わざとである。驚いた素振りを見せた紋章士ルフレも、無言のリュークも、これが偽名である事は一発で見抜いている。だがつついたしたところで事態は進展しないので2人は追及しなかった。

 

「………なんで、あたしを"助けた"んですか?」

「そんなもの俺が知りたい。俺は、君の素性が分かれば少しはスッキリする気がするんだけど?」

「……………」

『お話中のところ悪いけど、着いたみたいだね。』

 

到着したのは、大きめではあるが何の変哲もない3階建ての民家。だがリュークは迷い無くその民家の扉を開けた。

 

「いらっしゃーい、って………」

 

中に入るとそこは外観とは異なり、所狭しと商品が並ぶお店だった。そしてその店番をしていたのは、リュークも見覚えのある赤いポニーテールの女性だった。

 

「リュークじゃない、どうしたのこんな時間に?」

「………もしかして、マグノリアのアンナ?」

 

リュークが来たのはアンナの秘密のお店、そのクロッカス本店である。だが店番をしていたのは数多くいる同じ顔の姉妹の内、リュークがよく訪れるマグノリアのアンナだった。

 

「何で君がクロッカスの店番を?」

「"応援"よ。クロッカスの店主である一番上のお姉様は大魔闘演武の競技に使う道具や資材の準備で店を開けてるから、代わりに私が店番に来ているの。」

「なるほど。常連以外は人が変わった所は気付かないだろうし、合理的だね。」

「ええ。準備が終わるまでの間だから、祭が始まったら観戦してから帰る予定よ。今年は妖精の尻尾も出るんでしょ、応援してるわ!!」

「ありがとう、頑張ってみせるよ。」

「それで、こんな時間にどうしたの?買い物に来た………訳じゃ無さそうだけど。」

 

アンナはリュークの背負っている黒ずくめの影、マークに目が止まった。

 

「………行き倒れの女の子を見つけたんだ。どうやら訳アリみたいで、一晩この子を泊めてくれないかな。」

 

申し訳無さそうに頼むリューク。対してアンナは困ったように答えた。

 

「うーーーん………リュークの人となりはよく知ってるし、あなたもついてくれるなら良いと思うけど………ここは私のお店じゃないから、私の一存でうんとは言えないわ。」

「ここの家主は………」

「今日が一番忙しい日だから、例年通りなら日が変わるまで帰って来ないわ。」

「………無理な頼みなのは分かっていたけど………」

 

眉をハの字に曲げ、困り顔になったリューク。無理な頼みなのは承知していたものの、他に頼る所が無いので一からマークを匿える場所を探すしか無いとため息をついた。

 

「おや、こんな時に客人とは珍しいね。」

 

すると店の裏から1人の老婆が、"手斧"を片手に現れた。

 

「あーっ、お祖母様!!また薪割りしたでしょ!?腰に響くからダメってお姉様にも言われてたでしょ!?」

「ところでこの客人は?」

「聞き流さないで、難聴のフリしても聞こえてるの分かってるわよ!!………って止めても無駄よね。この人よ、前に私が言ってた"神竜様"は。」

「(アンナのお祖母様………この人が、話に聞いていた。)」

 

アンナ姉妹の店をまとめ上げ、一種の商業ギルドとしてフィオーレ王国で大きくした"中興の祖"。それが店の裏で元気に薪割りをしていたらしい、老婆のアンナだった。

 

「この人が………」

 

すると老婆のアンナは"手斧"を置き、確かな足取りでリュークに近づきその顔を見た。

 

「………。」

「………。」

「………やっぱり、私の見立ては間違っていなかったようだね。」

 

ニコリと笑った老婆のアンナは、視線をリュークの後ろで控えていた紋章士ルフレに向いた。

 

「………"久しぶり"ね、ルフレ。」

「!?」

『………!!』

「………やっぱり、話には聞いていたけど異界出身でしたか。と言う事はクロムやルフレ、ルキナの世界から………」

『………いや、違う。』

 

紋章士ルフレは横に首を振った。

 

『マルス、セリカ、シグルド、リーフ、ロイ、リン、エイリーク、エフラム、アイク、ミカヤ、ルキナ、カムイ、ベレト………』

「あら、次々と………どれも懐かしい名前ね。」

『加えてチキ、エーデルガルト、ディミトリ、クロード、クロム、僕、ヴェロニカ、ヘクトル、セネリオ、カミラ。』

「………まさか。」

 

紋章士ルフレの列挙した紋章士の共通点。

 

「………12の指輪と、7つの腕輪………!!」

『そして……………』

 

すると、紋章士ルフレの代わりに2人の紋章士が現れた。

 

『………本当に久しぶりだね。』

『急に姿を消したと思ったら、こんな所で商売を続けてたんですね。』

「………どう言う偶然だよ。憧れのご先祖様の旅の、"生き証人"ってのは………!!」

 

すると老婆のアンナは佇まいを正し、改めて自己紹介した。

 

「改めまして、私はアンナ。異界はエレオス大陸、イルシオン王国の出身よ。こう見えて、まだまだ現役よ!!と言う訳で………いいもの揃えているから買っていってちょうだい、当代の神竜様。そして………」

 

老婆のアンナは2人の紋章士………子供だった自分が共に旅をして、共に戦った仲間である紋章士リュールと紋章士ヴェイルにも挨拶をした。

 

「本っ当に久しぶりね、神竜様!!ヴェイル様!!」

 

==========

 

12時の鐘が鳴った。すると、街中に聞こえるように放送が始まった。

 

《大魔闘演武にお集まりのギルドの皆様、おはようございます。これより参加チーム113を8つに絞る為の"予選"を開始しまーす!!》

 

カボチャ頭が特徴的な大魔闘演武のマスコット、マトー君が予選のルール説明をしている、その間。リュークはアンナのお店の3階の1部屋の窓の外を見ながら聞いていた。

 

「………始まったか。」

 

結果、老アンナの計らいで他のアンナ姉妹がクロッカスに来た時の為に空けてあった一室を借り受け、マークを保護したのだった。

 

「こっち向いても大丈夫よ。」

「ん。」

「………。」

 

マークは老アンナによって食事、入浴、着替えを済ませ、寝間着の上から新品のフードを被って顔や身体を隠した状態でベッドの上に座っていた。

 

「………寝ないのか?」

 

マークは黙って頷いた。

 

「アンナからは、随分寝不足気味だったって聞いたけど?寝顔を見てやろうと言うつもりはないし、君くらいの年齢なら睡眠は大事だ。」

「………寝るのは、怖い。」

「怖い、ときたか………俺には無い感覚だな。お姉ちゃんも連れて来るべきだったか………?」

「それよりも、答えて。」

「答えて?」

「………何で、敵であるあたしを助けたの?」

 

リュークは頭をかきながら答えた。

 

「さっき俺の仲間に言った事が全てだが………簡単に言うならば、君を殺してはいけない気がした。」

「……………。」

「直感、本能、あとは予感くらいか?そんなフワッとした理由だ、気まぐれと何も変わらない。」

「………ありがとう、ございます。」

「感謝の気持ちがあるなら早いところ正体を明かしてくれ。あと余計な動きをしたり、ここの人に危害を与えたら話は変わるからな。」

「はい。………あたしの正体は、いずれ、必ず。」

「………今日はもう寝ろ。何が怖いのか分からないが………ここに敵はいない。」

「………。」

 

練るのが怖いと言っていたマーク。しかし溜まっていた疲労には勝てなかったのか、10分もしたら小さな寝息が聞こえ始めた。

 

==========

 

「眠ったようね。」

 

マークが寝たのを確認して1階に降りると、老アンナが紋章士リュールと紋章士ヴェイルと談笑していた。

 

「ありがとうね。あなたが来てくれたおかげで、久しぶりに神竜様とヴェイル様に、かつての仲間にまた会えたもの。」

『アンナさんが色んな異界にいるって話は聞いていたけど、まさか自分のよく知っているアンナさんと会えるなんて思わなかったよ。』

『初めて会った時はまだ幼くて、宝箱にスッポリ入るくらいの大きさだったんですよ?』

「恥ずかしい事を思い出させないで。あれはそう、なりゆきで、仕方なかったの。」

 

形は少し変われど、かつて共に旅をし、共に戦った仲。積もる話は尽きなかった。

 

「でも本当不思議ね。あの神竜様の子孫とこうして相見えるなんて。それだけでも多くの異界を越えてここに辿り着いた甲斐があったわね。」

 

その後少し雑談をしてから、今後の話になった。

 

「リュークさんも今晩は泊まっていきなさい。」

「ではお言葉に甘えて。その後は………」

「あなたは大魔闘演武に向かいなさい。心配しないで、食事と入浴をしている間にあの子とは面と向かって、ちゃんとお話しをして大丈夫だって確認したから。」

「………分かりました。ではよろしくお願いします。お代は………」

「私は要らないわ、神竜様とまたお話しできただけで十分いただいたもの。あとはマグノリアのアンナに聞いてみなさい。」

「では翌朝、そのように。」

「寝る前に少し食べるかしら。マークちゃんに出したものの余りだけど。」

「いただきます。」

 

老アンナがマークに出した食事の残りを貰ったリューク。

 

「………懐かしい味です。」

私の故郷(イルシオン王国)の料理よ。あなたの故郷にも伝わっていたのかしら。」

「そのようですね………滅んだ部族の味に、こんな所で出会えるとは思いませんでした。」

 

その料理を感慨深く味わったリューク。それを食べ終わると、食器を片付けた老アンナに問いかけた。

 

「連れて来た俺が言うのもなんですが………信用して良かったんですか?」

「ええ。」

 

老アンナは即答した。

 

「子供の頃から商人を始めて半世紀以上、いくつもの異界を股にかけて商いをしていれば嫌でも"人を見る目"は培われていく。そんな私が彼女の目を直接見て判断したもの、間違い無いわ。」

「………そうですか。」

「あなたは………"信用してあげたい"、ってところかしら。」

「………御名答です。少しは成長したハズなんですが、まだウジウジ悩んで決め切れずにいる………"甘い"と、笑いますか?」

 

老アンナは首を横に振った。

 

「理性に逆らってでも、どうしても"信じたい"と思える"何か"を感じているからそれを無碍にしたくない………それを私は"優しさ"と呼びたいな。」

「……………。」

「自分とは相容れないハズの邪竜の娘を信じようとして、最後には信じ抜いた神竜を私は知っている。そして、その神竜の優しさはあなたも持っている。」

 

リュークは照れ臭そうに苦笑いした。

 

「………私はあの子の、マークちゃんの正体に気づいた。」

「!!」

「そして本人に確認してみたら………正解だったわ。」

「……………。」

「でもそれをあなたに言うのはマークちゃんとの約束を破る事になるし、リュークさんも自分で答えにたどり着かないと納得いかないでしょう?」

「………ええ、そうしないとこの胸のモヤモヤは取れないでしょう。」

「ええ。だから、私はこう言わせて貰うわ。」

 

老アンナは一息ついてから告げた。

 

「"彼女は必ずあなたの味方になる"。」

「………。」

「土壇場になって尚判断できない時に、この言葉を思い出して。」

「………記憶に留めておきます。」

 

これで話は終わった。

 

「お話、ありがとうございました。では、そろそろ休ませて貰います。」

「ええ。おやすみ………若き神竜様。」

 

 

続く




今回は新キャラ(?)ラッシュです。リネンの登場が早まったのはこれのせいです(笑)

・マーク
黒ずくめの少女が自ら名乗った名前。明らかに偽名だがリュークはそれどころじゃないのでスルー。
まだ幼さの残る少女だとリュークは推測するが、詳細不明。しかしその若さからは想像できない程の身体能力があり、動揺していたリュークでは大苦戦を強いられた。

ナツかセイバーの双竜に斬りかかったのをリュークが山勘で防ぎ、そのまま戦闘に入ったがどうも理性とは裏腹に直感や本能は"殺すな"としきりに訴えかけるので頭が混乱して集中できないでいる。ルーシィとの共闘で何とか抑えるもその警鐘は鳴り止まないので大魔闘演武の予選は見送り、保護する羽目に。

マークはリュークの事を知っているようだが………

………何か答え書いちゃってるような気もしますが、たとえ分かったとしても本編で明らかにするまではお口ミッフィーでお願いします。

・紋章士ベルベット
紋章士アシュに続く、ラグズ以外の獣牙の紋章士。FE覚醒からタグエルのベルベットです。性能は以下の通り。

◎跳兎(騎馬)
◯ベルベット(増田ゆき)
◯シンクロスキル
・孤軍
味方と隣接していない時、戦闘中全ステータス+3
◯化身スキル
HPが75%以下の時、回避+30%
◯大跳躍
1ターンの間姿を消し飛行タイプ以外の敵味方の攻撃とスキルの影響を受けない"跳躍"状態となる
次の自軍ターン開始時、"跳躍状態"を解除し一番近くにいる相手に攻撃。ただし"跳躍"中に攻撃を受けると失敗する。

奥義の"大跳躍"は、イメージとしてはポケモンの"とびはねる"、あるいは(プレイした事は無いけど)FFシリーズの"ジャンプ"ですね。
飛行タイプからは干渉を受けたり攻撃されたりするのは、"とびはねる"した時に"スカイアッパー"とか"たつまき"とかが当たるあのノリです。バランス調整とも言う。(矢とか遠距離攻撃は当たらないのもそれです。)

・老アンナ
フィオーレ王国のアンナ達を一種の商業ギルドとしてまとめ上げ勢力を拡大させた"中興の祖"。若い頃はいくつもの異界を股にかけた大商人で、今は一線を引きつつもたまにクロッカスのお店で店番をしたり、薪割りをしたりとまだまだ元気いっぱい。
その正体は、エレオス大陸出身のアンナで、神竜リュールの仲間としてエレオス大陸を救った一行の中の1人。家族を探しに故郷を出てから神竜一行として旅をして、戦った時の事は大切な思い出として持っている。

エンゲージのロリアンナをおばあちゃんとして出すとか、過激派に刺されそうな事してる自覚はあります。ただ、紋章士以外でFEエンゲージのキャラを出そうと思うとこの人しか出せなかったんです!!あとは紋章士チキの描き方もそうなんですが、
「年少者として守られる、導かれる側の人間が長い時を経て、年長者として守る、導く側の人間になる」
と言うのがどうやら好きみたいで………どこで拾ってきたんだその"癖"は。

・マークの被ってた長帽子
イギリスの近衛兵の帽子とか、加藤清正の長烏帽子形兜とかのイメージです。二次元のキャラなら"オクラ"なんて呼ばれてる戦国BASARAの毛利元就あたり。
自分を大きく見せる目的で被ってました。


次回から大魔闘演武本戦に入ります。さーて、リュークはどこで合流してどこに出るのやら。
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