FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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本作の大魔闘演武編の見どころTOP5の1つです。

"ルーシィ強化"のタグは今回の為と言っても過言ではない、と思いながら出します。


96章 星見の一勢

ついに始まった大魔闘演武。113の参加チームが8つに絞られる予選は、各チームが指定された宿からクロッカス西部の本戦会場ドムス・フラウへ向かう空中迷路であった。

 

AチームとBチームの2チーム体制で挑んだ妖精の尻尾は、Aチームがウェンディ、Bチームがリュークの欠場により出場が危うくなったがAチームはその場に居合わせたエルフマンが、Bチームは協力関係にあったジェラールが同じ顔のミストガンに変装して代打となり、両チーム突破を果たした。

 

いよいよ本戦、午前の競技パートと午後のバトルパートを5日間行い、合計ポイントが最も高いチームが優勝と言う仕組みはシンプルなもの。だが妖精の尻尾は出遅れた。

 

初日の競技パートは"隠密(ヒドゥン)"。各チームのコピーが無数に往来を模した競技エリアの中から本物を見つけ出し攻撃を与える事でポイントを稼ぐのだがAチームのグレイ、Bチームのジュビア共に大魔闘演武特有の空気に慣れず、遅れを取る形となった。

 

そしてバトルパートを前の昼休みのタイミングで、リュークが応援席に到着した。

 

「すみませんマスター、遅くなりました!!」

「遅い!!」

『………状況はどれだけ把握していますか?』

「マスターや初代がフェルトに渡した情報は全て。それでウェンディの容態は………」

「ポーリュシカに診て貰っておる。ひとまず命に別状は無いが………」

大鴉の尻尾(レイブンテイル)、ですか………」

 

Aチームのウェンディが欠場した理由、それはシャルル共々、魔力欠乏症で街中で倒れていたからである。そしてその原因が、出場ギルドの1つ、大鴉の尻尾の魔導士の仕業であった。この大鴉の尻尾、マスターはイワン・ドレアーと言い、マカロフの息子でラクサスの父親である。目に余る狼藉により追放されて以降は打倒妖精の尻尾の為に力を蓄え、大魔闘演武を妖精の尻尾を潰すいい機会として最近正規ギルドになったと言う経緯がある。

 

「………あの馬鹿面がイワンか。」

 

珍しくストレートな暴言を吐いたリューク。

 

「クソみたいな言いがかりで人の故郷と人のギルド荒らすとは良い度胸だ。絶対にあの馬鹿面歪ませてやる。」

 

不穏な言葉をつらつらと零す彼を諌めたのは意外な人物だった。

 

「落ち着きなさい、リューク様。あなたらしく無い。」

「アイズ!?なんでここに!?」

 

いたのはソラネルの民の生き残り、アイズだった。

 

「それはもちろん、妖精の尻尾の応援にさ。私もあの馬鹿面を殴り飛ばしたいのは同じだが、それはここでする事ではない。それよりも………」

「ええ………この遅れは戦場で取り戻します!!」

「選手変更届は既に出してある。早く行け。」

「了解!!」

 

すると、実況によるアナウンスが闘技場に響いた。

 

《皆様お待ちかねのバトルパートに入る前に、選手変更のお知らせです。妖精の尻尾Bチームのミストガン選手ですが、急を要する仕事(クエスト)の指名が入った為に選手登録を抹消。代わりにリューク・ソラネル選手を登録いたします!!》

 

名前が呼ばれた瞬間、通用口へ回る時間が無いと判断したリュークは応援席を乗り越え跳び上がると息を吐いて霧の飛竜を形成、そのまま竜騎士の要領でチームメイトの前に降り立った。

 

「ありがとう、ミストガン。ここからは任せてくれ。」

「………ああ。」

「余計な手間かけさせやがって………分かってるだろうな。」

「……………。」

 

リュークが目を閉じ周囲に耳を傾けると色んな声が聞こえた。

 

「いきなり選手変更って何だよ。」

「妖精の尻尾に急を要する仕事なんてある訳無いだろう。」

「選手変更したって無駄だろ。」

「変な髪色のチビが調子乗ってんじゃねーよ。」

「ザコはザコらしくみじめにしてろよ。」

 

数々の罵詈雑言。

 

「好き勝手言ってくれるねぇー………」

 

対してリュークは呑気にあくびをしたかと思うと目を開いた。

 

「うるさい。」

 

次の瞬間、観客席の観客と闘技場の選手"全員"に悪寒が走った。まるで心臓を掴まれるような感覚に、熱気で溢れかえっていた闘技場が静寂に包まれた。

 

「(上手くいくもんだな、"神竜王の威光"、それの"指向性"の変化。)」

 

魔力の反響定位(エコーロケーション)により味方の位置を把握し魔力の譲渡や簡潔な指示を出す魔法、"神竜王の威光"。その魔法の指向性を変える事でリュークはその場にいる全員に微弱な魔力を渡した。

 

「お前達の命なぞ、いつでも取れるぞ。」

 

と文字通り、"心臓を掴む"為に。

 

「テメェなぁ………」

「安心してくれラクサス。これが"競技"であり、"殺し合い"じゃない限り、これ以上踏み越えはしないよ。」

「……………。」

 

ため息をつくラクサスをよそに、リュークは実況席を向いて指差した。

 

「お騒がせしました。では………続きをお願いします。」

《え、ええ………それでは選手交代が完了したところでバトルパートに移ります!!》

 

競技パートはチーム内で出場者を選べるが、バトルパートは大会側がそれぞれのチームの出場者と対戦相手を選び、指名される。

 

《バトルパート第一試合、妖精の尻尾Aチーム、ルーシィ・ハートフィリア!!VS!!大鴉の尻尾、フレア・コロナ!!》

「あたしね!!」

「………金髪ぅ。」

 

ルーシィの対戦相手は、首を傾げながら不気味な目つきでこちらを睨みつける赤髪の女性、フレア。

 

「(ウェンディを傷つけて"挨拶代わり"呼ばわり………それにさっきの競技も、勝ちよりグレイの邪魔、嫌がらせを優先していた………あたしは、怒っているんだ。)」

 

するとルーシィはチームメイトに振り向き、宣言した。

 

「任せて、絶対勝つから。」

「金………金髪………ぶつぶつ。」

《ここからは闘技場全てがバトルフィールドとなる為、他の皆さんは控室等に移動して貰います。制限時間は30分、その間に相手を戦闘不能にできたら勝ちです。》

 

他の選手が移動し、ルーシィとフレアが相対したところで試合開始を告げる銅鑼が鳴った。

 

《それでは………試合開始!!》

「先手必勝………開け、金牛宮の扉、タウロス!!」

「MOオーーー!!」

 

先に動いたルーシィはタウロスを召喚、そのタウロスは斧を振るうがフレアは跳んで回避。しかしルーシィのターンはここで終わらない。

 

「続けて開け、天蠍宮の扉、スコーピオン!!」

「ウィーアーッ!!"サンドバスター"!!」

 

2体同時開門。原則不可能と言われていた星霊魔導士の秘奥に、ルーシィは容易く踏み込んでいた。

 

「………私の赤髪は自由自在に動く。」

 

しかしフレアは髪を自在に伸ばすとスコーピオンの砂嵐を防いだ。

 

「まだまだ!!タウロス、スコーピオンの砂を!!」

「MO、バッチリ………吸収!!」

 

するとフレアの髪によって散らされたスコーピオンの砂嵐がタウロスの斧に収束。

 

「行きなタウロス、ウィー!!」

「"砂塵斧アルデバラン"!!」

「ぐあああっ………!!」

 

砂嵐を纏った斧を振り下ろすと周囲に砂嵐が巻き起こり、フレアを上空へ吹き飛ばした。

 

「金髪ぅ………"髪しぐれ狼牙"!!」

 

だがやられっぱなしに終わるハズも無く、フレアは赤髪を狼の形に束ね反撃。

 

「タウロス閉門!!開け、巨蟹宮の扉、キャンサー!!」

 

対してルーシィはタウロスの代わりにキャンサーを召喚。

 

「カットならお任せエビ。」

「私の………髪が!!」

 

髪を操る魔導士に、髪の毛のカットが得意なキャンサーは特効だった。

 

「おのれぇっ!!」

 

今度は髪を地面に突き刺したフレア。すると髪はルーシィの真下から飛び出て彼女の足を掴んだ。

 

「きゃあああっ!!」

「そぉれっ!!」

「うぐっ………!!」

 

足を掴むとフレアはルーシィを持ち上げ、振り回してから地面に叩き付けた。

 

「もう一発………!!」

「そうは、行くもんか………!!」

 

ルーシィはフレアに再度持ち上げられながらも彼女の鞭、"星の大河(エトワールフルーグ)"を出すと自在に伸ばし、フレアの手に絡ませた。

 

「な………!!」

「自由自在なのは………こっちもよ!!」

 

鞭と髪、それぞれを振り互いを回した結果どちらも地面に叩きつけられた。

 

《互いに一歩も引かない!!親子ギルド対決、女同時の対決、今のところ互角!!さぁどちらが先に天秤を傾けるのか!!》

 

「金髪ぅ!!」

「………やっぱり召喚者(あたし)を狙うわよね。」

 

星霊魔導士の弱点は召喚者。そのセオリー通り、フレアはルーシィに向かって赤髪を伸ばしたがそれはルーシィの読み通り。

 

「キャンサー!!」

「お任せエビ!!」

「っ、また………!!」

「そしてスコーピオン交代!!開け、人馬宮の扉、サジタリウス!!」

「了解であるからして〜もしもし!!」

 

キャンサーで攻撃を防ぎサジタリウスの牽制射撃で追撃を防ぐ。だがこれすらもまだ序の口。

 

呼矗えよ(こたえよ)、英雄の紋章士(エムブレム)!!」

「!?」

《おっとぉ!?ルーシィ選手、召喚魔法が止まらない!!》

「行くわよヴェロニカ!!」

『困った子ね………』

「『"エムブレム・エンゲージ"!!』」

 

紋章士ヴェロニカを顕現し直ぐ様"エンゲージ"したルーシィはエンゲージ武器"フリズスキャルヴ"の杖を構えるとエンゲージ技を繰り出した。

 

『勝利よ………あたしのものに、なりなさい!!』

 

紋章士ヴェロニカのエンゲージ技"英雄召喚"。

 

『(いいの………?無理矢理紋章士複数人の召喚は"エンゲージ"の時間を縮めるわよ。)』

『いいの!!行くわよフィヨルム、シェズ、リリーナ!!』

『お任せください!!』

『一気に切り込むわよ!!』

『いつでも行けるわ!!』

 

紋章士フィヨルム、紋章士シェズ、紋章士リリーナを"英雄召喚"で召喚すると紋章士シェズはキャンサーと共に突撃。

 

『でぇぇいっ!!』

「エビぃっ!!」

「っ………あうっ!?」

 

紋章士シェズとキャンサーの猛攻を回避しようと後ろに跳び退こうとしたフレア。だが何かにぶつかり回避は失敗、振り向くとそこには氷の壁。

 

『逃がしません。』

「某も同意見であるからして、もしもし。」

 

紋章士フィヨルムが"氷壁"で相手の動きを制限しつつルーシィ達を守る防壁を形成し、そこからサジタリウスが矢を照射。

 

『降伏なさい!!"フリズスキャルヴ"!!』

『赤き炎よ!!"フォルブレイズ"!!』

 

逃げ場を封じたところでルーシィの"フリズスキャルヴ"の氷と、紋章士リリーナの"フォルブレイズ"の炎がフレアに降り注いだ。

 

《なんとまさかの展開!!誰が一対一のバトルパートでこの展開を予想できたでしょうか!?ルーシィ選手が星霊魔導士の、召喚術士の利点を最大限に活かした数の暴力、面の制圧でフレア選手を圧倒しています!!》

「うっ、ぐ………!!」

「………ふぅ。」

 

魔力を"英雄召喚"に多く回した事で"エンゲージ"の時間が短くなり、解除されたルーシィ。だが短時間で召喚した星霊と紋章士による"一勢"でフレアを圧倒していた。だがルーシィはその熱に乗らず深呼吸をした。

 

「(落ち着いて………あの髪の毛の熱に気付いていないまま勢いで行くのは危なかった。)」

 

ブーツがフレアの赤髪の熱で焼けボロボロになっているのに今まで気づけなかったルーシィ。このまま舞い上がったまま突っ込むのはマズイと判断し、ボロボロのブーツを脱ぎ捨ててからフレアと向き合った。

 

「卑怯だぞ、金髪ぅ………」

「どの口が言ってんのよ。それに………"か弱い召喚士"のあたしがなんで馬鹿正直に一対一をしないといけないのよ。」

 

どの口が、と言う声が聞こえた気がした。だが化物フィジカルの仲間に囲まれた彼女からすればそれが紛れも無い自己評価である。

 

「(………でも、これで皆に並べる、食らいつける!!そのためにも………!!)」

 

ルーシィはフレアに向けてビッと指を差した。

 

「ここであたしは、あんたに勝つ!!」

「………!!」

 

一方、不気味な目つきが更に不穏なものになったフレア。

 

「オオオッ!!」

 

叫び声を上げると再び地面に赤髪を突き刺し潜らせた。

 

「(次はどこから………!!)」

 

攻撃を警戒したルーシィ。だが赤髪はいつまでもルーシィの足元に現れなかった。するとフレアがある方向を指差した。

 

「………!!」

 

フレアの指差した方向にあるのは妖精の尻尾の皆が集まる応援席。そしてその最前列で見ている、アルザックとビスカの娘アスカ。その横に赤髪が、まるで獲物を狙う蛇のように揺らめいていた。

 

「アスカちゃ………んぐっ!!」

 

声を出した瞬間、フレアの赤髪がルーシィの口元を覆うように巻き付き、そのまま持ち上げて地面に叩きつけられた。

 

「声を出すな。これは命令。」

「……………!!」

「逆らったらどうなるか………頭の弱そうな金髪でも、流石に分かるわよね?」

 

予め示し合わせていたのか、それとも窮地に陥り土壇場で閃いたのか、それはルーシィには分からない。だが分かるのは、アスカを人質に取られたと言う事のみである。

 

「声を出すな、動くな、魔法を使うな。」

「………。」

「手始めに、あなたの周りにいる邪魔者、全員消して貰おうかしら。」

「……………。」

「逆らったら………」

 

フレアが髪の毛をルーシィに伸ばし捕らえようとした。対してルーシィの取った行動、それは。

 

「あんたなんかに従うもんか、べーっ。」

「!?」

 

フレアの要求を突っぱね、舌を出したルーシィ。すると彼女の前に紋章士フィヨルムが割り込み、赤髪の先端を凍らせた。

 

「!!」

『はあっ!!』

 

そして"絶氷ニフル"を振り凍った赤髪を粉砕した紋章士フィヨルムはそのままルーシィを守る態勢に入った。

 

「っ、だったらお望み通り………!!」

『させる訳無いでしょ?』

「!?」

 

命令に逆らったのならお望み通りアスカを痛めつける………だがそれを実行する前に、紋章士シェズがフレアの目の前まで瞬間移動していた。

 

『はあっ!!』

 

"無間の瞬動"でフレアの間合いまで瞬間移動した紋章士シェズは地面に突き刺さっている赤髪を断ち切った。

 

「捕まえた!!」

「ホーッ!!」

 

更にアスカの横に揺らめいていた赤髪はチキが掴み上げた。

 

「………やはりか。記録は取れたか?」

「ホッ!!」

 

その上、応援席の真上を飛んでいたフェルトの足には記録用魔水晶が括り付けられていた。

 

「あんた達が"こう"来るのは想定済みよ!!そしてこれが………お返しよ!!」

 

腕を一度上げ、振り下ろすと紋章士フィヨルムの氷、紋章士リリーナの炎、サジタリウスの矢が流星雨のように降り注いだ。だがここで"英雄召喚"の制限時間が切れ、3人の紋章士が消えた。

 

「金髪ぅーーーっ!!」

 

ルーシィの守りが薄くなった。それを見たフレアは防御を捨て、赤髪を一勢にルーシィへ向けた。

 

「………キャンサー、サジタリウス、閉門。ここまでありがとう。」

 

だがここでルーシィは何と星霊を閉門、しかもフレアに対しては特効とまで言えるキャンサーまでもである。その上紋章士と"エンゲージ"できるまでの時間もまだ経っていない。だがルーシィは慌てない。

 

「開け、宝瓶宮の扉、アクエリアス。」

 

紋章士フィヨルムの氷が紋章士リリーナの炎で溶けてできた水溜りからアクエリアスを召喚した彼女。

 

「ったく、いい御身分だな。こんな水溜りごときでアタシを呼び出すとはね。」

「安心して、すぐに"満たして"あげるから。」

「言うじゃねぇか。じゃあせいぜい見てやろうじゃないの!!」

「存分に見せてあげるわ、あたし達の新技………"星闘衣(スタードレス)"!!」

 

すると瞬く間にルーシィの衣装が変化し、宝瓶宮のシンボルである波の意匠の施された水着のような衣装に変わった。

 

「その熱い髪と一緒に、頭も冷やしてあげる!!」

「しっかりついて来いよ!!」

「「せーのっ!!」」

 

息を合わせたその瞬間、ルーシィとアクエリアスの周囲から水が勢い良く発生し、回避行動を取らせる暇も無く激流に呑み込んだ。

 

「よっし!!成功!!」

「調子に乗るな!!トドメを決めろ!!」

「分かってる!!開け、双子宮の扉、ジェミニ!!」

 

激流に呑まれまともに動けないフレアとの戦いを決めようとルーシィはジェミニを召喚。するとジェミニはルーシィに変身。

 

「なんでタオル1枚なのよー!?」

「だってコピーした時の服だし………」

「そうだった、風呂上がりにコピーしたんだっけ………」

 

軽い事故があったが、気を取り直してジェミニが問いかけた。

 

「大丈夫?凄い魔力の大盤振る舞いだけど………」

「大丈夫、ここで決めるから。」

「了解。」

 

するとルーシィは自分に変身したジェミニと手を繋いだ。

 

「「天を測り 天を開き

あまねく全ての星々

その輝きをもって我に姿を示せ」」

 

それは彼女の"秘技"。

 

「「テトラビブロスよ 我は星々の支配者

アスペクトは完全なり」」

「な、何よコレェ………!?」

「「荒ぶる門を解放せよ

全天88星 光る」」

 

それは星々の力を束ね、相手にぶつける超特大魔法。

 

「"ウラノ・メトリア"!!」

 

星々の大爆発はフレアに命中、

 

「え?」

 

しなかった。炸裂の直前に何事も無かったかのように掻き消えたのだった。

 

「………!!」

 

敗北を覚悟していたフレアが応援席を見ると、黒い小動物を肩に乗せた、青髪の仮面の大男が微かに頷いた。その男、オーブラがルーシィの魔力を消し、そして前日にウェンディを襲い魔力欠乏症に陥らせた張本人である。そして一方のルーシィ。

 

「(そんな………なんで………)」

 

目の前がゆっくりになっていく感覚のままふらつき、倒れていく。

 

「(あと、一歩で、勝てたのに………)」

 

誰が見ても勝負は明らかだった。しかしルーシィが気づいていない妨害により、ここまでの全てが水泡に帰そうとしていた。

 

「(………嫌だ。嫌だよ。)」

 

膝をつき、地面が少しずつ近くなっていく中、ルーシィの頭の中で思考が高速回転していた。

 

「(嫌だ嫌だ諦めたくないやだやだ踏ん張ってやだやだやだやだ負けたくない勝ちたいやだやだやだやだあああアアアアアアッッッッッッ!!!!!!」

 

そして、彼女に似つかない、出した事も無いような絶叫と共に右手を地面につけ、最後の最後に踏みとどまった。

 

「!?」

「………負けられない。負けられないんだ。」

 

そしてよろりと立ち上がったルーシィ。その"左手"にはいつのまにか、一振りの剣が握られていた。

 

『(君の心は受け取った。)』

『………ありがとう、アルム。』

『(僕の魔力で補うから、君は剣を振ることに集中して。)』

『………お願い。』

 

自分の魔力で飛び出した紋章士アルムが、自分の魔力のみで"エンゲージ"し、エンゲージ武器も出し技の発動まで請け負った。

 

『ひねりつぶしてやる………!!』

 

そのまま左手の剣、"ファルシオン"を頭上に掲げると剣に光が収束した。

 

「う、ウソでしょ………何で、魔力が無いのに………!?」

「………。」

 

動揺するフレア。そのフレアを援護しようと、オーブラがルーシィの魔力の"残りカス"を消そうと再び魔法を発動しようとした。

 

「!?」

 

だがその瞬間、"落雷"がオーブラを襲った。

 

《なんとルーシィ選手、倒れたかと思ったら踏みとどまり剣を掲げました!!すると何と言うことでしょう、晴天であるにも関わらず落雷が闘技場、そして客席をも振り注いでいます!!皆さんお気をつけて!!》

 

無差別に振り注ぐ落雷。それは闘技場だけでなく観客席にも振り注ぎ場は大パニック。しかし落雷が直撃したのは意外にも2人だけ。その1人は大鴉の尻尾のオーブラ。

 

「いってぇ………ッ!!」

 

もう1人はリュークだった。だが彼のすぐ横にいる妖精の尻尾Bチームは冷めたものだった。

 

「………なんだよその目は。」

「………あんま言いたくねぇが、ここ来てからずっとおかしいぞお前。」

「何の話だか。」

 

リュークの足元には落雷によって黒焦げになった本が一冊。リュークはそれを踏みにじると本がボロボロの灰の塊となった。

 

「勇者が聖剣を掲げたら雷が落ちる………そうおかしい事でもないだろう?」

「………そう言う事にしておいてやる。とにかく、これで妨害は飛んで来なくなるからな。」

 

ともあれ、妨害の芽は摘まれた。

 

『逃さない………!!』

 

そしてついに光を纏った聖剣は振り下ろされた。

 

『"覇神断竜剣"!!』

「きゃあああっ………!!」

 

振り下ろされた"ファルシオン"により巻き起こった土煙。その土煙が晴れると、"覇神断竜剣"を正面から受けたフレアは倒れていた。

 

《フレア選手、ダウン!!あとはルーシィ選手ですが………》

 

フレアのダウンが確定した。これでルーシィが立ち上がっていれば勝ちは確定する。

 

「………う、ぐっ、ぅぅ………!!」

 

必死に立ち上がろうとするルーシィ。

 

「(あとは、立ち上がるだけなんだ………!!お願い、動いて、あたしの身体………!!)」

 

だがルーシィの最後の一撃は紋章士アルムの"介護"ありきの火事場の馬鹿力。残っている力なぞ、死にかけの虫のように藻掻くくらいしか残っていなかった。

 

《ルーシィ選手も立ち上がれません!!この勝負、引き分けです!!》

 

非情にも告げられた試合終了のコール。ルーシィ倒れたまま掴んだ土が泥濘んで泥になったのは、アクエリアスと共に放った激流のせいか、それとも頬を伝う雫のせいだったのか。

 

==========

 

泥濘んだ闘技場を治してから続行されたバトルパート。

 

第二試合は青い天馬(ブルーペガサス)のレンvs人魚の踵(マーメイドヒール)のアラーニャ。これはレンが空気魔法でアラーニャを魔法の蜘蛛糸諸共吹き飛ばし勝利。

 

第三試合は四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のウォークライvs剣咬の虎(セイバートゥース)のオルガ。ウォークライは涙魔法なるものを出そうとしたが、オルガの放った黒い雷により一撃KO。

 

そうしている間、ルーシィはシャワー室へ向かっていた。だがシャワー室は使用中で、首を傾げながら空くのを待っていると意外な人が出て来た。

 

「リューク?」

「ルーシィだ。さっきの試合はお疲れ様。」

「何でリュークがここに?」

「………ラクサスに「頭を冷やしてこい」ってさ。確かに色々煮詰まってはいたけど………」

「それで文字通り水浴びるの?………確か、次の試合リュークだって言われてなかったっけ?」

「仕方ないだろ浴びてこいって言われたんだから。」

 

苦笑いをするリューク。つられてルーシィも口角こそ上がったが口調は食い違っていた。

 

「………ごめん。」

「何が?」

「………勝てなかった。」

「あと一歩だったね。」

「あれだけ特訓したのに………」

「特訓の成果は十二分に出てた。星霊と紋章士とのコンビネーション、それを活かす戦略、どれも素晴らしかった。妨害さえ無ければ圧勝だったよ。」

「その妨害だって、気づけていたのに………。」

「ルーシィの読み通りだったね、大手柄だよ。証拠は今運営に提出してあるよ。」

「アルムは、無理な顕現で数日は出てこれないって………!!」

「それに値するだけのものがあったからって、セリカ経由で教えて貰ったよ。気に病むことは………」

「気に病むよ!!」

 

涙をポロポロと流しながら叫ぶルーシィ。

 

「仲間が笑われて、傷つけられて!!皆の為に何としても勝たないといけなくて!!星霊と紋章士には力を貸して貰って、リュークはそれを用いた戦い方を惜しみ無く教えてくれて、使いこなせるようになるまで皆に特訓して貰った!!これだけ与えられて、お膳立てしてくれたのに………結局あたしは弱いままだった!!無様に地面に転がって泣くことしかできなかった!!何一つ報いることができなかった!!」

 

彼女の涙と慟哭は、闘技場の熱戦と観客の歓声に阻まれ表には届かない。ただ1人、リュークはそれを正面から受け止めると黙って、しかし優しく抱き寄せた。

 

「………汚れちゃうよ。泥んこだし、涙も鼻水もついちゃうのに………」

「弟子の頑張りの証と、最愛の人の涙を、受け止めないだなんて勿体無い。」

「………なによそれ。」

「ところでだが、ここは強く訂正させてくれ………君は決して、決して弱くないって。」

 

ルーシィの返事を待たず、リュークは続けた。

 

「今回の戦いでルーシィの非になるところなんて何一つ無かった。弱いどころかS級すら圧倒できるだけの戦いができていた。それに、勝てなかった、で終わらずに次の事を考えているでしょ?皆の前にどんな顔で出ればいいか、どうすれば次こそ勝てるか………それができる人が弱い訳無い。」

「………褒め過ぎじゃない?」

「いいや、褒め過ぎなもんか。強くて賢い超一流の、最強の召喚魔導士だった。」

「……………。」

「それに、与えられてばかりと思われてるのは、少し淋しいかな。」

 

リュークはここで抱擁を解いた。

 

「俺は既に、報い切れない程のものを君に貰ってる。君のおかげで俺は"人として"妖精の尻尾の一員でいられる………俺は、そう確信してる。」

「……………。」

「それでも与え足りない、と言うのなら………勝利の女神の一言を、賜りたく存じ上げる。」

 

わざとらしく、恭しく膝をついたリューク。それを見て吹き出しそうになるのを堪えてから、ルーシィは泣き腫らした目を細め笑顔で告げた。

 

「勝たないと許さないからね………あたしの愛しい神竜様。」

「仰せのままに!!」

 

リュークは立ち上がり、ルーシィとハイタッチをするとリュークは闘技場へと向かい、ルーシィは泥と涙を洗い流すべくシャワー室に入った。

 

「……………。」

 

その一部始終を見ていたのは、人影1つを除いて誰もいなかった。

 

==========

 

「おせーぞ、クソチビ。あと5分遅かったら棄権だったぞ。」

「悪い悪い。」

「………で、頭は冷えたか?」

 

リュークはラクサスの言葉に、素敵な笑みで返した。

 

「頭は極寒、心は業火………最高のコンディションだ。」

「なら良し。相手は最悪だが………お前なら勝てるだろ。」

「当たり前だ………妖精の尻尾初勝利は、俺がいただく。」

 

そう言い残し、リュークは闘技場へ入った。

 

《いよいよ本日最後の試合となります!!1日目最後を飾るのはこの2人!!》

 

そして最後の対戦カード、リュークの対戦相手が告げられた。

 

《妖精の尻尾Bチーム、リューク・ソラネル!!VS!!蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、ジュラ・ネェキス!!》

 

 

続く




こんくらいはできるだろ、と思いながら書きましたが………

Q:強くし過ぎたか?
A:うっせぇ!!ウチのルーシィは強くて賢くて可愛い戦略家タイプになるんじゃい!!

早い段階で星霊と紋章士の両立をしていましたからね、そこから2体同時開門のマスターと"エンゲージ"で3マンセル以上のコンビネーションを使って"囲んで棒で叩く"スタイルに。今回みたいに紋章士ヴェロニカとか紋章士クリスとか使えば一人小隊よ。
あとは元々知力は妖精の尻尾の中でも最上位な上に戦術に明るいリュークの手解きも受けてるので更に賢くなってます。

あと"星闘衣"の解禁がだいぶ早まりました。原作では
「エルザの真似」
から着想を得ていますが本作の場合これに加えて、
「星霊と紋章士が近縁なら"エンゲージ"に似た事できそうじゃない?」
が入り、習得が早まりました。またリュークは"エンゲージ"のクールタイムを"竜石"で誤魔化せますがルーシィはそれができない上に換装魔法も使えないので、副次効果としてそこの穴埋めにもなる形になりました。

その他の補足は以下の通りです。

・"神竜王の威光"の応用
領域内の味方へバフ、指示、魔力譲渡などを行う"神竜王の威光"。それを少しアレンジして、無差別に魔力を"刺すように"譲渡する事で、「自分らのタマはこっちの気分次第やから、発言には気いつけや?」(フランス人ヤクザ風味)と言うアレです。

・記録係フェルト
「レイブンの妨害絶対来るよね?」と予想したルーシィはヒマしてたフェルトに予め頼んで妖精の尻尾の応援席を見張ってもらっていた。案の定妨害が来たのでフェルトとチキで「確保ォォォ!!」した。
その後証拠写真とフレアの髪の毛は運営に提出される。結果、未遂だったので厳重注意に。

・紋章士アルムの強制顕現
六魔編のエンジェル戦でも同じような事はしてましたが、今回はルーシィからの魔力0で顕現しているので流石に魔力切れでしばらく出られなくなりました。後悔は無い模様

・落雷の真相
当然リュークが"サンダーストーム"乱れ打ちでやりました。聖剣を掲げたら雷が落ちるのは「そう言うものかな?」で通りますし、観客席にも被害が飛んでいるのは「ふらついていたから制御できてない?」で言い訳可能なのでオーブラと自分以外は適当打ちです。
自分にも当ててるのは元凶の魔道書を焼却して証拠隠滅をするのと、「まさか下手人が自分を攻撃する訳無いよな?」と言う心理を逆手に取るためです。

シャドウズで闇の使徒に選ばれた時は大体この戦法です("クロスペイン"や"クワドペイン"を自分もろとも巻き込んで攻撃する)。結構な確率で少なくとも片方は騙せるのと、闇の使徒は前半で死んでも大したペナルティにはならないので相手のライフを予め削っておく感覚です。
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